29 / 120
第29話 狂気からの誘い
しおりを挟む
「ぱッ、パパが死ぬってどういう事? どうしてパパが殺されなくちゃ成らないの??」
『君のパパは今日この後すぐに殺されて、、、』というピエロの話を聞いた瞬間、瞳の奥から涙が溢れ出てディーノの視界がぼやけ始める。
ピエロが明日の天気でも語るような口調で、まるで確定した未来でも語る様な口調で父が死ぬと言った事が恐ろしかった。
「どうしてかって? 其れは吾輩も分からないけどぉ、多分嫌な奴だったから殺されるんじゃないかな? ほら、ルチアーノって響きが何か感じ悪そうじゃない??」
「違うッ!! パパは嫌な奴じゃない!! パパは皆が幸せになれるように毎日必死に働いるヒーローなんだ!! パパを殺そうとする奴らの方が嫌な奴だッ!!」
ディーノはピエロの発言を全否定する。
自分にあれだけ優しくしてくれて、約束を何時も守ってくれる父親が殺されて良い筈が無い。
「何言ってんだ? 良い奴でも悪い奴でも関係なく、生きている限りは分け隔てなく人間は死ぬんだよ。死ぬ瞬間はヒーローもヴィランも関係ない、死ねば皆肉でできた水袋に成るだけ。お前の父親も簡単に死ぬよ、何なら目の前で腹掻っ捌いて殺してやろうか?」
突然ピエロの口調が変化して、今までの歌声では無く地響きの様に冷たく温もりを感じない声がディーノの鼓膜を揺らした。
その瞬間途轍もない絶望感が襲ってきて、足に力が入らなくなって崩れ落ちる。
「パパは、、、死なない、、、死なないよね? パパ??」
「気に成る? 気に成るんなら一緒に身に行こ~!! 今日のサーカスの目玉はルチアーノの暗殺だからね。一緒にキャンディーでハイに成りながらボロ雑巾みたいに叩き潰されるルチアーノを見て、一緒に笑い転げようよ!! 後ろから刃物ぶす~ってされて地面に落ちてくるんだッ! 君も俺様と一緒に死体の頭を蹴り飛ばして、目玉が飛び出すのを見て笑い転げようよ。それとも四肢をもいでダルマ転がしでもする?」
ピエロは再び歌うような口調に戻ってディーノの腕を引いた。
しかし口調は戻ってももう自らの邪悪さを隠す気は無いのか、その言葉の何処を切り取っても悪意と醜さに溢れている。
「行かないッ! 行かなよ、絶対に行かない!! お前なんかと一緒に行くもんかッ! どうしてパパが死ぬなんて酷いウソを付くんだよ。嘘つきなんかと仲良くしない!!」
「嘘じゃないよ~、此れは確定した未来で絶対にルチアーノは死ぬんだ。でも今の君がその事を知ったら悲しくなるだろ? だから今の内にキャンディーで悲しいって感情を無くして、パパの死をサーカスに変えてあげようと思って」
ピエロはまるで親切な事でもしているかの様にそう喋った。
「嘘だッ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だァー!!」
ディーノはピエロの言葉が届かない様に自分の鼓膜を大声でシャットアウトし、投げ掛けられる全てを言葉を拒絶する。
この様子ではピエロが何を言っても付いて来てくれそうにない。
「も~、我儘だな~。本当にめんどくさいガキ、ぶっ殺してやりたいけどそうも行かない。一度きりのお願いで仕事は絶対に熟さなきゃいけない、、、困ったな~、あぁ困ったな~」
ピエロはミュージカルの様にアグレッシブな動きをしながら喋り続け、自らの苦悩を全身全霊で表している。
だが、突然雷が落ちた様に動きが停止して固まる。
そして嬉しそうに言葉を吐き出した。
「そうだ、両手両足を引き千切って無理矢理連れて行こう。そうだよ、そうだね、そうだ、、、何も五体満足で連れている必要はない。逆に両手両足が無い方がインパクトが有って良いかも。思考の逆転だ、、、コペルニクス的ぃ~回転ッ!!」
ピエロが突如ディーノを掴んでいた手を放し、目にも止まらぬ速さでディーノを突き飛ばしてベッドの上に戻す。
そして左腕で心臓の真上から途轍もない力で押さえつけ、見動きを取れなくする。
「かはァ、、、ッ!! はあ、はあ、あぁぁぁ」
心臓を圧迫されて上手く息が出来なくなったディーノの口から、悲鳴に成りそこなった空気の漏れる音がする。
必死に心臓を押しつぶしている左腕を払いのけようと藻掻くが、ビクともしない。
「オペを開始する。右手右足左手左足の全摘出手術、、、非常に難度の高い戦いに成るだろう。でも、私失敗しないので」
そう言うとピエロがくっ付けながらピンと立てた人差し指と中指の先から光が出て、その光が刃の形を作り出す。
その刃をベッドに近づけると、くっ付けた場所が一瞬で発火した。
「うんうん、火加減はバッチリ!! あ、お客さん。右手と左手のどちらから行かれますか?」
「・・・いやッ、、、、だ。たす、け、、、」
「はあ~、右足ですか。お客さん通ですね~ぇ!! ではご注文通り、左足から切断させて頂きますね~」
ピエロはディーノの言葉を一切聞くつもりは無い様で、会話に成っていない妄言を吐き散らし続ける。
そして右手を軽く振ると、火力が一段上がって熱の刃が一段巨大化した。
「うあぁぁぁあぁあぁぁ」
刃が照らし出したピエロの悪魔としか形容のしようが無い表情と、此れから正に自分の左足を切断しようとしているという現実にディーノは絶叫する。
しかし、どれだけ渾身の力で藻掻ことも心臓の上から長付けているピエロの左腕から逃れる事は出来ない。
今まで流したことが一度も無い、濁流の様な涙が顔を覆っていく。
「はい、じゃあチクッとしますよ~」
ピエロはゆっくりと光の刃を近づけ、まだ触れていないにも関わらず漏れ出た熱だけで太股の皮が焼けて激痛が走る。
ディーノは凄まじい痛みと恐怖で白目を剥きながら藻掻くが、其れでも押さえつけてくるピエロの左腕はびくともしない。
結局全ての抵抗が無駄に終わり光の刃が皮膚に触れようとした瞬間、目にも止まらぬ速さで入口の扉が開いて人影が現われる。
そしてその人影が右手を振った瞬間ピエロの動きがピタリと停止し、光の刃が消えた。
「ブルータス、、、お前もかッ」
ピエロが楽しそうにそう呟いてから一秒後、上半身が斜めにスライドして地面に落ちる。
残った下半身からは夥しい量の血液が噴出して部屋中に撒き散らし、飛び散った血液が放心状態でピエロの胴体を眺めるディーノを真っ赤に染めた。
「うッ、、、うわああああああああッ!!」
生れて始めて見た人間が死ぬ瞬間、しかも余りに刺激が強すぎるピエロの死に様を目に焼き付けてしまったディーノの精神が崩壊する。
「あああッあああぁぁあああッあぁああああああッ」
自分の両手両足が悪夢の様なピエロに切断されかけるという強烈な刺激と、そのピエロが突如上半身と下半身が切り離されて血を吹き出しながら死ぬという強烈な刺激がディーノの脳内で衝突する。
情緒が崩れ去り、悪夢の様な光景が瞼の裏で何度もリピート再生されて絶叫が止まらない。
自らの絶叫によって聴覚が埋め尽くされたディーノの耳に、ピシャピシャと何か液体の上をこちらに近づいて来ている足音が入り込んできた。
そして涙で潰された視界に黒くて大きな影が映り、その大きな腕で抱き上げられる。
「よかった、、、ディーノッ無事だったか」
その声は父親の物で、抱きかかえられ感じた温もりによって心が戻ってくる。
涙の量も減って未だぼやけてはいたが何とか視覚が復活し、目の前に今まで見たことが無い表情の父が見えた。
「良かった、、、パパッ生きてた」
「ああ、パパは大丈夫だ。パパがお前を絶対に守ってやるからな」
ディーノはようやく恐怖から解放され、安心感を得ようと力の限り父親の首に抱き着く。
ルチアーノは小さな体で縋り付いてくる息子を抱きしめ返し、優しく背中を撫でて落ち着かせよとする。
二人が静かに抱き合っていると、新たな声が飛び込んできた。
「ディーノ! ボス!! 良かった、、、無事だったか」
その声の主はトムハットだった。
恐らく全速力で屋敷内を走って駆け付けたようで、息が上がって顔色が真っ青に成っている。
「あ、トムハット!! 良かった、トムハットも無事だったんだねッ!!」
二人目の見慣れた顔を確認してディーノの心も大分余裕を取り戻す。
ディーノは固まった様に抱きついていた右手を放し、トムハットの方向に向けて右手を伸ばした。
「ええ私は何とも無かったが、異変と不気味な笑い声で目を覚まし慌てて飛んできたんだ。本当に、無事で良かった」
トムハットはヨロヨロと駆け寄って、ディーノの小さくて冷たい右手を握る。
二人が心から嬉しそうに泣き笑いを浮かべた時、ルシアーノはトムハットに深刻そうな口調で話しかけた。
「トムハット、日中に話したお前の覚悟は本物か?」
トムハットの姿を認めたルチアーノは、ディーノを地面に降ろして今まで一度も脱いでいる所を見たことが無い虎柄のパーカーをディーノに羽織らせる
そして真剣な眼差しで言った。
「日中の覚悟とは、、、まさかッ」
その言葉の意味を理解したトムハットが声を詰まらせる。
「ああ、最悪の事態の一つ目が十中八九起きた。ビッグネームが最低でも3人は侵入しているッ」
「そんな馬鹿な!? だって、、、有り得ないじゃないですか!!」
ルチアーノは苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべ、トムハットは驚愕の感情で顔面を埋め、ディーノは何の話をしているのか分からずキョロキョロ二人の顔を交互に見ている。
トムハットは驚愕で思考停止した様だが、ルチアーノは事態を飲み込んで質問を重ねる。
「起きたものは仕方ない、、、それ相応の報いを受けて貰うだけだ。其れよりお前の答えをもう一度聞かせてくれ、トムハット!!」
ルチアーノは今回の一件で完全にキレている様だった。
世界で一番大切な存在、ディーノという弱点でもあり龍の逆鱗でもある存在に触れられた事で腹の底に長く封印していた怪物が目を覚ましたのである。
であればトムハットの役割はただ一つ、ボスの足を引っ張らないようにファミリーの至宝を守り抜く事のみ。
「任せてくださいッ!! 貴方には悪いですが、この子を思う気持ちだけなら実の親であるアンタよりも強いと自負していますよッ」
トムハットの強い言葉にルチアーノは満足そうに笑う。
そしてディーノを地面に降ろし、壁の中に嵌め込まれているクローゼットを開けて奥の板を蹴り付けると穴が空いて真っ暗な空間が現われた。
「此れはもしもの時の為に作って置いた、俺と一部の幹部しか知らない外に繋がる抜け穴だ。お前にはディーノを連れて此処から安全な場所に逃げて貰いたい」
「ボスは、、、どうなさるんですかッ?」
ルチアーノの言葉から彼自身はこの抜け穴を通って逃げるつもりは無いという事に気が付き、何故逃げないのかを訪ねる。
どれだけの襲撃者が攻め込んで来ているか分からない、此処は一端安全な場所まで逃げて体勢を立て直す事が先決の筈だ。
しかしルチアーノはゆっくり首を振る。
「俺は一緒に逃げられない、生憎今回此処に攻め込んで来ている連中は普通の人間じゃないんだ。俺は気配を消す事が出来てもお前達を連れて逃げる事は不可能、、、だから俺が此処で注意を引いて、お前達への攻撃を妨害する必要がある」
「つまり、一人で戦うつもりですか?! ビッグネームが複数人潜んでいるというのに危険過ぎるッ!!」
ルチアーノが言う無謀にも程が有る作戦にトムハットは全力で反対する。
ビッグネームとは一人で一軍に相当する実力を持った、裏社会に置ける神にも等しい存在である。
それを幾らルチアーノと言えども単身で複数人を迎え撃つなど正気の沙汰とは思えない。
「嘗めるなよ」
ルチアーノがそう言った瞬間全身が重くなり、膝が震えて立つ事すらままならなく成る。
世界最強の威風、それもトムハットが初めて出会った全盛期の威風を遙かに凌駕して洗練された殺意の波動が伝わって来きたのだ。
「俺はずっと気に食わなかった、、、俺が人間に毛が生えた程度の連中と同格と見なされ、同じビッグネームとしてパッケージングされている事に。良い機会だ、全世界に証明してやるよッ何人偽物の王者を集めた所で本物には敵わないって事をな!!」
ルチアーノがそう叫ぶと、室内にも関われず凄まじい暴風が吹いてトムハットとディーノはクローゼットの中に投げ込まれる。
そしてそして一瞬ルチアーノが悲しそうな表情に戻り、口を動かした。
「お前達は真っ直ぐ表社会を目指して逃げろ、予定通りライオネルにディーノを匿って貰うんだ。そして、、、何が有ってもレヴィアスファミリーの人間は信じるな」
その言葉が二人に届くと同時に、風が再び吹いてクローゼットの戸が勢いよく閉まり二度と外からは開かなくなる仕掛けが作動する。
こうしてディーノの人生最初の地獄がスタートした。
父の愛によって抑えられていた運命の歯車がゆっくりと回転を始め、世界を巻き込んだ混乱の時代が幕を開ける。
『君のパパは今日この後すぐに殺されて、、、』というピエロの話を聞いた瞬間、瞳の奥から涙が溢れ出てディーノの視界がぼやけ始める。
ピエロが明日の天気でも語るような口調で、まるで確定した未来でも語る様な口調で父が死ぬと言った事が恐ろしかった。
「どうしてかって? 其れは吾輩も分からないけどぉ、多分嫌な奴だったから殺されるんじゃないかな? ほら、ルチアーノって響きが何か感じ悪そうじゃない??」
「違うッ!! パパは嫌な奴じゃない!! パパは皆が幸せになれるように毎日必死に働いるヒーローなんだ!! パパを殺そうとする奴らの方が嫌な奴だッ!!」
ディーノはピエロの発言を全否定する。
自分にあれだけ優しくしてくれて、約束を何時も守ってくれる父親が殺されて良い筈が無い。
「何言ってんだ? 良い奴でも悪い奴でも関係なく、生きている限りは分け隔てなく人間は死ぬんだよ。死ぬ瞬間はヒーローもヴィランも関係ない、死ねば皆肉でできた水袋に成るだけ。お前の父親も簡単に死ぬよ、何なら目の前で腹掻っ捌いて殺してやろうか?」
突然ピエロの口調が変化して、今までの歌声では無く地響きの様に冷たく温もりを感じない声がディーノの鼓膜を揺らした。
その瞬間途轍もない絶望感が襲ってきて、足に力が入らなくなって崩れ落ちる。
「パパは、、、死なない、、、死なないよね? パパ??」
「気に成る? 気に成るんなら一緒に身に行こ~!! 今日のサーカスの目玉はルチアーノの暗殺だからね。一緒にキャンディーでハイに成りながらボロ雑巾みたいに叩き潰されるルチアーノを見て、一緒に笑い転げようよ!! 後ろから刃物ぶす~ってされて地面に落ちてくるんだッ! 君も俺様と一緒に死体の頭を蹴り飛ばして、目玉が飛び出すのを見て笑い転げようよ。それとも四肢をもいでダルマ転がしでもする?」
ピエロは再び歌うような口調に戻ってディーノの腕を引いた。
しかし口調は戻ってももう自らの邪悪さを隠す気は無いのか、その言葉の何処を切り取っても悪意と醜さに溢れている。
「行かないッ! 行かなよ、絶対に行かない!! お前なんかと一緒に行くもんかッ! どうしてパパが死ぬなんて酷いウソを付くんだよ。嘘つきなんかと仲良くしない!!」
「嘘じゃないよ~、此れは確定した未来で絶対にルチアーノは死ぬんだ。でも今の君がその事を知ったら悲しくなるだろ? だから今の内にキャンディーで悲しいって感情を無くして、パパの死をサーカスに変えてあげようと思って」
ピエロはまるで親切な事でもしているかの様にそう喋った。
「嘘だッ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だァー!!」
ディーノはピエロの言葉が届かない様に自分の鼓膜を大声でシャットアウトし、投げ掛けられる全てを言葉を拒絶する。
この様子ではピエロが何を言っても付いて来てくれそうにない。
「も~、我儘だな~。本当にめんどくさいガキ、ぶっ殺してやりたいけどそうも行かない。一度きりのお願いで仕事は絶対に熟さなきゃいけない、、、困ったな~、あぁ困ったな~」
ピエロはミュージカルの様にアグレッシブな動きをしながら喋り続け、自らの苦悩を全身全霊で表している。
だが、突然雷が落ちた様に動きが停止して固まる。
そして嬉しそうに言葉を吐き出した。
「そうだ、両手両足を引き千切って無理矢理連れて行こう。そうだよ、そうだね、そうだ、、、何も五体満足で連れている必要はない。逆に両手両足が無い方がインパクトが有って良いかも。思考の逆転だ、、、コペルニクス的ぃ~回転ッ!!」
ピエロが突如ディーノを掴んでいた手を放し、目にも止まらぬ速さでディーノを突き飛ばしてベッドの上に戻す。
そして左腕で心臓の真上から途轍もない力で押さえつけ、見動きを取れなくする。
「かはァ、、、ッ!! はあ、はあ、あぁぁぁ」
心臓を圧迫されて上手く息が出来なくなったディーノの口から、悲鳴に成りそこなった空気の漏れる音がする。
必死に心臓を押しつぶしている左腕を払いのけようと藻掻くが、ビクともしない。
「オペを開始する。右手右足左手左足の全摘出手術、、、非常に難度の高い戦いに成るだろう。でも、私失敗しないので」
そう言うとピエロがくっ付けながらピンと立てた人差し指と中指の先から光が出て、その光が刃の形を作り出す。
その刃をベッドに近づけると、くっ付けた場所が一瞬で発火した。
「うんうん、火加減はバッチリ!! あ、お客さん。右手と左手のどちらから行かれますか?」
「・・・いやッ、、、、だ。たす、け、、、」
「はあ~、右足ですか。お客さん通ですね~ぇ!! ではご注文通り、左足から切断させて頂きますね~」
ピエロはディーノの言葉を一切聞くつもりは無い様で、会話に成っていない妄言を吐き散らし続ける。
そして右手を軽く振ると、火力が一段上がって熱の刃が一段巨大化した。
「うあぁぁぁあぁあぁぁ」
刃が照らし出したピエロの悪魔としか形容のしようが無い表情と、此れから正に自分の左足を切断しようとしているという現実にディーノは絶叫する。
しかし、どれだけ渾身の力で藻掻ことも心臓の上から長付けているピエロの左腕から逃れる事は出来ない。
今まで流したことが一度も無い、濁流の様な涙が顔を覆っていく。
「はい、じゃあチクッとしますよ~」
ピエロはゆっくりと光の刃を近づけ、まだ触れていないにも関わらず漏れ出た熱だけで太股の皮が焼けて激痛が走る。
ディーノは凄まじい痛みと恐怖で白目を剥きながら藻掻くが、其れでも押さえつけてくるピエロの左腕はびくともしない。
結局全ての抵抗が無駄に終わり光の刃が皮膚に触れようとした瞬間、目にも止まらぬ速さで入口の扉が開いて人影が現われる。
そしてその人影が右手を振った瞬間ピエロの動きがピタリと停止し、光の刃が消えた。
「ブルータス、、、お前もかッ」
ピエロが楽しそうにそう呟いてから一秒後、上半身が斜めにスライドして地面に落ちる。
残った下半身からは夥しい量の血液が噴出して部屋中に撒き散らし、飛び散った血液が放心状態でピエロの胴体を眺めるディーノを真っ赤に染めた。
「うッ、、、うわああああああああッ!!」
生れて始めて見た人間が死ぬ瞬間、しかも余りに刺激が強すぎるピエロの死に様を目に焼き付けてしまったディーノの精神が崩壊する。
「あああッあああぁぁあああッあぁああああああッ」
自分の両手両足が悪夢の様なピエロに切断されかけるという強烈な刺激と、そのピエロが突如上半身と下半身が切り離されて血を吹き出しながら死ぬという強烈な刺激がディーノの脳内で衝突する。
情緒が崩れ去り、悪夢の様な光景が瞼の裏で何度もリピート再生されて絶叫が止まらない。
自らの絶叫によって聴覚が埋め尽くされたディーノの耳に、ピシャピシャと何か液体の上をこちらに近づいて来ている足音が入り込んできた。
そして涙で潰された視界に黒くて大きな影が映り、その大きな腕で抱き上げられる。
「よかった、、、ディーノッ無事だったか」
その声は父親の物で、抱きかかえられ感じた温もりによって心が戻ってくる。
涙の量も減って未だぼやけてはいたが何とか視覚が復活し、目の前に今まで見たことが無い表情の父が見えた。
「良かった、、、パパッ生きてた」
「ああ、パパは大丈夫だ。パパがお前を絶対に守ってやるからな」
ディーノはようやく恐怖から解放され、安心感を得ようと力の限り父親の首に抱き着く。
ルチアーノは小さな体で縋り付いてくる息子を抱きしめ返し、優しく背中を撫でて落ち着かせよとする。
二人が静かに抱き合っていると、新たな声が飛び込んできた。
「ディーノ! ボス!! 良かった、、、無事だったか」
その声の主はトムハットだった。
恐らく全速力で屋敷内を走って駆け付けたようで、息が上がって顔色が真っ青に成っている。
「あ、トムハット!! 良かった、トムハットも無事だったんだねッ!!」
二人目の見慣れた顔を確認してディーノの心も大分余裕を取り戻す。
ディーノは固まった様に抱きついていた右手を放し、トムハットの方向に向けて右手を伸ばした。
「ええ私は何とも無かったが、異変と不気味な笑い声で目を覚まし慌てて飛んできたんだ。本当に、無事で良かった」
トムハットはヨロヨロと駆け寄って、ディーノの小さくて冷たい右手を握る。
二人が心から嬉しそうに泣き笑いを浮かべた時、ルシアーノはトムハットに深刻そうな口調で話しかけた。
「トムハット、日中に話したお前の覚悟は本物か?」
トムハットの姿を認めたルチアーノは、ディーノを地面に降ろして今まで一度も脱いでいる所を見たことが無い虎柄のパーカーをディーノに羽織らせる
そして真剣な眼差しで言った。
「日中の覚悟とは、、、まさかッ」
その言葉の意味を理解したトムハットが声を詰まらせる。
「ああ、最悪の事態の一つ目が十中八九起きた。ビッグネームが最低でも3人は侵入しているッ」
「そんな馬鹿な!? だって、、、有り得ないじゃないですか!!」
ルチアーノは苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべ、トムハットは驚愕の感情で顔面を埋め、ディーノは何の話をしているのか分からずキョロキョロ二人の顔を交互に見ている。
トムハットは驚愕で思考停止した様だが、ルチアーノは事態を飲み込んで質問を重ねる。
「起きたものは仕方ない、、、それ相応の報いを受けて貰うだけだ。其れよりお前の答えをもう一度聞かせてくれ、トムハット!!」
ルチアーノは今回の一件で完全にキレている様だった。
世界で一番大切な存在、ディーノという弱点でもあり龍の逆鱗でもある存在に触れられた事で腹の底に長く封印していた怪物が目を覚ましたのである。
であればトムハットの役割はただ一つ、ボスの足を引っ張らないようにファミリーの至宝を守り抜く事のみ。
「任せてくださいッ!! 貴方には悪いですが、この子を思う気持ちだけなら実の親であるアンタよりも強いと自負していますよッ」
トムハットの強い言葉にルチアーノは満足そうに笑う。
そしてディーノを地面に降ろし、壁の中に嵌め込まれているクローゼットを開けて奥の板を蹴り付けると穴が空いて真っ暗な空間が現われた。
「此れはもしもの時の為に作って置いた、俺と一部の幹部しか知らない外に繋がる抜け穴だ。お前にはディーノを連れて此処から安全な場所に逃げて貰いたい」
「ボスは、、、どうなさるんですかッ?」
ルチアーノの言葉から彼自身はこの抜け穴を通って逃げるつもりは無いという事に気が付き、何故逃げないのかを訪ねる。
どれだけの襲撃者が攻め込んで来ているか分からない、此処は一端安全な場所まで逃げて体勢を立て直す事が先決の筈だ。
しかしルチアーノはゆっくり首を振る。
「俺は一緒に逃げられない、生憎今回此処に攻め込んで来ている連中は普通の人間じゃないんだ。俺は気配を消す事が出来てもお前達を連れて逃げる事は不可能、、、だから俺が此処で注意を引いて、お前達への攻撃を妨害する必要がある」
「つまり、一人で戦うつもりですか?! ビッグネームが複数人潜んでいるというのに危険過ぎるッ!!」
ルチアーノが言う無謀にも程が有る作戦にトムハットは全力で反対する。
ビッグネームとは一人で一軍に相当する実力を持った、裏社会に置ける神にも等しい存在である。
それを幾らルチアーノと言えども単身で複数人を迎え撃つなど正気の沙汰とは思えない。
「嘗めるなよ」
ルチアーノがそう言った瞬間全身が重くなり、膝が震えて立つ事すらままならなく成る。
世界最強の威風、それもトムハットが初めて出会った全盛期の威風を遙かに凌駕して洗練された殺意の波動が伝わって来きたのだ。
「俺はずっと気に食わなかった、、、俺が人間に毛が生えた程度の連中と同格と見なされ、同じビッグネームとしてパッケージングされている事に。良い機会だ、全世界に証明してやるよッ何人偽物の王者を集めた所で本物には敵わないって事をな!!」
ルチアーノがそう叫ぶと、室内にも関われず凄まじい暴風が吹いてトムハットとディーノはクローゼットの中に投げ込まれる。
そしてそして一瞬ルチアーノが悲しそうな表情に戻り、口を動かした。
「お前達は真っ直ぐ表社会を目指して逃げろ、予定通りライオネルにディーノを匿って貰うんだ。そして、、、何が有ってもレヴィアスファミリーの人間は信じるな」
その言葉が二人に届くと同時に、風が再び吹いてクローゼットの戸が勢いよく閉まり二度と外からは開かなくなる仕掛けが作動する。
こうしてディーノの人生最初の地獄がスタートした。
父の愛によって抑えられていた運命の歯車がゆっくりと回転を始め、世界を巻き込んだ混乱の時代が幕を開ける。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします
雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました!
(書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です)
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発
ハーフのクロエ
ファンタジー
アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる