毒舌アイドルは毒の魔物に転生する。

馳 影輝

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第六章 学園生活

第四十三話 夏休みが始まった

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夏休みがついに幕を開けた。
 学園祭で勝ち取った「避暑地への切符」を胸に抱き、一年一組の面々は待ちきれない様子で学園が準備した大型バスに揺られていた。

「ねぇねぇ、早く着かないかな!」
「プライベートビーチだって! 
信じられないよ!」

 車窓の外に広がる風景は、次第に青と緑の鮮やかなコントラストへと変わっていく。
 やがて視界いっぱいにきらめく大海原が広がった瞬間、歓声があがった。

 目的地は、王都でも噂に名高い豪華ホテル。
 白亜の建物はまるで宮殿のように優雅で、眼下には広大なプライベートビーチが広がっていた。
 真っ白な砂浜と透き通る海水、そしてきらめく太陽が、まさに夢のような夏を告げている。

「わぁ……!」
ティアは目を輝かせて、思わず砂浜へ駆け出した。
潮風が頬を撫で、靴の底から伝わる砂の柔らかさが心地よい。

「すごい……ほんとに全部、私たちの為にあるの?」
メリルも瞳を丸くして立ち尽くしていた。

 後ろからは男子たちの歓声が響く。
「海だーっ!泳ぐぞー!」
「まずは荷物置いてからだろ!」

 クラス全員の笑い声が波音に溶け込み、夏の幕開けを祝福するかのように広がっていった。

 ティアは振り返り、仲間たちの笑顔を一望して、心の中でそっと呟いた。
(……最高の夏が始まるわね)

真っ白な大理石の階段を上り、クラス一行はホテルの大扉をくぐった。
 中へ足を踏み入れた瞬間、誰もが思わず息を呑む。

 天井は高く、シャンデリアが宝石のように輝き、きらめく光が床の大理石に反射して虹色の模様を描き出していた。
 広々としたロビーには噴水が設えられ、涼やかな水音が響いている。
 窓から差し込む海風がカーテンをふわりと揺らし、南国の花の香りがほんのりと漂った。

「す、すごい……! 
本当に泊まっていいんですか、ここ……?」
メリルが圧倒されて声を落とす。

「ふふ、優勝者の特権よ。
胸を張って楽しみましょう!」
ティアは満足げに微笑み、胸を張った。

 豪奢な絨毯を踏みしめながら、案内役のホテルスタッフに導かれていく。
 壁には名画が並び、どこを見ても贅沢な装飾ばかり。
生徒たちは完全に観光客気分でキョロキョロと視線を走らせていた。

 やがて、部屋割りの案内が始まった。

「基本的に二人一部屋となっております。
女性と男性はフロアを分けておりますので、ご安心くださいませ。」
品の良いスタッフが微笑みながら鍵を配っていく。

「ティアさんとメリルさんはこちらのお部屋ですね。」
差し出された鍵には金色のプレートが付けられており、二人の名前が刻まれていた。

「同室なんだ、よかった!」
メリルはぱっと顔を明るくしてティアの腕を取った。

 一方、男子たちは廊下で大騒ぎだ。
「おいおい、誰と同室だ!?」
「うわっ、クロウドと!? 
絶対うるさいやつじゃん!」
「なにぃ!?」

 笑い声が響く中、女子たちはお互いの部屋割りに一喜一憂しながら談笑していた。

 ティアとメリルが案内された部屋の扉を開けると、そこはまさに王族が泊まるような贅沢な空間だった。
 ふかふかのベッドが二つ並び、窓の外にはエメラルドグリーンの海が一望できる。
 バルコニーに出れば、白い砂浜と青い水平線が一面に広がっていた。

「わぁ……本当に夢みたい。」
メリルはベッドに腰を下ろしながら、感嘆の声を漏らす。

「ええ、ここからが夏休みの本番よ。」
ティアは笑顔でそう告げ、窓の外の輝く海へと視線を投げた。

各部屋に荷物を置き、豪華な部屋の感触を十分に味わったあと──。
 女子たちはそれぞれ水着に着替えるため、部屋に集まっていた。

「うわぁ、やっぱりちょっと恥ずかしいな……」
メリルは鏡の前でそわそわしながら、自分の姿を確かめる。
 水色のシンプルなビキニは、ティアに勧められて選んだもの。
肩にかかる髪を直しながら、顔が自然と赤くなる。

「大丈夫!
すごく似合ってるよ、メリル。」
ティアは自信満々に笑ってみせ、自分は鮮やかな赤のビキニに身を包んでいた。
 華やかな色合いが彼女の輝くような金髪に映え、まるで絵画から抜け出したような眩しさを放っている。

「て、ティアはやっぱりすごいね……スタイルも完璧だし。」
「ふふ、ありがと。
でも今日は思いっきり楽しむのが目的でしょ? 
恥ずかしがってたら損だよ!」

日焼け止めを皆んなで塗りあって楽しい時間を過ごした。

準備が整った女子達はロビーへ向かう。

 ──そして、プライベートビーチへ続く大きな扉が開かれた瞬間。

「おおおおおおおっ!」
待ち構えていた男子たちが、水着姿のクラスの女子達に歓声が上がる。
 赤のビキニに身を包んだティアは、太陽の下でまばゆく輝き、
 水色のビキニ姿のメリルは、恥ずかしげに肩をすぼめる仕草が愛らしく、男子たちの視線を釘付けにした。

「やっぱりティアが出てきたら空気が変わるな……」
「いや、メリルもめちゃくちゃ可愛いじゃん!」
「このクラス、やっぱり優勝確定だな!」

 わっと盛り上がる男子たちに、女子は呆れ半分、笑み半分。
「もう……はしゃぎすぎでしょ。」
「はいはい、騒ぐだけじゃなくて荷物運んで!」

 わいわいと騒ぎながら、全員で砂浜へと繰り出していく。

 目の前に広がるのは白銀の砂浜と、太陽を反射してきらめくエメラルドブルーの海。
 波打ち際では真珠のような泡がはじけ、潮風が頬を撫でていった。

男子たちは白熱したビーチバレーに夢中になっていた。
 砂を蹴り上げ、太陽を背にスパイクを打ち込む姿に、女子たちの声援が飛ぶ。
「いけー!」
「ナイス、ブライトン!」
自然と応援する形ができあがり、砂浜は夏らしい熱気に包まれていた。

 ティアもタオルを振りながら声を上げていたが、
 ──その時。

 ーー主様。少しお耳に入れたき事がございます。ーー
 セリアの澄んだ声が、念話として脳裏に響く。

「……ごめん、メリル。
ちょっとトイレ行ってくるね。」
 ティアは笑顔を見せつつ、そっと砂浜を離れた。

 人気のないホテルの裏手に回ると、陽炎のように揺らめきながらセリアが現れる。
「主様のご命令で、王城に潜入させておりましたヨルから報告がありました。」
「何かあったのね。」
「はい。やはり第一王子エルリン殿下は、オメガに関する秘密軍事企業《エステルゼ》の代表クレブリとは親密な関係のようです。
 ヨルの話では、企業側の者たちと“オメガの運用データ”をもとに量産機製造の打ち合わせをしているようです。」

 ティアの瞳がすっと細められる。
「やはり……。
エルリン殿下は裏で関わっていたのね。」

「いかがいたしましょう?」
「……もう少し様子を見るわ。ロイスとカインは各地を転々としている。ゲドをヨルの補佐につけて。
 リシェルとルシェルには《エステルゼ》の情報収集を命じて。
 ──ただし、まだ手は出さない。調査だけで十分よ。」
「御意。」
 セリアは深々と頭を垂れ、その姿は風に溶けるように消えた。

 ティアはひとり、静かな海鳴りを聞きながら深く息を吐く。
「やはり……国が背後にあったわね。
魔王や暗殺部隊だけで、あれだけの兵器を生み出せるわけがない。
 もしオメガの量産機が世に放たれれば、世界の均衡は一瞬で崩れる……。」

 瞳の奥に決意を灯しつつ、ティアは笑顔を取り戻す。
「……今はまだ、友達と夏を楽しむ時。」
そう呟いて、彼女は再び砂浜へと戻っていった。

ティアは表情を整え、再び砂浜へと歩み戻った。
 眩しい太陽の下、波打ち際では男子たちが歓声をあげながらボールを打ち合っている。

「ティア、どこ行ってたの?」
 心配そうに駆け寄ってきたのはメリルだった。
 タオルを手に、少し汗ばんだ頬を赤らめている。

「ごめん、ちょっとトイレ。」
 ティアはにっこり微笑み返した。

「よかった……。
少し遅いから体調悪いのかと思ったわ。」
 メリルは胸を撫で下ろす。

「大丈夫、大丈夫。
ほら、今いいとこみたいだよ。」
 ティアはわざと元気よく手を振って、コートの方を指差した。

「おーい、ティア!応援してくれー!」
 男子たちが声を上げると、女子たちも笑いながら盛り上がる。

 その輪の中に自然と入り、ティアはまた笑顔で声を張り上げた。
 ──ほんの数分前、王国と軍事企業を巡る危険な陰謀を知ったことなど、誰も気づいてはいない。

 夏の陽射しの下で、ただ友と笑い合うひとときを過ごすティア。
 その胸の奥には、誰にも見せない静かな覚悟が潜んでいた。
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