ハーレムキング

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2章 セイクリールの歩き方 編

ハーレムキングは真相に迫る

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 真夜中の隠密調査を終えた数時間後。
 今は早朝。場所は街外れの小さな宿屋の一室。

 アレッタがよく使用しているというこの場所は、非常に閑散としていて考え込むのに打ってつけだった。

「……んー」

 アレッタは目を閉じたまま、静かに呼吸を整えていた。
 聖具保管庫の記録用紙の山を前にして、部屋には沈黙が満ちている。

 これらは全てアレッタが第三部隊隊長の権力を利かせて集めてきたものだ。やはり権力こそパワーだった。どこの世界もそれは変わらないようだな。

「あの日の朝、裏通路の前で誰かが結界を開けた気配を感じたの。あたしが見たのは、背の高い男。白の長衣を着ていて……司祭だった」

「それだけでは絞り込めませんね。司祭といっても何十人もいますし……」

 サラが記録帳をめくりながら答えると、悔しそうな顔つきで言葉を続けた。

「しかも……保管庫の使用記録には、その時間に入室した神官や司祭は記されていません」

 記録が全てじゃない。所詮は情報だ。権力があればどうでも書き換えられる。内部の人間が犯人ならばそれはさらに容易いだろう。

「誰かが記録を捏造したのだろう。それしか考えられんな」

「意外にも頭が回るのね。あたしもその可能性が高いと思うわ」

 思案するアレッタの声に、記録用紙を捲るサラの手が止まる。目を剥いて記録用紙をガン見していた。

「……この記録。おかしくないですか?」

「お?」

 オレが身を乗り出すと、サラはある一枚の書類を見せた。

「この“バレト・ルーヴ司祭”。表記上はこの月に五度、保管庫に立ち入っていることになっていますが、実はこの方は半年前に寄付金の横領容疑をかけられて、辺境へ左遷されています。なのに、なぜ記録に名前が?」

「……成りすまし? それとも偽の記録かしら?」

 アレッタが目を細めて顎に手をやった。
 その瞬間、オレの中でピースが合わさる。

 名前を借りて動いたやつがいる。自分の記録を残さず、異動者の名義を使った。
 だとすれば……

 オレは記録一覧を全てめくって目を通すと、その中である名に目を留めた。

「サラ、ここの聖具管理責任者の欄……“ファムス・エイル司祭”とあるな」

「……はい、神託の器が破損した時に現場管理をしていた方です」

「彼は辺境へ左遷された“バレト司祭”の推薦で聖具管理責任者の任に就いたらしいな?」

 サラの目が見開かれる。

「……えっ? なんで知ってるんですか!?」

「実は保管庫の部屋の隅に飾ってあった推薦状を見つけたんだ。ただなんとなく目に入ったのだが、推薦状の中に記されていた筆跡と、ここの筆跡が一致している」

 アレッタとサラが同時にオレを見た。

 サラは半信半疑、アレッタはほんの少し、驚きの表情を隠せない様子で。

「つまり、そのファムス司祭が“バレト司祭名義”で入室記録を書き換えたってこと? でも、なんでこんな簡単なことに誰も気づかなかったのよ?」

「おおかた予想はつく。神託の器が割れた三年前、原因不明で処理されたと言っていたが、本当はまともに調査なんてしてないのではないか?」

「あ……現場管理者のファムス司祭なら、その判断を下すのも簡単だったってことですか?」

「そうだ。そいつが鍵を握っている」

 オレは拳を握り、宣言した。
 さあ、話は終わった。

「よし。証拠と仮説は揃った! あとはこのファムス司祭とやらに、直談判にいこうか! 聖なる拳が鉄槌を下す時が来た!」

「えっ、今から!?」

「夜でも朝でも関係ない。王の時間は常に“今”だ! 恋も事件もタイミングが命だ!」

「……この調子で本当に突撃するから怖いのよね……」

 アレッタが苦笑しながらも、微かに頷いた。珍しくオレの意見に賛同しているようだ

「まあ、これだけ情報があるのなら、正面からぶつかる価値はあると思うわよ。筆跡だって調べればわかるんだしね」

「待ってください。司祭に異議申し立てを正式にするなら、最低でも立会人が必要ですよ。私のような中級神官では話し合いの場を作ってくれません」

 サラはおずおずと手を上げてオレとアレッタに視線を向けた。

「……あたし、そんな知り合いいないわよ。王様は?」

「誠に遺憾ながら、オレは孤独な王なのだ! ハーレムを除いて知人はいない!」

 オレが堂々と答えると、アレッタは頭を抱えて悩ましげな顔になった。
 しかし、そんな中、そうなるに至る発言をしたサラは僅かに笑っていた。

「あの、私、一人だけ頼れるかもしれない人がいます」

「誰よ? あんたは問題児だし、上級神官より上の神官で知り合いなんているの?」

「イルセ・ライナー大司祭——私を神殿に導いてくれた人です」

「あ……そうね。あのおっさんなら可能性があるかも」

 アレッタが目を瞬かせる。誰だそのおっさんとやらは。

「昔……両親を亡くして、孤児院にいた私を見つけてくれて。“お前には祈りの力がある”って、神官の道に誘ってくれたのが、イルセ様でした。アレッタも同じ孤児院にいたのでご存知ですよね」

 その声はどこか遠くを見ていた。

「……サラはあのおっさんに拾われて、あたしは自分の足で警備隊に入隊したのよね。懐かしいわね」

 二人揃って随分と苦労してきたようだ。

「でも、あのおっさん、全然掴みどころがないのよねぇ……どうなるかわからないけど、まあ頼みの綱ではあるかも」

「すごく厳しい人です。笑ったところはほとんど見たことがありません。でも、誰よりも私の成長を見ていてくれた人です。もし、もしまだ、私を見捨てていないなら、今の話をきちんと聞いてくださるかもしれません」

 アレッタはオレとサラを交互に見て、白い歯を出して快活に笑った。

「そういうの早く言いなさいよ。十分じゃない、あんたが真っ直ぐ生きていた良い証拠になるわ!」

「……はい」

 サラは静かに頷いたが、その目は確かにアレッタを捉えていた。百合展開が始まるとかそういうのではなく、そこには明確な信頼の証があった。
 孤児院で育った二人の絆は随分と固いようだ。

「なら話は早いな。君の名と、オレの王名でイルセ大司祭に直接申請を通すぞ!」

「いや、王名は使えないからね!? 正式なものじゃないからね!?」

「アレッタ、君もツッコミ担当なのか?」

「違うから! 単にあんたがおかしいからツッコんでるだけだから! そうせざるを得ないだけだから!」

「まあ、細かいことは気にするな! サラが本気で頼るなら、オレは全力で旗を振るだけだ! そして、最初に出会ったヒロイン二人がツッコミ担当であろうとも、オレは平等の愛を捧げることを約束しよう!」

「……もう。だめだ……サラ、あんたすごいわね」

「あははは……」

 アレッタは頬をひくつかせている。サラはぎこちなく笑っている。
 悪い雰囲気を払拭して楽しんでくれたようで何よりだ!

「どうしてニヤけてんのよ」

「ふははははっ……気にするな!」

 オレは立ち上がり宿屋の窓を開放すると、空に向けて声を大にして叫んだ。

「時は満ちた! 神託の器の謎、ついに終盤だ! さあ、ハーレムキング・デイビッドの名にかけて、真実を暴きにいこうではないか! 王は誰にも止められない!」

 ——その時、背中にアレッタの視線を感じた。

 いつもの冷めたような呆れたようなジト目ではなく、かといって柔らかい笑顔でもない。
 どこか、“評価する”ような目。そう、戦士が仲間を認めるときのそれ。

 ……ふふん。着実に、ハーレム構成が進んでいるな! オレの物語も順調だ!
 心の中で小さくガッツポーズを決めながら、オレは宿屋を抜けて歩き出した。

 いざ、最終戦。悪しき司祭を討つ時だ!





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