毒舌アイドルは毒の魔物に転生する。

馳 影輝

文字の大きさ
44 / 162
第六章 学園生活

第四十四話 昼は天使、夜は魔王

しおりを挟む
午後になると、プライベートビーチはさらに賑やかになった。
 男子たちは相変わらずビーチバレーに夢中で、砂浜を駆け回りながら汗を光らせている。
 女子たちはそれを木陰やパラソルの下から見守りつつ、飲み物を片手に声援を飛ばしていた。

「ねぇねぇ!次はスイカ割りしようよ!」
 誰かが提案すると、皆が一斉に賛成の声をあげる。

 用意された大きなスイカが砂浜に置かれ、目隠しをされた男子が順番に挑戦していく。
「右だ!もうちょっと右!」
「いや違う!それ以上行ったら海に落ちるぞ!」
 的確なのか混乱させたいのか分からない指示が飛び交い、挑戦者はフラフラと歩き回る。
 結局、思い切り振り下ろした棒はスイカではなく砂に突き刺さり、爆笑が起こった。

「じゃあ次、ティア!」
「えっ、私!?」
 半ば強引に呼ばれて目隠しをされたティアは、皆の声を頼りにゆっくりと歩を進める。
「もっと左!……そうそう!そこ!」
「いけー!」
 ティアが棒を振り下ろすと、見事にスイカが真っ二つに割れ、拍手と歓声が弾けた。

 切り分けられたスイカを頬張りながら、皆は砂浜に座り込む。
 冷たく甘い果汁が喉を潤し、夏の暑さも一瞬忘れさせた。

 やがて夜になり、空に星が瞬き始めると──。
「さぁ、最後は花火だ!」
 火をつけられた花火が次々と弧を描き、夜空に咲き乱れる。
 赤や青、金色の光が弾け、歓声が浜辺を包み込んだ。

 ティアとメリルは肩を並べて立ち、手持ち花火の光を見つめながら笑い合う。
「ねぇティア、来てよかったね。」
「うん。本当に……最高の夏だよ。」

 ──その一瞬だけは、戦乱や陰謀の影など微塵もなく、ただ友と過ごすかけがえのない時間がそこにあった。

豪華なご馳走を平らげ、笑いと共に過ごした夜はあっという間に更けていった。
 皆が自室に戻り、疲れから次々と眠りについていく。
 ティアとメリルも部屋に戻ると、女子トークに花を咲かせ──恋の話や将来の夢を語り合い、やがてメリルは安らかな寝息を立て始めた。

 ティアはそっと微笑む。
 彼女に睡眠は不要。
 ベッドに横たわる自分の分身を用意し、影のように掻き消える。

 人気のないホテル裏手。
 ひんやりとした夜気に包まれた空間に、セリアがすでに佇んでいた。
「主様、動かれますか?」
「ええ。
──そのエステルゼ軍事工場に行くわ。
準備運動がてら、ぶっ潰す。」

「御意。」

 言葉を交わすと同時に、二人の姿は掻き消えた。

 ***

 山奥。
 木々に隠れるように建つ小さな事務所の建物。
 しかし地下深くには、国家の影が資金を注ぐ軍事工場が広がっている。
 夜更けだというのに灯りが消えることはなく、かすかな機械音が地鳴りのように響いていた。

「さて、行くわよ。」
「主様。私が先に。」
セリアが身を翻そうとした、その時。

地面を這う影が蠢き、淡く光を帯びて集束していく。
そこから現れたのは、暗き蟲を従える男──ゲド。
「主様。私の偵察蟲によれば……人型機動兵器が十五体、警備に当たっております。」

「十五体……ね。」
ティアは眉をひそめるが、声色は楽しげだ。

 ゲドは一礼し、低く囁いた。
「以降は──主様のお手を煩わせるほどのものではございません。
 我が蟲どもにお任せを。」

「ゲド。
……わかったわ。
あなたの力、見せてもらうわ。」

 彼が指を弾いた瞬間、無数の蟲が闇の中から溢れ出す。
 翅のざわめき、鋼を噛むような甲殻の軋み。
 影のように忍び寄った蟲たちは、事務所の灯りを呑み込み、地下施設へと雪崩れ込んでいった──。

地上の事務所は、瞬く間にゲドの手で制圧されていった。
 屈強な男たちが立ちはだかるが──その背に、首筋に、無数の蟲がまとわりつく。
 わずかに呻き声を漏らした次の瞬間、彼らは崩れるように絶命した。

 外傷はない。
ただ、生命の灯だけが吸い取られて消えたのだ。
 死因すら判然としない。
まさに、影に生きる戦士らしい殺し方であった。

 蟲たちはそのまま地下への通路へと流れ込む。
 異変に気づいた人型機動兵器が唸りを上げて起動した。
 鋼の刃が振るわれ、蟲を斬り裂き、踏み潰す。
 だが、それは無意味だった。

 潰されても斬られても、蟲は増殖を止めない。
 まるで闇そのものが形を変えて押し寄せているかのように、次々と湧き出す。
 やがて機動兵器の関節部や装甲の隙間に入り込み、内部から淡い光を吸い取っていく。

 ひとつ、またひとつ──鋼の巨体が力を失い、膝を折り、ただの鉄屑となって崩れ落ちた。
 わずかな時間で十五体すべてが無力化され、沈黙が広がる。

「主様。
この先に、オメガの生産ラインがございます。」
 ゲドは冷静に報告しつつ、蟲に命じて倒れた機動兵器を片隅へと寄せていく。

 ティアが一歩前へ進み、凛と声を響かせた。
「ゲド、見事です。
よくやりましたね。」

「はっ! 勿体なきお言葉でございます。」
 恍惚の面差しで膝を折るゲド。

 だがセリアが厳しく言葉を重ねた。
「褒められたからといって油断しないこと。
主様のため、尽力を怠ることは許されません。」

「……わかっている。」
 不機嫌さを隠そうともせず、ゲドは影に溶けるように姿を消した。

 セリアは無言のまま前方を見据え、その後をティアが静かに歩んでいく。
 地下の奥深く──オメガの秘密が眠る場所へと。

 奥へ進むと、そこには巨大な空間が広がっていた。
 無数の組立アームが稼働し、火花を散らしながら金属を組み上げていく。
 ライン上には、装甲の外殻を嵌め込まれたばかりの機体や、まだ骨格だけの機体が並び、淡々と完成へと近づいていた。

 鉄と油の匂いが充満するその空間は、まさに兵器を生み出す胎動そのものだった。

「主様、更に奥に……完成したオメガが御座います。」
「そう。──行きましょう。」

 さらに足を進めた先、厚い隔壁を抜けるとそこは巨大な格納庫だった。
 壁際にずらりと並ぶ黒鋼の兵器群。
すでに完成したオメガが、ただ静かに、しかし獲物を待つ猛獣のように鎮座している。
 その光景は、正しく「人類への脅威」を形にしたものだった。

「主様……お気をつけください。
何者かおります。」
 ゲドが影から現れ、ティアの前に立ちふさがる。

「へぇ──気付かれたか。
やるね。」
 響いた声は高く澄んでいた。

 姿を現したのは、まだ幼さの残る少年。
 歳の頃は十にも満たぬかと思えるほど。
だが、その瞳は子供のそれではなかった。

「君は何者かしら?」
 ティアが問いかけると、少年は口元に微笑を浮かべた。

「ああ、あなたがティアさんですね。
聞いてますよ。
勇者ロディアスの娘なんだってね。
 ここは来ちゃいけない場所さ。
見たからには……帰すわけにはいかない。」

 無邪気な声色に、不気味な確信が混じる。

「僕はこの施設を守る《五星闘》のひとり。
──鉄壁のユラン。」

「そう、ユラン。
では、これはオメガの量産機で間違いないのかしら?」
 ティアの冷ややかな問いに、ユランは唇を吊り上げて答える。

「そうだよ。
勇者ロイスとの戦闘データ、そして──君、ティアとの戦闘データも組み込んである。
 最高傑作だ。
さあ……君に勝てるかな?」

 その瞬間。
 格納庫の壁際に並んでいた機動兵器群が、青白い光を灯して一斉に起動する。
 鋼鉄の巨兵たちが唸りを上げる中、ユランは勝ち誇ったように笑みを浮かべた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

俺! 神獣達のママ(♂)なんです!

青山喜太
ファンタジー
時は、勇者歴2102年。 世界を巻き込む世界大戦から生き延びた、国々の一つアトランタでとある事件が起きた。 王都アトスがたったの一夜、いや正確に言えば10分で崩壊したのである。 その犯人は5体の神獣。 そして破壊の限りを尽くした神獣達はついにはアトス屈指の魔法使いレメンスラーの転移魔法によって散り散りに飛ばされたのである。 一件落着かと思えたこの事件。 だが、そんな中、叫ぶ男が1人。 「ふざけんなぁぁぁあ!!」 王都を見渡せる丘の上でそう叫んでいた彼は、そう何を隠そう──。 神獣達のママ(男)であった……。

私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~

Ss侍
ファンタジー
 "私"はある時目覚めたら身体が小石になっていた。  動けない、何もできない、そもそも身体がない。  自分の運命に嘆きつつ小石として過ごしていたある日、小さな人形のような可愛らしいゴーレムがやってきた。 ひょんなことからそのゴーレムの身体をのっとってしまった"私"。  それが、全ての出会いと冒険の始まりだとは知らずに_____!!

異世界でカイゼン

soue kitakaze
ファンタジー
作者:北風 荘右衛(きたかぜ そうえ)  この物語は、よくある「異世界転生」ものです。  ただ ・転生時にチート能力はもらえません ・魔物退治用アイテムももらえません ・そもそも魔物退治はしません ・農業もしません ・でも魔法が当たり前にある世界で、魔物も魔王もいます  そこで主人公はなにをするのか。  改善手法を使った問題解決です。  主人公は現世にて「問題解決のエキスパート」であり、QC手法、IE手法、品質工学、ワークデザイン法、発想法など、問題解決技術に習熟しており、また優れた発想力を持つ人間です。ただそれを正統に評価されていないという鬱屈が溜まっていました。  そんな彼が飛ばされた異世界で、己の才覚ひとつで異世界を渡って行く。そういうお話をギャグを中心に描きます。簡単に言えば。 「人の死なない邪道ファンタジーな、異世界でカイゼンをするギャグ物語」 ということになります。

建国のアルトラ ~魔界の天使 (?)の国造り奮闘譚~

ヒロノF
ファンタジー
死後に転生した魔界にて突然無敵の身体を与えられた地野改(ちの かい)。 その身体は物理的な攻撃に対して金属音がするほど硬く、マグマや高電圧、零度以下の寒さ、猛毒や強酸、腐食ガスにも耐え得る超高スペックの肉体。   その上で与えられたのはイメージ次第で命以外は何でも作り出せるという『創成魔法』という特異な能力。しかし、『イメージ次第で作り出せる』というのが落とし穴! それはイメージ出来なければ作れないのと同義! 生前職人や技師というわけでもなかった彼女には機械など生活を豊かにするものは作ることができない! 中々に持て余す能力だったが、周囲の協力を得つつその力を上手く使って魔界を住み心地良くしようと画策する。    近隣の村を拠点と定め、光の無かった世界に疑似太陽を作り、川を作り、生活基盤を整え、家を建て、魔道具による害獣対策や収穫方法を考案。 更には他国の手を借りて、水道を整備し、銀行・通貨制度を作り、発電施設を作り、村は町へと徐々に発展、ついには大国に国として認められることに!?   何でもできるけど何度も失敗する。 成り行きで居ついてしまったケルベロス、レッドドラゴン、クラーケン、歩く大根もどき、元・書物の自動人形らと共に送る失敗と試行錯誤だらけの魔界ライフ。 様々な物を創り出しては実験実験また実験。果たして住み心地は改善できるのか?   誤字脱字衍字の指摘、矛盾の指摘大歓迎です! 見つけたらご報告ください!   2024/05/02改題しました。旧タイトル 『魔界の天使 (?)アルトラの国造り奮闘譚』 2023/07/22改題しました。旧々タイトル 『天使転生?~でも転生場所は魔界だったから、授けられた強靭な肉体と便利スキル『創成魔法』でシメて住み心地よくしてやります!~』 この作品は以下の投稿サイトにも掲載しています。  『小説家になろう(https://ncode.syosetu.com/n4480hc/)』  『ノベルバ(https://novelba.com/indies/works/929419)』  『アルファポリス(https://www.alphapolis.co.jp/novel/64078938/329538044)』  『カクヨム(https://kakuyomu.jp/works/16818093076594693131)』

神様から転生スキルとして鑑定能力とリペア能力を授けられた理由

瀬乃一空
ファンタジー
普通の闇バイトだと思って気軽に応募したところ俺は某国の傭兵部隊に入れられた。しかし、ちょっとした俺のミスから呆気なく仲間7人とともに爆死。気が付くと目の前に神様が……。 神様は俺を異世界転生させる代わりに「罪業の柩」なるものを探すよう命じる。鑑定スキルや修復スキル、イケメン、その他を与えられることを条件に取りあえず承諾したものの、どうしたらよいか分からず、転生した途端、途方にくれるエルン。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

元チート大賢者の転生幼女物語

こずえ
ファンタジー
(※不定期更新なので、毎回忘れた頃に更新すると思います。) とある孤児院で私は暮らしていた。 ある日、いつものように孤児院の畑に水を撒き、孤児院の中で掃除をしていた。 そして、そんないつも通りの日々を過ごすはずだった私は目が覚めると前世の記憶を思い出していた。 「あれ?私って…」 そんな前世で最強だった小さな少女の気ままな冒険のお話である。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

処理中です...