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第113話 一端終わり
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「はい、今日はここまでで終わりッ」
そう言ってゴンザレスは彼の思い出話を中断させた。
此処から話が面白い方向へ進んでいきそうであったのに肩透かしを食らったディーノは少し驚いた表情を見せる。
気が付けば彼はゴンザレスの思い出話にのめり込んでいたのだ。
話を中断される事がこれ程の口惜しく感じるとは、話し始めた頃には全く予想していなかった。
「えッ!? 此処で終わり? 何でこんな中途半端な場所で、まだ話の半分近くが残ってるだろ??」
「残ってるけどまた今度。外を見てみな」
「外?」
ゴンザレスが言葉と共に指差した窓の方へ目線を向けると、其処に映っていたのは黒々とした赤色に包まれた街の姿。
本当に夜が訪れる目前、日が沈む前最後の夕焼けであった。
ゴンザレスがこの部屋にやって来たのはまだ昼過ぎだったにも関わらず、気が付けば相当な時間が流れてしまった様である。
そしてその時間の流れを感じさせない程彼の話は濃密であった。
「いつの間にこんな時間が……全く気付かなかったぞッ」
「ハハッ、其処まで僕の人生に興味を持ってくれて嬉しいよ。でもディーノは一応病人なんだから、しっかり休んで身体を癒やさないとダメだよ?」
「癒やすって、もう一日ベッドの上で横になってるだけでおかしく成りそうなんだけどッ」
ディーノはベッドの上で不満を表す様に藻掻いた。
しかしその激しい動きは今の彼の身体にはまだ早すぎた様で、凄まじい吐き気と目眩が襲ってきて慌ててバケツにゲロを吐く。
心は充分に回復したが、身体の機能はまだ不調が続いているようだ。
「仕方ないさ。則で具体的な傷は治せるけど、一度停止した機能を復元するには君の身体自体に頑張って貰うしか無いからね。2,3日もすれば腕立てくらいはできる様に成るんじゃない?」
「2,3日って、その間が暇すぎてメンタルが死ぬ……」
これから自分を待ち受けている恐らく数年にも感じるであろう2,3日の事を考えてディーノは青い顔になる。暇がこれ程恐ろしい物だとは思ってみなかった。
そんなディーノを見たゴンザレスは苦笑いをするが、突然何かを思い出した様に懐へ手を入れる。
そして数日前に彼を死の淵まで引き摺り込んだ物体を手渡した。
「此れは……蝋燭かッ!!」
ディーノは素晴らしい暇つぶしを発見して目を輝かせる。
「そう。此処へ来る前になにか暇つぶしになる様な物を探して、此れを見つけたんだ。この蝋燭に火を付けるだけなら激しい運動は必要無いだろ?」
「ああ、最高だよ! 此れで残り2,3日が数倍楽になったッ」
そう言ってディーノは蝋燭を受け取り、窓際に置いた。
其れから真っ直ぐ腕を蝋燭に向けて周囲の則と繋がり、発火するのに最低限のエネルギーを流し込んで火を灯し、即座に消した。
数日前の、本当の極限状態へ突入する前に比べて格段に上手くなっている。
どうやら瀕死の向こう側に到達して得た感覚は一時的な物ではなく、身体に刻まれた再現可能な機能として追加された様だ。
今なら一本の蝋燭で1万回着火は余裕だろう。
「凄いな……本当に見違える程コントロールが上手くなってる。最初修行の内容を聞いた時にはキツ過ぎて止めようかと思ったけど、本当に信じられない位に強く成ってるよ」
「あぁ、俺も自分で自分に驚いてる。まあでも、一回死んでまで手に入れた力なんだから費用対効果はトントンかも知れないけど……其れでも凄いッ」
ディーノはそう言いながら自分の右手に視線を落とす。
今回が今までの修行の中で最もヤバかった修行であった事は間違いないが、そのキツさに見合って余りある程大きな変化が身体に現われている。
その気に成れば人間を一瞬で火だるまに変えられるだけの力を感じるのだ。
この力を全力で振りかざしたら如何成るのか、今すぐにでもその力を解放して暴れ回りたいという欲求に包まれる。
(一回だけ窓の外を意味もなく爆破してみるか? 怒られても良いから一回だけ……)
「あ、そうだ。アンベルトさんから伝言を頼まれてるんだった!!」
新しく手に入れた玩具を使ってみたいという衝動に襲われ、危険な行動に走ろうとしたディーノの思考をゴンザレスの声が遮った。
アンベルトからの伝言、嫌な予感がする。
あの男が関わって起きる出来事は毎回ディーノに大きな進歩をもたらすが、その分毎回酷い目に遭わされている。
それ故名前が出ただけで若干身構えてしまうのだ。
「『一週間何も問題を起こさず、部屋から抜け出さずに過ごせたのなら最強の武器を与えてやろう』だってさ」
「さッ……最強の、武器??」
想像もしていなかった伝言の内容にディーノは思わずオウム返しをしてしまった。
最強の武器、非常に心躍るワードだ。
アンベルトは好き好んで冗談を言うタイプではないし、わざわざゴンザレスに言伝まで頼んでそんな下らない事をする事とは思えない。
だとすれば一週間耐え抜けば本当にその、『最強の武器』とやらをくれるのだろうか??
しかしあの男は正真正銘の性悪オヤジである。
ディーノを一週間ベッドに貼り付ける為であれば、平然と嘘をつきそうな気もする……
(『最強の武器とは、この一週間を耐え凌いだその屈強な心だッ!!』とか言われる可能性も無くはない……信じて良いのか??)
ディーノは結局結論を出せなかったが、もしも本当だった場合の事を考えて一週間ベッドの上で静かにしている事にした。
其れほど最強の武器という響きは魅力的であったのだ。
逆にもしも『最強の武器』が存在しなかったら正気を失うだろう、そして『最強の武器』が下らない物でも暴れ回るだろう。
「分かった、ちゃんと一週間此処でジッとしている。アンベルトに『最強の武器』が下らない物だったら殺すって伝えてくれ」
「了解、しっかりと伝えておくよ。それじゃあ僕はこの辺で失礼するね」
そう言って椅子に反対向きに座り、背もたれに顎を乗せていたゴンザレスが立ち上がった。
考えてみれば余りにも長い時間ゴンザレスを此処に縛り付けてしまった、自分の為に彼の時間を浪費してしまって申し分け無い。
「ああ、ありがとうなゴンザレス。お前のお陰でかなり時間が潰せたよ、今度何かでお礼するからな!」
「本当? なら楽しみにしておくよ、またね~」
その言葉を最後に、ゴンザレスは手を振りながら部屋の外に出て行った。
そして再び一人きりになった部屋でディーノは若干の寂しさを感じ、其れを誤魔化す為にゴンザレスが置いていってくれた蝋燭に向かい合う。
「灯れッ」
蝋燭の先端に熱が集まって発火し、そして即座に消えた。
この修行法を教えられた時はヘンテコな修行法だと思ったが、今となって再び向き合えば随分良くできた修行法だと関心する。
一本の蝋燭で何回火を灯せたのかが具体的な数字で表れ、自分がどれだけ成長しているのか、それとも停滞しているのかが一目で分かるのだ。
加えて何処でも蝋燭一本で出来るため、利便性でもコスト面でも優秀である。
則のコントロールを鍛える上でこれ以上の修行法は無いだろう。
(もっと感情の純度を上げて、雑念を全て排除して、自分の全てを蝋燭の先端に向けるんだッ)
ディーノは有り余る体力を全て集中力の燃料に変え、呼吸さえ忘れる程の集中で蝋燭に火を灯し続ける。
そして一本の蝋燭で4万回火を灯したという新記録を樹立し、漸く疲労を感じたディーノは眠りに付いたのだった。
そう言ってゴンザレスは彼の思い出話を中断させた。
此処から話が面白い方向へ進んでいきそうであったのに肩透かしを食らったディーノは少し驚いた表情を見せる。
気が付けば彼はゴンザレスの思い出話にのめり込んでいたのだ。
話を中断される事がこれ程の口惜しく感じるとは、話し始めた頃には全く予想していなかった。
「えッ!? 此処で終わり? 何でこんな中途半端な場所で、まだ話の半分近くが残ってるだろ??」
「残ってるけどまた今度。外を見てみな」
「外?」
ゴンザレスが言葉と共に指差した窓の方へ目線を向けると、其処に映っていたのは黒々とした赤色に包まれた街の姿。
本当に夜が訪れる目前、日が沈む前最後の夕焼けであった。
ゴンザレスがこの部屋にやって来たのはまだ昼過ぎだったにも関わらず、気が付けば相当な時間が流れてしまった様である。
そしてその時間の流れを感じさせない程彼の話は濃密であった。
「いつの間にこんな時間が……全く気付かなかったぞッ」
「ハハッ、其処まで僕の人生に興味を持ってくれて嬉しいよ。でもディーノは一応病人なんだから、しっかり休んで身体を癒やさないとダメだよ?」
「癒やすって、もう一日ベッドの上で横になってるだけでおかしく成りそうなんだけどッ」
ディーノはベッドの上で不満を表す様に藻掻いた。
しかしその激しい動きは今の彼の身体にはまだ早すぎた様で、凄まじい吐き気と目眩が襲ってきて慌ててバケツにゲロを吐く。
心は充分に回復したが、身体の機能はまだ不調が続いているようだ。
「仕方ないさ。則で具体的な傷は治せるけど、一度停止した機能を復元するには君の身体自体に頑張って貰うしか無いからね。2,3日もすれば腕立てくらいはできる様に成るんじゃない?」
「2,3日って、その間が暇すぎてメンタルが死ぬ……」
これから自分を待ち受けている恐らく数年にも感じるであろう2,3日の事を考えてディーノは青い顔になる。暇がこれ程恐ろしい物だとは思ってみなかった。
そんなディーノを見たゴンザレスは苦笑いをするが、突然何かを思い出した様に懐へ手を入れる。
そして数日前に彼を死の淵まで引き摺り込んだ物体を手渡した。
「此れは……蝋燭かッ!!」
ディーノは素晴らしい暇つぶしを発見して目を輝かせる。
「そう。此処へ来る前になにか暇つぶしになる様な物を探して、此れを見つけたんだ。この蝋燭に火を付けるだけなら激しい運動は必要無いだろ?」
「ああ、最高だよ! 此れで残り2,3日が数倍楽になったッ」
そう言ってディーノは蝋燭を受け取り、窓際に置いた。
其れから真っ直ぐ腕を蝋燭に向けて周囲の則と繋がり、発火するのに最低限のエネルギーを流し込んで火を灯し、即座に消した。
数日前の、本当の極限状態へ突入する前に比べて格段に上手くなっている。
どうやら瀕死の向こう側に到達して得た感覚は一時的な物ではなく、身体に刻まれた再現可能な機能として追加された様だ。
今なら一本の蝋燭で1万回着火は余裕だろう。
「凄いな……本当に見違える程コントロールが上手くなってる。最初修行の内容を聞いた時にはキツ過ぎて止めようかと思ったけど、本当に信じられない位に強く成ってるよ」
「あぁ、俺も自分で自分に驚いてる。まあでも、一回死んでまで手に入れた力なんだから費用対効果はトントンかも知れないけど……其れでも凄いッ」
ディーノはそう言いながら自分の右手に視線を落とす。
今回が今までの修行の中で最もヤバかった修行であった事は間違いないが、そのキツさに見合って余りある程大きな変化が身体に現われている。
その気に成れば人間を一瞬で火だるまに変えられるだけの力を感じるのだ。
この力を全力で振りかざしたら如何成るのか、今すぐにでもその力を解放して暴れ回りたいという欲求に包まれる。
(一回だけ窓の外を意味もなく爆破してみるか? 怒られても良いから一回だけ……)
「あ、そうだ。アンベルトさんから伝言を頼まれてるんだった!!」
新しく手に入れた玩具を使ってみたいという衝動に襲われ、危険な行動に走ろうとしたディーノの思考をゴンザレスの声が遮った。
アンベルトからの伝言、嫌な予感がする。
あの男が関わって起きる出来事は毎回ディーノに大きな進歩をもたらすが、その分毎回酷い目に遭わされている。
それ故名前が出ただけで若干身構えてしまうのだ。
「『一週間何も問題を起こさず、部屋から抜け出さずに過ごせたのなら最強の武器を与えてやろう』だってさ」
「さッ……最強の、武器??」
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最強の武器、非常に心躍るワードだ。
アンベルトは好き好んで冗談を言うタイプではないし、わざわざゴンザレスに言伝まで頼んでそんな下らない事をする事とは思えない。
だとすれば一週間耐え抜けば本当にその、『最強の武器』とやらをくれるのだろうか??
しかしあの男は正真正銘の性悪オヤジである。
ディーノを一週間ベッドに貼り付ける為であれば、平然と嘘をつきそうな気もする……
(『最強の武器とは、この一週間を耐え凌いだその屈強な心だッ!!』とか言われる可能性も無くはない……信じて良いのか??)
ディーノは結局結論を出せなかったが、もしも本当だった場合の事を考えて一週間ベッドの上で静かにしている事にした。
其れほど最強の武器という響きは魅力的であったのだ。
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「ああ、ありがとうなゴンザレス。お前のお陰でかなり時間が潰せたよ、今度何かでお礼するからな!」
「本当? なら楽しみにしておくよ、またね~」
その言葉を最後に、ゴンザレスは手を振りながら部屋の外に出て行った。
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蝋燭の先端に熱が集まって発火し、そして即座に消えた。
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一本の蝋燭で何回火を灯せたのかが具体的な数字で表れ、自分がどれだけ成長しているのか、それとも停滞しているのかが一目で分かるのだ。
加えて何処でも蝋燭一本で出来るため、利便性でもコスト面でも優秀である。
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ディーノは有り余る体力を全て集中力の燃料に変え、呼吸さえ忘れる程の集中で蝋燭に火を灯し続ける。
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