毒舌アイドルは毒の魔物に転生する。

馳 影輝

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第六章 学園生活

第四十八話 避暑地にさようなら

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 ティアは大喜びで、知っている歌を元気いっぱいに熱唱し始めた。
 その愛らしい仕草と澄んだ歌声に、男子三人は完全に心を奪われてしまう。

「ああ、ティアと来れるなんて……」
「まさに天使だ……」
「可愛い……」

 彼らは酔いしれるように目を細め、ティアの笑顔に可愛い姿、そして可愛い仕草に癒やされていた。
 その様子を見て、メリルもつられて頬を緩ませる。
楽しそうに歌うティアの姿が嬉しくて、自然と笑顔があふれていた。

 曲が終わると、ティアはマイクを掲げて笑った。
「メリル!次、歌う?」

「え、う、うん……。
でも、マイセルくんたちも歌いたいよね?」

 すると三人は慌てて首を振った。
「いやいや、まだ無理だ! 
ティアの可愛さの余韻が抜けない!」
「ちょっと時間をくれ……」
 彼らは口々に言いながら、うっとりとティアを眺めている。

「ふふっ。
じゃあ、私が歌うね」
 メリルは少し照れながらマイクを受け取った。
そして歌い出した瞬間――。

「おお! メリル!」
「すごい! 透明感ある声だ!」

 男子たちは思わず歓声を上げた。
可憐で澄みきった歌声に、先ほどまで遠慮がちだったメリルの魅力が一気に花開く。
 ティアも安心したように笑みを浮かべた。
心配していたけれど、メリルが楽しそうにしているのを見て本当に嬉しかった。

 その後は男子たちも次々と歌い出し、特にノッティスの意外な歌のうまさに場は大いに盛り上がった。

「ノッティス!歌上手い!」

「やめろよ……でも嬉しいな!」

 部屋は笑い声と拍手で満ち、楽しい時間が流れていく。

 そんな中、ティアは喉を潤そうとドリンクバーに向かった。
そこで――。

「あれ! ティア!」

 声をかけてきたのはナターシャだった。

「ナターシャ! 
来てたんだ」

「うん。
ティアはメリルと来たの?」

「さっき歩いてたら、マイセルとノッティス、それにクラウドに誘われて。
メリルと一緒に来たの」

「そ、そうなんだ……」

 ナターシャの目が一瞬揺れるのを見て、ティアはすぐに言葉を続けた。
「ブライトンは居ないよ。
それに……ブライトンには付き合えないって、ちゃんと断ったから」

「……そう。
ならいいわ。
じゃあ、楽しんでね」

「うん。ナターシャも楽しんで」

 二人は短く言葉を交わすと、それぞれの部屋に戻っていった。

 ティアが戻ると、男子たちがすぐに声を上げる。
「ティア! 
もう一曲! 
俺たちを癒やしてくれ!」

「え? 
はいはい。
わかったわ」

 そう言ってティアは立て続けに二曲を歌い上げた。
可愛い仕草と伸びやかな声に、部屋の熱気はさらに高まる。
 気がつけば、メリルもすっかり乗ってきて、今度はマイクを手放さないほど楽しそうに歌い続けていた。

別の部屋ではナターシャがクラスの女子たちと来ていた。
 ドリンクバーでティアとすれ違い、彼女が口にした一言――

『ブライトンには付き合えないって言ったわ』

 その言葉が頭の中でぐるぐると回っていた。
 胸の奥に渦巻くざらついた感情をどう処理すればいいのかわからず、ただ立ち尽くしてしまう。

「ナターシャ! 歌わないの?」
 友人の声に我に返り、慌てて笑みを作る。
「ああ、歌う!」
 複雑な心境を振り払うようにマイクを手に取り、無理やり声を張り上げた。
今は考えない。歌に溶けてしまえばいい。

 一方その頃、ティアたちは歌い終えて、メリルと男子三人と共に近くのカフェで一休みしていた。
 スイーツとドリンクを前に、皆の笑い声が絶えない。

「楽しかったね」

「うん! 
ティアはすごく上手いし、声が可愛すぎる」

「そう? 
メリルだって、澄んだ声がとっても素敵だったよ」

 二人は顔を見合わせて微笑み合う。
 その光景に男子たちは胸を押さえ、ため息を漏らした。

「ああ、俺たちってラッキーだよな……ティアとメリルとミュウオケ行けるなんて」
「でもクラスの男子には内緒な! 絶対恨まれるぞ」
「ほんとだぜ!」

 三人の必死の顔にティアは思わず吹き出した。
「オーバーね。
いつでも付き合うわよ? 
ミュウオケ楽しいし」

 その言葉に男子たちは机を叩いて喜ぶ。

「ティア、今度は二人で行こうよ」

「いいわね」

「俺たちも連れてってくれー!」
 三人は身を乗り出して叫び、店はまた笑いに包まれた。



 ホテルに戻ると、この避暑地での最後の夕食が振る舞われた。
 明日には学園の寮に帰ることになる。

 豪華な料理に舌鼓を打ち、満足げに部屋へ戻ったティアとメリルはベッドに腰を下ろした。
「楽しかったね。
もっとのんびりできるといいのに」

「そうね……。
メリルは寮に戻って、地元には帰らないの?」

「ええ。夏休みは寮で過ごすつもりよ」

「そうなんだ。
私は少しだけ地元に帰ろうかと思ってるの」

 そんな何気ない会話を続けながら、夜は静かに更けていった。



 ――深夜。
 ベッドにはティアの分身が眠り、誰も気づかないうちに本体は海岸へと姿を現していた。

 月明かりの下、黒と白の羽が音もなく広がる。そこへセリアが現れ、跪いた。

「主様。
エルリン殿下の動向ですが……工場を破壊した件で慌てております。
すでに調査班を派遣し、洗い出している様子。
エステルゼという軍事企業はどうなさいますか?」

 ティア――いや、ユスティティアは静かに瞳を細めた。
「セリア。
リシェルとルシェルはどこまで調べたかしら」

「はい。
本社と支社が五か所、軍事工場が三か所。
そして……オメガの生産工場は、我らが潰した一か所のみとのことです」

「そう。
……よくやったわね。
二人には感謝を伝えて」
 冷ややかで、それでいて誇らしげな声音。

「エステルゼの拠点はすべて破壊なさい。
カイン以外の全員に伝えて。
――後は、セリア。
あなたに指揮を任せるわ。
終わったら報告して」

「御意」
 セリアは月光に溶けるように姿を消した。

 静寂の海岸に残されたユスティティアは、夜風に揺れる銀白の髪を押さえ、唇をわずかに吊り上げた。
「さて……エルリン殿下。
あなたがエステルゼを潰されて、どう動くか――見ものね」

ティア達がオメガ工場を破壊した次の日、エルリン第一王子の執務室にオメガ工場が壊滅したと報告が舞い込む。

「な!何だって?オメガ工場が壊滅…、国家事業だぞ!
幾ら投資していると思っているんだ!
エステルゼの責任者を呼べ」
部下達にエルリンは声を張り上げて怒りを露わにしていた。

数時間後、エステルゼ軍事企業のオメガ工場責任者である取締役ヘルサンキ常務がエルリンの前で跪く

「どうなっている?」

「現在調査中でありまして、詳しい事は何もわかっておりません。」

「あれだけの数のオメガを全て工場ごと潰れるものなど、例え勇者であっても単独では無理だぞ。」
エルリンは指で机を叩いて苛立ちをかくせない。

「はい。
勇者ロイスは現在西のメイル地方で活動中の為、勇者の仕業では無いと考えられます。
設置していた防犯カメラも映像も全て破壊されている為、未知の存在による犯行としか。」

エルリンは残りの施設も狙われる事を懸念して五星闘を向かわせた。

 エルリンは背を向け、月明かりを浴びた横顔を歪めた。
「……見せてもらおうか。
影に潜む者よ。
貴様が何者で、どこまで私を愚弄できるのか」

 夜風が吹き込み、部屋の燭火が揺れた。
 その炎に照らされた殿下の微笑みは、獲物を追い詰める獣のものだった。
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