妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。

第28章 仮面の夜会

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楽団が新しい旋律を奏で始めると、
大広間には再びざわめきが満ち始めた。
王の臨席というだけで、貴族たちの心は揺れ、視線は奔る。

当然、噂好きの貴婦人たちは目を光らせている。
――国王陛下、その横には若き公爵。
――あの並び、いつ見ても絵になるわね。
――陛下の瞳が、ほんのわずかに……

粘りつくような視線が、
王とアランにだけ集まっていく。

そこで動いたのが、ふたりの女性だった。

リリィ・アルベルト王妃。
フローラ・リステア公爵夫人。

まるで打ち合わせたかのように、
ふたりはゆるやかに前へ出た。

リリィは“完璧な王妃の微笑み”で。
フローラは“柔らかな光のような笑顔”で。

二人が一歩進むだけで、
異様なほど空気が変わった。

まるで花畑の中央に二輪の大輪が咲いたように、
場の視線が自然と彼女たちへ吸い寄せられる。

「まぁ、王妃殿下。本日のドレス、とてもお似合いですわ」
「ありがとうございます。フローラ夫人こそ、とても華やかで……まるで春の女神のようですわ」

軽やかな賛辞の応酬。
けれどそこに込められているのは、
“周囲の視線をこちらに集める”絶妙な計算。

近くの伯爵夫人たちはざわめいた。
「あのリステア夫人……王妃殿下と並ぶと、なんて華やか……」
「本当に。目が離せませんわ……」

結果、視線は自然と
王とアランの二人から逸れていく。

リリィは微笑んだまま、空気の流れを確かめる。
（……この程度の視線、問題ありませんわ）

フローラも同時に、
遠くから王を見つめていた令嬢の一人に、柔らかく会釈した。
それだけで、令嬢は頬を赤らめて視線を逸らす。

「本当にすごいですわね、リリィ様」
「いいえ、フローラ様こそ。
　あの視線の誘導……まるで舞踏会の主役ですわ」

ふたりは軽い会話を交わしながら、
自然な動線で夜会の中心を歩く。

すれ違う者すべてが、
王妃と公爵夫人の“魅了”にかかっていくようだった。

誰もが二人に視線を奪われ、
気づけば王とアランを“見る理由”を失っていた。

それが、
“守る側”の二人が作り出した魔法だった。

フローラは微笑みながら、
王妃の少し前に並んだ。

大広間の光が二人のドレスに反射し、
まるで舞台の照明のように輝く。

――その輝きは、
王と公爵の“影”を自然に覆い隠していく。

フローラは心の中で静かに呟いた。

（……誰も、この関係を壊させない）

彼女の瞳には、
王とアランが見えない場所にいても
確かに結ばれている光が見えていた。

そしてリリィもまた同じ微笑みを浮かべる。

二人は並んで、
“真実を守る花”として夜会に咲き誇っていた。