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オレスト王国
「親父、どうもおかしいみたいだ」
オレスト王国第一王子、現王太子殿下であるガルム・オレスト。銀色の髪に黒い瞳をしている。
彼は不機嫌そうに王太子妃であるリリーと王の執務室に入って来て、どかりとソファーに腰を下ろした。
リリーは現宰相の娘で、元は公爵家の出だ。茶色の髪に金色の垂れ目をしている。
リリーは不機嫌さを隠さないガルムに苦笑しながらゆったりとその隣に腰を下ろす。
その前に座っているのが俺、この国の第二王子リヴィ。シスタミナに嫁いだ妹と同じ黒髪、黒目をしている。これは一〇年前馬車の事故で死んだ、母の遺伝だ。
兄さんは父であるオレスト王国国王、オーガストに似た。
そして俺の隣に座るのは婚約者のアンネ・クラウス。金色の髪に気の強さを表す青い瞳をしている。
彼女は現在一六歳。伯爵家に家柄だ。来月に挙式を上げる予定だ。
「マリアの奴、公の場に一切出て来てない。帝国側は王妃は病に臥せっていると言っている。国民をそれも信じているようだ」
「あらあら。マリアちゃん、大丈夫かしら?何かお見舞いでも贈りましょうか?」
「お義姉様、何を言っているんですか?そんなの嘘に決まっています。だいたい、便りの一つも寄越さないなんておかしいはずですわ!」
おっとりとしたリリーの発言を即座にアンネが否定する。
「まぁ、アンネちゃん。悪戯に人を疑うものではないわ」
相変わらずの義姉さんの発言には脱力する。だが、彼女の存在が緩衝材となり、殺伐とした空気にならないのも事実なので必要な存在だ。
「クレバーの野郎。平民の女を囲っているって噂だぞ。しかも、公の場に平気で連れて来て、王妃の椅子に座らせているとか。まぁ、これは貴族の間の噂で、平民には隠されているようだが」
「でも、少しずつ平民の間にも不信感だ出てきているよね」
「ああ」
「火のない所に煙は立たないと言いますものね。クレバー陛下は一体何を考えているのかしら?」
義姉さんは頬に片手を添え、こてんと首を傾げた。義姉さん以外の人間がしたらあざといけど、不思議と義姉さんがすると似合っているし、あざとさがまるでない。これも人望というものだろうか。
「はぁ!?その男、馬鹿じゃないの!じゃあ、マリアはどこよ」
「落ち着け、アンネ」
「そうよ、アンネちゃん。いくら恋に溺れる男でもマリアちゃんを殺すような愚かなことはしないはずよ。そんなことをすれば、どうなるか分かっているでしょうし」
「リリーの言う通りだ。落ち着け、アンネ」
「お言葉ですが、お義兄様、お義姉様。王妃の椅子に平民の女を座らせる馬鹿にそんなまともな思考回路があるとは思えませんわ」
アンネの言うことも一理ある。
本当にクレバー陛下は何を思って平民なんかにその椅子を座らせているのか。
俺達の大切な姫を蔑ろにしていることすら腹立たしいのに。
「リヴィ」
上座に座り、今まで黙って俺達の話を聞いていた父が重々しく口を開いた。そのことによって自然とみなの口が閉じ、視線が父に向かう。
「アンネ。共に使者として様子を見に行ってくれ。おりしも近々建国記念祭をやるそうだからな。まさか、王妃の出身国である我が国に招待状がないわけでもあるまい」
「マリアがそのパーティーに出て来ない、病を理由に俺達すら面会を拒まれる可能性もあります。まぁ、如何に大国とはいえ、建国から二〇〇年の新参者。同じ大国なら俺達の方が強いですし、それに王妃の身内ということを使えば強引にでも会うことはできますが」
「手段は問わん。何かあってもこっちは知らぬ存ぜぬで通すから好きにしろ」
「あらあら。あなた達、来月挙式なんだから無理はダメよ。最悪、マリアちゃんの生存が確認できればいいのだし。その後は、こっちでも何とかできるから」
おっとりとしながら「万が一戦争になっても自業自得ね」と笑って言う義姉さんにこちらは苦笑を返すのが精一杯だった。
アンネも義姉さんもマリアのことを大切に思っている。
だから今回の件で義姉さんはにっこりと微笑んでいるだけだから分かりづらいが、それでも長い付き合いだ。彼女がかなり怒っているのは見れば分かる。
「分かっています、義姉さん」
「あんな男、蹴っ飛ばして、マリアを直ぐにでも連れて帰ってごらんにいれますわ」
「パーティーには俺の友人のトワも参加するはずだ。事情を話しておくから何かあれば頼れ。マリアを頼んだぞ」
「ああ、任せて。兄さん」
トワというのはオルドル国の王太子のことだ。オルドル国は小国ながらも大国に負けない武力を持っている。
オレストとも親交があり、昔からよく会っているので親しくなった。
特に兄さんは同じ王太子として、彼らにしか分からない悩みを抱え、共有して来たらとりわけ仲が良いのだろう。
挙式の準備もあって忙しいはずなのに、執務室を出て使用人達に事情を話してシスタミナ帝国へ行く準備を頼んだらみな、快く引き受けてくれた。
場合によっては挙式を延ばすことになるかもしれないがアンネは「挙式なら私とあなたが居て、教会があって神父が居ればいつでもできます。でも、マリアの件は今でなくてはいけません。なら私の中での優先順位はあなたと同じはずです。何も問題ありませんわ」と言ってくれた。
みながマリアのことを心配し、思ってくれている。だから絶対に何かしらの情報を掴んで、彼女の笑顔を早く見たいし、みなにも見せたいと思う。
「親父、どうもおかしいみたいだ」
オレスト王国第一王子、現王太子殿下であるガルム・オレスト。銀色の髪に黒い瞳をしている。
彼は不機嫌そうに王太子妃であるリリーと王の執務室に入って来て、どかりとソファーに腰を下ろした。
リリーは現宰相の娘で、元は公爵家の出だ。茶色の髪に金色の垂れ目をしている。
リリーは不機嫌さを隠さないガルムに苦笑しながらゆったりとその隣に腰を下ろす。
その前に座っているのが俺、この国の第二王子リヴィ。シスタミナに嫁いだ妹と同じ黒髪、黒目をしている。これは一〇年前馬車の事故で死んだ、母の遺伝だ。
兄さんは父であるオレスト王国国王、オーガストに似た。
そして俺の隣に座るのは婚約者のアンネ・クラウス。金色の髪に気の強さを表す青い瞳をしている。
彼女は現在一六歳。伯爵家に家柄だ。来月に挙式を上げる予定だ。
「マリアの奴、公の場に一切出て来てない。帝国側は王妃は病に臥せっていると言っている。国民をそれも信じているようだ」
「あらあら。マリアちゃん、大丈夫かしら?何かお見舞いでも贈りましょうか?」
「お義姉様、何を言っているんですか?そんなの嘘に決まっています。だいたい、便りの一つも寄越さないなんておかしいはずですわ!」
おっとりとしたリリーの発言を即座にアンネが否定する。
「まぁ、アンネちゃん。悪戯に人を疑うものではないわ」
相変わらずの義姉さんの発言には脱力する。だが、彼女の存在が緩衝材となり、殺伐とした空気にならないのも事実なので必要な存在だ。
「クレバーの野郎。平民の女を囲っているって噂だぞ。しかも、公の場に平気で連れて来て、王妃の椅子に座らせているとか。まぁ、これは貴族の間の噂で、平民には隠されているようだが」
「でも、少しずつ平民の間にも不信感だ出てきているよね」
「ああ」
「火のない所に煙は立たないと言いますものね。クレバー陛下は一体何を考えているのかしら?」
義姉さんは頬に片手を添え、こてんと首を傾げた。義姉さん以外の人間がしたらあざといけど、不思議と義姉さんがすると似合っているし、あざとさがまるでない。これも人望というものだろうか。
「はぁ!?その男、馬鹿じゃないの!じゃあ、マリアはどこよ」
「落ち着け、アンネ」
「そうよ、アンネちゃん。いくら恋に溺れる男でもマリアちゃんを殺すような愚かなことはしないはずよ。そんなことをすれば、どうなるか分かっているでしょうし」
「リリーの言う通りだ。落ち着け、アンネ」
「お言葉ですが、お義兄様、お義姉様。王妃の椅子に平民の女を座らせる馬鹿にそんなまともな思考回路があるとは思えませんわ」
アンネの言うことも一理ある。
本当にクレバー陛下は何を思って平民なんかにその椅子を座らせているのか。
俺達の大切な姫を蔑ろにしていることすら腹立たしいのに。
「リヴィ」
上座に座り、今まで黙って俺達の話を聞いていた父が重々しく口を開いた。そのことによって自然とみなの口が閉じ、視線が父に向かう。
「アンネ。共に使者として様子を見に行ってくれ。おりしも近々建国記念祭をやるそうだからな。まさか、王妃の出身国である我が国に招待状がないわけでもあるまい」
「マリアがそのパーティーに出て来ない、病を理由に俺達すら面会を拒まれる可能性もあります。まぁ、如何に大国とはいえ、建国から二〇〇年の新参者。同じ大国なら俺達の方が強いですし、それに王妃の身内ということを使えば強引にでも会うことはできますが」
「手段は問わん。何かあってもこっちは知らぬ存ぜぬで通すから好きにしろ」
「あらあら。あなた達、来月挙式なんだから無理はダメよ。最悪、マリアちゃんの生存が確認できればいいのだし。その後は、こっちでも何とかできるから」
おっとりとしながら「万が一戦争になっても自業自得ね」と笑って言う義姉さんにこちらは苦笑を返すのが精一杯だった。
アンネも義姉さんもマリアのことを大切に思っている。
だから今回の件で義姉さんはにっこりと微笑んでいるだけだから分かりづらいが、それでも長い付き合いだ。彼女がかなり怒っているのは見れば分かる。
「分かっています、義姉さん」
「あんな男、蹴っ飛ばして、マリアを直ぐにでも連れて帰ってごらんにいれますわ」
「パーティーには俺の友人のトワも参加するはずだ。事情を話しておくから何かあれば頼れ。マリアを頼んだぞ」
「ああ、任せて。兄さん」
トワというのはオルドル国の王太子のことだ。オルドル国は小国ながらも大国に負けない武力を持っている。
オレストとも親交があり、昔からよく会っているので親しくなった。
特に兄さんは同じ王太子として、彼らにしか分からない悩みを抱え、共有して来たらとりわけ仲が良いのだろう。
挙式の準備もあって忙しいはずなのに、執務室を出て使用人達に事情を話してシスタミナ帝国へ行く準備を頼んだらみな、快く引き受けてくれた。
場合によっては挙式を延ばすことになるかもしれないがアンネは「挙式なら私とあなたが居て、教会があって神父が居ればいつでもできます。でも、マリアの件は今でなくてはいけません。なら私の中での優先順位はあなたと同じはずです。何も問題ありませんわ」と言ってくれた。
みながマリアのことを心配し、思ってくれている。だから絶対に何かしらの情報を掴んで、彼女の笑顔を早く見たいし、みなにも見せたいと思う。
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