ハーレムキング

チドリ正明@不労所得発売中!!

文字の大きさ
19 / 48
3章 公爵令嬢の救い方 編

ハーレムキングは早くも新ヒロインに出会う

しおりを挟む
 旅に出て、三日目の昼下がり。

 オレとサラは、どこへ向かうでもない道を、気ままに歩いていた。

「ねえ……本当に行き先決めてないんですか?」

「ふははははっ! 王の旅に地図は不要だ! 巡り合いこそが道を形づくる! 偶然は運命、出会いはハーレムへの招待状なのだからな!」

「もう……わけわかんない……」

 サラは眉間を押さえながら、それでもオレの少し後ろを歩いてくる。
 不満そうに見えて、歩調はピッタリだ。なんだかんだで、悪くない関係になってきた気がするな。

 そんなときだった。

 ——ドンっ! ドンドン!

 遠くから、鈍い衝撃音が響いた。

 同時に、風に乗って届く叫び声。土煙が立ち上り、騒然とした気配が風に混じってくる。

「……王の耳は、トラブルを聞き逃さない! 行くぞ!」

 オレは地面を蹴った。

「えっ!? ちょっと、急に走らないで! ……もう!」

 サラも慌てて後を追ってきた。

 木々を抜け、丘を下りかけたその先——

 視界の中に、馬車があった。
 護衛の騎士たちが倒れ、その荷車の周りを取り囲んでいるのは、粗野な装備に身を包んだ盗賊の一団。

「ちっ、護衛は片付いたか? 嬢ちゃん、早く出てきな! 大人しく捕まるか殺されるかしてくれれば、護衛の連中は助けてやってもいいぜ?

「くっ……!」

 車内から出てきたのは、一人の少女。

 薄紫の髪をポニーテールに束ねた、美しい女性だった。上質なマントに身を包み、しなやかな指先で弓を構えている。

「……っ、この場を退けるなら見逃してあげる! まだ警告よ!」

「警告だってよ! 笑わせるぜ! この人数差を覆せると思ってんのか?」

 美しい女性と汚らしい盗賊たちのやり取りは、オレの心を昂らせた。

「おおっ……!」

 オレの胸に、一筋の雷光が走った。

「サラ、あれは……」

「見ればわかります。ヒロインですねー」

 サラは棒読みだったがそれはまあいい。
 紛れもなくあの少女はヒロインだろう。上品な装いと雰囲気はサラやアレッタとはまるで違う。二人が悪いと言っているんじゃない。ただ、あの少女が異質だった。

 一目でわかる! あれは新ヒロインだ!

「見事な見立てだ!」

 そんなことを言っている間にも、盗賊たちが彼女に迫っていく。

 ——瞬間、オレは空へ跳び上がった。

「王、推参ッ!!」

 空中から拳を振り下ろす。先頭の盗賊に命中した一撃は、地面を震わせて一人を地面にめり込ませた。

「な、なんだあいつ!? 空から降ってきやがった!」

「ふふん、王の降臨に驚いてくれて結構! だが、そんな余裕はここまで!」

 立ち尽くす盗賊たちに、次の一撃を見舞おうと身構える。

「サラ!」

「了解ですっ……《清めの結界・障壁展開》!」

 サラの足元に広がった光の円が、まるで浄化の波紋のように周囲へ広がる。

 盗賊たちの足が鈍る。詳しくは知らないが、魔力を奪う結界らしい。

「さすが元中級神官だ!」

「その紹介はやめてくださいってば!」

 足元を封じられた盗賊たちに、オレは間髪入れず突っ込む。
 拳、掌打、蹴り——その全てが盗賊たちの意識を的確に刈り取っていった。

「う、うわっ……つ、強っ……なんだこいつ……!」

「ハーレムキング・デイビッドの名、しかと覚えておけ!」

 最後の一人が悲鳴を上げて森へ逃げ出すと、辺りには再び静けさが戻った。


 その後……サラは気絶する護衛を簡単に治療する傍ら、オレは麗しい少女と向かい合っていた。


「助けていただいて……ありがとうございます」

 少女は静かに、深く頭を下げた。

 その所作には、明らかに庶民にはない“格”があった。

 背筋は美しく伸び、手先まで緊張感を宿した動き。姿勢は完璧で、礼にこめられた誠実さと、育ちの良さがひと目で分かる。

 ふむ……これは“貴族”のそれだな

 オレはすぐに察した。ハーレムキングたる者、女性の格もまた見抜けねばならんからな!

 彼女の髪は、淡いラベンダーを含んだような銀紫色で、陽の光を受けると薄く輝く。
 長い髪は首元で高く束ねられ、揺れるポニーテールが凛々しさと華やかさを同時に醸していた。

 肌は白磁のように滑らかで、表情には自信と気品がある。
 まっすぐにこちらを見つめる瞳は澄んだ瑠璃色で、その眼差しは、戦いの直後とは思えぬ落ち着きを湛えていた。

 腰には弓、背には矢筒を背負い、流れるようなラインのワンピースは、動きやすさと美しさを両立させていた。

 まさに“凛とした気高さ”を絵に描いたような女性。

「名はなんという?」

「……ルシアです。エルネス公爵家の令嬢です」

 ——し・か・も! 公爵令嬢!!!

 弓を手に戦うお嬢様とは、なんたる美味! 
 いや、なんたる好機!

 オレの中の王の血がざわめいた。

「ふははははっ! 新たなるハーレムの扉、ここに開かれたり!!」

 オレは一歩進み、誇らしげに名乗った。

「ルシア嬢、オレはハーレムキング・デイビッド。そしてこちらは旅のパートナーにして、ツッコミ担当のサラ。どうぞよろしく!」

「ちょっと!? 紹介が雑すぎませんか!?」

「ふふ……デイビッドさん、王を名乗る方にしては、随分と賑やかで面白いですね」

 ルシアの口元が、ほんのわずかにほころんだ。

 む、これは……!

 オレは心の中で拳を握った。すでに、最初の好感は得た! 王としての第一歩は、完璧だ!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転生!ハイハイからの倍人生

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は死んでしまった。 まさか野球観戦で死ぬとは思わなかった。 ホームランボールによって頭を打ち死んでしまった僕は異世界に転生する事になった。 転生する時に女神様がいくら何でも可哀そうという事で特殊な能力を与えてくれた。 それはレベルを減らすことでステータスを無制限に倍にしていける能力だった...

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

インターネットで異世界無双!?

kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。  その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。  これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。

処理中です...