キング・オブ・アウト ~半分が裏社会に呑み込まれた世界で法則の力『則』と法則のを超えた力『則獣』を駆使してマフィアの頂点を目指す!!

NEOki

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第28話 血煙と狂乱のサーカス

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「サーカスッ!? 僕、行ってみたい!!」



 ピエロが発した『サーカス』という単語にディーノが凄まじい反応を見せる。

 というのもサーカスとは外を自由に出る事が出来ないディーノが、本の知識のみで知っていた何時か行ってみたいと場所だったからだ。



「そう、サーカス!! 綱渡りにジャグリングに空中ブランコ、猛獣使いにナイフ投げなんてのも有るよ!! そして、、、ピエロも!」



 ピエロは自分の鼻頭にくっ付いて切る赤い球を潰して、ピャーという音を鳴らした。

 ディーノはその様子を見て大喜びし、手を叩いてピエロが見せるコミカルな表情に笑い転げ、奇妙な動きを真似する。



「サ~カスは見るだけじゃないよッ!! 最高にクールでサイケデリックなミュージックッ」



 ピエロはこの世界の人間では知る人間がいない『ミ〇キーマウスマーチ』を口笛で奏で、ディーノはそのキャッチーな曲調に体を揺らしてリズムに乗る。



「そしてカラフルなキャンディ~、山盛りポップコーン、熱々ウインナー、サクサクで幾らでも食べられるポテトチップス、口の中でドロリと溶ける大粒なキャラメルも有るぞ~!!」



 ピエロは懐の中から幾つかのキャンディーとキャラメルを取り出して握らせる。

 ディーノは寂しい思いをしない様に大量のお菓子を与えられていて、棚や冷蔵庫一杯に詰まっているにも関わらず、どのお菓子も見たことが無い『ファンシードロップ』と書かれたラベルに包まれていた。



「食べても?」



「勿論!」



 ディーノは行儀よく許可を取ってから大きな口でキャンディー二つとキャラメル一つを口の中に放り込んだ。

 どれも味は普通のキャンディーとキャラメルだが中心に何かのパウダーが入っていて、其れを飲み込んだ瞬間心を幸福感が埋め尽くした。

 そしてもっとキャンディーが欲しく成ってくる。



「ねえピエロさん!! お菓子もっと頂戴!! もっとッ、もっと一杯頂戴!!」



 ディーノは再びそのお菓子を食べたくて仕方なく成り、ピエロの右手を掴みブンブン振り回しながら強請った。



「オ~ケ~、ボーイ。少々お待ちを、、、おっと! 此れは困った事になったぞー、私が今持っているキャンディーは今ので最後だった様だ」



 ピエロはワザとらしく左右の内ポケットを確認し、その後古い喜劇映画のキャラクターの様に慌てる演技をしながら大げさにスーツ中のポケット全てを探って言った。

 しかしそんな臭すぎる演技にも関わらず、ディーノは本気でショックを受ける。



「そんな~ッ!! 何処かに一個くらいに無いの? 本当に全部のポケット探した??」



「ごめんなー、、、でも、サーカスに行けばこのキャンディーも一杯あるよ!! それこそ口に頬張り過ぎて口が開かなくなる位にイ~パイッ!!」



「本当!?」



 キャンディーが大量に食べられると分かってディーノは異常な興奮をみせる。

 ディーノはお菓子は大好きだが、良く躾けられているので他人にお菓子をくれるように強請るなどという下品な行動はしたことが無い。

 しかし今はキャンディーが手に入るのなら、他人から強奪しても構わない程の狂乱状態にあった。



「本当に本当、マジのマジ。楽しすぎてもうお家に帰りたいなんて思わなくなるよッ」



 此処で作り物である筈のピエロマスクの口端が醜く上に吊り上がる。

 陽気でポップで面白い顔をしていたピエロの顔は、気が付けば悪魔か何かが憑依しているかの様に邪悪な姿に変化してしまった。



 その顔をみてディーノはベッドの上で後退り、少しピエロから距離を置く。



「ん? どうしたのキャンディーが欲しいんだろ??」



 ピエロが顔を九十度曲げてディーノの顔を嘗め上げる様に見上げる。

 その質問は凄まじい力でディーノの胸中で渦巻いている欲望を刺激し、『キャンディーを舐めたい』という欲望が爆発する。



「う、うん! キャンディーが、、、キャンディーが欲しいよ!!」



 ディーノは何かは分からないが途轍もなく嫌な予感を感じ、心臓が凄まじい速度で脈打って『行ってはいけない!!』と泣き叫んだ。

 しかし体が言うことを聞かず、どんどん前のめりになっていく。



「素直で良いね。素直に自分の感情に任せていれば良い、じゃないとボスの場所までは辿り付けないよ。じゃ、行こうか」



 ピエロは異常に長い手をディーノの前に差し出す。

 腕は肘でまだ曲がっている状態で、その気に成ればディーノを無理矢理掴む事も可能な筈だがそれをしない。

 まるで自分から手を取らせたいかの様に、、、



「うッ、、、うん」



 ディーノの手は吸い寄せられる様にピエロの手に向かて伸び、そしてしっかりと握ってしまった。



 ピエロもしっかりと握り返してくる。

 その手は純白の手袋を付けているにも関わらず、まるで氷に覆われているのではと思ってしまう程冷たかった。

 そして手袋の薄い布越しに感じる手の感触は、獣の様にゴツゴツしていてゾッする。



「さあ王子様、僕チンと一緒に夢の国へ行こうッ」



 ピエロは何かが堪えきれずに零れた様に小さな笑いを語尾に含ませたが、理性と欲望の間で板挟みに成っているディーノがその事に気が付く事はない。

 スローモーションの様にゆっくりと、感情の衝突による異常反応で細かい震えを発しながらベッドから降りようとする。



(キャンディーが欲しい、キャラメルが欲しい、キャンディーが欲しい、だッ、キャラメルが欲しい、キャンディーが欲しい、キャラメルが欲しい、だめッ、キャンディーが欲しい、キャラメルが欲しい、だめだッ、キャンディーが欲しい、キャラメルが欲しい、キャンディーが欲しい、、キャラメルが欲しい、キャンディーが欲しい、キャラメルが欲しい、キャンディーが欲しい、キャラメルが欲しい、キャンディーが欲しいッ、、、、、、)



 ディーノは脳内をどんどん濁流の様に埋め尽くしていく欲望に必死に抵抗したが、体が動くのを止める事は出来ずベッドから足を出す。

 そして飛び降りてベッドから降りた。

 その瞬間、異常なほど冷えていた床の冷気が足に突き刺さる。



「ウッ、、、はぁッ、はあぁぁッ!! は、はぁ」



 突然不意の場所から襲い掛かった強烈な刺激にディーノのマヒしかけいた脳が覚醒し、理性が欲望から体の主導権を奪い返す。

 その一瞬だけ体が狂い息が詰まったが、その刺激によって脳内が完全に晴れる。



「ん? どうしたの?」



 ピエロがディーノの異変を感じ取り、引っ張るように前を向いてた顔が異常な速度で回転して顔を覗き込む。

 心なしか吊り上がっていたマスクの口端が若干下がっている様に感じた。



「いッ、行かないッ!! 行かないッ行かないよッ!! 僕は良いから、此処で寝てるからッ君一人で行ってきてよ!!」



 ディーノは先程まで親友の様に心を許している存在であったピエロが、急におどろおどろしい存在に見え始めた。

 言葉で表すことが不可能な、異様で異質な恐怖を感じたディーノは手を振り払ってベッドに戻ろうとする。

 しかし凄まじい握力で握り込まれ、ピエロの手を振り払う事ができない。



「行かない? どうして?」



 ピエロは落ち着いた小さな声で、しかし凄まじい怒気と殺意を込めた言葉を発する。

 背筋がゾクゾクして全身の筋肉が萎縮し力が入らなくなるが、其れでも此処で拒絶しなくてはならないと確信していたディーノは無理矢理口を動かす。



「パパと、約束してるんだ、、、一人で家の外に出ないってッ!! だから行かないッ僕はこの家から一歩も出ない!!」



 ディーノは小さな体に残っている全ての勇気を振り絞り、力強く顔を横に振った。

 しかし其れでもピエロは一度掴んだ右腕を放そうとはしない。



「パパとの約束ぅ? 其れはパパに怒られるのが怖いから従ってるのかい?」



「違うッ、パパとの約束は、、、僕が約束を守りたいから従ってるんだ!」



 ディーノは掴まれた腕を振りほどこうと振り回すが、ピエロは指が食い込む程の力を込めて握り込み皮膚の色が変色し始める。

 もうこの頃になるとキャンディーへの誘惑は消え、感情は恐怖に埋まっていた。

 ただひたすらに、ピエロマスクの下に顔を隠した感情の読めない理解不能な男の事が怖くて仕方が無かったのだ。



「パパとの約束を守りたい、、、じゃあ一緒に来れるよ。だって君のパパは今日この後すぐに殺されて、約束を守る相手はこの世界に存在しなくなるんだから」



 無限のピエロ、チャムラップはそう嬉しそうに言うと、再びニンマリと破顔して悪意に満ち溢れた表情を形作ったのだった。
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