俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?

八神 凪

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特別編

メリークリスマス!

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 「さて、大木はっと……あ、へっくん、今日もお掃除ご苦労様!」

 ざっ……ざっ……

 「! ~♪」

 芙蓉が入り口に出て声をかけたのは、箒で器用に枯葉を集めているヘレ・クヴァーレこと、ハニワゴーレムのへっくんだった。芙蓉やトレーネに気付き指の無い手をぶんぶん振っていた。ちなみに大きさは165ccm。カケルが番犬代わりに大きくしてみようと、魔法で大きくなったのである。基本的に座ってお茶を飲んでいるか、こうして庭の掃除をしているかのどちらかをして過ごしている。

 「……三角筋と箒が似合うハニワゴーレムというのも凄いですね」

 「自慢のへっくん」

 「~♪」

 ティリアが訝しみながらへっくんを見て呟くと、トレーネが胸を反らしてドヤ顔をし、へっくんが恐縮して照れていた。

 「ま、食費も要らないし衛兵としては最高よね。じゃ、木にオーナメントをつけましょう! カケルが料理を作ったらここでテーブルを広げてもいいわね。人数結構いるし」

 「それじゃへっくん、テーブルを用意して」

 「~!」

 トレーネに指示され、ビシッと敬礼をするへっくんは城へ突撃していく。

 「ボク達は飾りつけだね!」

 「うん! これルルカお姉ちゃんが作ったの? きれいー……」

 アニスが木に玉やリンゴのオーナメントを飾りながらうっとりとする。そこで独り言のように芙蓉が口を開いた。

 「この世界でクリスマスが出来るとは思わなかったわね。後はプレゼントだけど、これは間に合わないから来年かな?」
 
 「プレゼント、ですか?」

 飛んで金の星を木のてっぺんに飾るティリアが下にいる芙蓉へ尋ねる。

 「そう、クリスマスは――」


 ◆ ◇ ◆


 「おし、これくらいでいいか」

 「……作りすぎじゃないかのう」

 「いや、これくらいでいいのさ。ちょっと考えがあってな」

 「まあ、クロウとティリアがおれば消化はできるか。ん? 噂をすれば何とやらじゃな」

 メリーヌがフフっと笑い、厨房の入り口に目をやると、クロウが立っていた。

 「おう! お帰り! いつからそこに居たんだよ、声をかけてくれればよかったのに」

 「もう少しで終わりそうだったからね。元気にしてたかい?」

 「そりゃ俺のセリフだっての。お前とアニスも元気にしてたか?」

 俺がそう言うと、急におかしくなり、ぷっと吹き出す俺達。

 「ははは、カケルはやっぱりカケルだ。うん、ありがとう、おかげでケガも無く旅をしているよ」

 「なら良かった。少しは滞在できるんだろ?」

 「折角、自分の部屋があるしね。これもらうよ、お腹すいててさ」

 俺が聞くと、クロウは頷き皿に乗っていたから揚げをつまみ食いする。体は大きくなったけど、こういうところは変わらないのが嬉しい。

 「今からパーティだ、たんと食って疲れを癒してくれ。そういやアニスはどうした?」

 「アニスは芙蓉さん達に連れて行かれたよ。何か準備するんだって?」

 「うむ。クリスマスツリーとかいうのを作るらしい。どれ、わしらも行ってみるか?」

 「そうだな。その後に――」

 と、俺達が厨房から出ると、ガタガタと音を立ててテーブルを持つへっくんを見かけた。

 「お、へっくんどうした、テーブルなんか持って」

 「~! ~、~」

 身振り手振りで教えてくれるがさっぱり分からん。

 「たまに見ると若干怖いな……」

 「そう言うな、割と子供に人気なんだぞ? とりあえず付いて行ってみるか」

 へっくんを追跡すると、入り口に出て行く。そこにはキレイに飾りつけされた大木が。どうやら持っていたテーブルはここに集めていたらしい。

 「あ、カケルさん! お久しぶりです!」

 「カケルおにいちゃーん!」

 「ティリアにアニス! 久しぶりだな。アニスは少し大きくなったか? ティリアは大人っぽくなったな」

 「うん、結構伸びたんだよ!」

 「あ、ありがとうございます……その、カケルさんはもう奥さんって要りませんか?」

 「はあ? 何言ってるんだお前」

 「いえ……その、お見合いやら戦いを挑んでくる男の人に出会うことが多いんですけど、カケルさんよりいい人ってなかなかいなくて……」

 「高望みしすぎじゃな。ウチの旦那はやらんぞ」

 「うんうん。ティリアはアピールが足りなかったよね。大食いばっかりしてたし」

 「うう……せめて子供だけでも……」

 ルルカやメリーヌに肩を掴まれどこかへ引っ張られていく。大食いはヒロインになれない……そういう統計があったりなかったりするんだ、ティリアよ。

 「はあ……」

 「どうしたクロウ?」

 「いや、本当はカケルに修業の成果を見せたかったんだけど、そう言う雰囲気じゃないなってさ」

 「そうだなあ。俺も気になるけど、また明日にするか。さて、それじゃ俺はちょっと行ってくる」

 「どこに?」

 「メリーヌ、悪いけど料理はここに運んでおいてくれ、大広間と考えていたけど、こっちの方が楽しそうだ。寒いけどな!」

 「なあに、わしが魔法で焚き火を作っておくわい」

 「それじゃ招待客を呼んでみますかね! ≪歪曲転移≫!」

 俺は浮遊感を覚えると、すぐに目の前の景色が変わる。



 「ふう、寒くなって来たな……暖かくしておいてくれ、子供に影響があるかもしれないし」

 「心配性ねグランツは。大丈夫、お母さん達もついているしね! トレーネは元気かしらね」

 「まあカケルさんと結婚したし、本人はそれだけで満足だと思うよ。たまにしか会えないのは寂しいけど――」

 「いいえ、そんなことはありません」

 俺が転移を終えると、グランツの部屋にある俺の壊れた槍の片割れのところへ降り立つ。

 「きゃああああああ!? 強盗!」

 「ま、待て落ち着けエリン! ……か、カケルさん!? どうしてここへ……」

 「俺の転移魔法はAとBの対になるアイテムがあれば移動可能なんだ。お前に壊れた槍をやったろう? あれのおかげだ」

 「な、なるほど……相変わらずすごいですね……顔を見に来てくれたんですか? ちょうどそんな話をしていたんですよ」

 「びっくりするわ、本当に……でもお久しぶりです!」

 グランツがとても嬉しそうな顔で言うと、エリンも笑顔で迎えてくれた。冒険者は借金を返し終えた時点で止めるつもりだったので、今は生まれ育った村で静かに暮らしているらしい。

 「今年からアウグゼストでイベントをやろうと思ってな。それの招待に来たんだ。ほら、お前達、掴まれ」

 「え、あ、はい……」

 「こう?」

 「いよっし行くぞ! ≪歪曲転移≫!」

 フッとまた浮遊感を覚え、俺は庭へと到着する。この場合、イメージするのは嫁達と俺についている結婚指輪で転移していたりする。

 「兄貴! エリン!」

 「トレーネ! あ、綺麗な木……パーティってあれ?」

 「そうだ! 芙蓉達にレクチャーしてもらってくれ! どんどん行くぞ! ≪湾曲転移≫!」



 「レリクス様、ソシア様、ご夕食の準備ができました」

 「ありがとうペリッティ。すぐにいきますね。レリクス、ご飯ですって」

 「ちょうどお腹が空いて来たところだし、行こうかソシ――」


 「はいはーい、三名様ご案内ー!」

 「あが!?」

 「あ、すまんレリクス!?」

 どうも渡したボールペンを身に着けていたらしく、俺はレリクスを踏み台にしてしまった。

 「な!? お前はカケル!? どうしたんだ一体。国王があまりウロウロするもんじゃないと思うけど?」

 「お久しぶりです」

 「おお、綺麗になったなあソシア。ちゃんと結婚生活してるのか?」

 「もちろん! カケルみたいに四人も五人もいないけどね。で?」

 「話は後だ、とりあえず掴まってくれ」

 「はい」

 ペリッティが頬を赤らめて俺の背中にくっついてくる。

 「うん、いい感触だ。行くぞ!」

 レリクス達を送り――

 「ドラゴン達の餌やりは終わりかな?」

 「そうねクリューゲル。次は私達もお夕食を――」

 「その夕食っちょっとまったぁぁぁ!」

 「いやあああああ!?」

 「賊か! 成敗する!」

 クリューゲル&シエラを拉致。


 「おおお! カケル兄ちゃんだ! 結婚してくれるのか!」

 「お金持ち……」

 「美人になったけどそれはルルカ達に言ってくれ……」

 「わたくしをお忘れになっていませんこと!?」

 ユーキとノーラとたまたま遊びにきていたレムルを連れ――


 「わーい! カケルさんだ! やっと遊びにきてくれた!」

 「おう! ティリア達もいるぞ!」

 チェルを巻き込み――

 
 『カケルか。久しいな、どうした?』

 「ああ、カケル様……このユリム、ずっと待ち続けておりました……!」

 「あ、俺もう結婚してるぞ?」

 「そんな!?」

 『で、どうしたのだ今日は?』

 「ちょっとパーティにご招待だ!」

 バウム一家を連れて行く。


 その他、俺と関わった人達を次々とアウグゼストへ連れて行き――



 「ちょっとやりすぎじゃない……?」

 「ま、まあ、たまにはいいじゃないか賑やかなのも」

 芙蓉に怒られた。それでも、みんなの顔を見ていると悪かったとは思わない。


 「ニド達も元気そうだね」

 「おお、グランツ! お前のところの方が子供先にできそうだよな――」


 「クロウ! どうだ、この後一戦」

 「明日なら受けて立つよ、ベアグラートさん」

 「王、自重してください……」

 「ははは、ドルバックさんも大変だね」



 「アニスゥゥ、助けてくれ!?」

 「ギルドラおじさん、まだ生きてたんだ……」

 「酷くない!? あ、クリーレン様、止めてくださいませんかね!?」

 「んふ、奥さんをほおっておいて若い子にいった罰ねぇ」



 「リファ……」

 「ティリア……」

 「ま、まあまあ、いい人が見つかるよその内……」

 「「ルルカはずるい!」」

 「ひい!?」



 文字通りお祭り騒ぎ。俺は感無量で頷くと、メリーヌが王からひとこと頼むと言われ、俺はちょっと高いところへ立つ。

 「みんな、今日は集まってくれてありがとう!」

 「「「「お前が拉致ったんじゃないか!?」」」

 「いや、パーティって聞いて折角だからみんなも居た方が楽しいかなと思ってな……知っている人は知っていると思うけど、何とか無事生還できて、この国を立ち上げることができた。俺みたいな適当な男が王ってのは……あ、おいユーティリア、お前が推薦したくせに何頷いてるんだ!? ……コホン、まあ何だ、このイベントは今後この国で毎年やると思う。クリスマスというイベントなんだけど、来年も元気に集まってくれたらうれしい! メリークリスマス!」

 「メリークリスマス!」
 
 「って言ったら行ってくれ」

 ガタガタとあちこちでこける人達。そして再びパーティは再開され、芙蓉やルルカ達も色んな人と交流し楽しそうだ。

 だけど――

 「……本当は足りないんだよな」

 <お姉さまたちのことですね>

 俺の頭にミニレアの声が響く。

 「そうだ。ま、俺と芙蓉を助けるために仕方なく消えたからな……」

 ずっと一緒にいたから寂しい気持ちは強い。そこにふらふらと歩いてくる人影があった。

 「カケル君、見てくれ! 新しいボディを作ったよ。今度は人間ぽくみえるだろ!?」

 以前、ナルレアのボディを作ったヒッツェさんだった。

 「おお……すごいなこれ……」

 <ミニレアには大人っぽすぎて入れないです!>

 「早速試してくれ!」

 「いや、それが……」

 俺が何て言おうか悩んでいたその時、不思議なことがおこった――

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