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149.小金を稼ぎ、次のステージへ……
しおりを挟む30回以上の『浄化の光』を使用した頃、ようやく呻き声だの蠢く影だの中身のない鎧の金属音などが聞こえなくなった。
「これで全部か?」
「気配はありませんが」
前衛二人が周囲を見回し、討ち漏らしがないか確認する。
「終わりだと思うわ」
『浄化の光』を使用しても、光るだけで魔力が消耗しなくなった。つまり魔法の効果対象がいなくなったってことだ。意外と広いんだよ、この魔法の射程距離。
「……はあ。疲れた」
ジングルの気が抜けた。……と見せかけて、こいつのことだから臨戦態勢は解除していないんだろうな。
「おいお嬢様、いちいち気が抜ける言葉付け加えんのやめろよ。あれなんか意図あんのか?」
意図だと? そんなのない。強いて言えばノリ。あまりにも『浄化の光』の効果が現れすぎて楽しくなっただけだ。
「なんのことかしら? 幻聴じゃない?」
「いや完全に言ってたよ。『炭酸効果の○ブが効く』とか。バ○ってなんだよ。『ストロングはニホンだけ、ゼンベイよ泣け』ってなんだよ、『特に子供は泣け』とか」
うるさいジングルは無視だ。
時間にすればわずかだったと思うが、とにかくモンスターの数が多かった。俺も途中二回ほど「魔力水」で魔力を回復し、時々追加で「聖水玉」を使用したりした。
局所的にしか用途が見つからない『浄化の光』だが、特化しているせいか効果は絶大だった。九割くらいのモンスターはこれで消したと思う。
が、効果がなく消し漏らしたモンスターもいた。
特に中身の入っていない動く鎧「リビングアーマー」は結構強敵だったらしく、レンもジングルも何度か打ち合っていた気がする。
あと地味に嫌だったのが「コールドウィスプ」な。物理攻撃効かないし、目の前をちょろちょろするから鬱陶しかったな。俺んとこにも飛んできたしな。
「狙い通り、色々落ちてますね」
俺たち以外に動くものがなくなった今、ようやく落とし物を拾う間ができた。ここら一帯のモンスターは狩り尽くしたので、やっと目的の行動に移れそうだ。
「照らすわよ」
一応魔物が嫌がって近寄りづらくなる「聖水」を周囲に振りまき、少々大きめの『照明』を宙に浮かべ、俺たちは栗拾いがごとく落ちているアイテムを集めるのだった。
おびただしい、という言葉がよく似合う。
ゾンビなどの腐肉系も、スケルトンなどの骨系も、動く鎧系も、肉片骨片金属片一つ残さず光の粒子に変えてやったので、そこらに死体らしき肉が散らばっていることはない。
レンやジングルが倒した奴にも『浄化の光』が効いたってのは嬉しい誤算である。さすがに正体不明の肉片などからアイテムを探るってのは、かなり抵抗があるからな。
だから地面は結構綺麗なものである。血の跡さえ消し去ったみたいだしな。穴が空いていたりデコボコしていたりするが、新しいのが這い出てくる気配もない。
だがこの一帯を照らし出して見ると、おびただしいほど色々なアイテムが落ちていた。正直、これからこれ全てを拾う身としてはうんざりするほどに。
むしろ戦っている時間より、落ちているアイテムを拾い集める方が、時間も手間も掛かるだろうという有様だった。
「いって……」
ずっと中腰だった腰を伸ばせば、バキボキと腰と背骨が鳴った。結構拾った気がするが、まだまだ沢山落ちてるな……まるで名門テニス部の一年生のような作業である。
うんざりしている俺だが、対象的に奴らは非常に元気だった。
「――おいマジかよ。『さびた鉄の剣』だけで30個突破したぞ!」
「――こちらは『青の炎核』だけで同じ個数あります」
ジングルとレンはすごく楽しそうだ。……金に対する意識と執着心が違うってことなんだろうなぁ。それこそ冒険者にとっては宝探しにも等しいのかもしれない。
えーと、「さびた鉄の剣」は「リビングアーマー」の落とし物で、重量があるのでジングルが集めている。
レンの集めている「青の炎核」は野球ボールくらいの青い玉で、触ると冷たくて熱いという不思議なアイテムだ。これは下手すると火傷するからとのことでレンが集めている。水属性の魔法で緩和できるそうだ。
そして俺は、なぜかゾンビ系が持っている「薬草」や「毒消し草」や「黒犬の牙」といった物を集めている。なんでゾンビが束の「薬草」なんて持ってんだろうな……しかも綺麗な奴を。モンスターって不思議だなぁ。
ちなみに「黒犬の牙」は闇属性の攻撃魔法の効果があるっつー使い捨て攻撃アイテムだ。
――そんなこんなで、だいぶ時間は掛かったものの、ようやくアイテムを拾い尽くした。……と、思う。少なくとも見える範囲には落ちてない。
「結構ありましたね」
「だな。正直、予想よりかなりの儲けになりそうだ」
大きめの麻袋をいくつか持ってきたが、すでに容量ほぼMAXだ。ぶっちゃけ持ち運べないレベルの重量になっている。まあ触れていれば「帰還の魔石」で一緒に持っていけるらしいから、なんとかなりそうだが。
モンスターの数が想像以上に多かったのだ。ドロップ率アップの装飾品も、もしかしたら効いたのかもしれない。
拾得物の内容や数を報告しあうと、ざっと計算したジングルがニヤニヤし出した。
「すげえな。捨て値でも60万は行きそうだ」
え、マジで!? そんなに行くの!? 捨て値でもってことは、それ以上になることはあってもそれ以下にはならないってことだよな!?
……こっちはあくまでも建前の「宝探し」なんだが、なかなかの稼ぎを叩き出してしまったようだ。
まあ、これはこれでいいか。
「ちなみにお嬢様、これどう分けんだ?」
お? 儲けの分け方?
「もちろん換金して三等分でしょ。均等に」
「マジか。リーダーだから半分持ってくとか使用人にはやらないとか、そういうの無しか」
「あたりまえよ。むしろあなたたちと比べて未熟だから、なんて言われてわたしの分け前が減る可能性の方が高い気がするわ」
なんて言ってはみたものの、俺あんまお金欲しくないんだよな。レンが受け取るって言うならそのままレンに渡したいくらいだ。あ、俺の分け前で準備に使ったアイテム代は補填したいな。パパに「無駄遣いしてる」とか言われたくないし思われたくもないし。
「不満?」
「いや。自分の使用人にも分け前をやるって貴族は珍しいと思っただけだ。俺は嬉しいよ。俺もある意味では使用人だからよ」
あ、密偵だもんな。ジングルの場合は王族の使用人ってことになるのか。
「よかったな、優しい主人で」
「…………」
おい。なんか言えよレンさん。話し振られてるぞ。冷めた目で俺を見るなよ。……ご、ごめんなさい……なんかよくわからないけどすいません……
「……おまえらなんかあったの?」
「いえ。少々いつもの主人っぽくないなと思ったもので」
あ……アクロディリアらしくしろってか。そうか、そうだな。すっかり忘れてたわ。
「きっと冒険に出ている緊張感のせいでしょうね。そうですよね、アクロディリア様?」
「そうよ! わたしは緊張しているのよ!」
…………
ほらー。急にそういうこと言うから不自然になっただろー。俺意外と気の利いたコメントとかできないんだぞー? ……ごめんよー。もう忘れないように気をつけるよー。はしゃいでごめんよー。
まあ、なんだ、とにかく三等分で文句がないならなんでもいいか。
――それにしても、計らずとも分け前の話ができたのは、むしろ好都合だったかもな。
「え? 中見るのか?」
なんだか微妙な空気になったりもしたが、気を取り直して俺は言った。
「教会の中も見たい」と。
遠目にはわからなかったが、ここからならよく見える。
かつて神の家だった教会は、完全に廃墟と化しているようだ。かつては綺麗だったのだろう岩壁もところどころ崩れていたり、屋根に穴が空いていたり宗派を表すエンブレムが折れてぶら下がっていたり、正面入口の木のドアが片方外れていたりと、見れば見るほどボロボロである。この外観では中の惨状も想像がつく。
「せっかくここまできたんだし、一応見ておきたいわ。どうせあとは帰るだけでしょう?」
「マジで何もないけどいいのか?」
そりゃ五百年もこんなんじゃ、野盗は入るわ冒険者は入るわで、金になりそうな物は何もないだろうな。まあたとえ金目の物が残っていたとしても、年月が価値を奪い去っていると思うが。……貴金属なんかは問題ないのかな?
「覗くだけよ、覗くだけ」
――中に行かないと話にならないからな。
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