妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。

藤原遊

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第26章 フローラの告白

26-2

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「私、あなたと殿下のこと……全部知ってます」

……その一言で、時間が止まった。
雨音も、時計の針も、俺の思考も。全部。

いや、待て。今なんて言った?
“全部”って、どの範囲の全部? 友情? 政治的な繋がり? それとも——

「……あの、フローラ?」
「はい」
「その“知ってます”というのは、どういう……?」

「そのままの意味ですわ」
にっこり。
ああ、やめて。そうやって微笑むときの君は大体、真実を突いてる。

頭の中で警報が鳴る。
──やばい。これは絶対に誤魔化せないパターンだ。
前世の会社で上司に残業時間を聞かれた時より怖い。

「えっと、誤解だと思うんだ。殿下とは、その、友誼というか……政治的な信頼関係で」
「信頼、ですか」
「そう! 信頼! ……えっと、非常に、個人的な……信頼、で」
我ながら墓穴を掘る音がした。

フローラはしばらく黙って俺を見つめた。
その沈黙が怖い。
俺、今なら尋問官にも白状できるレベルで追い詰められてる。

「アラン様」
「は、はいっ」
「怒ってほしいですか?」
「え?」

想定外の質問だった。
「怒る」って、そんな選択肢があったのか。いや、普通あるだろ。
俺は反射的に問い返す。

「……怒らないのか?」

フローラは小さく首を振った。
その仕草が、雷鳴より静かで、でも胸に響いた。

「怒っても仕方ありませんわ。
 あなたがどんな思いで殿下に仕えていたか、見ていればわかります」

……ああ、そういう方向の理解か。
怒りよりも、理解と慈愛で包まれる感じ。
やめてくれ、それはそれで罪悪感が倍増する。

「私は、あなたが誰かを想って苦しんでいる姿を、ただ見ていたくなかっただけです」

その声は、雨音よりも優しかった。
俺の中の何かがほどけていくのがわかる。
怒られないことに安堵している自分が、ちょっと情けない。

「……ありがとう、フローラ」
小さく呟くと、彼女は微笑んだ。

「いいえ。まだお話の途中ですわ」

その言葉に、背筋がまた伸びる。
え、これまだ続くの? どこまで知ってるの?
頼む、心臓の耐久値が限界なんだが!?

雨はまだ降り続いている。
沈黙の中、紅茶の香りだけが静かに漂っていた。
けれどその沈黙は、もう怖くなかった。
むしろ、不思議な安らぎすら感じていた。
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