病弱を装う王女ですが、弟の未来のためならどんな手でも使います【完結】

藤原遊

文字の大きさ
46 / 69

45

しおりを挟む
夏は、喧騒とともにやってくる。
王都の空は高く澄み、陽射しは容赦なく石畳を焼いた。
だが、その暑さの裏で――火花のように危うい駆け引きが水面下で交差している。

 

「……やっぱり、あなたでしたのね」

リリーナは一枚の書状を手にしていた。
表向きは礼状、だが文の端には別の筆跡で書かれた、わずかな数字と符号が添えられている。
これは彼女の慈善活動を通じて繋がった者たちが使う暗号で、**“情報網の中枢がつかんだ主犯格”**を示していた。

「宰相家の紹介で登用された商会……けれどその後ろには、第一王子陣営の有力貴族の影……」

彼女は口元を覆い、窓辺から外を見下ろす。
陽射しの中、人々は平和に見えた。
だが、その足元で着々と仕掛けられた罠が、じわじわと王座を取り囲もうとしている。

 

「敵の資金源も手法も、これで大方見えてきました。後は動かすだけです」

エドガーが影のように現れる。
彼の表情には滅多に見せぬ、冷たい鋭さがあった。

「泳がせるには、もう充分でしたね」

「ええ。でも……私たちの手も、あまり長くは伸ばせない。そろそろ本格的に“囲い込み”を始めましょう」

「承知しました。カミラ様もすでに動き始めています。証拠を揃え、秋の議会で討つ算段を」

「間に合えば、ね」

リリーナは、そっと胸元のアクアマリンを握りしめた。
もう一つの魔石――ダイヤモンドのお守りは、今日もユリアンの胸で光っていることだろう。

(守らなければならない。彼が踏み込む未来から、あの子を――)

 

午後の陽光の中、リリーナは重いドレスの裾を翻し、静かに執務室を出る。
夏の陽炎のような、不確かな影がそこかしこに揺らめいている。

けれど、リリーナの足取りは迷いがない。
自らを“道具”として使い切る覚悟は、すでに決まっている。

その瞳には、燃え立つような冷静さが宿っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

喚ばれてないのに異世界召喚されました~不器用な魔王と身代わり少女~

浅海 景
恋愛
一冊の本をきっかけに異世界へと転移してしまった佑那。本来召喚されて現れるはずの救世主だが、誰からも喚ばれていない佑那は賓客として王宮に留まることになった。異世界に慣れてきたある日、魔王が現れ佑那は攫われてしまう。王女の代わりに攫われたと思い込んだ佑那は恩を返すため、身代わりとして振舞おうとする。不器用な魔王と臆病な少女がすれ違いながらも心を通わせていく物語。

ざまぁに失敗したけど辺境伯に溺愛されています

木漏れ日
恋愛
天才魔術師セディが自分の番である『異界渡りの姫』を召喚したとき、16歳の少女奈緒はそれに巻き込まれて、壁外という身分を持たない人々が住む場所に落ちました。 少女は自分を異世界トリップに巻き込んだ『異界渡り姫』に復讐しようとして失敗。なぜかロビン辺境伯は少女も『異界渡りの姫』だと言って溺愛するのですが…… 陰陽の姫シリーズ『図書館の幽霊って私のことですか?』と連動しています。 どちらからお読み頂いても話は通じます。

呪われ公爵様は偏執的に花嫁を溺愛する

香月文香
恋愛
月の明るすぎる夜、公爵令嬢のイリーシャは、双子の弟が殺される場面に遭遇する。弟を殺めたのは、義理の兄である「呪われた子」のユージンだった。恐怖に震えながら理由を問うイリーシャに、彼は甘く笑いながら告げる。 「きみを愛しているからだよ」 イリーシャは弟の地位を奪い公爵家当主となったユージンと結婚することに。 ユージンは重すぎる愛でもってイリーシャを溺愛するが、彼女は彼を許せなくて——。 ヤンデレに執着された発狂寸前ヒロインによる愛と憎悪の反復横跳び。 ※他サイト(小説家になろう・魔法のiらんど)にも掲載しています

バイトの時間なのでお先に失礼します!~普通科と特進科の相互理解~

スズキアカネ
恋愛
バイト三昧の変わり者な普通科の彼女と、美形・高身長・秀才の三拍子揃った特進科の彼。 何もかもが違う、相容れないはずの彼らの学園生活をハチャメチャに描いた和風青春現代ラブコメ。 ◇◆◇ 作品の転載転用は禁止です。著作権は放棄しておりません。 DO NOT REPOST.

差し出された毒杯

しろねこ。
恋愛
深い森の中。 一人のお姫様が王妃より毒杯を授けられる。 「あなたのその表情が見たかった」 毒を飲んだことにより、少女の顔は苦悶に満ちた表情となる。 王妃は少女の美しさが妬ましかった。 そこで命を落としたとされる少女を助けるは一人の王子。 スラリとした体型の美しい王子、ではなく、体格の良い少し脳筋気味な王子。 お供をするは、吊り目で小柄な見た目も中身も猫のように気まぐれな従者。 か○みよ、○がみ…ではないけれど、毒と美しさに翻弄される女性と立ち向かうお姫様なお話。 ハピエン大好き、自己満、ご都合主義な作者による作品です。 同名キャラで複数の作品を書いています。 立場やシチュエーションがちょっと違ったり、サブキャラがメインとなるストーリーをなどを書いています。 ところどころリンクもしています。 ※小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿しています!

引きこもり少女、御子になる~お世話係は過保護な王子様~

浅海 景
恋愛
オッドアイで生まれた透花は家族から厄介者扱いをされて引きこもりの生活を送っていた。ある日、双子の姉に突き飛ばされて頭を強打するが、目を覚ましたのは見覚えのない場所だった。ハウゼンヒルト神聖国の王子であるフィルから、世界を救う御子(みこ)だと告げられた透花は自分には無理だと否定するが、御子であるかどうかを判断するために教育を受けることに。 御子至上主義なフィルは透花を大切にしてくれるが、自分が御子だと信じていない透花はフィルの優しさは一時的なものだと自分に言い聞かせる。 「きっといつかはこの人もまた自分に嫌悪し離れていくのだから」 自己肯定感ゼロの少女が過保護な王子や人との関わりによって、徐々に自分を取り戻す物語。

王弟が愛した娘 —音に響く運命—

Aster22
恋愛
弟を探す旅の途中、身分を隠して村で薬師として生きていたセラは、 ハープの音に宿る才を、名も知らぬ貴族の青年――王弟レオに見初められる。 互いの立場を知らぬまま距離を縮めていく二人。 だが、ある事件をきっかけに、セラは彼の屋敷で侍女として働くことになり、 知らず知らずのうちに国を巻き込む陰謀へと引き寄せられていく。 人の生まれは変えられない。 それでも、何を望み、何を選ぶのかは、自分で決められる。 セラが守ろうとするものは、弟か、才か、それとも―― キャラ設定・世界観などはこちら       ↓ https://kakuyomu.jp/my/news/822139840619212578

男装獣師と妖獣ノエル 2~このたび第三騎士団の専属獣師になりました~

百門一新
恋愛
男装の獣師ラビィは『黒大狼のノエル』と暮らしている。彼は、普通の人間には見えない『妖獣』というモノだった。動物と話せる能力を持っている彼女は、幼馴染で副隊長セドリックの兄、総隊長のせいで第三騎士団の専属獣師になることに…!? 「ノエルが他の人にも見えるようになる……?」 総隊長の話を聞いて行動を開始したところ、新たな妖獣との出会いも! そろそろ我慢もぷっつんしそうな幼馴染の副隊長と、じゃじゃ馬でやんちゃすぎるチビ獣師のラブ。 ※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ」「カクヨム」にも掲載しています。

処理中です...