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4章 論理と感情を合わせる方法 編
ハーレムキングは闇を知る
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夜のイデアを駆け抜ける。
石畳を踏みしめながら、煙の上がる東区画へとオレは向かっていた。
普段の街路はすでに封鎖され、あちこちで警戒魔法が展開されている。
にもかかわらず、魔法の扱えないオレは隙を縫うように通り抜け、騒ぎの中心地と思しき一角へと辿り着く。
「……ここか」
建物の外壁は崩れ、黒煙が空へと立ち昇っていた。
辺りは静まり返っていた。
倒壊した施設の前に人影はなく、焼けた木と石の匂いが鼻を刺す。ここは確か廃工房だったか。地図に の隅に記載されていたな
何か事を起こすにはうってつけというわけだ。
「む?」
腕を組み瓦礫の山を見渡していると、王の過敏な耳に民の弱き声が飛び後できた。
「……助け……て……!」
くぐもった声が、崩れた建材の隙間から漏れてくる。
オレは即座に反応し、瓦礫を蹴り飛ばした。
すると、そこには瓦礫に押しつぶされそうになっている少女がいた。その上には少女を庇う少年の姿もある。共に血反吐を吐き、震える全身を堪えながら、かすかに開いた瞳がオレを見た。
「安心しろ。王が来た。死ぬには早すぎるぞ」
オレは少年と少女を肩に担ぎ上げ、素早く崩れた通路を抜けようとした——そのとき。
「君……その子を連れて、すぐ下がって」
背後から落ち着いた声が飛ぶ。
振り返ると、銀髪に黒衣を纏った青年が立っていた。救援に来た魔法使いだろう。
「王であるオレに下がれと?」
「うん。ここは危険だ。魔法陣の残響が残ってる。今下手な事をするとこの場に留まった魔力が暴走する可能性がある」
「ほう。だがまずはこの瓦礫の山をどうにかしなければ、残された者たちは炎に焼かれて死ぬぞ? 危険を承知で助けるべきではないか?」
オレは毅然と告げた。
青年は眉をひそめていたが、オレの目に気圧されたのか一つ息を吐いて手を上げた。
「瓦礫はオレが飛ばす。君は魔法で炎を消してくれ」
オレはそれだけ伝えると、次々と瓦礫を排除していった。その都度、瓦礫の下から声を聞き入れ、最短で全員を救出していく。
やがて、作業が終わる頃には、五人もの魔法使いを救い出すことに成功していた。
「……それで、オレは魔法にまるで明るくないからわからないのだが、青年、君は何かわかったことはあるのか?」
「これ、禁呪の痕跡だ。“死者蘇生”の一種……暴走してる。中心部の術者はおそらく自滅したと思うけど……」
「禁呪だと? しかも、死者蘇生?」
オレが唸ると、青年はちらりとこちらを見て、控えめに頷いた。
「この残留魔力、間違いない。死んだ肉体を、過去の状態に巻き戻そうとした痕跡がある。失敗すれば術者を肉体だけでなく、魔力すら崩壊するんだ。それが失敗の代償さ。この惨事は禁呪に触れた魔法使いの過ちが原因と見て間違いない」
術者は、命ごと吹き飛んだか。
オレには少し難解な話だったが、一つだけは理解できた。
「……要するに、死人を弄った末路だな。生きることを諦めた者にふさわしい結末だ」
オレは小さく頷き、救援した人々をそっと青年に預けた。
「では、後は任せる。王は王のやり方で、正義を通す」
そう言い残し、オレはふたたび闇に背を向けた。
黒煙の向こう、なお立ち込める気配。
——まだ、この夜は終わっていない。
石畳を踏みしめながら、煙の上がる東区画へとオレは向かっていた。
普段の街路はすでに封鎖され、あちこちで警戒魔法が展開されている。
にもかかわらず、魔法の扱えないオレは隙を縫うように通り抜け、騒ぎの中心地と思しき一角へと辿り着く。
「……ここか」
建物の外壁は崩れ、黒煙が空へと立ち昇っていた。
辺りは静まり返っていた。
倒壊した施設の前に人影はなく、焼けた木と石の匂いが鼻を刺す。ここは確か廃工房だったか。地図に の隅に記載されていたな
何か事を起こすにはうってつけというわけだ。
「む?」
腕を組み瓦礫の山を見渡していると、王の過敏な耳に民の弱き声が飛び後できた。
「……助け……て……!」
くぐもった声が、崩れた建材の隙間から漏れてくる。
オレは即座に反応し、瓦礫を蹴り飛ばした。
すると、そこには瓦礫に押しつぶされそうになっている少女がいた。その上には少女を庇う少年の姿もある。共に血反吐を吐き、震える全身を堪えながら、かすかに開いた瞳がオレを見た。
「安心しろ。王が来た。死ぬには早すぎるぞ」
オレは少年と少女を肩に担ぎ上げ、素早く崩れた通路を抜けようとした——そのとき。
「君……その子を連れて、すぐ下がって」
背後から落ち着いた声が飛ぶ。
振り返ると、銀髪に黒衣を纏った青年が立っていた。救援に来た魔法使いだろう。
「王であるオレに下がれと?」
「うん。ここは危険だ。魔法陣の残響が残ってる。今下手な事をするとこの場に留まった魔力が暴走する可能性がある」
「ほう。だがまずはこの瓦礫の山をどうにかしなければ、残された者たちは炎に焼かれて死ぬぞ? 危険を承知で助けるべきではないか?」
オレは毅然と告げた。
青年は眉をひそめていたが、オレの目に気圧されたのか一つ息を吐いて手を上げた。
「瓦礫はオレが飛ばす。君は魔法で炎を消してくれ」
オレはそれだけ伝えると、次々と瓦礫を排除していった。その都度、瓦礫の下から声を聞き入れ、最短で全員を救出していく。
やがて、作業が終わる頃には、五人もの魔法使いを救い出すことに成功していた。
「……それで、オレは魔法にまるで明るくないからわからないのだが、青年、君は何かわかったことはあるのか?」
「これ、禁呪の痕跡だ。“死者蘇生”の一種……暴走してる。中心部の術者はおそらく自滅したと思うけど……」
「禁呪だと? しかも、死者蘇生?」
オレが唸ると、青年はちらりとこちらを見て、控えめに頷いた。
「この残留魔力、間違いない。死んだ肉体を、過去の状態に巻き戻そうとした痕跡がある。失敗すれば術者を肉体だけでなく、魔力すら崩壊するんだ。それが失敗の代償さ。この惨事は禁呪に触れた魔法使いの過ちが原因と見て間違いない」
術者は、命ごと吹き飛んだか。
オレには少し難解な話だったが、一つだけは理解できた。
「……要するに、死人を弄った末路だな。生きることを諦めた者にふさわしい結末だ」
オレは小さく頷き、救援した人々をそっと青年に預けた。
「では、後は任せる。王は王のやり方で、正義を通す」
そう言い残し、オレはふたたび闇に背を向けた。
黒煙の向こう、なお立ち込める気配。
——まだ、この夜は終わっていない。
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