ハーレムキング

2章 セイクリールの歩き方 編

幕間アレッタ視点 ハーレムキングを知った日

　王が歩き去る背中を、私はしばらく黙って見つめていた。

　肩越しに手を振るデイビッド。相変わらず無遠慮で、破天荒で、自分を“王”だなんて信じて疑わない変な男。

「……本当に、変な人よね」

　気づいたら、呟いてた。

　あんなヤツ、正直最初は“サラの厄介な同行者”くらいにしか思ってなかった。何を言っても響かないし、調子ばかりで、空気なんて読めないし。

　しかし、彼は見ていた。サラの苦しみも、あたしのための怒りも、あの日の器の真実すら。全てを見た。突き止めた。

　誰かの過去を、否定も笑いもせず、ただまっすぐに受け止めて、前を向かせてくれた。

　それがどれだけ、救いだったか。

「ほんと……ズルいな」

　ふと、サラの姿が脳裏に浮かぶ。
　あの子、いつも自分のことを一歩引いて見てる。
　真面目で、頑固で、器用じゃないけど。
　でも、誰よりも優しい。

　だから、あの王が一緒にいることに、あたしはちょっとだけ……安心してる自分がいる。

　それと、もうひとつ。

「……あたしも、見ちゃったのかもね。あの人の“王”ってやつを」

　口にしてから、ほんの少しだけ笑った。

　胸が痛いのは、きっと走ったからじゃない。
　寂しいのは、別れのせいだけじゃない。

　この気持ちの名前は、今はまだ、知らなくていい。

　でも。

　また会いたいと思ってる。

　次に会うとき、あたしはきっと——“あの人の名前”を、少し違う気持ちで呼ぶんだろうな。

「……気をつけてね。王様」

　あたしは空に向かって、そっと手を振った。