悪役だから仕方がないなんて言わせない!

音無砂月

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 シャルロッテはたくさんの侍女を連れて毎日、私のところへ来る。
 王女である私がこんな目に合っているのが楽しくして仕方がないのだろう。
 普通なら憎しみを込めた目でシャルロッテを睨み、馬鹿みたいに喚くものだろう。
 でも私はそんなことはしない。そんな、負け犬の遠吠えのような惨めなこと、絶対にしない。
 私はオレスト国の第一王女だから。
 どんな目に合っても絶対に笑って流すだけの気概を見せる。
 絶望なんてしない。嘆いたりなんてしない。
 私は王女だから。
 決して涙を見せたりはしない。
 それは私のプライドが許さない。
 「ねぇ、見て。これ、綺麗でしょ」
 そう言ってシャルロッテはひらりと私の前で回る。レースをふんだんに使ったピンク色のドレスがひらりと揺れる。
 彼女はこのドレスがいったい幾らするか分かっているのだろうか。
 「そうね」
 貴族や王族の人間はお金がある分、値段など気にしないと思われがちだが実際は違う。
 人の上に立ち、領地経営や国民の生活に深くか変わる王公貴族だからこそ、値段は常に把握しておかないといけない。
 良識のある貴族の貴婦人はドレスや紅茶、宝石の値段などをしっかりと把握しているものだ。
 「この宝石も綺麗でしょ」
 ピンクトロマリン。二四カラット。
 「クレバーはね、私が頼めば何でも買ってくれるのよ。私はあなたと違って愛されているから」
 その言葉に私はクスリと笑ってしまった。
 めざとく気づいたシャルロッテは眉間に皺を寄せて私を睨み付ける。
 「何よ!何か文句があるの?言ってみなさいよ!」
 「さすがは平民。結婚に愛を求めるなんて王族や貴族では考えられないわ」
 「何ですって!?」
 「国のため、家のために結婚するのが私達。だから結婚をビジネスだと考える貴族は多いわ」
 「あなた、可哀想なのね。女として愛される喜びを知らないなんて。まだ処女なんでしょ。
 私はあの人に直ぐに抱いてもらったし、宝石やドレスだってこんなに買って貰ってるのよ」
 「高価な物でしか愛を確かめられないないなんて、あなたこそ哀れだわ。
 高価な物を強請る女の特徴は己に価値がないと分かっている女だけよ」
 「っ」
 シャルロッテは手を振り上げた。私の頬を打とうとしたのだろう。
 でもそれは当たらなかった。
 私が彼女の手を掴んで止めたからだ。
 ついでにシャルロッテが顔をしかめるぐらいに力を入れて握る。
 「痛いっ!放して」
 爪が食い込むぐらい握った。抵抗する彼女を、彼女の 希望通り放してやった。すると、彼女は踏ん張りが利かず、そのまま冷たい床の上に尻餅を着いた。
 「ひどい。こんな乱暴をするなんて。この野蛮人」
 どの口がとは彼女のためにある言葉だろう。
 「ついさっき自分がしようとしたことも忘れるなんて、貧しい人間は頭まで貧しくなるのね。
 それに私はあなたが放せと言ったからそうしただけ。暴力を振るったのはあなた。
 あなたって本当に野蛮な人間なのね」
 「っ!この!」
 学習能力がないのか、彼女は立上がり再び私を叩こうと手を振り上げた。
 今度は掴んだりしない。だって手が汚れるから。
 私は体を横にずらすだけでいい。
 そうしたら彼女は前のみりに倒れた。
 顔から倒れたから鼻の頭が真っ赤だ。痛そう。
 「覚えてなさいよ」
 悪役のセリフを残して彼女は出ていった。
 「申し訳ありません、王妃様」
 彼女が連れてきた侍女達は一礼して慌てて彼女の後を追った。
 「騒々しい人」
 ここへ嫁いで一年
 幸せな結婚生活も、愛されるような幸せも期待はしていたけど無縁のことだと諦めていた。
 王に愛人がいるのが当たり前。
 それでも王妃として支え、支えられるような関係は築きたいと当初は思っていた。
 今はもう、そんな気力すらない。
 このまま朽ちていくのかと思ったけどシャルロッテこ存在が私に火をつけた。
 あんな奴らを喜ばせるためだけに生きたくはないし、死にたくもない。
 建国祭。
 私から手紙が来ないことで不審を抱いている頃だろう。
 きっとお兄様達のどっちかが来る。
 王太子は万が一があってはいけないから、多分リヴィお兄様になるだろう。
 馬鹿な陛下は何の恥ずかしげもなくシャルロッテを公の場に出している。
 人の口に戸は立てられない。
 噂が噂を呼び、兄達の耳にも入っているだろう。
 「おいっ!」
 ガタガタの椅子に腰掛け目を閉じていた私は木のドアが勢いよく開く音で目を開けた。
 視線を向けるとそこには鬼の形相をした陛下がいた。
 嫁いで一年。全く顔を見せに来なかったのに、ここ最近はよく来る。
 シャルロッテ効果か。迷惑な。
 「お前、シャルロッテに暴力を振るったそうだな」
 シャルロッテは自分がしたこと、されたことをかなり歪曲してこの男に伝えたらしい。
 告げ口とは。やることが幼稚な。
 所詮は威を借りる狐。自分では何もできないのだ。
 瀕死の獣の牙を向けることは出来ても、牙を向けてくる獣に牙を向け返すことはできない。
 「おい!どうなんだ」
 うるさいな。
 「シャルロッテが私を殴ろうとしたからその手を掴んだだけですわ」
 「シャルロッテがそんなことするわけないだろ。嘘をつくな」
 しんたんだよ。馬鹿。
 「仮に私がしたから何だと言うんですか?
 王妃が平民に手を上げて問題にする人は居ないと思いますが」
 「やはりシャルロッテに暴力を振るったのだな」
 そう言って陛下はいきり立つ。
 この男は王族でなければ生きてはいけなかっただろうな。
 それぐらいに愚かだ。
 王は最悪、愚かでも生きていける。
 王の代わりに仕事をしてくれる人間はたさんいるのだから。
 楽な仕事だな。
 「どうでもいいじゃない」
 「なんだと?」
 「私は無理やり押し付けられた結婚相手で、悪役。だから真実も事実もどうでもいいんでしょ。
 最愛のシャルロッテを苛めた悪役。それがあなたが私に与えた役割り。だから、そうでないと困るんでしょ」
 「っ」
 図星だったのか陛下は気まずそうに視線を逸らした。
 「夢に逃げることが許されるのは子供までですよ、陛下。
 そう言えば、建国祭があるそうでね。
 あなたご自慢のシャルロッテが言っていましたよ」
 「そ、それがどうした?」
 「誰を隣に立たせるつもりですか?」
 私のこの問に陛下は嘲るように嗤った。
 「はっ。俺の隣に立てるのはシャルロッテだけだ。それ以外を立たせるわけがない。 まさか、お前。自分が立てるとでも思ったのか?
 本当に愚かにも程がある」
 「ええ、本当に」
 愚かにもほどがありますわ。
 「せめてもの情けだ。お前も出席させてやろう。もっとも、着て行くドレスがあればだが。
 せいぜい恥をかかぬように気を付けることだな」
 そう言って陛下は部屋から出ていった。
 私のドレスはもうない。
 夜会用のドレスは全て取られてしまった。
 仮にドレスがあっても着せてくれる人がいなければドレスは一人では着れない。
 そういう仕様になっている。
 一国の王女がまさかぼろ布を着て行くわけにもいかないだろう。
 さて、どうしたものか。 
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