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秋が訪れ、王都には実りの香りと共に、目に見えぬ重圧が降り始めていた。
黄金色の木々が風に揺れ、祝福を告げる鐘の音すら、どこか空虚に響く。
それは、貴族たちの間に走る静かな焦燥。
そして、第二王子を支持する勢力が水面下で急速に伸びつつあることへの、恐れにも似たざわめきだった。
夏の終わりから、リリーナはあえて“締めつけ”を強化していた。
税の監査、書類の精査、出費報告の公開要請――形式としてはあくまで“公務の正当性”の名のもと。
だがその実、心当たりのある者ほど、じわりと追い詰められるような制度改革だった。
そんなリリーナを、カミラが訪ねてくる。
飴色の葡萄を使った焼き菓子を手に、彼女は眉間にわずかな皺を寄せながら扉をくぐった。
「……やり過ぎよ、あなた」
紅茶を一口飲んだあと、カミラははっきりと言った。
静かな広間に、女傑らしい端的な言葉が響く。
「改革の歩みは賛成。でも、締めすぎれば弾ける。あの連中、追いつめられると何をしでかすか分からないわよ」
リリーナは笑った。
病弱な姫としての柔らかな微笑――だがその奥にあるものを、カミラは知っていた。
「だからこそ、必要なの。彼らの“本性”を晒させるには、こちらから揺さぶらないと」
「……本気なのね」
「ええ。でも、表では何もしていないわ。ただの“誠実な監査”よ。
――誰が反応するか、見るだけ。それだけ」
カミラはため息をつきながら、窓の外の紅葉を眺める。
風に踊る赤い葉が、どこか血のように見えた。
「私ね、昔のあなたを知ってるから言うのよ」
「――友達として?」
「ええ。もし、あなたがまた倒れたらって思うと、私、本気で心配するわ」
「大丈夫よ」
リリーナは言葉の途中で、静かに笑う。
「今の私は、もう“昔の私”じゃない。
守りたいものがあるの。自分を殺してでも、守り抜くって決めたから」
その微笑があまりに穏やかで、カミラは一瞬、何も言えなかった。
どこか哀しげな目をした少女が、今は、炎のように静かに、燃えている。
「……やれやれ、本当に手に負えないわね、あなたは」
「褒め言葉として受け取るわ」
その夜、王宮では一部の貴族たちが集まり密談を交わしていた。
苛立ち、焦り、警戒――そして、動くべきか、動かざるべきか。
その全てが、リリーナの意図の中にあった。
彼女は静かに、着実に“火種”を育てている。
それは、国のためでも、正義のためでもない。
ただ――“弟を王にする”という、たった一つの願いのために。
誰も、彼女がそのためならいくつもの命を天秤にかけることさえ辞さないとは、想像していなかった。
そして秋の夜は深まっていく。
リリーナはユリアンの笑顔を思い出しながら、冷たい杯をひとり傾けていた。
それは、焔のごとき覚悟の杯。
たとえこの先、王都が血に染まることがあっても――もう、止まる気はなかった。
黄金色の木々が風に揺れ、祝福を告げる鐘の音すら、どこか空虚に響く。
それは、貴族たちの間に走る静かな焦燥。
そして、第二王子を支持する勢力が水面下で急速に伸びつつあることへの、恐れにも似たざわめきだった。
夏の終わりから、リリーナはあえて“締めつけ”を強化していた。
税の監査、書類の精査、出費報告の公開要請――形式としてはあくまで“公務の正当性”の名のもと。
だがその実、心当たりのある者ほど、じわりと追い詰められるような制度改革だった。
そんなリリーナを、カミラが訪ねてくる。
飴色の葡萄を使った焼き菓子を手に、彼女は眉間にわずかな皺を寄せながら扉をくぐった。
「……やり過ぎよ、あなた」
紅茶を一口飲んだあと、カミラははっきりと言った。
静かな広間に、女傑らしい端的な言葉が響く。
「改革の歩みは賛成。でも、締めすぎれば弾ける。あの連中、追いつめられると何をしでかすか分からないわよ」
リリーナは笑った。
病弱な姫としての柔らかな微笑――だがその奥にあるものを、カミラは知っていた。
「だからこそ、必要なの。彼らの“本性”を晒させるには、こちらから揺さぶらないと」
「……本気なのね」
「ええ。でも、表では何もしていないわ。ただの“誠実な監査”よ。
――誰が反応するか、見るだけ。それだけ」
カミラはため息をつきながら、窓の外の紅葉を眺める。
風に踊る赤い葉が、どこか血のように見えた。
「私ね、昔のあなたを知ってるから言うのよ」
「――友達として?」
「ええ。もし、あなたがまた倒れたらって思うと、私、本気で心配するわ」
「大丈夫よ」
リリーナは言葉の途中で、静かに笑う。
「今の私は、もう“昔の私”じゃない。
守りたいものがあるの。自分を殺してでも、守り抜くって決めたから」
その微笑があまりに穏やかで、カミラは一瞬、何も言えなかった。
どこか哀しげな目をした少女が、今は、炎のように静かに、燃えている。
「……やれやれ、本当に手に負えないわね、あなたは」
「褒め言葉として受け取るわ」
その夜、王宮では一部の貴族たちが集まり密談を交わしていた。
苛立ち、焦り、警戒――そして、動くべきか、動かざるべきか。
その全てが、リリーナの意図の中にあった。
彼女は静かに、着実に“火種”を育てている。
それは、国のためでも、正義のためでもない。
ただ――“弟を王にする”という、たった一つの願いのために。
誰も、彼女がそのためならいくつもの命を天秤にかけることさえ辞さないとは、想像していなかった。
そして秋の夜は深まっていく。
リリーナはユリアンの笑顔を思い出しながら、冷たい杯をひとり傾けていた。
それは、焔のごとき覚悟の杯。
たとえこの先、王都が血に染まることがあっても――もう、止まる気はなかった。
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