処刑を望んだ悪役令嬢ですが、幼なじみの騎士が手放してくれません

藤原遊

文字の大きさ
8 / 11
第1章 悪役令嬢の自覚

8

しおりを挟む
大広間に案内されると、既に辺境伯ご夫妻が待っていた。
堂々と立つ女性――現辺境伯リシェル様は、噂に違わぬ武人の風格を漂わせている。その傍らに柔らかな笑みを浮かべるのは、辺境伯配カイ様。

「遠路よく来てくださった、イリーナ様」

リシェル様の声にお母様が丁寧に礼を返す。その横で、私は緊張で背筋を正した。

「そして……あなたがアメリア嬢か」

鋭い視線に射抜かれるようで、思わず息を詰める。だが次に返ってきた言葉は意外なものだった。

「……アルノルト様によく似ている」
「え……?」

祖父の名が出たことに驚いた。誰もが母に似ていると評する中で、祖父を引き合いに出されたのは初めてだったからだ。

「重心の置き方がな……間合いを測る時の眼も似ている」

なるほど、と胸の奥で合点がいく。リシェル様は武人らしく、私の立ち方や動きを見て判断したのだ。

(……やっぱり、辺境の人は見るところが違う)

そう思ったとき、不思議と胸が軽くなった。

エリシア様も、ルシアン様も、そしてリシェル様も。皆が「確かにアルフレッド様とイリーナ様の娘だ」と口を揃える。
王都で私を苛む噂――「侯爵夫人と愛人の子」などといった囁きは、この地ではまるで無縁のもののようだった。

(……ここでは、私もただの“娘”でいられるのかもしれない)

ほんの少し、肩の力が抜けた。

けれど夜。
客室に一人残された私は、開いた窓辺から外の闇を眺めていた。
吹き抜ける風は涼しく、けれど胸の奥に渦巻く重苦しさは晴れない。

「……お母様を守って、あそこで死んでいればよかったのに」

ぽつりと零れた声に、自分でも驚く。
けれど、それが胸の奥に沈んでいた本音だった。

(私が消えていれば……世界を闇に覆おうとする魔の手も消えて、この優しい人たちが危険に晒される未来も、きっと防げたのに)

ため息が落ち、夜風に溶けていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄、ありがとうございます

奈井
恋愛
小さい頃に婚約して10年がたち私たちはお互い16歳。来年、結婚する為の準備が着々と進む中、婚約破棄を言い渡されました。でも、私は安堵しております。嘘を突き通すのは辛いから。傷物になってしまったので、誰も寄って来ない事をこれ幸いに一生1人で、幼い恋心と一緒に過ごしてまいります。

いなくなれと言った本当に私がいなくなって今どんなお気持ちですか、元旦那様?

睡蓮
恋愛
「お前を捨てたところで、お前よりも上の女性と僕はいつでも婚約できる」そう豪語するカサルはその自信のままにセレスティンとの婚約関係を破棄し、彼女に対する当てつけのように位の高い貴族令嬢との婚約を狙いにかかる。…しかし、その行動はかえってカサルの存在価値を大きく落とし、セレスティンから鼻で笑われる結末に向かっていくこととなるのだった…。

うっかり結婚を承諾したら……。

翠月るるな
恋愛
「結婚しようよ」 なんて軽い言葉で誘われて、承諾することに。 相手は女避けにちょうどいいみたいだし、私は煩わしいことからの解放される。 白い結婚になるなら、思う存分魔導の勉強ができると喜んだものの……。 実際は思った感じではなくて──?

幼馴染の許嫁

山見月あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。 彼は、私の許嫁だ。 ___あの日までは その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった 連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった 連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった 女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース 誰が見ても、愛らしいと思う子だった。 それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡 どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服 どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう 「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」 可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる 「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」 例のってことは、前から私のことを話していたのか。 それだけでも、ショックだった。 その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした 「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」 頭を殴られた感覚だった。 いや、それ以上だったかもしれない。 「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」 受け入れたくない。 けど、これが連の本心なんだ。 受け入れるしかない 一つだけ、わかったことがある 私は、連に 「許嫁、やめますっ」 選ばれなかったんだ… 八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。

ガネス公爵令嬢の変身

くびのほきょう
恋愛
1年前に現れたお父様と同じ赤い目をした美しいご令嬢。その令嬢に夢中な幼なじみの王子様に恋をしていたのだと気づいた公爵令嬢のお話。 ※「小説家になろう」へも投稿しています

【完結】大好きなあなたのために…?

月樹《つき》
恋愛
私には子供の頃から仲の良い大好きな幼馴染がいた。 2人でよく読んだ冒険のお話の中では、最後に魔物を倒し立派な騎士となった男の子と、それを支えてきた聖女の女の子が結ばれる。 『俺もこの物語の主人公みたいに立派な騎士になるから』と言って、真っ赤な顔で花畑で摘んだ花束をくれた彼。あの時から彼を信じて支えてきたのに… いつの間にか彼の隣には、お姫様のように可憐な女の子がいた…。

愛する義兄に憎まれています

ミカン♬
恋愛
自分と婚約予定の義兄が子爵令嬢の恋人を両親に紹介すると聞いたフィーナは、悲しくて辛くて、やがて心は闇に染まっていった。 義兄はフィーナと結婚して侯爵家を継ぐはずだった、なのにフィーナも両親も裏切って真実の愛を貫くと言う。 許せない!そんなフィーナがとった行動は愛する義兄に憎まれるものだった。 2023/12/27 ミモザと義兄の閑話を投稿しました。 ふわっと設定でサクっと終わります。 他サイトにも投稿。

無愛想な婚約者の心の声を暴いてしまったら

雪嶺さとり
恋愛
「違うんだルーシャ!俺はルーシャのことを世界で一番愛しているんだ……っ!?」 「え?」 伯爵令嬢ルーシャの婚約者、ウィラードはいつも無愛想で無口だ。 しかしそんな彼に最近親しい令嬢がいるという。 その令嬢とウィラードは仲睦まじい様子で、ルーシャはウィラードが自分との婚約を解消したがっているのではないかと気がつく。 機会が無いので言い出せず、彼は困っているのだろう。 そこでルーシャは、友人の錬金術師ノーランに「本音を引き出せる薬」を用意してもらった。 しかし、それを使ったところ、なんだかウィラードの様子がおかしくて───────。 *他サイトでも公開しております。

処理中です...