俺が悪役令嬢になって汚名を返上するまで (旧タイトル・男版 乙女ゲーの悪役令嬢になったよくある話)

南野海風

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157.父の想いが重いのです……

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「君は何をしているのかね」

 レンの忠告を聞いて不安になった俺は、急遽フロントフロン家じっかに帰ってみた。確かに「世間には隠す気でいるけど大事になる可能性もある」と思えたからだ。
 今日は家にいたパパに時間を作ってもらって、例のパパの私室でここ数日の報告をした。

 で、返ってきた言葉が「何をしている」の一言で、表情は困惑と呆れとを兼ねた、元の渋さに問題への抵抗感を重ねた超渋い顔だ。
 怒ってはいないと思うが、すごく呆れているのは確かだ。……呆れてても渋いな……

「ふむ……聖ガタン教会の上の者たちが密かに王都に向かっているのは、そういう理由からか」

 きっとパパの密偵も学校にいるのだろう。俺の監視と護衛と情報収集に。でもさすがに冒険中の細かい動向までは追えていないようだ。
 更に言うなら、よっぽどの大事件でもない限り、報告はリアルタイムでは行われないみたいだ。なんせ冒険に出たこともパパは知らなかったみたいだから。

「もうすぐ公式に発表されると思います」

 すでにお偉いさんたちが動いているなら、もう確定だな。あの遺体は聖人シャイアということで公表されるだろう。

「聖人の遺体の発見であるなら、大掛かりな式典となろう。まあそれ自体はあまり関係ない……と、思ったが、そうでもないのか」

 え? 

「フロントフロン家も、聖ガタン教会に何か関係が?」
なかったよ・・・・・。領内にも聖ガタン教会はまだないからな。そう、なかったんだ・・・・・・

 …………

「まさか……俺ですか?」
「第一発見者だからね。無視はできまい」

 ……お、おお……そういうことになる、のか……

「一応、その時の仲間に全部任せたんですが。フロントフロン家の娘が関わったことは秘密にするよう頼んでいますが……」

 ジングルにな。旧金貨のことも合わせてな。

「そうか……ならばその仲間は随分上手く立ち回っているな。こちらまで情報が来ていないとなると、聖ガタン側にも漏れてはいまい」

 ほう……まあジングルは国の密偵だからな。機密情報の扱いはすげー厳重だろうしな。

「よし、ではこの件については傍観することにしよう。フロントフロン領と関わりを持ちたいのであれば、聖ガタンから接触があるはず。私はどちらでも構わん」

 ……よかった。とりあえず「歴史の発見」は、パパ的にはそんなに重要ではなさそうだ。




 二度三度とこうして話している内に、パパの怖い顔にも威圧感にもだいぶ慣れてきたように思う。
 特に、「どういう人なのか」が少しわかったのが大きい。

 アクロパパ――ヘイヴン・ディル・フロントフロンは、とても理性的で地底で合理主義だ。こうして普通に対話できている内は、何かする気はないだろうと思う。

 これが、報告を聞くのみで自身の意見を言わなくなって、会うのを渋るようになったら……おお怖い! これ以上は考えないようにしよう!

「で? 次はなんだったかね?」
「宝探しです」

 しばしの間を置いて、パパは重苦しい溜息をついた。

「ヨウ君……君はあれかね? 隠す気がないのかね? 天使といい宝探しといい、貴族の娘としてやってはいけんのかね?」

 いやあ、へっへっへっ……

「辺境伯も好きでしょ? お金」

 ゲスな笑みを浮かべる俺、つーか娘を見て、パパは再び溜息をついた。

「考えたこともないな。金など好きか嫌いではなく、必要か必要じゃないかではないかね?」

 お、おう……なんという為政者っぽい発言。パパに言われると響きが重いな。思い切って冗談飛ばしたのに、真面目に返されたわ。……まあ無視じゃないだけまだマシか。

「そもそも宝は見つかるのかね? 簡単に見つかるものではあるまい」
「たぶん大丈夫です。できる限りの調べは付いてますし、明日中には見つけたいと思っています。長引けば予算も掛かりますから、見つかろうが見つかるまいが早めに切り上げます」

 キーアイテムである「真眼のルーペ」は俺が持っている。そしてちゃんと機能するかどうも試したし、調べてある。
 試行と調査結果を見ていて、レンも確信したくらいだ。きっと見つけることがだろう、と。

 ……なかったらみんなに謝るさ。

「そうか。まあいい。好きにしろと言ったのは私だ、君は君の正しいと思うことをすればいい。これまで通りにな」
「ありがとうございます」

 よかった。許された。もしダメって言われたら、俺は行かずに俺の代わりはレンに任せようと思っていたんだけどな。……つーか冷静に考えるとパパの決断ってすげえな。事は俺が考える以上に大変な気がするんだが。

「して、第一王子も同行すると?」
「はい。もしかしたらラインラック王子も行くかもしれません」

 パパは顎を擦り、何かを考え、そしてそれを口にした。

「ヨウ君。その宝探し、クレイオルも連れて行ってくれんか?」
「え? ……弟?」

 ちょっと予想できない発言だった。

「表沙汰になるかどうかはわからんが、もし歴史に残る大発見であるなら、君よりクレイオルが残った方が都合がいい。君にとってもその方がいいと思う」

 えっ、と……

「後継者問題を揺るがすから?」
「それに加えて、貴族の娘が宝探しに乗り出した、という不名誉を回避するためだ。兄弟で参加していたとなれば、『弟の付き合いで同行した姉』という形で誤魔化しも利く。これも君にとってはマイナスにはならんだろう」

 そうだな……別に目立ちたいわけでも、歴史に名を刻みたいわけでもない。フロントフロンの後継問題なんて波風は絶対に立てたくないし、弟に恨まれるのも面倒臭い。
 むしろこの件でうまくやれば、「おねえちゃんは後継問題に興味ないよ」と主張しつつ弟の背中を押す、という意思表示ができる。

 後継とかマジで興味ないし、マジで興味がないことなのにチクチク嫌味言われるのもマジで鬱陶しいからな。この先付き合いがあるかどうかはわからないが、弟に安寧をくれてやるのも悪くない気がする。

「いいかもしれませんね。俺に不都合はないです。キルフェコルト王子に話してみます」
「いいかね? 多少嫌がる素振りを見せてもねじ込むように」

 お、おう……いざという時は強引に行くんすね、パパ。




 これから弟に手紙を書き、王都へ行くよう指示を出す――という手紙を目の前で書いているパパに、そういえばと気づいたことがある。

「見つけた宝ってどうしましょう? 骨董品とか美術品に興味あります?」

 基本的に換金して分配って形になるとは思うが、物としては二百年以上前の貴重品の類だ。骨董的にも美術的にも価値があると思う。
 そして、得てして貴族はそういうのが好きだという俺の先入観からの疑問である。アクロディリアもアンティーク調の調度品とか好きみたいだしな。

 さらさらとペンを走らせながら、パパは答えた。

「私には美的センスがない。その上、物欲も薄い。金銭の方がはるかに扱いやすいな」

 あら意外。

「違いのわかる男臭がすごいですけど」

 というか、こだわりか。このブランドのスーツしかしないとか、コーヒーはレギュラー以外飲まないとか、タバコじゃなくて葉巻とか。腕時計……ああ、この世界なら懐中時計のコレクションが趣味とか。

 そんな俺の妄想を、パパは鼻で笑い飛ばした。

「わかる振りをしているのだよ。芸術などは特にな。自信があるのは利き酒くらいだ」

 ――身につけている物も父親が遺したものだしこれで不満もない、とペンを置く。

「気が向いたら妻に何か持ってきてくれ。価値は問わん。記念になるからな」

 封筒に入れ、封をし、裏にサインをする。これで弟を呼び出す手紙の完了だ。

「ハウルに渡してくれ。君はこのあと王都に戻り、クレイオルからの連絡を待ってくれ。恐らく夕方になるだろう。できればその間に殿下と打ち合わせをしておいてほしい」

 この手紙を第一執事ハウルに渡す。
 俺は帰る。
 できればキルフェコルトに話を通してから、夕方来るであろうクレイオルからの連絡を待つ、と。

「わかりました」

 レンの言う通りだった。話してよかったな。こういう采配があるとは思わなかった――ん?

 手を伸ばし、手紙を受け取ろうとした右手を、パパに掴まれた。え、何? 何?




「――これくらいの功績で娘を貰えるとは思わんでくれよ?」

 …………

 ……こええ……全然そんな気ないのに、超すごまれたんだけど……

 予想外にも合う機会があったので、ママの体調やら天使が消えた後の街の様子とかクレーク大叔母の話などもしたかったのだが、俺は今回も逃げるようにパパの私室を飛び出すのだった。




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