お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀

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35話 魔王 1/3

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「これはあまり使いたくなかったが、貴様に勝つ為じゃ。人外に身を落とそう!!」

 そうして、スルマは魔術を唱えた。

「【狂気じみた青ドラ・ハイ】【這いずり回る水精ンダ・ゴン】【超越せし水神トタ・クア】」

 スルマは完全に人外のそれへと変化した。
 上半身がフジツボに覆われ、一見するとブツブツの岩。
 下半身はタコの触手に置換され、8本の触手が腰から生えている。
 左腕はカニのハサミのようになり、さながらシオマネキのように。
 
 魚人でさえも嫌悪感を抱くほどに、醜悪な海の亡者。
 それがスルマの最終形態だった。

多連詠唱シークェルか」

「現代では絶滅した技法、貴様のような下郎にはあまりにも眩しいだろう!!」

「《魔強の唄マジック・ソング》《魔強の唄マジック・ソング》《魔強の唄マジック・ソング》」

「なッ! 何故貴様も使える! 劣等生の分際で!!」

多連詠唱シークェルへの反応もイリカとほぼ同じ。血は争えないな」

 何とも醜い生物だ。
 俺もスルマの子ではあるが、こんな風にはならないようにしよう。

「なんだよ……あの醜いバケモノ」

「アレが……元宮廷魔術師のスルマ?」

「気色悪ィ……しかも、あいつに俺たちは殺されそうになったんだよな……」

「アルカ選手! あの怪物を殺してくださいまし!!」

「アルカ選手! 応援してるぜ!!」

 醜悪な怪物スルマを前にして、観客は一段と俺への声援を強めた。

「……貴様だけは、許さぬ……! 我が愛しの息子イリカを再起不能にし、魔術学院への入学を図る貴様だけは……!!」

「俺だって、お前のことを許してはない。お前の視線を浴びると怯えてしまった理由も、無事に判明したからな」

 スルマが所持していた固有スキル【冷徹なる殺気】。
 それは自身よりも弱い者を、怯えさせるスキルだった。

「俺は暴力的なお前に怯えていたんじゃない、お前のスキルに怯えていただけだ。それがわかった今、無駄に怯えていたあの頃を思い出すと……怒りが湧いてくるな」

「何を言っている。スキルだの何だの、訳のわからないことを抜かすな」

「説明しても、お前のような怪物には理解できないだろう」

 フランスパンをかじる。

「そろそろ終わりにしよう、魔王スルマ」

「そうじゃな、ワシも貴様を屠るとしよう」

 スルマの魔術が爆発する。
 コロッセオが揺れ、大気が震えるほどに濃厚な魔術がかもし出される。

「《最上級の水球ハイドロ・ボール》」
 
 スルマの上空に、出現したのは……漆黒の水球。
 墨汁のように黒く、ヘドロのような悪臭が漂ってくる。
 まさしく、水の魔王にふさわしい魔術だ。

「これは魔王術ではない。じゃが、魔王術で強化された我が身から放たれれば、魔王術以上の威力を誇るじゃろう」

「御託は良い」

 魔術陣を発動。
 そして上空に形成されるは、10メートルの漆黒の火球。
 イリカの切り札であった魔術、《黒焔の祝福フレイム・ベリアル》を発動した。
 
「貴様……ワシの愛息子イリカの魔術で挑んでくるのか……!!」

「話が長い老人に対しての、嫌がらせだ」

「じゃが……何をしても、ワシには勝てない!!」

「試してみよう」

 スルマを指差し──

「死ね」
 
 火球を投げた。

「貴様程度の極大滅却魔術ロスト・ノヴァ、ワシの最上級魔術で対処可能じゃ!!」

 スルマも水球を投げつけてくる。

 ぶつかり合う火球と水球。
 膨大な魔力を有した2つの魔術によって、様々な天変地異が発生する。
 大地は揺れ大雨が降り注ぎ、暴風が巻き起こり雷が落ちる。

「す、スゲェ!!」

「け、けど……クセェ!!」

「スルマの《最上級の水球ハイドロ・ボール》が元々クセェのに、アルカ選手の《黒焔の祝福フレイム・ベリアル》で蒸発してるから……クセェのが風に乗ってこっちまで来てるんだ!!」

「しかも、クセェだけじゃなくて……雨に混じってタコとかアサリとか降ってきてねェか?」

「スルマが海系の魔術を唱えてやがるから、海の生物が呼ばれてると勘違いして、暴風に混じってやってきたんだろ!!」

「ともかく、スゲェ戦いだな!!」

「って、おい! 見ろよ!!」

「アルカ選手の魔術が、スルマの水球を……蒸発しきったぞ!!」

 観客達の歓声通り、俺の魔術がスルマの魔術に勝利した。
 火球が水球を全て蒸発し、スルマへと向かってゆく。

「なッ! う、うわぁ!!」

 情けない声と共に、スルマに火球が直撃した。
 雨や雲を蒸発させるほどの大爆発が起こり、天変地異は収まった。
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