毒舌アイドルは毒の魔物に転生する。

馳 影輝

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第六章 学園生活

第四十五話 オメガ製造工場

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オメガの群れが青白い光を放ちながら一斉に立ち上がり、壁際に威圧的に並ぶ。
 しかし、ティアの表情は微動だにしなかった。

「ゲド、生産ラインを破壊して来て。」

「御意。」
 ゲドは影のように掻き消え、奥へと走る。

「主様、オメガは私にお任せください。」

「セリア、あなたは……あの生意気なユランを任せるわ。」

「御意。」

 次の瞬間、セリアの姿が揺らぎ──ユランに向かって閃光のごとく襲いかかる。

 ティアは小さく息を吸い、吐き出した。
 その仕草が合図となったのか、数体のオメガが轟音を上げて突進。
 大剣を構え、斬撃を振り下ろす。

 だが、その一瞬後。

 鋼鉄の機体は音もなく切り裂かれ、爆ぜるように四散した。
 装甲の残骸が床に散らばる。

「な、何だと……!」
 ユランの顔色が初めて揺らいだ。

 ティアは微笑すら浮かべず、ただ静かに言葉を重ねる。

「勘違いしているようね。
私やロイスの戦闘データも組み込んだでオメガを強化したみたいだけど。
私はまだ……本来の3%も力を出していないわ。」

「な、何を言っている! 
ただの人間に、オメガが破壊できるはずが……! ま、まさか……!」

 ユランの背筋に冷たい汗が流れる。

 その間にセリアが鋭く言い放つ。
「主様が何者であろうと……死に行くお前には関係のないことだ。」

「……っ、このッ! 
行け、オメガ!」
 ユランの命を受け、周囲のオメガが一斉にセリアへ襲いかかる。

 刹那。

「このようなおもちゃなど──どれだけ用意しようとも無駄だ。」
 セリアの剣が閃いた。

 たった一振り。
 その軌跡が光となり、数体のオメガが一瞬で切断され、炎と火花を散らして崩れ落ちた。

 ユランの瞳が大きく見開かれる。
 絶対の自信が揺らぎ、初めて「恐怖」が滲み出す。

尚もティアへと襲い掛かるオメガ達。
 四方を囲み、剣を振り下ろし、銃撃の嵐を浴びせかける。

 だが、ティアにはその全てが「止まって見えていた」。

 左側のオメガが振り下ろした剣を、ティアは片手──左手の指でひょいと摘まむ。
「借りるわね。」

 そのまま軽く引っ張り、右側のオメガに投げつける。
 重装甲の機体同士がぶつかり、轟音を立てて崩れる。

 飛来する銃弾は、避けるまでもない。
ティアに届くことなく粉砕される。
 彼女の身体を包む二百枚の物理障壁の前では、銃弾など砂埃に等しい。

 正面のオメガから振り下ろされた剣を、ティアは軽く身をずらして避ける。
 そして右手の甲でオメガの胴に触れた瞬間──装甲も骨格も分解されたようにバラバラに砕け散った。

 背後からの薙ぎ払いも、ティアの蹴りが先に炸裂する。
 鋼鉄の巨体が紙細工のように粉砕され、床を転がった。

 残る三体が同時に斬りかかる。
 ティアは片手を左から右へ軽く薙ぎ払う。
 次の瞬間、赤黒い業火が奔流となり、三体を包み込み、一瞬で蒸発させた。

 ユランの目には──それら全てが一瞬で片付けられたようにしか映らなかった。
「……な、なんだよ、これは……」

 一方その頃。
 セリアと対峙するユランは、唇を噛み、叫んだ。
「僕の本気を見せてやるッ!」

 瞬間、ユランの身体を中心に緑色の四角い壁が展開される。
 それは次々と積み重なり、幾重にも重なった“鉄壁の結界”となった。

 セリアが迷わず斬りかかる。
 だが、剣閃は緑の壁に弾かれ、逆に衝撃を返される。

「──くっ!」
 次の瞬間、セリアの身体は弾き飛ばされ、後方の壁に激突した。

 ユランは口元を歪める。
「これが僕の“鉄壁”だ。絶対に突破できない……!」

「あら、面白いことが出来るのね。」

 ティアは金色の髪を揺らし、ひらりとミニスカートの裾を風に踊らせながら、最後のオメガを蹴り砕く。
 伸びやかな足先が鋼鉄を容易く粉砕し、残骸を散らすと、彼女の綺麗な足は音もなく着地した。

 気づけば──壁際に並んでいた無数のオメガは、すべて瓦礫と化している。

 ティアは舞う髪とスカートを揺らしながら、ユランへとゆっくり歩を進めた。

「バ、バケモノ……!」

「あら、失礼ね。」
ティアは可憐に微笑む。
「こんなにスタイルが良くて、可愛い女の子に向かってバケモノなんて。」

「主様、油断しました。
ここは私が──」
セリアが前に出ようとするが、ティアが軽く手を上げて制する。

「ちょっと待って、セリア。
あの子……面白いものを手に組み込んでるのよ。
気にならない?」

「うっ……舐めるな! 
僕の鉄壁は守るだけじゃない!」
 ユランが叫び、展開した緑色の壁をティアへ向けて射出した。

 しかし、その動きもティアには“止まって見える”。
 彼女はゆるやかに手を伸ばし、迫る壁へ指先を添えると──解析を始めた。

「なるほど……細かい魔力を凝縮して壁を形成。
更にその一つ一つを強固に結合させて強い壁にしてるのね。
しかも、この子の魔力だけじゃないわね。」
 ティアの蒼瞳が細められる。
「その掌の装置──魔道具で魔力を増幅している。でも……ここをこうして、逆流させれば──」

 瞬間。
 ユランの掌に埋め込まれた魔道具がバラバラに弾け飛び、爆ぜるようにして彼の手を吹き飛ばした。

「ぐあああああっ!!」
 ユランが絶叫し、床に転がり悶絶する。

「あらあら、脆いのね。」
 ティアはユランの前に屈み込み、柔らかい笑みを浮かべた。

「ねぇ、五星闘って何? お姉さんに教えてくれるかな?」

「うぅぅ……」
 ユランは破壊された手を押さえ、怯えながら後ずさる。
怯えながら後退りするユランは、必死に言葉を吐き出した。

「わ、わかった……教えてやるよ! 
五星闘だろう……エルリン殿下の守護者だ。
俺は鉄壁……そして剛拳のシュラ、残虐のバロナ、魅了のアスターシュ、そして──最強の男、剣聖バロム。
お、教えたぞ……だから見逃してくれ! 
俺はただ、ここを守れと命じられているだけなんだ……だから……っ!」

 その命乞いは最後まで続かなかった。
 ティアの指先から放たれた赤黒い業火が、彼を容赦なく呑み込み、一瞬で蒸発させたからだ。

「セリア、この施設は破壊しておいて。
……貴重な情報は手に入ったし、後は任せるわ。
五星闘なる者たちのこと、調べがついたら知らせてね。」

「御意。」

 ティアが消えると、セリアはゲドに念話を向ける。

「ゲド。生産ライン側は破壊した?」

「ん? 終わったぞ。」

「主様より、この施設を徹底的に破壊せよとのご命令だ。私たちに任せると仰せだ。」

「わかった。」

 ふたりは静かに残された破壊の任を遂げていった。

◆ ◆ ◆

 その頃、ティアはすでにホテルの部屋に戻っていた。
 ベッドで眠る“自分”と融合すると、目を閉じて朝を待つ。彼女には眠る必要などない。
それでも、人間らしい営みを装うその時間は、不思議と心を穏やかにした。

 ──そして、朝。

 ティアは早くに目を覚まし、ビーチへと足を運ぶ。
 水平線の向こうから太陽が昇り始め、黄金の光が波間に揺れていた。

「日の出だな。」

 その声に振り返ると、ブライトンが立っていた。

「おはよう。」

「おはよう。
早いな。」

「ブライトンこそ、早いね。」

「ああ、朝日が見たくてな。
……それに、部屋の窓からティアが出てくるのが見えたから、急いで来たんだ。」

「え?……そうなんだ。
……ふふ、とっても綺麗。」

 微笑むティアに、ブライトンは照れもせず口にした。

「まあ、ティアの方が綺麗だけどな。」

「え?……っ、照れるよ。
でも、ありがとう。」

 朝の光に包まれながら、二人の間には静かな優しさが満ちていった。
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