キング・オブ・アウト ~半分が裏社会に呑み込まれた世界で法則の力『則』と法則のを超えた力『則獣』を駆使してマフィアの頂点を目指す!!

NEOki

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第29話 狂気からの誘い

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「ぱッ、パパが死ぬってどういう事? どうしてパパが殺されなくちゃ成らないの??」



 『君のパパは今日この後すぐに殺されて、、、』というピエロの話を聞いた瞬間、瞳の奥から涙が溢れ出てディーノの視界がぼやけ始める。

 ピエロが明日の天気でも語るような口調で、まるで確定した未来でも語る様な口調で父が死ぬと言った事が恐ろしかった。



「どうしてかって? 其れは吾輩も分からないけどぉ、多分嫌な奴だったから殺されるんじゃないかな? ほら、ルチアーノって響きが何か感じ悪そうじゃない??」



「違うッ!! パパは嫌な奴じゃない!! パパは皆が幸せになれるように毎日必死に働いるヒーローなんだ!! パパを殺そうとする奴らの方が嫌な奴だッ!!」



 ディーノはピエロの発言を全否定する。

 自分にあれだけ優しくしてくれて、約束を何時も守ってくれる父親が殺されて良い筈が無い。



「何言ってんだ? 良い奴でも悪い奴でも関係なく、生きている限りは分け隔てなく人間は死ぬんだよ。死ぬ瞬間はヒーローもヴィランも関係ない、死ねば皆肉でできた水袋に成るだけ。お前の父親も簡単に死ぬよ、何なら目の前で腹掻っ捌いて殺してやろうか?」



 突然ピエロの口調が変化して、今までの歌声では無く地響きの様に冷たく温もりを感じない声がディーノの鼓膜を揺らした。

 その瞬間途轍もない絶望感が襲ってきて、足に力が入らなくなって崩れ落ちる。



「パパは、、、死なない、、、死なないよね? パパ??」



「気に成る? 気に成るんなら一緒に身に行こ~!! 今日のサーカスの目玉はルチアーノの暗殺だからね。一緒にキャンディーでハイに成りながらボロ雑巾みたいに叩き潰されるルチアーノを見て、一緒に笑い転げようよ!! 後ろから刃物ぶす~ってされて地面に落ちてくるんだッ! 君も俺様と一緒に死体の頭を蹴り飛ばして、目玉が飛び出すのを見て笑い転げようよ。それとも四肢をもいでダルマ転がしでもする?」



 ピエロは再び歌うような口調に戻ってディーノの腕を引いた。

 しかし口調は戻ってももう自らの邪悪さを隠す気は無いのか、その言葉の何処を切り取っても悪意と醜さに溢れている。



「行かないッ! 行かなよ、絶対に行かない!! お前なんかと一緒に行くもんかッ! どうしてパパが死ぬなんて酷いウソを付くんだよ。嘘つきなんかと仲良くしない!!」



「嘘じゃないよ~、此れは確定した未来で絶対にルチアーノは死ぬんだ。でも今の君がその事を知ったら悲しくなるだろ? だから今の内にキャンディーで悲しいって感情を無くして、パパの死をサーカスに変えてあげようと思って」



 ピエロはまるで親切な事でもしているかの様にそう喋った。



「嘘だッ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だァー!!」



 ディーノはピエロの言葉が届かない様に自分の鼓膜を大声でシャットアウトし、投げ掛けられる全てを言葉を拒絶する。

 この様子ではピエロが何を言っても付いて来てくれそうにない。



「も~、我儘だな~。本当にめんどくさいガキ、ぶっ殺してやりたいけどそうも行かない。一度きりのお願いで仕事は絶対に熟さなきゃいけない、、、困ったな~、あぁ困ったな~」



 ピエロはミュージカルの様にアグレッシブな動きをしながら喋り続け、自らの苦悩を全身全霊で表している。

 だが、突然雷が落ちた様に動きが停止して固まる。

 そして嬉しそうに言葉を吐き出した。



「そうだ、両手両足を引き千切って無理矢理連れて行こう。そうだよ、そうだね、そうだ、、、何も五体満足で連れている必要はない。逆に両手両足が無い方がインパクトが有って良いかも。思考の逆転だ、、、コペルニクス的ぃ~回転ッ!!」



 ピエロが突如ディーノを掴んでいた手を放し、目にも止まらぬ速さでディーノを突き飛ばしてベッドの上に戻す。

 そして左腕で心臓の真上から途轍もない力で押さえつけ、見動きを取れなくする。



「かはァ、、、ッ!! はあ、はあ、あぁぁぁ」



 心臓を圧迫されて上手く息が出来なくなったディーノの口から、悲鳴に成りそこなった空気の漏れる音がする。

 必死に心臓を押しつぶしている左腕を払いのけようと藻掻くが、ビクともしない。



「オペを開始する。右手右足左手左足の全摘出手術、、、非常に難度の高い戦いに成るだろう。でも、私失敗しないので」



 そう言うとピエロがくっ付けながらピンと立てた人差し指と中指の先から光が出て、その光が刃の形を作り出す。

 その刃をベッドに近づけると、くっ付けた場所が一瞬で発火した。



「うんうん、火加減はバッチリ!! あ、お客さん。右手と左手のどちらから行かれますか?」



「・・・いやッ、、、、だ。たす、け、、、」



「はあ~、右足ですか。お客さん通ですね~ぇ!! ではご注文通り、左足から切断させて頂きますね~」



 ピエロはディーノの言葉を一切聞くつもりは無い様で、会話に成っていない妄言を吐き散らし続ける。

 そして右手を軽く振ると、火力が一段上がって熱の刃が一段巨大化した。



「うあぁぁぁあぁあぁぁ」



 刃が照らし出したピエロの悪魔としか形容のしようが無い表情と、此れから正に自分の左足を切断しようとしているという現実にディーノは絶叫する。

 しかし、どれだけ渾身の力で藻掻ことも心臓の上から長付けているピエロの左腕から逃れる事は出来ない。

 今まで流したことが一度も無い、濁流の様な涙が顔を覆っていく。



「はい、じゃあチクッとしますよ~」



 ピエロはゆっくりと光の刃を近づけ、まだ触れていないにも関わらず漏れ出た熱だけで太股の皮が焼けて激痛が走る。

 ディーノは凄まじい痛みと恐怖で白目を剥きながら藻掻くが、其れでも押さえつけてくるピエロの左腕はびくともしない。



 結局全ての抵抗が無駄に終わり光の刃が皮膚に触れようとした瞬間、目にも止まらぬ速さで入口の扉が開いて人影が現われる。

 そしてその人影が右手を振った瞬間ピエロの動きがピタリと停止し、光の刃が消えた。



「ブルータス、、、お前もかッ」



 ピエロが楽しそうにそう呟いてから一秒後、上半身が斜めにスライドして地面に落ちる。

 残った下半身からは夥しい量の血液が噴出して部屋中に撒き散らし、飛び散った血液が放心状態でピエロの胴体を眺めるディーノを真っ赤に染めた。



「うッ、、、うわああああああああッ!!」



 生れて始めて見た人間が死ぬ瞬間、しかも余りに刺激が強すぎるピエロの死に様を目に焼き付けてしまったディーノの精神が崩壊する。



「あああッあああぁぁあああッあぁああああああッ」



 自分の両手両足が悪夢の様なピエロに切断されかけるという強烈な刺激と、そのピエロが突如上半身と下半身が切り離されて血を吹き出しながら死ぬという強烈な刺激がディーノの脳内で衝突する。

 情緒が崩れ去り、悪夢の様な光景が瞼の裏で何度もリピート再生されて絶叫が止まらない。



 自らの絶叫によって聴覚が埋め尽くされたディーノの耳に、ピシャピシャと何か液体の上をこちらに近づいて来ている足音が入り込んできた。

 そして涙で潰された視界に黒くて大きな影が映り、その大きな腕で抱き上げられる。



「よかった、、、ディーノッ無事だったか」



 その声は父親の物で、抱きかかえられ感じた温もりによって心が戻ってくる。

 涙の量も減って未だぼやけてはいたが何とか視覚が復活し、目の前に今まで見たことが無い表情の父が見えた。



「良かった、、、パパッ生きてた」



「ああ、パパは大丈夫だ。パパがお前を絶対に守ってやるからな」



 ディーノはようやく恐怖から解放され、安心感を得ようと力の限り父親の首に抱き着く。

 ルチアーノは小さな体で縋り付いてくる息子を抱きしめ返し、優しく背中を撫でて落ち着かせよとする。



 二人が静かに抱き合っていると、新たな声が飛び込んできた。



「ディーノ! ボス!! 良かった、、、無事だったか」



 その声の主はトムハットだった。

 恐らく全速力で屋敷内を走って駆け付けたようで、息が上がって顔色が真っ青に成っている。



「あ、トムハット!! 良かった、トムハットも無事だったんだねッ!!」



 二人目の見慣れた顔を確認してディーノの心も大分余裕を取り戻す。

 ディーノは固まった様に抱きついていた右手を放し、トムハットの方向に向けて右手を伸ばした。



「ええ私は何とも無かったが、異変と不気味な笑い声で目を覚まし慌てて飛んできたんだ。本当に、無事で良かった」



 トムハットはヨロヨロと駆け寄って、ディーノの小さくて冷たい右手を握る。

 二人が心から嬉しそうに泣き笑いを浮かべた時、ルシアーノはトムハットに深刻そうな口調で話しかけた。



「トムハット、日中に話したお前の覚悟は本物か?」



 トムハットの姿を認めたルチアーノは、ディーノを地面に降ろして今まで一度も脱いでいる所を見たことが無い虎柄のパーカーをディーノに羽織らせる

 そして真剣な眼差しで言った。



「日中の覚悟とは、、、まさかッ」



 その言葉の意味を理解したトムハットが声を詰まらせる。



「ああ、最悪の事態の一つ目が十中八九起きた。ビッグネームが最低でも3人は侵入しているッ」



「そんな馬鹿な!? だって、、、有り得ないじゃないですか!!」



 ルチアーノは苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべ、トムハットは驚愕の感情で顔面を埋め、ディーノは何の話をしているのか分からずキョロキョロ二人の顔を交互に見ている。

 トムハットは驚愕で思考停止した様だが、ルチアーノは事態を飲み込んで質問を重ねる。



「起きたものは仕方ない、、、それ相応の報いを受けて貰うだけだ。其れよりお前の答えをもう一度聞かせてくれ、トムハット!!」



 ルチアーノは今回の一件で完全にキレている様だった。

 世界で一番大切な存在、ディーノという弱点でもあり龍の逆鱗でもある存在に触れられた事で腹の底に長く封印していた怪物が目を覚ましたのである。



 であればトムハットの役割はただ一つ、ボスの足を引っ張らないようにファミリーの至宝を守り抜く事のみ。



「任せてくださいッ!! 貴方には悪いですが、この子を思う気持ちだけなら実の親であるアンタよりも強いと自負していますよッ」



 トムハットの強い言葉にルチアーノは満足そうに笑う。

 そしてディーノを地面に降ろし、壁の中に嵌め込まれているクローゼットを開けて奥の板を蹴り付けると穴が空いて真っ暗な空間が現われた。



「此れはもしもの時の為に作って置いた、俺と一部の幹部しか知らない外に繋がる抜け穴だ。お前にはディーノを連れて此処から安全な場所に逃げて貰いたい」



「ボスは、、、どうなさるんですかッ?」



 ルチアーノの言葉から彼自身はこの抜け穴を通って逃げるつもりは無いという事に気が付き、何故逃げないのかを訪ねる。

 どれだけの襲撃者が攻め込んで来ているか分からない、此処は一端安全な場所まで逃げて体勢を立て直す事が先決の筈だ。



 しかしルチアーノはゆっくり首を振る。



「俺は一緒に逃げられない、生憎今回此処に攻め込んで来ている連中は普通の人間じゃないんだ。俺は気配を消す事が出来てもお前達を連れて逃げる事は不可能、、、だから俺が此処で注意を引いて、お前達への攻撃を妨害する必要がある」



「つまり、一人で戦うつもりですか?! ビッグネームが複数人潜んでいるというのに危険過ぎるッ!!」



 ルチアーノが言う無謀にも程が有る作戦にトムハットは全力で反対する。

 ビッグネームとは一人で一軍に相当する実力を持った、裏社会に置ける神にも等しい存在である。

 それを幾らルチアーノと言えども単身で複数人を迎え撃つなど正気の沙汰とは思えない。



「嘗めるなよ」



 ルチアーノがそう言った瞬間全身が重くなり、膝が震えて立つ事すらままならなく成る。

 世界最強の威風、それもトムハットが初めて出会った全盛期の威風を遙かに凌駕して洗練された殺意の波動が伝わって来きたのだ。



「俺はずっと気に食わなかった、、、俺が人間に毛が生えた程度の連中と同格と見なされ、同じビッグネームとしてパッケージングされている事に。良い機会だ、全世界に証明してやるよッ何人偽物の王者を集めた所で本物には敵わないって事をな!!」



 ルチアーノがそう叫ぶと、室内にも関われず凄まじい暴風が吹いてトムハットとディーノはクローゼットの中に投げ込まれる。

 そしてそして一瞬ルチアーノが悲しそうな表情に戻り、口を動かした。



「お前達は真っ直ぐ表社会を目指して逃げろ、予定通りライオネルにディーノを匿って貰うんだ。そして、、、何が有ってもレヴィアスファミリーの人間は信じるな」



 その言葉が二人に届くと同時に、風が再び吹いてクローゼットの戸が勢いよく閉まり二度と外からは開かなくなる仕掛けが作動する。



 こうしてディーノの人生最初の地獄がスタートした。

 父の愛によって抑えられていた運命の歯車がゆっくりと回転を始め、世界を巻き込んだ混乱の時代が幕を開ける。
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