お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀

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36話 魔王 2/3

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「グアァアア!!」

「やはり生きていたか」

 爆煙の中から、スルマが顔を出した。
 しかし、その姿は……凄惨。

 上半身を覆っていたフジツボの鎧は禿げ、一部の皮膚がケロイド状に。
 下半身のタコの足は8本全て焼け千切れ、今では歩くことも困難。
 シオマネキのような左腕は甲殻が剥がれ、焼け焦げた左腕が露わになった。

 総じて満身創痍。 
 おまけに【特殊スキル:自己再生】を俺が奪ったため、治癒することさえ困難だろう。

「どうして……どうして貴様如きにワシが敗れる!!」

「まだわからないのか?」

「貴様は……わかっているのか?」

 目の前の老人スルマは、泣きそうな表情で俺に答えを懇願してくる。
 あまりの火炎による激痛で、虚勢を張る元気もないのだろう。

「……情けない男だ」

 焼け焦げて禿げた頭を、優しく撫でてやる。

「お前はこれまでの魔王の力……スキルを授かったな」

「うむ、ワシは……2000人以上の魔王の力を継いだ……。じゃから、貴様に勝てるはずだったのじゃ……」

「確かにそれはスゴいことだ。1人が10個のスキルを有していたとして、単純計算で2万ものスキルを継承したのだからな」

 だが、と続ける。

「1つ1つのスキルのレベルが、あまりにも低すぎる」

「……どういうことじゃ?」

「1つのスキルをLvMaxにするのに、平均して100~200年はかかってしまうことは知っているな?」

「スキルとやらがわからないが……つまり、1つの才能を育てきるのに、それだけの時間がかかってしまうと言うことか?」 

「その程度のことも知らないのか。まぁいいだろう」

「……もしや、貴様が言いたいのは……ワシが授かった魔王の才能は、継承することを優先しすぎて、才能を育てることを疎かにしたと言いたいのか?」

「察しが良いな。さすが元宮廷魔術師」

 俺がスルマから奪盗うばったスキルは、一番高いものでレベル10。
 スルマが授かった魔王のスキルは、継承することを優先しすぎて、スキルレベルを伸ばすことを疎かにしたのだ。
 おそらく、他のスキルのレベルも同じようなレベルだろう。
 いくら2万以上のスキルを有していても、スキルレベルが低すぎて俺の相手にもならない。

 総合的なステータスは、スルマの方が僅差で勝る。
 俺も魔力量はかなり多い方だが、魔王の力によってスルマはそれを超えてきている。
 身体能力も俺と互角程度だろう。

 だが……やはり惜しむべきは、スキルがお粗末すぎること。
 前世の俺の言葉を引用するならば、『レベル100なのに覚えている技が【たいあたり】しかないくらい勿体ない』といった風になる。
 ……正直意味はさっぱり分からないが、雰囲気で言葉の意味は理解できる。

「じゃが、その程度のことで……ワシが負けたのか!」

「結果を受け入れろ」

「ワシは元宮廷魔術師じゃ! 貴様のような劣等生が、遠く及ばない存在なんじゃ! 貴様のような劣等生に、負けるハズがない! そうじゃ、貴様は不正を────」

 スルマの左腕を切り落とす。

「ぐ、ぎゃあぁあああ!!」

「いい加減認めろよ。俺の才能を」

 スルマの頭を掴み、地面に叩き付けた。

「ぐ、ぐぅうう……!!」

「どうだ、地面とのキスの味は」

「ぎゅぅうう……!!」

「俺が味わってきた雪辱、少しは理解できたか?」

 フランスパンをかじる。
 そして、フランスパンを振るってスルマの右耳をぐ。

「ぎゃぁあああ!!」

「お前はあの日、俺に言ったよな」

「なんじゃ……?」

「『お前には才能が無い』って」

 フランスパンを囓る。
 そして、フランスパンを振るってスルマの左耳を削ぐ。

「ぐぁああああ!!」

「だったら、才能の無い俺に敗けたお前やイリカも、才能が皆無だってことだな?」

「そんな……ワシ等の方が……才能が無かったじゃと……?」

「俺以下の才能で、これまでの人生をのうのうと生きてきたなんて、恥ずかしいな」

「ワシは……ワシこそが……劣等生……? そんな……そんなことは……」

 雪辱を味わい、全身に苦痛を与えられているため、スルマの精神は崩壊寸前だ。

「観客の声に耳を傾けてみろ」
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