38 / 48
4章 論理と感情を合わせる方法 編
ハーレムキングは確信する
しおりを挟む
酒場からの帰路、夜のイデアの街は穏やかな光に包まれていた。
石畳を踏みながら、オレとサラとアレッタの三人は、夕食を終えたばかりの心地よい余韻をまといながら並んで歩いていた。
「しかし、さすが賢者の国って感じよね。道端の屋台まで魔道具仕込みとは……お菓子とジュースなんてどこでも買えるしね」
アレッタが感心したように見上げたのは、壁に設置された小さな棚。自販機だ。この国の硬貨を入れてボタンに触れると、温められたパイ菓子や冷えた飲み物が出てくる仕掛けだ。
「うむ、魔法というのは文化を変えるものだ。こういう発展を見るたびに、旅の意味が深まるな!」
オレが満足げに頷くと、サラもくすりと笑った。
平穏なやり取りが続く中、ふと、オレはアレッタに声をかけた。
「ところで、アレッタ。君は任務でここに来たのだったな? 詳しく聞かせてもらおうか」
「あれ、言ってなかったっけ?」
アレッタは視線を前に向けたまま、少し声を潜めて語り始めた。
「セイクリール神殿の内部に怪しい魔法使いがいたの。名前も素性もわからないけど……真っ黒なローブに、顔の半分を隠してる変なやつ。目が、赤くて、獣みたいだった」
赤い目、黒いローブ、顔の半分を隠している。
オレの脳裏に、あの研究室での男の姿がよぎる。
「……そいつを君が追ってきた理由は? ただ見かけたから、というわけではないのだろう?」
「簡単よ。そいつ、禁呪の記録にアクセスしていたから」
アレッタの声色が一段と硬くなる。ここでもやはり禁呪か。
「サラは当たり前のように知ってると思うけど、神殿の記録庫には、過去に禁忌とされた禁呪の理論の断片が保管されてるのよ。エルフしか使えない精霊魔法のものは流石にないけど……それでも、その断片は容易に触れてはいけないものなの。そいつはそれを盗み見ようとした。しかも、強い魔力干渉を残して逃げた。あれは普通の魔法使いじゃないわね。司祭たちも騒いでたわよ」
アレッタの顔色は怪訝だった。随分と大事だ。
「なるほどな……」
やはり、あの黒ずくめの男と繋がっているか。これは偶然などではないな。
オレが顎に手を当てて考え込みかけた、その時——
ドォォォォンッ!!
突如として、夜空に響き渡る爆音。
地面がかすかに揺れ、遠くで赤い閃光が夜の空を照らした。
「っ、何!?」
サラが驚いて振り返り、アレッタは腰の剣に手をかけて鋭く目を光らせた。
「今の、ただの爆発じゃない……魔力が混じってました!」
「こんな時間になんなのよ!」
「方向は……東区画の方か?」
オレはすぐに空を仰ぎ、煙が昇る方向を見定める。
「王様……!」
「ふむ、どうやら散歩はここまでのようだな。王の名において言おう、これは重大な事件だ! どんな闇よりも暗い底の見えない何かがオレたちを巻き込もうとしている!」
夜の静寂を裂くように、街のどこかで何かが始まったのは間違いない!
そう高らかに宣言したものの、オレはすぐに足を止め、ちらりと後ろを振り返った。
サラとアレッタは、わずかに顔を強張らせながらも、すぐに動こうとしていた。
だが、その頬はほのかに紅潮し、瞳もわずかに潤んでいた。
……ふむ。酒が回っているな。
普段は真面目なサラが少し浮かれていたのも、酒精のせいだろう。アレッタもまた、軽口の数が多かった。
いま無理をさせれば、足を引きずるように進むことになる。
ならば、決断は容易い。
「サラ、アレッタ、君たちはここで待て」
オレは静かに言った。
「えっ……でも、王様……!」
「ふはは、心配無用! 王はな、たとえひとりでも王なのだ。むしろ、ひとりの方が動きやすいこともある」
言いながら、マントを翻す。
酔った足で現場に踏み込ませることなど、オレの流儀ではない。守るべき者は、最前線ではなく“後方”に置くのが王の正しい在り方だ。
「君たちが動くのは、もしもの時だけでいい。王が戻らなかったら、思いきり心配してくれて構わん。それが役割分担というものだ!」
サラは唇を噛み、何か言いかけたが——
「……わかりました。気をつけてくださいね」
結局、そう言って小さく頷いた。
アレッタも「じゃあ、せめて戻ってきたら熱いお茶でも淹れてやるわよ。そもそもあんたが一番飲んでたはずなのになんで素面同然なの?」と気遣う言葉を残す。
ふっ、なんと優しいヒロインたち!
だが、彼女たちはまだ知らない。
王というのは、誰かの優しさを盾にしてこそ、真正面から全てを受け止められるものなのだ。
闇の中へと歩き出しながら、オレは一人、背筋を伸ばして呟いた。
「守るとは、背を向けて逃がすことではない! 信じて立たせることだ。そしてそのために、王は誰よりも先に前を走る! それこそが王!」
夜の風が、黄金のマントを大胆に揺らす。
王は、オレは、独りで現場へと向かっていった——いつものように、すべてを守るために!!!
石畳を踏みながら、オレとサラとアレッタの三人は、夕食を終えたばかりの心地よい余韻をまといながら並んで歩いていた。
「しかし、さすが賢者の国って感じよね。道端の屋台まで魔道具仕込みとは……お菓子とジュースなんてどこでも買えるしね」
アレッタが感心したように見上げたのは、壁に設置された小さな棚。自販機だ。この国の硬貨を入れてボタンに触れると、温められたパイ菓子や冷えた飲み物が出てくる仕掛けだ。
「うむ、魔法というのは文化を変えるものだ。こういう発展を見るたびに、旅の意味が深まるな!」
オレが満足げに頷くと、サラもくすりと笑った。
平穏なやり取りが続く中、ふと、オレはアレッタに声をかけた。
「ところで、アレッタ。君は任務でここに来たのだったな? 詳しく聞かせてもらおうか」
「あれ、言ってなかったっけ?」
アレッタは視線を前に向けたまま、少し声を潜めて語り始めた。
「セイクリール神殿の内部に怪しい魔法使いがいたの。名前も素性もわからないけど……真っ黒なローブに、顔の半分を隠してる変なやつ。目が、赤くて、獣みたいだった」
赤い目、黒いローブ、顔の半分を隠している。
オレの脳裏に、あの研究室での男の姿がよぎる。
「……そいつを君が追ってきた理由は? ただ見かけたから、というわけではないのだろう?」
「簡単よ。そいつ、禁呪の記録にアクセスしていたから」
アレッタの声色が一段と硬くなる。ここでもやはり禁呪か。
「サラは当たり前のように知ってると思うけど、神殿の記録庫には、過去に禁忌とされた禁呪の理論の断片が保管されてるのよ。エルフしか使えない精霊魔法のものは流石にないけど……それでも、その断片は容易に触れてはいけないものなの。そいつはそれを盗み見ようとした。しかも、強い魔力干渉を残して逃げた。あれは普通の魔法使いじゃないわね。司祭たちも騒いでたわよ」
アレッタの顔色は怪訝だった。随分と大事だ。
「なるほどな……」
やはり、あの黒ずくめの男と繋がっているか。これは偶然などではないな。
オレが顎に手を当てて考え込みかけた、その時——
ドォォォォンッ!!
突如として、夜空に響き渡る爆音。
地面がかすかに揺れ、遠くで赤い閃光が夜の空を照らした。
「っ、何!?」
サラが驚いて振り返り、アレッタは腰の剣に手をかけて鋭く目を光らせた。
「今の、ただの爆発じゃない……魔力が混じってました!」
「こんな時間になんなのよ!」
「方向は……東区画の方か?」
オレはすぐに空を仰ぎ、煙が昇る方向を見定める。
「王様……!」
「ふむ、どうやら散歩はここまでのようだな。王の名において言おう、これは重大な事件だ! どんな闇よりも暗い底の見えない何かがオレたちを巻き込もうとしている!」
夜の静寂を裂くように、街のどこかで何かが始まったのは間違いない!
そう高らかに宣言したものの、オレはすぐに足を止め、ちらりと後ろを振り返った。
サラとアレッタは、わずかに顔を強張らせながらも、すぐに動こうとしていた。
だが、その頬はほのかに紅潮し、瞳もわずかに潤んでいた。
……ふむ。酒が回っているな。
普段は真面目なサラが少し浮かれていたのも、酒精のせいだろう。アレッタもまた、軽口の数が多かった。
いま無理をさせれば、足を引きずるように進むことになる。
ならば、決断は容易い。
「サラ、アレッタ、君たちはここで待て」
オレは静かに言った。
「えっ……でも、王様……!」
「ふはは、心配無用! 王はな、たとえひとりでも王なのだ。むしろ、ひとりの方が動きやすいこともある」
言いながら、マントを翻す。
酔った足で現場に踏み込ませることなど、オレの流儀ではない。守るべき者は、最前線ではなく“後方”に置くのが王の正しい在り方だ。
「君たちが動くのは、もしもの時だけでいい。王が戻らなかったら、思いきり心配してくれて構わん。それが役割分担というものだ!」
サラは唇を噛み、何か言いかけたが——
「……わかりました。気をつけてくださいね」
結局、そう言って小さく頷いた。
アレッタも「じゃあ、せめて戻ってきたら熱いお茶でも淹れてやるわよ。そもそもあんたが一番飲んでたはずなのになんで素面同然なの?」と気遣う言葉を残す。
ふっ、なんと優しいヒロインたち!
だが、彼女たちはまだ知らない。
王というのは、誰かの優しさを盾にしてこそ、真正面から全てを受け止められるものなのだ。
闇の中へと歩き出しながら、オレは一人、背筋を伸ばして呟いた。
「守るとは、背を向けて逃がすことではない! 信じて立たせることだ。そしてそのために、王は誰よりも先に前を走る! それこそが王!」
夜の風が、黄金のマントを大胆に揺らす。
王は、オレは、独りで現場へと向かっていった——いつものように、すべてを守るために!!!
0
あなたにおすすめの小説
異世界転生!ハイハイからの倍人生
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は死んでしまった。
まさか野球観戦で死ぬとは思わなかった。
ホームランボールによって頭を打ち死んでしまった僕は異世界に転生する事になった。
転生する時に女神様がいくら何でも可哀そうという事で特殊な能力を与えてくれた。
それはレベルを減らすことでステータスを無制限に倍にしていける能力だった...
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う
こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。
億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。
彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。
四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?
道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!
気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?
※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?
サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。
*この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。
**週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**
【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎
アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。
この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。
ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。
少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。
更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。
そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。
少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。
どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。
少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。
冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。
すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く…
果たして、その可能性とは⁉
HOTランキングは、最高は2位でした。
皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°.
でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )
インターネットで異世界無双!?
kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。
その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。
これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる