キング・オブ・アウト ~半分が裏社会に呑み込まれた世界で法則の力『則』と法則のを超えた力『則獣』を駆使してマフィアの頂点を目指す!!

NEOki

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第111話 瓦礫の大槍

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(馬鹿みたいな耐久力だ……コレで殺せないとなると逆に何で死ぬんだよッ)



 瓦礫の中から這い出した擦り傷程度の怪我しかしていないゴンザレスを見て、アンベルトは無理に苦笑いを作る。

 もう此処まで来れば目の前の男が自分よりも防御力で優れていると認めざる終えない。

 流石の彼であっても建物の崩壊に巻き込まれて下敷きになれば確実に骨折クラスの怪我を負う、アノ程度の擦り傷で終わるはずが無いのだ。

 しかし目の前の男は元気そうにピンピンしている、身体が鋼鉄ででも出来ているのだろうか?



「……グガアアアアアアアアッ!!」



 幽鬼の様にヨロヨロと瓦礫の山から這い出し、火が消えた様に成っていたゴンザレスが突如吠えして身体に爆発しそうな程のエネルギーが戻る。

 そして今回も変わらず最短距離を全力で駆け抜け、拳を叩き込み敵を粉砕する事だけを目的として迫ってきた。

 何も変わらない、しかしこれ程純粋にパワーを押しつけられれば逆に対処が難しい。



「プレディオーネ、奴を止めろッ」



 アンベルトがそう命令するとプレディオーネは迷わず前に出て、砲弾の様に突進してくる大男と自らの主人の間に立ち塞がる。

 そしてゴンザレスは目の前に出現した障害を排除する為に拳を振り下ろした。

 しかし圧倒的な防御力を誇る則獣プレディオーネを打ち砕くには能わず、ガギンッという高い音を発して拳の方が弾かれてしまった。

 その隙を的確に突いたプレディオーネは即座に返しの拳をゴンアレスの顔面に撃ち放つ。



「デュフッ……」



 だが此方も決定打が無いのは同じ事。

 プレディオーネも一撃で頭蓋骨を陥没させられるだけの怪力を持つ則獣だが基本的に防御特化で、ゴンザレスの固い防御を突き破るにはパワー不足であった。

 上半身を軽く反らせた程度で、とてもダメージを与えられたとは思えない。



 当然その攻撃を受けてゴンザレスが攻撃を中断する事はなく、再び腕を振り上げて目前の則獣をスクラップに変えるため絶大な質量を誇るパンチを放った。

 しかし今回もプレディオーネが纏う純白の鎧に阻まれ、甲高い音が響いただけでダメージとは成らない。互いに防御力に対して攻撃力が足りていないのだ。

 其れから同じ様にプレディオーネが反撃を放ちゴンザレスが僅かに身体を反らすというリプレイの様な光景が流れた。



 そしてその後の戦いはプレディオーネの若干有利で数分間続いたが、突然何の前触れもなく変化が訪れる。

 今まで全ての攻撃を弾き返してきた筈のプレディオーネの鎧に巨大なヒビが入り、破片を撒き散らしながら吹飛ばされた。

 ゴンザレスの破壊力が金剛不壊かと思われたプレディオーネの防御を突き破ったのである。



「フウッ……フウッ……フウゥーッ」



 ゴンザレスは地面に転がり表情の無い顔で見上げるプレディオーネ目掛けて拳を振り上げ、立ち上がる仕草を見せたその拳を撃ち放ち地面に叩き戻す。

 其処からはもう一方的な展開となり、横たわる白銀の鎧の上に馬乗りになって先程の一撃でひび割れた頭部目掛け拳を何度も叩き付けた。

 一発命中する毎にひび割れは巨大化し、キラキラと破片を撒き散らしながら十数度地面が震える様な衝撃と激突音が発生する。

 その結果1分の間にプレディオーネは見るも無残な姿と成り、跡形も無く消滅したのだった。



(時間に比例してパワーが増している……一体何が起きているんだ?)



 アンベルトは少し離れた所で自らの則獣が一方的に破壊される光景を見て、目の前で無我夢中に拳を叩き込んでいるゴンザレスという男の底知れ無さに改めて恐怖を覚える。

 序盤はアンベルトの動きすら目で追えず、プレディオーネに傷すら付けることが出来なかった。

 しかし今ではスピード・パワー・ディフェンスの全てでアンベルトを凌駕していた。

 こんな短時間で長年積み重ねてきた経験や努力の差を埋められては、何処か馬鹿にされている様にも感じてしまう。

 常識外れで有り得ない成長スピードだ。



 そんな事をアンベルトが考えていると、全く破壊衝動が収まらないといった様子でゴンザレスが顔を彼の方に向けた。

 向けられた顔は破壊の愉悦に歪んだ、見ただけで卒倒しそうな程凶暴な笑顔である。

 そしてその顔がゆっくりと次のターゲットを自分に決定して近づいてくるのだ、並の人間であれば一目散に逃げ出していただろう。



 だが、アンベルトも意味無くプレディオーネをボコボコにさせていた訳では無い。

 自らの則獣がその身を捧げて生み出した時間を利用し、アンベルトは彼が用いる事ができる最強の武器を生み出したのだった。



「空を見てみろ」



 余りに唐突にアンベルトが言った。

 本来敵の言葉など耳を貸す物ではないが、何故かゴンザレスは言われた指示に素直に従って首を上に向ける。



「今夜は雲一つ無く美しい星空のようだ。どうだ? 見えるか??」



 ゴンザレスが襲撃した時間は深夜であり、上空を見上げれば星が見えてもおかしくは無い。

 しかし空を見上げても夜空は覆われてしまっているのか、真っ黒で星どころか月すら見えない。

 言われた状況と現在自分の目に映っている状況が余りに違い、ゴンザレスは戸惑っているのか頭をポリポリと掻いた。



「おっと済まない、この状況ではまだ見えなかったな。浮かべていたのを忘れていたよ……」



 そう言うとアンベルトはまるで見えない何かを握り潰しているかの様に、空中で手を握り込んだ。

 すると空一面を覆っていた闇が中心の一点を目指して移動し、闇が消えた場所では深紺色の夜空と星月が現われた。

 そしてその星月から漏れた光が、つい先程まで空を覆っていた闇の正体を照らし出す。

 其れは宙に浮かぶ無数の瓦礫。其れが今はゴンザレスの頭上一直線に並び圧縮され、まるで空に振り上げられた一本の巨大な槍のように聳え立っているのだ。



「さっきは建物の崩壊に押し潰されても無傷だったよな? なら次はビル一つ分の瓦礫を一纏めに叩き付けたらどうなる、数千トンに押し潰されたら??」



 アンベルトは心底楽しそうに話し掛けたが、ゴンザレスは放心して空に浮かんだ無骨にも関わらず美しさを感じる瓦礫の槍を眺めた。

 其れがもうすぐ自分の上に降ってくる事に対して、彼は全く恐怖を感じていない様子である。



「コレを見ても恐怖は覚え無いか……凄まじい男だな。良いぞ、不死身の肉体を持つ男対超大質量の槍ッ! 正に矛盾、どちらが勝っても実に愉快だッ!!」



 そう叫ぶとアンベルトは空に掲げていた握り拳を勢いよく地面目掛けて振り下ろす。

 するとその動きを追随する様に天に浮かんだ瓦礫の槍が動き出し、アンベルト目掛けて真っ逆さまに落下を開始した。

 巨大過ぎてゆっくり感じるが、2,3秒で数十メートル落下しゴンザレスの目前に到達する。



「グゴオオオオオオオオオオッ!!」



 数千トンの槍が自分目掛けて落下しているにも関わらず、それでもゴンザレスは一切恐怖を感じている様子を見せず雄叫びを上げた。

 そして槍が手の届く距離に到達した瞬間、雄叫びを上げたまま凄まじい速度で拳を槍に叩き込み始める。そして瓦礫の塊を粉砕し始めたのだ。



(まさかッ! 全て拳で打ち砕くつもりか……ッ!?)



 ズガガガガガガガガガッというけたたましい衝突音を聞いて驚愕の表情になったのは、究極の攻撃を放ったアンベルトの方であった。

 まさか真正面から馬鹿正直に瓦礫の槍を打ち破ろうとする者が現われるとは、頭の片隅でさえ考えた事が無かったのである。



 ラッシュの最中、突如ゴンザレスの身体から赤血色のオーラが吹き出始める。

 その勢いは時間経過と共に増加。共鳴する様に拳を打ち込むスピードも加速し、アンベルトの目であっても数十本の腕が生えている様に見えた程だった。

 ラッシュが生み出す破壊のエネルギーは凄まじく、一瞬で10トン近くの瓦礫が粉砕されて周囲に飛び散っていく。ゴンザレスはその身一つで数千トンの槍と渡り合っているのだ。



 余りにも現実離れした光景に、現在圧倒的有利な立場にいるにも関わらずアンベルトは寒気を感じる。

 そして自らが生み出した最強の武器が打ち砕かれていく光景を呆然と眺めていた彼の目に、ゴンザレスの姿とダブる様に怪物の姿が見えた気がしたのだった。



(だが、その成長速度では間に合わないッ)



 しかし同時にアンベルトは悟ったのだ、この速度で進化を仮に続けられたとしても間に合わないと。

 一瞬だけ瓦礫の槍とゴンザレスのラッシュが競り合って見える瞬間はあった。

 だが数秒が経過すると迫ってくる質量の塊を押し返すのが間に合わなくなり身体との距離が近づいてきたのだ。

 確実に押されているのはゴンザレスの方であった。



 其れでも彼は上半身を限界まで反らせて何とかパンチを打ち込むスペースを作りラッシュを続けたが、所詮は焼け石に水でみるみる内に距離が詰まっていく。

 最終的に拳で全て打ち砕く事を諦めたゴンザレスは両手を広げて瓦礫の槍を受け止め様としたが、結局その絶大な質量に耐えきれず押し潰されてしまった。



 支えていた存在がその絶大な質量に呑み込まれた瞬間槍は地面に衝突し、その衝撃によってバラバラに砕けて周囲に拡散する。

 雪崩の如く砕けた瓦礫の波は広がっていき、最終的に槍は家程度の大きさの瓦礫山に変化しする。

 そしてその光景を目にしたアンベルトは月明かりに照らされ怪しく浮かび上がる小山を見て、まるで強大な力に立ち向かった一人の怪物を称える墳墓の様だと感じたのであった。



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