婚約破棄された令嬢、気づけば宰相副官の最愛でした

藤原遊

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第二章 副官の補佐官

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王宮の会議室は、重臣たちが集う場にふさわしく荘厳だった。
長い楕円形の机の上には地図と報告書が広げられ、燭台の炎が重苦しい影を壁に映している。
宰相ヴォルフガングを筆頭に、軍務卿や財務卿が列席し、議題は隣国との条約改定後の対応に移っていた。

セラフィーナは宰相の後ろに控え、息を潜めて会議の様子を見守っていた。
ここで口を挟むことは許されない。
ただ、補佐官として記録と翻訳に徹するのが務めだった。

「隣国の動向は依然として不穏です」
軍務卿の声が低く響く。
「彼らは表では友好を口にしながら、裏では兵を動かしています」

「我が国も対抗策をとるべきでは」
財務卿が言うと、場にざわめきが広がった。

そこで、宰相が視線をクリストファーに向けた。

「副官。お前の意見は」

クリストファーはゆっくりと立ち上がり、机に広げられた地図を指差した。
微笑みは変わらない。
誰が見ても柔らかく、人を安心させる笑顔だった。

だが、口から紡がれた言葉は冷徹だった。

「彼らの兵力は我が国の半分以下。脅威ではありません。
今兵を動かせば、むしろ相手に口実を与えるだけ。
必要なのは威嚇ではなく、交易の枷を強めて締め上げることです」

淡々とした口調で、彼は相手国の弱点を突く方法を次々と挙げていく。
商路の遮断、資源の供給制限、外交文書での圧迫――
そこに迷いや情は一片もなかった。

「彼らはやがて、飢えに膝を折るでしょう。
剣を抜かずとも屈させるのが最も効率的です」

にこやかな笑みと冷酷な言葉の対比に、セラフィーナは背筋が粟立った。
誰にでも優しく見える副官が、ここでは計算ずくの冷徹さを隠そうともしない。
会議室の重臣たちでさえ、彼の意見に圧されて沈黙していた。

やがて宰相が頷く。

「……理に適っている。副官の意見を採用する」

会議は進み、セラフィーナは震える指で記録を取り続けた。
耳にはまだ、柔らかな笑みと共に紡がれた冷徹な言葉がこだましていた。

――この人は、ただの“優しい副官”ではない。

初めて垣間見た彼の素顔に、セラフィーナは言い知れぬ驚きを覚えた。
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