お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀

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34話 回顧

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死神の柔風デス・マーチで熱線を防ぐのは、良い考えではないだろうか。
 いや、死神の柔風デス・マーチは約1メートルの風の盾を貼る魔術、とてもじゃないが熱戦の全てを防げはしない。
 死神の柔風デス・マーチで防げずに漏れた熱線が、観客席を襲うことは明白だ。

 今必要なのは、巨大な盾や壁を出す魔術。
 或いは、スライムのような物で熱線を包み込む魔術だ。

「でも、そんな魔術────」

 脳をフル回転させ、前世を思い出す。

「……1721歳の時、ドラゴンの首を落とした。そんな走馬灯を見た……!!」

 ドラゴンは熱線を吐く魔物だ。
 つまり、前世の俺は熱線対策を万全にしていたハズである。

「……思い出せ。あの瞬間を……!」

 光の速度で進む熱線が、ゆっくりに見えるほど加速された思考で前世を思い出す。
 
「思い出せ、思い出せ……思い出──!」

 刹那、記憶が蘇った。
 ドラゴンに挑む前に、最強の召喚術師から奪盗うばった瞬間を。

【魔術スキル:粘液皇帝の召喚カイザースライム・サモンを再習得しました】

 運の良いことに、記憶が思い出せた。
 だが、時間が無い。
 熱線は結界を破り、観客席を目前にしている。
 0.001秒以内に魔術を発動しなければ、熱線は観客達に直撃するだろう。

「時間が無い────《粘液皇帝の召喚カイザースライム・サモン》」

 熱線の進行方向に召喚陣を設置し、魔術を唱えた。


「ギュゥ……!」


 召喚されたのは、超巨大なスライム。
 全長は約10キロメートル。質量はおよそ50億リットル。
 圧倒的な質量と大きさを誇る粘性の塊が、コロッセオ内に召喚された。

 召喚された粘液皇帝カイザースライムによって、さながら水饅頭みずまんじゅう餡子あんこのようにコロッセオが包み込まれてしまう。
 青いミミズも熱線ごとスライムに包み込まれ、熱線は消えてミミズも絶命。

 つまり、観客の命は救われた。
 ……それだけで済めば良かったのだが。
 

「ぐ、ごぼぼ……」

「お、溺れる……」

「ぼご……た、助けて……」

「お、泳げない……」

 熱線を消すほど水性の高いスライム。
 そんなスライムの中にいるのだから、コロッセオにいる者は全員は溺れる。

「ごぼごぼ……」

「ぼごぼご……」
 
 当然のように俺もスルマも、溺れてしまう。
 観客席を見ると何人か魚人も観戦しているようだが、彼らでさえも溺れている。
 スライムの身体は水よりも遥かに粘っこい。
 水中に慣れた彼らでも、スライムの中は慣れていないのだ。

「ごぼごぼ……!」

 粘性の強い粘液皇帝カイザースライムの中で、召喚陣を何とか構成し、粘液皇帝カイザースライムを消した。

「ぶッ、はァ……!!」

「く、苦しいかった……」

「だ、だけど……アルカ選手のおかげで、私達……助かったのよね!」

「アルカ選手が巨大なスライムを召喚しなかったら、俺たち……死んでたよな!」

「スルマの野郎……。力を見せつけるために、俺たちの命を利用しようとしたんだな!!」

「アイツ、許せねェ!! 俺たちのことを何だと思っているんだ!!」

 スルマに殺されかけた観客達は、俺を一心不乱に応援してくれる。
 自分たちを殺そうとしたスルマに対し、強い憤怒を乗せて。

「……やっぱり、お前は嫌いだ」

「ワシもじゃ。貴様のような劣等生、産まなければ良かった」

「弱者を徹底的に見下し、道具として見る選民思考。イリカの親だけのことはあるな」

「アレはワシと同じく、優れた才能があるからの。貴様とは違っての」

「俺、前に言ったよな『才能が無いことは……そんなに重罪か……』と」

「貴様にしてはわかっておるの。その通り、才能無き者は生きる資格がない」

「……なら、お前も生きる資格がないな」

「なんじゃ。ワシの魔術を1つ完封したところで、ワシに敵うと思っておるのか?」

「……逆に聞きたい」

 フランスパンをかじり、スルマに詰め寄る。

「その程度の才能で、俺に勝てると思っているのか?」


 ◆


「【混迷なる深海プス・クラ】」

 スルマが魔王術を唱えると、スルマの右腕が変化する。
 ボゴボゴと甲殻のような物が右腕を覆い、まるでカニの甲殻のような籠手こてがスルマの右腕を覆った。

「ワシは水の魔王! この魔術はワシが使える魔王術の中で、最強の魔王術じゃ!!」

「……で?」

「ふッ、やはり貴様は劣等生。言葉の意味が理解できぬほどに、脳が落ちぶれておるの」

「……何が言いたい?」

「カニの甲殻で覆われた我が右腕、破壊力も当然増している!」

「……回りくどいな。結論をさっさと述べろ」

「この拳で、貴様を殺す!!」

 スルマは拳を振るい、俺に駆けてくる。

「……まだわからないのか」

 スルマが殴りかかってくる直前──スパンッ。
 俺はフランスパンで、スルマの右腕を切り落とした。

「なッ────」

「────いい加減、受け入れろ」

 ボトッと地面に落ちる右腕。
 それはカニの甲殻に覆われており、緑色の体液を流していた。

「わ、ワシの……ワシの右腕が!!」

「……最強の魔王術とやらも、所詮はこの程度か」

 俺の目の前でうずくまり、右肩を撫でるスルマ。
 肩から下の腕はすでに無いというのに、名残惜しそうに肩を抱きしめている。

「何故じゃ! どうして、フランスパンで……いや、それ以前に貴様如きが、それほどまでの力を得た!!」

「教える義理はない」

 蹲るスルマの頭に、触れる。
 そして────

奪盗術クリアネス

【特殊スキル:自己再生を習得しました】
【魔術スキル:慄然たる海獣ボグ・グラを習得しました】
【魔術スキル:混迷なる深海プス・クラを習得しました】
【固有スキル:冷徹なる殺気を習得しました】

「魔王術って言っても、所詮はただの魔術スキルじゃないか」

「貴様……何を……まさか!!」

 スルマは左腕を伸ばし、魔王術を唱える。

「【慄然たる海獣ボグ・グラ】【混迷の深海プス・クラ】!! ……クソッ、まさか貴様──」

「あぁ、奪盗うばってやったさ」

「度し難い! ワシが授かった魔王の力を……!」

「それで、どうする?」

「……じゃが、ワシにはまだ2000人以上の魔王の力がある! 魔王術の1つや2つ盗まれたところで、痛くも痒くもないわ!!」

「……まだわからないか」

 先ほどスルマのスキルを奪い、俺の勝利が確定された。
 もっとも、スキルを視認することができないであろうスルマには、一生かかってもわからないだろうが。
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