病弱を装う王女ですが、弟の未来のためならどんな手でも使います【完結】

藤原遊

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「リリーナ、変わりはないか?」

その声に振り返ると、そこに立っていたのは兄――第一王子ヴァルセリオスだった。

深紅を基調とした正装に身を包み、銀の髪を整えたその姿は、まさに帰還した英雄。
けれどリリーナの目には、その姿があまりにもまぶしく映った。まるで、遠くへ行ってしまったように。

「おかえりなさいませ、兄上。無事に戻ってこられて……本当に、よかった」

「お前がそう言ってくれるのなら、戦った甲斐があるというものだ」

微笑を浮かべる兄の顔は、どこか柔らかく、かつての優しい青年の面影を残していた。
だがその目の奥には、剣戟の響きと血の記憶を背負った者だけが持つ、沈んだ光があった。

「国境の街は……思った以上に酷かった。
炎に焼かれ、収穫の地も踏みにじられ、民は飢えに喘いでいた。
今ようやく復興の兆しが見えてきたが……戦は何も残さないな」

「……兄上……」

リリーナは目を伏せる。
彼の語る現実は、どこまでも冷たく、どこまでも重い。
けれど同時に、彼が生きて帰ってきたことへの安堵が胸を満たしていた。

だが――その安堵に、罪悪感が混じる。

(本来、兄上は出陣しないはずだった。
私が歴史を変えたことで、ユリアンは救われた。
けれどその代わりに、兄上が……)

リリーナはそっと視線を上げた。

兄の背後では、複数の貴族たちが熱を帯びた視線を彼に注いでいる。
賞賛と尊敬、そして「次の王にふさわしい」という確信の眼差し。

それが――恐ろしかった。

「兄上、今宵は……踊られますか?」

「そうだな。久々の舞踏会だ。せっかくなら、お前と一曲、踊りたい」

「……ええ、喜んで」

リリーナは微笑みながらも、心の底に冷たいものを抱えたまま、その手を兄の掌へと預けた。

夜はまだ始まったばかり。
政治と感情、過去と未来。すべてが交差するこの舞踏会――

リリーナの微笑の裏には、誰にも知られぬ覚悟が静かに息づいていた。
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