病弱を装う王女ですが、弟の未来のためならどんな手でも使います【完結】

藤原遊

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冬の王都には、静けさが降り積もっていた。
真綿のような雪が、石畳をゆっくりと白く染め上げていく。
冷たい空気は凛として張り詰め、吐く息すら白く美しかった。

今日、ユリアンは十七歳の誕生日を迎えた。

大広間では簡素ながら温かい祝宴が催され、宰相家のカミラや、エドガー、信頼の厚い文官や侍女たちが集まり、彼を祝福した。
しかしユリアンは、その誰よりも、ただ一人を待っていた。

「……姉上」

その名を呼ぶ前に、扉がそっと開く。
リリーナが姿を見せると、周囲の空気がわずかに変わるのが分かった。
儚くも美しい姫の姿に、皆が自然と頭を垂れる。
けれどユリアンの目に映るのは、ただ――姉、ただ一人の女性だった。

「おめでとう、ユリアン」

白銀に輝くドレスに身を包んだ姉が、笑顔で近づいてくる。
彼女の手には、繊細な彫刻が施された小さな箱。
そして――そこには、ネックレスが光っていた。

「この一年も、あなたが無事に成長してくれたこと、何より嬉しいわ」

リリーナがそっと微笑むたび、胸の奥が締めつけられる。

ずっと、姉は彼の光だった。
慈愛に満ち、儚く、それでいて誰よりも強く――そんな姉が、世界で一番美しかった。

だが、今日。
姉の言葉、姉の視線、姉の存在が――“家族”という枠を越えて、自分を惑わせていることに、ユリアンははっきりと気づいていた。

「姉上、今日は……来てくれて、ありがとうございます」

そう言った声がわずかに震えていたことに、自分でも驚く。

リリーナは、まるでそれに気づかぬふうに微笑んで、

「当然でしょう? あなたは私の大切な弟なんだから」

――弟。

その言葉に、ユリアンは胸の奥で何かがきしむ音を聞いた。

リリーナにとって、彼はあくまで弟。
可愛い家族。護るべき存在。
……それだけなのだろうか。

 

祝宴のあと、ユリアンは城の中庭を一人で歩いていた。
雪は静かに舞い続け、木々の枝を白く染めていく。

(おかしいな……)

彼は自分の胸の内に浮かぶ感情を、何度も何度も言い換えようとした。

――尊敬?
――憧れ?
――家族への愛情?

けれど、どれもしっくりこない。

今日、姉が自分の元に来てくれて、笑ってくれて、それが嬉しくて……けれど、物足りないと思ってしまった。
もっと長く一緒にいたいと思った。
他の誰かと姉が笑い合うのを、見たくないと思ってしまった。

それが何を意味するのか――ユリアンは、もう知っていた。

「……どうして、こんな気持ちになるんだろう、俺は」

誰にも聞こえないような声で、彼は自問した。
そして、雪の中にひとり立ち尽くす。

――姉上を愛している。
家族としてではない、男として。

その想いが、心の底からゆっくりと、けれど確かに湧き上がってきていた。

 

遠くから聞こえる鐘の音が、十七の夜を告げる。
静かな雪の帳のなかで、少年は一線を越えた“想い”に、確かに気づいてしまったのだった。
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