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特別編
最後のプレゼント
しおりを挟む『どうやらディクラインさんとアイディールさんも無事、この世界で暮らしていけそうですね。元の世界への帰還は果たすことはできませんでしたが、どうかお元気で』
「生きてなんぼの人間だ。それだけでも感謝してるよ。ま、その代わり死んだらイロつけてくれると嬉しいけどな」
『ふふ、考えておきますね。アイディールさん、元気な子を産んでくださいね』
「ありがとう。女の子みたいだから名前も決めてるのよ」
『それは良かったです。では、わたしはこれを最後にもう手助けすることはできません。お二人の力で生きて行ってください』
「ありがとな、ノア。カケル達によろしくな。最後の言葉が遺言にならなくて本当に良かったぜ」
「そうね、ペンデュースに行って自分達の末路のことを伝えてだなんてそんな役目嫌だったしね……あ、ディクライン、ルーナがお腹を蹴ったわ」
「お、元気だな! 流石は俺達の子だ!」
『ふふ、確かにそうですね、それでは行きます。いつかまた見守る神が現れるその時まで、人間の力で復興を……』
ノアは二人の前から姿を消すと、白い空間に戻ってくる。
あの戦いの後、アウロラとエアモルベーゼが居なくなったことためどうするのかと、最高神へことの経緯を話すと、
『あ、そうなの? まあ、そういうこともあるわよ。この前もオルコスってやつがルールを破って大変だったんだから。じゃあノア、ペンデュースはあなたが引き継ぎなさい』
軽いノリで引き渡されたのだった。
『憧れの世界持ちになったけど、やっぱり大変ね……カケルさん達が生きている限りは大丈夫そうだけど……あれ? カケルさんのところに空間のゆがみ……?』
◆ ◇ ◆
<ここは……私は消えたはずじゃ……>
<そう、あの時カケルに全てを託して消えた……と思ったでしょう?>
<あなたは?>
<私は私を『渡り歩く者』と呼んでいるわ>
<渡り歩く者……私はどうなってしまったのでしょう? 殺るならさっさとして欲しいんですが>
ナルレアが首を傾げながら相変わらずの毒舌を吐くが、意にも介さず渡り歩く者が口を開く。とは言っても影みたいなものではあるが。
<フフ、あの冥界の門の中にいた魂の一つ、そしてナルレアと名付けられた者、私の分身でもあるあなたをすくいあげたのは他でもない、あの世界へ戻すからだ>
<……!?>
その言葉に三回は驚くナルレア。自分は確かに魂の一つだった記憶はある。だが、ペンデュースについてからはカケルのスキルとしての役割しかなかったはず。
<そう訝しまなくていい。カケルの死にたくないという想いを感じとったお前は私と共にカケルに取りこまれた。そこにはお前の強い想いもあったからできたことだ>
「ウ、マレ、タカッタ……ソト、イキタイ……」
<……>
<結局こうなってしまったわけだが、後悔はないのかい?>
<もちろんです。カケル様はもちろん、芙蓉様にティリア様、ルルカ様にリファ様、メリーヌ様にクロウ君、アニスちゃん……私はあの短い間で、たくさんのものを貰いました。十分です>
<そうか>
<はい>
ナルレアと渡り歩く者が、そう問答を終える。すると渡り歩く者が、ポウ、と、鏡のようなものを映しだした。
<カケル様、ご無事でなにより……芙蓉様も……おや、あれは?>
<ナルレアが居ると思って作ったらしいよ。どうやらあそこではクリスマスとやらをやっているらしい>
<そう、ですか……>
<戻りたいかい?>
渡り歩く者が気軽に言うと、ナルレアは驚いて振り向く。しかし、すぐに俯いて首を振る。
<それは……できません……カケル様のお姉様は死んだまま……私だけ戻るなど……>
「いや、いいんじゃない?」
<え!?>
驚いてばかりのナルレアが顔をあげると、いつのまにやら目の前にカケルの姉、逢夢が立っていた。
「私はほら、地球ですでに死んでいるしね。だから戻れないのよ。体も無いし! ……私の代わりに、カケルをお願いできないかな? 国王とか荷が重そうじゃない?」
あはは、と笑う逢夢にナルレアが近づいてぎゅっと抱きしめる。
「おっとと、私にそんな趣味は無いわよ?」
<ごめんなさい……ありがとう……ございます……>
ナルレアがそう言うと、逢夢は静かに微笑んで、背中をポンポンと叩いた後、フッと姿を消した。
(頼んだわよ! ほら、あんたからも芙蓉ちゃんのことお願いしなさいよ影人)
(ふん、なぜ私が……くそ、カケルなんぞと結婚しおってからに……そうだ、子供として転生させてもらえれば芙蓉の愛は私のもの……!)
(気持ち悪……死ね!)
(ぐあああああ!?)
<……で、どうするの? クリスマスは良い子にプレゼントがあるらしいわよ?>
<ふふ、意地悪ですね……あなたは一体?>
<私は私を渡り歩く者と呼んでいる。それ以外には何も無い。人間の強い想いがあれば、私はどこにでも行くだろう>
ナルレアが頷くと、渡り歩く者はさっと手を翳し――
◆ ◇ ◆
「……そうかあ、居なくなってしまったのか。あの時色々言われて悔しかったから作りなおしたんだがね」
「ありがとう、それはウチで預かっていいか? 世界を救った功労者の一人なんだよ」
俺はヒッツェにそう言うと、快く渡してくれた。
「しかし、気持ち悪いくらい人間っぽいな……」
「最高傑作だよ! 特にこの背中のボタンを押すとね」
ピッ
「コンバ〇ンオーケー、コ〇バインオーケー」
「気持ち悪っ!?」
首をふりふりしながら目を光らせて謎の呪文を連呼する。
「自動音声も組み込んだんだ。度肝を抜かれるだろ?」
「お、きれいな姉ちゃんだな、また女を増やしたのかカケル? 男は一人の女を愛せばいいんだよ! ひっく。おお、ウチの死んだ嫁さんに似てるな……ぐす……」
「おう、フェルゼン師匠、出来上がってるな……」
「ショウジュンセット!」
「やかましい! おい、どうやったら止まるんだ? 動きが固くて怖すぎる」
「もう一度ボタンを押せば止まるよ」
「ヤァッテヤルゼ」
「なんなんだ……」
俺が背中のボタンを押すと――
「ガガガガガ……」
「お、おい、だ、大丈夫なのかこれ……!?」
ガクガクと大きく揺れ出し――
「ロクシンガッターイ!」
カッ!
「うわ!?」
<まぶしいです!?>
「え、何、なんなの!?」
異変に気付いた芙蓉達が声を上げる。しばらく光っていたが、やがておさまり、そこには立ち尽くすナルレアのボディが立ち尽くしていた。
「……え!? 立ってる!?」
するとナルレアボディはゆっくりと顔を上げて、俺に微笑みかけてから口を開いた。
<メリークリスマス、カケル様>
「な!? お、お前……ナルレアか!?」
「嘘……あの時消えたはずじゃ……」
<ふふ、私はカケル様のスキルですよ? お呼びとあらば即参上……あたりまえじゃないですか>
「この野郎! もう消えたと思ってたのに! 俺のガッカリを返せよ! はは……あはははは!」
「うわ、ナルレアさんだ! 帰って来たんだね!」
「心なしかおっぱいが大きいような……でも、良かったです……!」
ルルカやティリアもやってきて涙を流す。
もみくちゃにされているナルレアを見ながら俺もふいに涙が零れた。
「本当に良かった……クリスマスに粋なことををしてくれるじゃないか」
俺が呟くと、どこか遠く、いや近くで声が聞こえてきた。
<これでお別れだ。もう会うこともないだろう、願わくば次も幸せな結末であることを。――メリークリスマス――
渡り歩く者、だったか? あいつがナルレアを呼び戻したのだろうか?
「カケルー! 何してるの、こっちに来なさいよ!」
「ああ、今行く!」
もう会うこともない、か。
……そうだな、もう俺に強い願いは想えそうにない……
「あはははは! カケルぅ! 勝負! 勝負するんだぁ! でも今日は『セーブ』するよ『勝負』だけにね! あはははは!」
「誰、クロウ君にお酒飲ませたのは……?」
「あ、アニスちゃん落ち着いて! あそこの髭よ髭!」
「あーん? 何のこ――ぐへ!?」
「おお、土刻の魔王フェルゼンが倒された!? 次の魔王はアニスだ!」
――なぜなら、俺の願いはもう叶っているからだ!
「おまえらー!! 俺も混ぜろー!」
いつか寿命が果てるまで。
この仲間達と生き続けていくという願いが!
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