私がガチなのは内緒である

ありきた

文字の大きさ
70 / 121
3章 一線を越えても止まらない

17話 貧乳

しおりを挟む
 私たちの朝は、恋人とのキスで始まる。
 寝不足だろうと筋肉痛だろうと関係なく、幸せが栄養となって全身に活力がみなぎる。
 二人して上体を起こし、うーんと唸りながら腕を真上に伸ばす。
 その瞬間、ふと視界の端にぶるんっと弾む膨らみが映った。
 真隣にいるため面と向かって目撃したわけじゃないけど、素敵な光景をありがとうと言いたい。
 ただ、改めて胸囲の格差を実感する。
 なんとなく胸に手を当て、さして揉み心地がいいわけでもない微かな膨らみを揉む。
 ……揉むという表現は間違いかな。私の胸、揉むほどないし。
 色や形にはちょっとした自信があるものの、萌恵ちゃんの魅力には遠く及ばない。

「ま、真菜、もしかして……お、おなにー、してるの?」

「ちっ、違うよ!?」

 とんでもない誤解を招いてしまったらしく、慌てて否定する。
 私がどういうふうに自分を慰めるか説明したことがあるから、いまの行為を見て勘違いしてしまうのも無理はないのかもしれない。

「そっか~。ちょっと残念」

 萌恵ちゃんは一縷の卑猥さもない純粋な声音で、ふふっと笑う。
 喜んでもらえるなら、見せても――いやいや、ダメだ。いまの考えは忘れないと。

「あ、そうだ。萌恵ちゃん、私の胸を揉んでくれない?」

 決して平日の朝から欲情しているわけではない。
 まぁ、ムラムラしていないと言えば嘘になるけど、少なくとも目的は別のところにある。

「へ?」

 私の意図を知るはずもない萌恵ちゃんは、唐突すぎる要求に瞬きを繰り返した。
 やっぱり、こればっかりは説明しないと伝わらないよね。

「好きな人に揉んでもらうと大きくなるっていう迷信、試してみたくて」

 もう迷信って言っちゃってるけど、もしかしたら奇跡が起きる可能性だってある。

「あ~、そういうことだったんだ。うん、いいよ! でも、揉まれて大きくなるなら、二人ともとっくに体より胸の方が大きくなってるんじゃない?」

 きっと無意識なんだろうなぁ。
 萌恵ちゃん、サラッととんでもなく大胆なこと言ってる。

「それは私も思った。だから、今回は『大きくなれ』って念じながら揉んでほしいの。萌恵ちゃんが気持ちを込めてくれれば、効果がありそうな気がするっ」

 早口でまくし立て、いつになく語調が強まる。
 決して貧乳であることを気にしているわけじゃないけど、巨乳への憧れは捨てきれない。

「う、うん、分かった」

 珍しく、萌恵ちゃんが気圧されている。
 朝はなにかと忙しい。善は急げだ。
 パジャマを脱いでブラを外し、萌恵ちゃんの方に体を向ける。

「それじゃあ、よろしくお願いします」

「よ~し、頑張る!」

 萌恵ちゃんはグッと拳を握り、気合いを入れた。かわいい。
 バカげた思い付きに付き合ってくれる健気な恋人に、引き締めた表情がつい緩んでしまう。

「んっ」

 伸ばされた両手が左右の乳房に添えられ、反射的に体がピクンッと跳ねる。
 これは愛撫ではないと自分に言い聞かせ、痺れるような快感を意識の外に逃がす。
 体が反応を示してしまうのは、意思とは無関係だからどうしようもない。

「おっきくな~れ、おっきくな~れ」

 萌恵ちゃんは一定のリズムで手を動かしつつ、私が要求した言葉を唱えてくれている。
 さっきから先端部分の自己主張が激しい。萌恵ちゃんは誠意を持って対応してくれているのに、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
 内から湧き上がる性衝動を抑制するには、思考を別の方向に働かせないと。
 最近覚えた雑学でも思い返してみよう。
 身近な調味料、七味唐辛子についてだ。
 うどんなどに何気なく使っているけど、なにが入っているのか。
 百人に訊ねれば、唐辛子だけは全員が即座に答えられるだろう。
 問題は残りの――。

「あぁんっ❤」

 へ、変な声出ちゃった。
 気を取り直して、と。
 残りの六つは、山椒、胡椒、黒ゴマ、芥子の実、麻の実、陳皮が主だ。
 ただしそれが絶対というわけではなく、青のりや紫蘇が加えられることもあるらしい。

「真菜、ごめん。今回はこれぐらいで終わってもいい?」

「え、どうして?」

 突然ピタリと、萌恵ちゃんの動きが止まる。
 胸から手を離し、少し困ったような表情を浮かべてうつむいてしまった。

「真面目にやってるつもりだったんだけど、どうしてもえっちなことを考えちゃうの。ほんとにごめん! うぅっ、真菜は真剣なのに、あたしって最低だ~っ!」

 萌恵ちゃんは頭を抱えて布団に倒れ、ゴロゴロと転がり回る。
 その様子がなんともかわいらしくて、微笑ましくて。
 爆発寸前だった情欲が、優しく温かな気持ちに変換されていく。

「萌恵ちゃん、落ち着いて。実は私も同じような状態だったから、そんなに重く受け止めることないよ」

「ほ、ほんと? あたしのこと、軽蔑してない?」

「もちろん。それに、私の体を触ってえっちなことを考えてくれるなんて、恋人として嬉しい」

「よかった~! あ、そうそう。自覚してないみたいだけど、真菜の胸ってふにふにもちもちで、犯罪級の触り心地なんだよ? 我慢しなきゃって思っても、あたしには無理!」

 見るからに安堵した萌恵ちゃんが、開き直ったように断言する。
 我慢できないというのは、私にとって至上の褒め言葉だ。
 最愛の恋人がここまで言ってくれるのなら、貧乳のままでも胸を張って生きられる。
 これからも胸のことで弱音を吐いたり劣等感に苛まれたりするだろうけど、萌恵ちゃんがいれば心配はいらない。

「萌恵ちゃん、ありがとう」

 私も布団に横たわり、萌恵ちゃんの顔を胸に押し付けるようにして抱きしめる。
 服を着ていないのに、寒さなんて微塵も感じない。
 今日も一日、明るい気分で過ごせそうだ。

***

 のんびりしすぎた結果、学校がアパートの目の前でよかったと改めて痛感するのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

学校一の美人から恋人にならないと迷惑系Vtuberになると脅された。俺を切り捨てた幼馴染を確実に見返せるけど……迷惑系Vtuberて何それ?

宇多田真紀
青春
学校一の美人、姫川菜乃。 栗色でゆるふわな髪に整った目鼻立ち、声質は少し強いのに優し気な雰囲気の女子だ。 その彼女に脅された。 「恋人にならないと、迷惑系Vtuberになるわよ?」 今日は、大好きな幼馴染みから彼氏ができたと知らされて、心底落ち込んでいた。 でもこれで、確実に幼馴染みを見返すことができる! しかしだ。迷惑系Vtuberってなんだ?? 訳が分からない……。それ、俺困るの?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった

白藍まこと
恋愛
 主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。  クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。  明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。  しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。  そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。  三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。 ※他サイトでも掲載中です。

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

【完結】かつて憧れた陰キャ美少女が、陽キャ美少女になって転校してきた。

エース皇命
青春
 高校でボッチ陰キャを極めているカズは、中学の頃、ある陰キャ少女に憧れていた。実は元々陽キャだったカズは、陰キャ少女の清衣(すい)の持つ、独特な雰囲気とボッチを楽しんでいる様子に感銘を受け、高校で陰キャデビューすることを決意したのだった。  そして高校2年の春。ひとりの美少女転校生がやってきた。  最初は雰囲気が違いすぎてわからなかったが、自己紹介でなんとその美少女は清衣であるということに気づく。  陽キャから陰キャになった主人公カズと、陰キャから陽キャになった清衣。  以前とはまったく違うキャラになってしまった2人の間に、どんなラブコメが待っているのだろうか。 ※小説家になろう、カクヨムでも公開しています。 ※表紙にはAI生成画像を使用しています。

陰キャの俺が学園のアイドルがびしょびしょに濡れているのを見てしまった件

暁ノ鳥
キャラ文芸
陰キャの俺は見てしまった。雨の日、校舎裏で制服を濡らし恍惚とする学園アイドルの姿を。「見ちゃったのね」――その日から俺は彼女の“秘密の共犯者”に!? 特殊な性癖を持つ彼女の無茶な「実験」に振り回され、身も心も支配される日々の始まり。二人の禁断の関係の行方は?。二人の禁断の関係が今、始まる!

処理中です...