病弱を装う王女ですが、弟の未来のためならどんな手でも使います【完結】

藤原遊

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兄と姉が舞踏会場の中心で踊る姿を、ユリアンは少し離れた場所から眺めていた。

華やかな照明に照らされた二人は、まるで物語の中の王子と姫のように見えた。
姉さまの薄紅のドレスは揺れるたびに光を帯び、兄上の真紅の礼装と対になるように、美しく映える。

「……姉さま、綺麗だな……」

つぶやいたその言葉を、誰かに聞かれたくなくて、ユリアンは胸元をぎゅっと握った。
そこには、姉が贈ってくれたダイヤモンドのお守りが、ひやりと冷たい感触をもってそこにあった。

ずっとつけているこのネックレスは、姉が小さな頃にくれたもの。
白魔法の守りが込められていて、ユリアンは何度か、命を救われている。

(姉さま……元気そうに見えるけど、少し疲れてる顔してた。……やっぱりまだ、毒のこと、引きずってるんだ)

彼の脳裏には、倒れたあの日のことが焼きついていた。
血を吐くほどに苦しんだ姉の姿を、ユリアンは今でも夢に見る。

(僕が……もっと強かったら、あんなことにはならなかった)

歯を食いしばる。
その手が、ネックレスをさらに強く握り締めた。

「……姉さまが、ずっとそばにいてくれるように。僕が、守らないと」

そのとき――ふいに、ざわつきが耳に届いた。

貴族たちの一角。兄の舞を見ながら、何人かの年長の貴族たちが視線を交わしていた。
声は小さくとも、政治に通じる者には分かる。
今この場が、ただの祝宴ではなく、“次期王”を選ぶ場になりかけていることを。

(……兄上を、即位させようとしている)

ユリアンの目が鋭くなる。
けれど彼の中には、まだ確信も策もない。ただ、ひとつだけ――

(姉さまは……このこと、気づいてる?)

視線を戻す。
リリーナは、踊るふりをしながら、周囲の動きを観察していた。

目が合った。

一瞬、姉は微笑んだ。
けれどその奥には、冷たい湖のような静けさがあった。

(……知ってるんだ。やっぱり)

ユリアンは小さく息を吐いた。

自分はまだ、子どもかもしれない。
でも――姉さまの隣に立つために、もっと早く、大人にならなくては。

(僕が、守るって決めたんだ。姉さまを)

その夜、ユリアンは舞踏会の最後まで残り続け、貴族たちの言動や視線を一つひとつ覚えていった。

リリーナの背後で、確かに芽生えた未来を守るために。
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