ハーレムキング

チドリ正明@不労所得発売中!!

文字の大きさ
14 / 48
2章 セイクリールの歩き方 編

ハーレムキングは隠密に潜入する

しおりを挟む
 夜のセイクリールは、昼とはまるで別の顔を見せていた。

 灯火の落ちた回廊。祭壇の奥に広がる聖域。
 その中心——“聖具保管庫”に、オレたちは忍び込もうとしていた。

「まさか、神殿にコソ泥のように入る日が来るなんてね……」

 鎧の音を消すために布面積の少ない軽装に着替えたアレッタが、少しだけ呆れた声を漏らした。

「アレッタ、君が言うと、なんだか正義の潜入任務に聞こえるな。そしてその服! ふははははっ! 素晴らしい! 燃える展開に萌える服というわけか! 面白い!」

「……はぁぁぁ……本当に緊張感ってものがないのね」

「王は常に堂々としているものだ!」

 先頭を歩くアレッタの背中に、オレは目を細めた。
 軽やかで、無駄のない動き。まるで騎士そのもの。

 凛々しくもあり、美しさも兼ね備えているとは……素晴らしいではないか!

 サラのような繊細さとはまた違う、アレッタの“強さ”が、妙に気になっていた。

「二人とも、ここから先は私語厳禁よ。絶対にあたしの指示に従って、いいわね?」

 オレとサラは視線を交わして頷いた。
 緊迫感が心地よい。心臓が踊り狂ってダンスパーティーを開いているぞ。
 まさしくディスコフィーバーだ!


 こうしてアレッタの案内の元、オレたちは地下の通路に足を運んでいた。どうやって入ったか? 簡単だ。神殿の裏の窓をこっそり破壊し、隙間から雪崩れ込んだだけだ。
 
 それにしても、地下の通路は思っていたよりも狭いな。

「……警備神官がまだ巡回してる。予想より多いわね」

 アレッタが壁に背を預け、前方の角を覗き込みながら低く言う。
 足音はひとつではない。ふたり。魔力灯を持った人影が、廊下を歩いている。

「内部の警備は警備部隊ではないのだな」

「儀式があるときなんかは警備部隊が駆り出されるけど、基本的に神殿の外と中の一部分以外は、上級神官が直々に警備してるのよ。中枢においては大切な聖具も多いから、神官ではない警備部隊はあんまり信頼されてないってこと」

「ふむ、ちなみに、見つかったらどうなる?」

「拘束、勾留、事情聴取、最悪、死刑。それも秘密裏に行われるわね。保管庫への侵入には重罰が下されるっていうのはセイクリールの常識よ」

 恐れのない淡々とした口調、悪くない。

「ふむ。スリルだな。好きだ。この状況も、君の余裕さも!」

「変なとこでテンション上がらないで。いい? ここは静寂が保たれているから警備してる神官たちは“音”に反応するの。だから、喋らない、動かない、魔力の流れも最小限に抑えること」

 アレッタは的確に指示を飛ばすと、音を立てずにしゃがみ込んだ。
 魔力の流れはどうか知らないが、とにかく指示に従うのが吉と見た。

「ここ、通気口がある。身を縮めて潜るわよ」

 アレッタは慣れた様子でほふく前進していく。
 続いてサラも進み、最後尾を王であるオレが追う格好だ。
 まさか、狭い鉄格子の中を三人で這って進む羽目になるとは、王の名を持つオレでも予想していなかった。

「……うぐっ、せまっ……っ、サラ、たのむから……頭を蹴らないでくれ」

「あなたが早いからですっ!」

 こんな体勢で通気口を進むというのは、なかなかにハーレムキングらしからぬ体勢だったが今は我慢だ。

 途中、天井裏の隙間から見下ろすと、警備をしている神官がすぐ真下を通り過ぎていく。
 息を止める。サラもアレッタも動かない。

 スリル満点だな。全身にとめどなく高速で流れる血液の感覚が気持ちいいぞ!

 そんな興奮を抑えながらもオレは進んだ。
 やがて、安全なポイントでアレッタが合図を送る。

「……次、左手の資材庫に抜ける。そこから抜け道を通れば保管庫の裏手に出られるはず」

「了解。さすがは第三部隊隊長だ」

「当然。隠密任務も訓練のうちよ。神官と違ってね」

 ちらっと後ろのサラを見るアレッタ。

「うっ……別に私は、こういう任務が苦手ってわけじゃ……」

「さっき通気口で四回も頭をぶつけてたわよね? 大丈夫? たんこぶまみれになってない?」

「な、なぜそれを……!」

 サラが照れくさそうに、だが少し表情を歪めながら脳天を手で押さえていた。本当にたんこぶができたらしい。

「神聖魔法で治せないのか?」

「治せますけど……アレッタの言う通り、魔力の流れを感じ取られたら居場所がバレるので、外に出るまでたんこぶは痛いままです……」

 サラはしゅんとして頭をさすっていた。うむ、かわいい。

「二人とも、静かに。ここからは一層気を引き締めて……ここの廊下、意外と響くから声は殺してね」

「了解した。君の声が美しすぎて、それだけで警備が振り向く可能性があるからな」

「褒めてるの? 皮肉なの?」

「当然のように褒めている。ハーレムキングは嘘をつかない!」

 アレッタが肩をすくめたまま、先を進む。苦笑いを浮かべたサラもそれに続いた。またしてもオレは最後尾だ。

 そして、廊下を進んでいくと、神殿の地下へ通じる螺旋階段が見えた。オレたちは慎重に下り、目的地に辿り着いた。
 道中、それなりの数の神官の姿を目にしたが、アレッタの隠密行動が功を奏しあっさり辿り着くことが出来た。

「ここが……」

 サラがぽつりと呟く。

 重厚な金属扉。よくわからないが結界が淡く光っている。

「封印魔法の結界ね。触媒は裏側にあるから、正規の手順を踏まないと開かない。けど……非常時用の迂回口がある」

 アレッタが壁の装飾に手をかけると、音もなく小さな扉が開いた。

「ほう、隠し通路か。そういうのは少年心をくすぐるな!」

「少年じゃなくて、王なんでしょ」

「少年のような心を持つ王だ! 誰であろうと童心を忘れてはいけない!」

 くだらない掛け合いをしながら、狭い通路を抜ける。やがて奥で合図するアレッタの声。

「着いた。ここが壊れた器を保管してる聖具保管室よ」

 薄暗い部屋には、棚の上に並ぶ歪な形の壺、紐で厳重に縛られた封じられた木箱、ピンク色のハートマークが目立つおかしなメガネなど……色々と聖具が置かれていた。最後のはよくわからないが、とにかく聖具なのだろう。

 そして、目を這わせていくと、その一角に、堂々と単独で置かれていた“箱”があった。

「これが……」

 その箱の正体にサラな一目で気がついたようだ。
 そっと近づいて、箱を開けた。

 中には、青い陶片が収められていた。

「こいつが件の聖具か。むぅ……? 違和感があるな」

「どこ?」

 オレが陶片を手にとり呟くと、アレッタが首を傾げた。

「これは、本当に聖具なのか?」

 破片の断面には、妙な“金属痕”のような筋が走っていた。

「オレの目にはこいつが普通の陶器にしか見えないな」

「……待って……これ、神託の器じゃなくない? 使用直前に細工された偽物とすり替えられていた……って可能性もあるわね」

 アレッタの声が低くなった。

「ですが、聖具の保管担当者は神殿の上級神官以上の神官ですよ。そんなこと……どうやって……」

「いや、できる人はいた」

 アレッタがきっぱりと言った。

「私、あの日の朝、保管室の近くで……見たのよ。いつもと違う順路で部屋に入っていく誰かを」

「誰……?」

「……はっきりとは覚えてない。でも、長いローブの裾と、指に司祭の紋章が見えた。あの時はなんとも思わなかったけど、今思えばあれは怪しかった」

 サラが息を飲む。オレも無言で頷いた。

 何かが、見えてきた。

「これだけの情報があれば、あとは照合できるわね。器の封印記録、入退室の魔力痕跡。私が調べる。それで証明できるなら……サラ、あんたの汚名は晴らせる」

 アレッタがぐっと拳を握る。

「ほ、本当ですか……!」

 サラが潤んだ瞳で彼女を見た。

 その横顔を、オレは何も言わず見つめていた。

 強く、優しい。誰かのために怒れる、騎士の顔だ!

 オレの胸の奥で、何かがまた一つ動いた気がした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転生!ハイハイからの倍人生

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は死んでしまった。 まさか野球観戦で死ぬとは思わなかった。 ホームランボールによって頭を打ち死んでしまった僕は異世界に転生する事になった。 転生する時に女神様がいくら何でも可哀そうという事で特殊な能力を与えてくれた。 それはレベルを減らすことでステータスを無制限に倍にしていける能力だった...

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

インターネットで異世界無双!?

kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。  その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。  これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。

処理中です...