キング・オブ・アウト ~半分が裏社会に呑み込まれた世界で法則の力『則』と法則のを超えた力『則獣』を駆使してマフィアの頂点を目指す!!

NEOki

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第112話 強さの悦楽

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 ゴンザレスは初めて見る穏やかな白色に満たされた空間で目を覚ました。

 天井が見える事からどうやら仰向けになって寝ている様だが、背中から伝わって来る柔らかで極楽心地の感触に自分は天国へ来たのだと悟る。

 其れほど初めて感じるベッドの感触は気持ちが良かったのだ。



「ああ、起きたのか」



 あの世とは一体どのような場所なのだろうと気に成りキョロキョロしていると、ゴンザレスの耳に扉が開く音と誰かの声が聞こえる。

 そして反射的に音のした方へ目線を向けると、其処には自分をあの世に送った張本人であるアンベルトが立っていた。



「うッ、うわああッ!?」



 自分を殺した相手との再会にゴンザレスはパニックになり、身体を強張らせて拳を握った。

 彼の中では今自分は死んでいて此処は天国であるという認識だったのだが、其れだとアンベルトがここに居るのはおかしいので頭がパニックに落ち居たのだ。

 顔は混乱で埋まり、身体は小さくぷるぷると震える。



 一方のアンベルトは非常に落ち着いており、巨大な身体をまるでボールの様に丸めたゴンザレスを見て少し困った顔をする。



「落ち着け、取って食いやしないし害意もない」



「こ、ここッ此処は?」



 ゴンザレスは震えている上に恐ろしく小さな聞き取りづらい声で言った。

 しかしアンベルトはそれでもしっかりと言っている事を理解し、彼が現在置かれている状況を非常に掻い摘まんで説明する。



「此処は俺達レヴィアスファミリーが利用している病棟だ。俺が瓦礫の下に沈んだお前を引っ張り出し、治療してやったんだよ」



 アンベルトが穏やかな口調でそう言うと目の前の大男はキョトンとした顔をした。

 其れから慌てて自分の身体を確認してみると確かに瓦礫の槍に押し潰されたにも関わらず、彼の身体は擦り傷や痣すら無い綺麗な状態になっていた。

 どうやら本当に目の前の男は治療を施してくれて、此処は病院である様だ。



 しかし彼はその上で理解出来なかったのだ、自分を殺そうとした相手を生かしただけでなく治療まで施したその考えが。



「なんで……ダメだろ? ちゃんとトドメを刺さないとッ、後で復讐されるかも知れない」



 コレはゴンザレスの心からの質問であった。

 その質問にアンベルトは少し驚いた様な表情を見せ、それから数秒の沈黙を挟んだ後に落ち着いた語りかける様な口調で声を発する。



「何故お前を殺さなかったか……その理由を今此処で俺が言っても多分理解できないだろうけど一言で言うなら、お前が強いからだッ」



 事前に断られていた事だが、やはりゴンザレスには理解できなかった。

 何故強いと生かされるのか、強ければ強いほど復讐に来たとき面倒な筈なのに何故遺恨を除かない

のか。

 答えを貰えれば減ると思っていた脳内の?が逆に増殖してしまった。



(若しかすると僕が馬鹿だから理解できないのかも知れない……どうせ理解できないのに無理矢理考えても時間の無駄だよな……)



 ゴンザレスが理解出来ない自分にナーバスに成っていると、アンベルトがその内面を察したのか新たな言葉で補強してくれた。



「お前、俺と戦った時楽しかっただろ?」



「えッ、戦って楽しかったか? そ、其れは……」



 その質問を受け、ゴンザレスは初めて死の気配を感じた強敵との戦いを思い出す。

 僅かでも集中が途切れれば一瞬で命を失いかねないヒリついた空気、敗北の恐怖と勝利の確信を交互に繰り返す特殊な心の揺らぎ、幾重にも張り巡らされた困難を突破して叩き付けた拳から伝わる痺れる様な衝撃。

 思い出しただけで両手に力が籠もり、熱くなる。



 あの瞬間、今まで味気ない作業でしか無かった戦いが確かに楽しかったのだ。

 今までの自分が勝利する未来が確定している戦いでは無く、一秒先でさえ予想出来ない自分が挑戦者となる空間が気持ちよかった。

 どうやら自分は、強い人間との戦いが好きなようだ。



「うん、楽しかった。今までの人生で一番本気で笑えた気がする」



 ゴンザレスはつい先程までプルプルと震えていたにも関わらず薄笑いを浮かべ、そして熱の籠もった瞳で自分の右手を眺めた。

 そしてアンベルトは熱の戻ったその様子を見て嬉しそうに口を開く。



「そうだろ、お前は俺と同類だからなッ戦い以上に楽しい事何て考えられない筈だ。そしてもしも、此れから一生昨日の様な戦いに身を置けるとしたらどうだ?」



「どうって、何が?」



「何がって……分かりやすく言うと、お前さえ良いなら俺が一生強敵と戦い続けられる環境を作ってやるって言ってるんだよ」



 その言葉を受けて漸くアンベルトから提示されている話の内容を理解したゴンザレスは一瞬で表情を明るくする。

 やっと楽しいと思える事を見つけた彼の脳内はもうその『楽しい事』で一杯だった。

 一方でアンベルトが提示してくれたのはその『楽しい事』に人生の全てを捧げる事ができる、正に夢のような条件。

 当然拒む訳がなく、先程まで怯えていた姿が嘘の様に前のめりで飛び付いた。



「何をすれば良いッ??」



「はぁ?」



 予想外の返答を受けてアンベルトの口から気の抜ける声が零れた。



「だからッ何をすればその環境に僕を連れて行ってくれる? 何でもするから僕を其処へ連れて行ってくれよ! やっと退屈がひっくり返る気配がしたんだ、前の生活には戻りたくないッ!! なあッ頼むよ!!!!」



 ゴンザレスはベッドの上で小さく圧縮されていた両手両足を解き放ち、身体を乗り出してアンベルトに掴み掛る。

 その余りの必死さはアンベルトが気後れして後退る程であった。

 アンベルトからしてみれば唯単に優秀そうな人材を発見したのでスカウトしただけだったが、ゴンザレスからしてみれば無限に続く詰まらない毎日から抜け出せる千載一遇のチャンスである。

 自分の人生が掛っているような物だ、何をしてでも連れ出して貰いたい。



「ま、待てよ落ち着け。俺はお前に何か特別なことを望んでいる訳じゃない、ただ一つだけ確認させてくれ」



「何?」



「お前はッ、お前はその……一生強敵と戦い続けられる環境に行きたいんだな?」



「うん!」



 アンベルトから投げかけられた質問にゴンザレスはノータイムで頷く。

 その反応を見たアンベルトは嬉しそうに笑いながら頷き、其れから右手を伸ばしてきた。



「OK、交渉成立だ。俺は戦場で戦ってくれる強い兵士が欲しかった、お前は全力で力をぶつけられる強敵が欲しかった、まさにWin-Winだ」



「つまりどういう事?」



 ゴンザレスはアンベルトが何を言いたいのか分からなかったが、取り敢えず握手をする。



「これからお前には俺の指示に従って幾度もの戦争を経験してもらう。安心しろ、本当の戦場には俺程度の実力を持った人間は山の様にいる。毎日血湧き肉踊る戦いの連続だ、退屈のたの字も聞こえない日々が待っているぞ」



「本当!? 直ぐ行く!! 僕ッ直ぐその戦場に行く!!」



 ゴンザレスは昨日の戦いに魅了されていた。

 今まで自分が何故生きているのか分からず、何の罪悪感も感じずに人間を殺せる自分が何者なのかも分からなかった。

 しかし昨日瓦礫の槍に押し潰される寸前、強い命の輝きを感じたのだ。

 漸く自分が何の為に生きているのか理解した。

 其れは意味も無く月日を重ねる為でも、訳の分からない他人へ金を貢ぐ為でも無い。

 死と生の狭間で命を最大限輝かせる為に自らのすべて使い切ろうと決めたのである。



 一方のアンベルトは長引くグレイズファミリーとの戦争を受け、少しでも多くの実力者を集めて力を蓄えようとしていた。

 そしてゴンザレスという金の卵を発見したのだ、其れが仲間になるのなら万々歳である。

 加えて私情を漏らすとするならば、同じ最高幹部であるオーウェンとディオンが独自の派閥を作り始め、慌てて自分の戦力が欲しくなったのだ。

 この大男であれば実力も見栄えも充分だろう。

 二人の驚く顔が目に浮かび、アンベルトは軽い笑みを浮かべた。



 こうして二つの思惑は重なり、力強く手は握られた。

 交渉成立である。



「よし、じゃあもう歩けるか?」



「うん、歩けると思う」



 アンベルトの質問にゴンザレスは直ぐ頷き、ベッドから飛び降りて二本足で立って見せた。



「そうか、ならもう療養は充分そうだな。じゃあ移動するぞ、一端レヴィアスファミリーの本部へ向かうッ」



「え? 強い奴がいる戦場に連れて行ってくれるんじゃないの??」



「色々とあるんだよ。先ずは本部に行って自慢をッ……じゃない、ファミリーの仲間として登録しなきゃ成らない事が幾つかあるんだ」



 そう言いながらアンベルトは部屋から出て行く。

 そしてゴンザレスは何の事だか全く分からなかったが、取り敢えず彼の背中を追って室外に出て行った。



 ゴンザレスは正直言って一刻も早く戦場へ行って強い人間と戦いたいのだが、待てを喰らってしまい釈然としない表情だ。



「安心しろ、一日で全ての登録は終わる。明後日からは逃げたくても逃げられない戦闘三昧の毎日が待っているから覚悟しておけよ」



「そっか~、楽しみだなー!!」



 ゴンザレスは心底嬉しそうに言う。

 こうしてゴンザレスはレヴィアスファミリーに入り、アンベルトの部下として幾度も死線を乗り越えていく事と成ったのだった。
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