妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。

藤原遊

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第28章 仮面の夜会

28-2

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大広間は、王の臨席にふさわしい格式と沈静を纏っていた。
戴冠式から数年。
シリウス“国王陛下”が姿を見せる夜会は、
年に数度しかない特別なものだ。

その陛下が横を向いた。
ほんの少し。
王として許される最小限の動き。

金の瞳が、白金の髪を捉える。

アラン・リステア“公爵”。
王国の中枢を支える重鎮であり、
そして――陛下がもっとも深く想う相手。

アランは最初、視線の変化に気づかない。
だが空気の温度が変わり、胸の奥の鼓動がひとつ強く跳ねる。

(……まただ。陛下は、そういうのをやめてくれ)

そう内心でぼやきながらも、視線が自然と引かれてしまう。

二人の目が、ほんの瞬きのあいだだけ交わる。

国王陛下の表情は、公の場にふさわしい穏やかさ。
しかし目の奥に宿る光だけが、アランにしか分からない。

――生きていてくれて、ありがとう。

そんな静かな祈りのような眼差し。

アランはこっそり息をのみ、
公爵らしい礼儀を保ったまま、ほんのわずかに頷いた。

周囲から見れば、
これは単なる“国王から側近への親しい挨拶”にしか見えない。

しかし、見抜く者がふたりだけいる。

王妃リリィ。
公の微笑みを保ちながら、内心では胸を押さえていた。

(……今、愛が交わりましたわね)
(ええ、確かに見ましたわ……尊っ……!)

公爵夫人フローラも、視線の流れを読み取り、
そっとアランの袖をつまむような気配で支える。

(陛下……あの一瞬で気持ちを伝えるなんてずるいですわ)
(アラン様、顔に出てます……可愛い……)

二人の女性の“守る側”としての視線が絡むと、
気配が重なり、四人だけの静かな網が広がる。

音楽が変わり、光が揺れた。

国王陛下はゆっくりと視線を外し、
堂々と前へ向き直る。

アランは喉の奥でだけ息を整え、
フローラは夫の背に静かな誇りを感じる。

リリィは王妃としての余裕を保ちつつ、
内心はひたすら“尊み”で震えていた。

大広間の誰も知らない。
この瞬間、
王と公爵の視線は、ただの挨拶ではなかったことを。

ただ一瞬、
誰にも悟られぬほどの密やかさで
――愛が確かに流れたのだ。
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