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第28章 仮面の夜会
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楽団がゆっくりと調子を変えた。
軽やかだった旋律が落ち着き、
大広間全体を包み込むような深い音色へと移ろう。
シャンデリアの灯りが揺れる。
まるで音楽に呼応するように、
黄金の光が波紋となって床へ広がっていく。
その中心に、四人はいた。
王――シリウス陛下。
王妃――リリィ。
公爵――アラン・リステア。
公爵夫人――フローラ。
分かれて立っているのに、
ふしぎと視線の流れだけで“円”が形成されていた。
まるで四点の星が一瞬並び、
ひとつの星座を描いたかのように、美しかった。
楽団が高音を響かせた瞬間、
シリウス陛下はふと顔を上げた。
音を追うようなその動きのまま、視線がアランへ流れる。
アランは、ほんの一瞬遅れてその視線に気づいた。
王としての表情の奥に、
微かな“幸福”の光を見つける。
公爵は目を伏せて礼をとるように軽く頷いた。
言葉はいらない。
ただそれだけで、陛下の胸には静かな安堵が灯る。
そのやり取りを、
対角線上で見つめていたのがリリィだった。
王妃は完璧な微笑みのまま、視線だけで呟く。
(……あなた方は、本当に美しいですわ)
フローラはその小さな気配を受け取って、
わずかにリリィへ笑みを返す。
二人だけに通じる、秘密の合図。
音楽が転調する。
バイオリンが高く、クラリネットが低く支え、
その上にハープの音が落ちてくる。
光がゆれる。
影が交差する。
そして――
四人の視線がひとつの瞬間に重なった。
王と公爵、
王妃と公爵夫人。
四人全員が動きを止めたわけではない。
むしろ、自然に歩きながら、
ほんの瞬間だけ目が合ったのだ。
しかしその一瞬、
大広間の時間が止まったように感じられた。
誰も気づかない。
誰もこの視線の意味を知らない。
けれど四人には分かっていた。
それは“確認”だった。
それぞれの立場で、
今日もまた“正しい愛の形”を守っているかどうか。
リリィは王妃の顔で微笑んだまま、
心の中でそっと息をつく。
(……ええ、大丈夫。
どんな噂も、どんな視線も、
この光は揺るがせませんわ)
フローラは胸の奥がふわりと温まるのを感じた。
(アラン様……
陛下を見るその瞳が、誰にも壊されませんように)
音楽がフィナーレへ向かう。
シャンデリアがきらきらと煌めき、
客人たちのざわめきが遠くへ溶けていく。
王と公爵が同じ方向へ振り返る。
王妃と公爵夫人が並んで笑う。
四人の“仮面”の笑顔が、
光に照らされて重なりあった。
そして、まるで大広間そのものが息をするように
ひっそりと、一文が落ちた。
――幸福の仮面は、真実を隠し……そして同時に、守っていた。
軽やかだった旋律が落ち着き、
大広間全体を包み込むような深い音色へと移ろう。
シャンデリアの灯りが揺れる。
まるで音楽に呼応するように、
黄金の光が波紋となって床へ広がっていく。
その中心に、四人はいた。
王――シリウス陛下。
王妃――リリィ。
公爵――アラン・リステア。
公爵夫人――フローラ。
分かれて立っているのに、
ふしぎと視線の流れだけで“円”が形成されていた。
まるで四点の星が一瞬並び、
ひとつの星座を描いたかのように、美しかった。
楽団が高音を響かせた瞬間、
シリウス陛下はふと顔を上げた。
音を追うようなその動きのまま、視線がアランへ流れる。
アランは、ほんの一瞬遅れてその視線に気づいた。
王としての表情の奥に、
微かな“幸福”の光を見つける。
公爵は目を伏せて礼をとるように軽く頷いた。
言葉はいらない。
ただそれだけで、陛下の胸には静かな安堵が灯る。
そのやり取りを、
対角線上で見つめていたのがリリィだった。
王妃は完璧な微笑みのまま、視線だけで呟く。
(……あなた方は、本当に美しいですわ)
フローラはその小さな気配を受け取って、
わずかにリリィへ笑みを返す。
二人だけに通じる、秘密の合図。
音楽が転調する。
バイオリンが高く、クラリネットが低く支え、
その上にハープの音が落ちてくる。
光がゆれる。
影が交差する。
そして――
四人の視線がひとつの瞬間に重なった。
王と公爵、
王妃と公爵夫人。
四人全員が動きを止めたわけではない。
むしろ、自然に歩きながら、
ほんの瞬間だけ目が合ったのだ。
しかしその一瞬、
大広間の時間が止まったように感じられた。
誰も気づかない。
誰もこの視線の意味を知らない。
けれど四人には分かっていた。
それは“確認”だった。
それぞれの立場で、
今日もまた“正しい愛の形”を守っているかどうか。
リリィは王妃の顔で微笑んだまま、
心の中でそっと息をつく。
(……ええ、大丈夫。
どんな噂も、どんな視線も、
この光は揺るがせませんわ)
フローラは胸の奥がふわりと温まるのを感じた。
(アラン様……
陛下を見るその瞳が、誰にも壊されませんように)
音楽がフィナーレへ向かう。
シャンデリアがきらきらと煌めき、
客人たちのざわめきが遠くへ溶けていく。
王と公爵が同じ方向へ振り返る。
王妃と公爵夫人が並んで笑う。
四人の“仮面”の笑顔が、
光に照らされて重なりあった。
そして、まるで大広間そのものが息をするように
ひっそりと、一文が落ちた。
――幸福の仮面は、真実を隠し……そして同時に、守っていた。
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