俺が悪役令嬢になって汚名を返上するまで (旧タイトル・男版 乙女ゲーの悪役令嬢になったよくある話)

南野海風

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150.悪役令嬢、はじめてのボスに遭う……

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 石造りなだけに頑丈だが、屋根も抜けているだけに、もはや建物と表するのも間違っているのかもしれない。
 朽ちる前は相当立派な教会だったらしく、外観も大きいが中も広い。小学校の体育館くらいはありそうだ。

 広いだけに、空虚さもすごいが。
 なんせ石畳の半分は、もう緑が侵食しているから。外見から想像した以上に滅びの手は迫っているようだ。

 備え付けられていたのだろう木製の長椅子は原型を留めておらず、木片となって散乱している。質素な金属製のシャンデリアは落ち、長年雨風を受けたせいで赤錆に覆われている。

 片方が落ちた正面ドアから入ったのだが、正面の壁に掛けてある聖ガタンのエンブレムに月光が降り注ぐ様は美しくもあるが……いや、やはり寂しさの方が強いな。盛者必衰というか。こんな立派な建物だけにな。
 そのエンブレムも壁伝いに生えたのだろう緑の蔦が絡み、かつては信者たちの祈りに満ちていた頃からすれば、見る影もないのだろう。

「な? なんもないだろ」

 そうだな。
 宿に困っている旅人でも一夜を過ごすのを躊躇うんじゃなかろうか。パッと見でそれくらいひどい有様だ。

 天井や壁や柱が崩れたのだろうガレキとか、かろうじて残っている椅子の形をした木片だとか、そんなのが目立つ。
 金目の物は本当に何もないな……強いて言うなら落ちてるシャンデリアか? 持てないほどデカいくせにさびまくってるからなぁ……運ぶ労力を考えたら持って帰りたいものではないなぁ。

「燭台もないですね」

 レンは、壁や柱にある痕跡を観察している。何かが設置されていた跡だ。レンが察した通りロウソクを立てる燭台があったんだろう。

 ――さて。

 床に積もった埃から見て、ここ最近誰かが入った痕跡は伺えない。そして至るところに散乱するガレキは、長年そこから動かした跡がない。

 やっぱり俺の予想通り、主人公アルカはここには来ていないってわけだ。

 ということは、きっと俺の目当ての物はある。
 今も足の下で、五百年ほど、探してくれる人を待っているはずだ。

 ――行くか! 本物のお宝を探しに!




 俺は、これから見つけるであろうアイテムを思い浮かべ、こみ上げてくる笑みを押し殺す。
 ゲーム通りなら、宝の前にはボスがいるからな。準備はしてきたし、そんなに強い敵ではないが、俺にとっては初ボスモンスターだ。そもそもを言うなら油断できるほど俺は強くないしな。

 まあボスのことはいいだろう。対策はしてあるし、レンもジングルも腕が立つ。あの程度のボスなら瞬殺できるだろうしな。

 ……じゃあ、やりますか。

「ねえ、ちょっといい?」

 色々見ている振りをして奥まで来て、目当てのそれを見つける。間違いなく行けることを確認してからレンとジングルを呼んだ。

「どうした?」
「何かありましたか?」

 正面から見て、左の奥である。夜空の明かりだけで見て回っていたが、ここで『照明ライト』を唱えて光源を生み出す。

 で、問題のこれだ。

「なんだこれ?」

 奥から二番目の柱の、足元である。一見なんの変哲もない古ぼけた石畳だが――今は『照明ライト』の明かりを受けて、文字が浮かび上がっている。

 ――これはサブキャラのイベントである。とあるサブキャラを連れてきたら、この仕掛けのヒントを出してくれるのだ。ちなみにこの石畳の仕掛けは、光魔法を当てれば文字が浮かぶようにできている。はずだ。

「古代文字ですね」

 まるで『照明ライト』の明かりに湖面が反射するかのように、光の文字が浮かび上がっている。だが生憎古い文字――具体的には五百年前の文字なので、さすがに読めない。

 レンもさすがに古代文字の知識はなかったようだが、普通にジングルが読み上げた。

「……『魔を祓う力を示せ。シャイン』だとさ」

 お、文面もゲーム通りか。つか密偵すげえな! 個人技量も知識量も半端ねえな!

「なあお嬢様、これなんでわかったんだ?」

 光属性の光源じゃないと浮かび上がらない文字である。これまで誰も気づかなかったのも無理はない。更に言えば、俺が見つけた時には、俺は『照明ライト』を出していなかった。
 ジングルが疑問に思うのも、当然と言えば当然である。

 でも、実は、事前のゲーム知識がなくてもわかるんだよな。むしろこっちのケースの方が予想外だったが。

「ここね、闇の魔力を感じるのよ」

 外のモンスターを狩り尽くしたおかげかもしれない。他に感じる相手がいないおかげで、微弱に発せられている闇の魔力がすごく目立つのだ。もし他に闇の魔力を持つ者が近くにいたら、紛れてわかんなかったと思う。

 元はゲーム知識として知っていたわけだが、これのおかげで、むしろ正統に知り得た形になったな。

「この闇の魔力を消せば、何かが起こるのかしら?」

 まあ、起こることは知っているわけだが。

「待て待て。何が起こるかわかんねーから、もう少し考えさせてくれ」

 あ? 考える? 何を?

「つーかシャインって誰だ?」

 その答えは俺も知っているのだが、答えたのはレンだった。先越されたわ。

「聖人シャイアの本名だったかと」
「そうなのか? へえ」
「意外ですね。古代文字は読めるのに、有名な偉人のことを知らないなんて」
「宗教関係は苦手なんだよ。俺は俗物だから神は信じねえ。本当に困った時は助けてくれねーからな」

 なんだよ、いきなりダルい系主人公みたいなカッコイイこと言いやがって。

 ちなみに聖人シャイアとは、聖ガタン教……光の神の一人であるガタンって奴を祖にした宗教だな。シャイアはそこのお偉いさんだ。死んだあと聖人と呼ばれるようになったみたいだ。
 更にちなみに、聖ガタンは光の女神と人気を二分するほどの有名な神様らしい。決してマイナーではないっぽいぞ。……アクロディリアはあんま詳しくないみたいだから情報量少ないな。これくらいしかわからなかった。

「じゃあこの文字残したのは聖人シャイアってことになるのか」

 そう、そしてだ。今度こそ俺が教えてやるぞ。

「聖人シャイアって、巡礼の旅をしていてこの付近で消息を絶ったんですって」

 これは本の受け売りだ。聖人シャイアがどうなったかとかは、明確なことは記録に残っていなかった。

 ……ゲーム知識で言うと、現在シャイアは俺たちの足の下にいて、五百年ほど誰か来るのを待っているんだけどな。

「この辺で消息を絶った聖人シャイアの書き置きが残っている、か……なんともきな臭い話になってきたな」

 きな臭いか。そうだな、怪しいっつーか不穏っつーか……とにかく平和な印象はまったくねえよな。
 でもジングル、今すげー楽しそうに笑ってるぞ。かなりワクワクしてんなこいつ。

「――『浄化の光フラッシュライト』」

 もう異論もなさそうなので、聖人シャイアの書き置きに従って、光る文字に潜んだ闇を祓ってみた。

  ガコン!

 建物どころかここら一帯まで揺らすような大きな振動が一回、そして教会の中央に落ちていたシャンデリアがガシャンと音を立てて半分沈んだ・・・・・
 すげえ。ゲームで知ってはいたが、体感するのと大違いだ。今の仕掛けで、部屋の中央の固い石畳が沈んで階段ができていた。

「お、隠し階段か」

 いそいそと嬉しそうに、ジングルがシャンデリアが沈んだ階段に近づく。

「おいおいマジかよ。古い埃の臭いじゃねーか。こりゃ完全に未調査部分だな、おい」

 そうでないと困るぞ。俺の目的はあくまでも宝探しだからな!




 ジングルの言った「古い埃の臭い」とやらは、同じくジングルの風魔法で吹き飛ばされた。
 奴曰く「長く密閉されてる場所には、まず新鮮な空気を送るんだ。ガスとか毒霧とか溜まってたらヤバイだろ」とのことだ。つーか換気だな。テンション上がってもやっぱり優秀である。

「よっと」

 少し待っている間に、ジングルが落ちたシャンデリアを引き上げた。俺とレンをロープで引き上げた時と同じ飛翔魔法らしい。

「やっぱり重力?」

 気軽に聞いた俺に、ジングルはかなり驚いた顔をしていた。

「…………」
「……何? まずいこと言ったかしら?」
「いや……ああ、うん」

 シャンデリアを階段の脇に置き、奴は頭を掻いた。

「こういう使い方は俺のオリジナルなんだ。気づいてる奴もいるとは思うが、おおっぴらには知られてない。秘密にしといてくれ」

 そうなのか……なるほど、多くの者が「飛翔魔法は飛ぶ魔法」と認識しているだろうな。風属性持ち本人さえ気づいていない者も多いだろう。でも実際は「物質の重力に作用している魔法」なわけだ。
 まあ俺も魔法の応用技術は秘密にしておきたいので、ジングルの気持ちはよくわかる。あまり言わないでおこう。

 しばらく風を吹かせて様子見し、俺たちは階段を降りた。

 ――そしてボスと遭遇した。




 ヤバイ。想像以上に怖い。
 階段を降りた先にある部屋の奥には、薄ぼんやりと光る奴がいた。

 はっきり言ってしまえば、ボスはスライムである。巨大なスライムだ。

 ドラ○エなんかでは一番弱いモンスターみたいな扱いだが、少なくとも「純白のアルカ」ではそんなことはなかった。まあ中盤くらいで出てきたかな。
 物理攻撃があまり効かない、弱点属性以外の属性魔法が効きづらいと、対策がないと手こずる相手だ。俺はゲームで物理ゴリ押しだったけど。

 でも本で読んだ限りでは、それなりに危険なモンスター扱いだった。まず大体のスライムが、物質を溶かす成分でできている。まあ酸的なものだな。獲物を溶かして栄養素として取り込む習性があるそうだ。逆に、栄養素として必要ない物質は溶かせないらしい。
 攻撃方法は、体当たりと身体の一部を飛ばして動きを封じる飛び道具。種類によっては魔法を使ったりもするそうだ。

 動きは遅いが、とにかく攻撃が全般危ない。体当たりは「ゼリー状の体内に取り込まれる」行為だ、一度取り込まれたら窒息死しても離さない。飛び道具は、まあ、顔に食らったらヤバイよな。目とかヤバイ。

 ――とまあ一般的なスライムのことを思い出してみたが、こいつはちょっと違う。

 色は深い赤紫。元は青かったのかもしれないが、今は大量の血が混じったかのような、どす黒いワインのようだ。
 だが、色も異様だが、もっと異様なのは、体内にある異物だ。

 骨、剣、槍、矢と、これまで食らってきたのだろう生と死の残骸をくわえ込んでいるのだ。ボコッボコッと粘着性の高い液体から気泡が生まれ、なんとも言えない紫の煙を吹き上げる。あの煙は完全に毒だな。

 もう誰がどう見ようと、完全に闇属性のスライムである。
 それも特大級に禍々しい。
 あれと比べれば、ゾンビなんかかわいいもんだ。マジでそう思う。真顔で「は?」って聞き返すレンくらい怖い。

 ――けどまあ、それだけならまだ、無理すれば「まあスライムだよね」で済むかもしれない。

 一番異様なのは、奴の頭上に、両手を広げた上半身のみの骸骨の幽霊が浮いていることだ。
 まるで糸を以て死のスライムを操っている死神か、あるいは我が子を抱きしめようとしている死の女神のように。

 …………

 序盤の終わりか中盤の頭のボスなんだが……なんか見た目的に話が違わね? リアルだとめっちゃくちゃ強そうじゃね? マジで怖いんだけど……




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