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本編
行方不明者(sideジーク・途中sideイネ)
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※ハヤトからイオの家族のことを聞いた時間軸からスタートです。
*****************************
(sideジーク)
イオを家まで送ってすぐ宿に戻ると飲み会はまだ続いていた。
「おい、俺はもう部屋に戻るから片付けはしておけよ。」
「オッケーおやすみー」
まだ大ジョッキ片手に飲んでいるロロ、使った食器を雑に浄化しているラーフ、潰れて机に突っ伏しているハヤトを置いて部屋に戻る。
ベッドで横になり先ほどのイオのことを考える。「何でもする」発言には理性が飛びそうになった。
そして固有スキル〘認識阻害〙か⋯あれは危険だ。権力者が喉から手が出るほど欲しがる能力だ。自分を一切認識させないなんて諜報、暗殺に向きすぎている。人に知られる前にワグナーに相談してくれていて良かった。
それにしてもイオの部屋は最高だった。部屋全体がイオの匂いに包まれていて、いるだけで幸せな空間だった。思い出すと温かな気持ちになる。俺は良い気分のまま眠りに落ちた。
******************************
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
叫び声と共に目が覚める。
うるせーな。あの声はハヤトか?
日はすっかり昇っていたのでノロノロと起き上がる。部屋を出ると服が乱れたハヤトがラーフの部屋から勢い良く出て来て、そのまま外に飛び出していった。
同じく部屋から上半身裸のラーフが欠伸をしながらのんびり出てきた。
「⋯ラーフ、喰ったな?」
「同意の上ですよ。」
こいつの悪い癖が出た。ラーフはとにかく「美しいもの」が好きだ。魔術構成や人の見た目もとにかく美しさを好む。そこに性別は関係ない。
ラーフは数年前に自分の番と出会っているが、相手がドワーフの鍛冶師の男で「美しくない」という理由で一緒にはならなかった。
まぁ相手も「片割れより仕事」タイプでラーフに見向きもしなかったのである意味似た者同士だった。
ハヤトは綺麗な顔をしていたのでこいつの好みだろうなとは思っていたが、手が早すぎる。ハヤトも会ったばかりの野郎の前で酔っ払い過ぎていたので危機感が足りていなかったな。
「彼、記憶が全て残っているタイプでしたよ。」
「聞きたくないからヤメロ。」
*****************************
イオの態度が変わった。
以前からマーキングのために匂い付けをこまめにしていたのだが、嫌がってはないにしろ困惑したような反応だった。
冒険者同士がいざこざを起こすときは獣人が圧倒的に多い。獣人は基本的に脳筋なので思ったことはすぐ口と態度に直結する。なのでイオに絡むのは獣人ばかりだった。そこで強者である俺がマーキングして牽制すれば誰も近寄らない。獣人文化に馴染みのないイオにはまだ言わない方がいいだろう。
そんな訳でマーキングを繰り返していたのだが、最近のイオは心拍数が速くなり体温が少し上昇する。これは俺を意識し始めたのか?しかし受付嬢ミーナの情報によればイオの国では同性同士の付き合いは一般的ではなかったらしいので、距離を詰めるのは慎重にしなければならない。俺はイオとお友達になりたいわけでも清い関係で終わらせるつもりもない。
そう考えるとミーナ嬢には良い情報をもらった。対価に幻と言われるシャンスルージュ産のワインを仕入れるからと支払いを強請られたが、なぜ手に入れられる伝手を持っているんだ。
態度が変わったと言えばハヤトもそうだった。ハヤトは外でラーフと会うと挙動不審になりすぐに逃げ出す。ただ、逃げる割にラーフの匂いを纏っているのはどういうことだ?
「おい、付き合ってんのか?」
「付き合ってませんよ。フフ。"昼は"逃げられちゃいますねぇ。」
「ほどほどにしておけよ。」
こいつは母親譲りのシロサギ獣人だが、父親のタカ獣人の血もれっきと引き継いでいる。
鷹は獲物を逃さない。
******************************
王都からの呼び出しを受けたから依頼を切り上げて戻って来いとワグナーに言われて急いでギルドに向かう。
ギルドに入るとすぐに聖女脳の女に絡まれた。俺を番だと思い込んでいるが、どこからその自信が湧いてくるんだ。
俺の番はイオただ1人。
そこで俺の番は男だと言うと別の面倒なやつが来た。以前からしつこく言い寄って来ていたのでワグナーに対処してもらったはずだが?
「おい、あいつら回収しろ。」
さすがに俺がブチ切れ寸前だったのでワグナーが職員に声をかけた。
「あとスマン、ジーク。今さっきまでここにイオがいた。」
「はぁ!?」
ということは今までのやり取りを聞かれたのか!?
イオの魔力は少ないので魔力クソデカのワグナーの近くにいると埋もれてしまって気配が読めなくなる。
「あ!こらもう出るぞ!」
ワグナーを無視して執務室に向かう。
今の会話を全て聞かれたと考えるとイオは俺に番がいると知っただろうが、それが自分のことだとは微塵も思わないだろう。無関係の奴が俺の番だと図々しくも勘違いするのになぁ!
執務室に飛び込んでとりあえず番はイオだと主張する。本当ならもっと時間をかけて俺に好意を持ってもらってから言うつもりだった。しかし俺の番に別の人物が番だと誤解されたままでいるのはどうしても受け入れられなかった。
おそらく誤解は解けただろうが圧倒的に時間が足りない。しかし仕事は待ってくれない。後ろ髪を引かれつつワグナー、ラーフ、ロロと共に王都行きの馬車に乗った。
人族の国の王都「フーガドール」までは馬車で丸2日かかる。到着して休む間もなく騎士団本部に招き入れられる。団長室まで案内され、中に入ると「先生、ご足労ありがとうございます」と重厚な椅子から立ち上がり、足早に近付いてきた赤い髪と目の男はカテドアラ騎士団長ラインハルト・エヴァンズだ。ワグナーは幼い頃の騎士団長に剣を指導したことがあるので先生と呼ばれている。
「俺とSランク冒険者パーティを同時に呼び出すなんてどんな要件だ?」
「その前にまずはこちらをご覧ください。」
数人の騎士団員たちが映写機と呼ばれる魔道具をセットし、白い壁に映像が映し出された。
「おや、繋がったかい?」
画面の向こうに佇んでいたのは輝くような銀色の髪と瞳を持ち、品の良い服を着たオオカミ獣人の美丈夫だった。
「兄上⋯?」
「やぁジークヴァルト。カテドアラの滞在期間が長くないかい?」
「気のせいだろ。」
「番を見つけたんだって?ラーフから報告は受けているよ。さっさとモノにして顔を見せに戻って来なさい。」
「公の場で身内話は止めてくれ!」
獣人の国国王の三男かつ次期国王である1つ上のハロルド兄上には頭が上がらない。昔から何一つ勝てるものがないのだ。ちなみになぜ三男が次期国王なのかと言うと、上の兄たちは自由奔放で人を束ねることに全く向いていない人たちだからだ。弟が次期国王だと決まったときは「押し付けられてラッキー」ぐらいにしか思っていなかっただろう。
「では本題に入ろう。」
******************************
話の内容は獣人の国で短期間の内に起こった多数の行方不明者についてだった。出先で魔獣や野盗に襲われたりすることもあるので行方不明者というは珍しくはない。問題になったのは行方不明者が落ち人ばかりという共通点があったからだ。
問題が発覚して間を置かずに隣国である人族の国でも同様に落ち人の行方不明者が出たので、今回国を跨いで合同調査をすることになった。こんなときのために普段から各国を巡り、お偉いさんと顔を繋いでいるのが俺たちの仕事だ。まぁただ単に色々なところで冒険者活動をするのが楽しいだけなのであまり仕事とは思っていないが。
「今回は有力な証言があったので集まってもらいました。入りなさい。」
ラインハルトが近くの団員に目配せをすると部屋のドアが開き、2人の獣人が入ってきた。
「イヌ獣人のイネです。」
「同じくイヌ獣人のムギです。」
何となく見覚えがあるような?と思っていたらラーフに「イオを襲ってあなたが報復した冒険者パーティのメンバーですよ」と耳打ちされた。あのヒョウ獣人はいないのか。
「君たちに起こったことをここで改めて説明してくれ。」
騎士団長に促されて緊張しながらイヌ獣人が話し始めた。
******************************
(sideイネ/イヌ獣人)
俺とムギは同じ村出身の冒険者だった。始めに活動していたギルドでヒョウ獣人のシャガフと冒険者パーティを組むことになった。その後、人族の国の方が稼げると聞いて拠点を移してしばらくは地道に活動していた。
シャガフはとにかく強かった。なぜ俺たちに声をかけたのかわからないくらいの強さがあったので、同じパーティの俺たちは調子に乗っていたのだ。他の冒険者を脅して素材の採取場所を聞いたり獲物を横取りしたりと素行が良くないことを繰り返していたら、Sランク冒険者の一閃に殴られた。
シャガフが霞むくらいの圧倒的な強さとカリスマ性に目が覚めるような思いをした。しかしシャガフはCランクに落ちてからはとにかく稼ぐ方法はないかと躍起になっていて、日に日に荒れていった。
俺とムギはもうシャガフとはパーティを解散して地道にやり直そうかと思い始めていたら、ある人に「簡単に稼げる仕事がある」という話を持ち掛けられた。
その人は小太りなフェネック獣人のおっさんで、性別、年齢関係なく落ち人を攫ってきたら1人につき半年は遊べる金を払うという内容だった。シャガフはあっさりその話に乗った。俺とムギはさすがにそこまではできないと断った。
「構わんよ。だが、このことを誰かに話せばお前たちの家族がどうなるか保証はできないぞ。」
そう言って俺たちの名前、出身地、妹の名前など様々な情報を言ってみせた。
「私の固有スキルは〘盗聴〙だ。お前達の会話は常に筒抜けと思え。」
と俺たちを脅していった。
*********************************
「じゃあ今この話は聞かれてるわけか?」
珍しくワグナーが慌てている。
「いえ、大丈夫です。俺の固有スキル〘嗅覚〙は微量な魔力も嗅ぎ分けられて、〘盗聴〙スキルが使われているときはおっさんの魔力の匂いが微かにするので今は大丈夫なはずです。」
「彼らの情報を元に獣人の国でフェネック族に該当する人物がいないか調べてもらいました。そしてこちらでは騎士団や各地の自警団で⋯」
「ちょっと待ってくれ。」
話の途中で俺が声を上げると近くにいる団員の顔が歪む。騎士団長の言葉を遮って悪かったよ。それよりも確認しなければならない事がある。
「ワグナー、イオの今日の依頼予定は?」
「確か泊まりで綿帽子の収穫依頼だったような。そうか!スピカを確認に⋯あーいやダメだ今ちょうど人手が足りない。いや、そもそも連絡用魔道具を俺が持って来ちまった。」
「いやいい、自分で行く。ラインハルト、馬を貸してくれないか?」
ヒョウ獣人による落ち人誘拐。イヌ獣人の話からは不安要素が揃いすぎていてイオの安全をこの目で確認しなければ安心できない。
「貴様!冒険者の分際でその話し方はなんだ!」
「トーマス、獣人に身分はないから覚えておきなさい。そして身分を持ち出すなら私の方が下だよ。」
ラインハルトは声を荒げた団員を窘める。
「ジーク、馬なら騎士団から持っていけ。情報は魔導具で知らせるからいつでも取れるようにしておけよ?」
「恩に着る。」
「なに、お前の番を紹介してくれたらいいよ。」
子供のころ一緒にワグナーから剣を指導してもらっていたときからラインハルトは兄貴風を吹かせていた。
俺はロロとラーフと共に団長室から退室した。
******************************
シャンスルージュ産のワイン
・紹介制でしか購入できない上に生産数も少ないので買える人が限られている幻のワイン。価格はその年により変動するがちょっと良い家1軒分ほど。
※前話「自覚した気持ち」にて聖女脳カレンとの会話に一言だけ足しました。この世界に男性妊娠はありません。
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(sideジーク)
イオを家まで送ってすぐ宿に戻ると飲み会はまだ続いていた。
「おい、俺はもう部屋に戻るから片付けはしておけよ。」
「オッケーおやすみー」
まだ大ジョッキ片手に飲んでいるロロ、使った食器を雑に浄化しているラーフ、潰れて机に突っ伏しているハヤトを置いて部屋に戻る。
ベッドで横になり先ほどのイオのことを考える。「何でもする」発言には理性が飛びそうになった。
そして固有スキル〘認識阻害〙か⋯あれは危険だ。権力者が喉から手が出るほど欲しがる能力だ。自分を一切認識させないなんて諜報、暗殺に向きすぎている。人に知られる前にワグナーに相談してくれていて良かった。
それにしてもイオの部屋は最高だった。部屋全体がイオの匂いに包まれていて、いるだけで幸せな空間だった。思い出すと温かな気持ちになる。俺は良い気分のまま眠りに落ちた。
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「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
叫び声と共に目が覚める。
うるせーな。あの声はハヤトか?
日はすっかり昇っていたのでノロノロと起き上がる。部屋を出ると服が乱れたハヤトがラーフの部屋から勢い良く出て来て、そのまま外に飛び出していった。
同じく部屋から上半身裸のラーフが欠伸をしながらのんびり出てきた。
「⋯ラーフ、喰ったな?」
「同意の上ですよ。」
こいつの悪い癖が出た。ラーフはとにかく「美しいもの」が好きだ。魔術構成や人の見た目もとにかく美しさを好む。そこに性別は関係ない。
ラーフは数年前に自分の番と出会っているが、相手がドワーフの鍛冶師の男で「美しくない」という理由で一緒にはならなかった。
まぁ相手も「片割れより仕事」タイプでラーフに見向きもしなかったのである意味似た者同士だった。
ハヤトは綺麗な顔をしていたのでこいつの好みだろうなとは思っていたが、手が早すぎる。ハヤトも会ったばかりの野郎の前で酔っ払い過ぎていたので危機感が足りていなかったな。
「彼、記憶が全て残っているタイプでしたよ。」
「聞きたくないからヤメロ。」
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イオの態度が変わった。
以前からマーキングのために匂い付けをこまめにしていたのだが、嫌がってはないにしろ困惑したような反応だった。
冒険者同士がいざこざを起こすときは獣人が圧倒的に多い。獣人は基本的に脳筋なので思ったことはすぐ口と態度に直結する。なのでイオに絡むのは獣人ばかりだった。そこで強者である俺がマーキングして牽制すれば誰も近寄らない。獣人文化に馴染みのないイオにはまだ言わない方がいいだろう。
そんな訳でマーキングを繰り返していたのだが、最近のイオは心拍数が速くなり体温が少し上昇する。これは俺を意識し始めたのか?しかし受付嬢ミーナの情報によればイオの国では同性同士の付き合いは一般的ではなかったらしいので、距離を詰めるのは慎重にしなければならない。俺はイオとお友達になりたいわけでも清い関係で終わらせるつもりもない。
そう考えるとミーナ嬢には良い情報をもらった。対価に幻と言われるシャンスルージュ産のワインを仕入れるからと支払いを強請られたが、なぜ手に入れられる伝手を持っているんだ。
態度が変わったと言えばハヤトもそうだった。ハヤトは外でラーフと会うと挙動不審になりすぐに逃げ出す。ただ、逃げる割にラーフの匂いを纏っているのはどういうことだ?
「おい、付き合ってんのか?」
「付き合ってませんよ。フフ。"昼は"逃げられちゃいますねぇ。」
「ほどほどにしておけよ。」
こいつは母親譲りのシロサギ獣人だが、父親のタカ獣人の血もれっきと引き継いでいる。
鷹は獲物を逃さない。
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王都からの呼び出しを受けたから依頼を切り上げて戻って来いとワグナーに言われて急いでギルドに向かう。
ギルドに入るとすぐに聖女脳の女に絡まれた。俺を番だと思い込んでいるが、どこからその自信が湧いてくるんだ。
俺の番はイオただ1人。
そこで俺の番は男だと言うと別の面倒なやつが来た。以前からしつこく言い寄って来ていたのでワグナーに対処してもらったはずだが?
「おい、あいつら回収しろ。」
さすがに俺がブチ切れ寸前だったのでワグナーが職員に声をかけた。
「あとスマン、ジーク。今さっきまでここにイオがいた。」
「はぁ!?」
ということは今までのやり取りを聞かれたのか!?
イオの魔力は少ないので魔力クソデカのワグナーの近くにいると埋もれてしまって気配が読めなくなる。
「あ!こらもう出るぞ!」
ワグナーを無視して執務室に向かう。
今の会話を全て聞かれたと考えるとイオは俺に番がいると知っただろうが、それが自分のことだとは微塵も思わないだろう。無関係の奴が俺の番だと図々しくも勘違いするのになぁ!
執務室に飛び込んでとりあえず番はイオだと主張する。本当ならもっと時間をかけて俺に好意を持ってもらってから言うつもりだった。しかし俺の番に別の人物が番だと誤解されたままでいるのはどうしても受け入れられなかった。
おそらく誤解は解けただろうが圧倒的に時間が足りない。しかし仕事は待ってくれない。後ろ髪を引かれつつワグナー、ラーフ、ロロと共に王都行きの馬車に乗った。
人族の国の王都「フーガドール」までは馬車で丸2日かかる。到着して休む間もなく騎士団本部に招き入れられる。団長室まで案内され、中に入ると「先生、ご足労ありがとうございます」と重厚な椅子から立ち上がり、足早に近付いてきた赤い髪と目の男はカテドアラ騎士団長ラインハルト・エヴァンズだ。ワグナーは幼い頃の騎士団長に剣を指導したことがあるので先生と呼ばれている。
「俺とSランク冒険者パーティを同時に呼び出すなんてどんな要件だ?」
「その前にまずはこちらをご覧ください。」
数人の騎士団員たちが映写機と呼ばれる魔道具をセットし、白い壁に映像が映し出された。
「おや、繋がったかい?」
画面の向こうに佇んでいたのは輝くような銀色の髪と瞳を持ち、品の良い服を着たオオカミ獣人の美丈夫だった。
「兄上⋯?」
「やぁジークヴァルト。カテドアラの滞在期間が長くないかい?」
「気のせいだろ。」
「番を見つけたんだって?ラーフから報告は受けているよ。さっさとモノにして顔を見せに戻って来なさい。」
「公の場で身内話は止めてくれ!」
獣人の国国王の三男かつ次期国王である1つ上のハロルド兄上には頭が上がらない。昔から何一つ勝てるものがないのだ。ちなみになぜ三男が次期国王なのかと言うと、上の兄たちは自由奔放で人を束ねることに全く向いていない人たちだからだ。弟が次期国王だと決まったときは「押し付けられてラッキー」ぐらいにしか思っていなかっただろう。
「では本題に入ろう。」
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話の内容は獣人の国で短期間の内に起こった多数の行方不明者についてだった。出先で魔獣や野盗に襲われたりすることもあるので行方不明者というは珍しくはない。問題になったのは行方不明者が落ち人ばかりという共通点があったからだ。
問題が発覚して間を置かずに隣国である人族の国でも同様に落ち人の行方不明者が出たので、今回国を跨いで合同調査をすることになった。こんなときのために普段から各国を巡り、お偉いさんと顔を繋いでいるのが俺たちの仕事だ。まぁただ単に色々なところで冒険者活動をするのが楽しいだけなのであまり仕事とは思っていないが。
「今回は有力な証言があったので集まってもらいました。入りなさい。」
ラインハルトが近くの団員に目配せをすると部屋のドアが開き、2人の獣人が入ってきた。
「イヌ獣人のイネです。」
「同じくイヌ獣人のムギです。」
何となく見覚えがあるような?と思っていたらラーフに「イオを襲ってあなたが報復した冒険者パーティのメンバーですよ」と耳打ちされた。あのヒョウ獣人はいないのか。
「君たちに起こったことをここで改めて説明してくれ。」
騎士団長に促されて緊張しながらイヌ獣人が話し始めた。
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俺とムギは同じ村出身の冒険者だった。始めに活動していたギルドでヒョウ獣人のシャガフと冒険者パーティを組むことになった。その後、人族の国の方が稼げると聞いて拠点を移してしばらくは地道に活動していた。
シャガフはとにかく強かった。なぜ俺たちに声をかけたのかわからないくらいの強さがあったので、同じパーティの俺たちは調子に乗っていたのだ。他の冒険者を脅して素材の採取場所を聞いたり獲物を横取りしたりと素行が良くないことを繰り返していたら、Sランク冒険者の一閃に殴られた。
シャガフが霞むくらいの圧倒的な強さとカリスマ性に目が覚めるような思いをした。しかしシャガフはCランクに落ちてからはとにかく稼ぐ方法はないかと躍起になっていて、日に日に荒れていった。
俺とムギはもうシャガフとはパーティを解散して地道にやり直そうかと思い始めていたら、ある人に「簡単に稼げる仕事がある」という話を持ち掛けられた。
その人は小太りなフェネック獣人のおっさんで、性別、年齢関係なく落ち人を攫ってきたら1人につき半年は遊べる金を払うという内容だった。シャガフはあっさりその話に乗った。俺とムギはさすがにそこまではできないと断った。
「構わんよ。だが、このことを誰かに話せばお前たちの家族がどうなるか保証はできないぞ。」
そう言って俺たちの名前、出身地、妹の名前など様々な情報を言ってみせた。
「私の固有スキルは〘盗聴〙だ。お前達の会話は常に筒抜けと思え。」
と俺たちを脅していった。
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「じゃあ今この話は聞かれてるわけか?」
珍しくワグナーが慌てている。
「いえ、大丈夫です。俺の固有スキル〘嗅覚〙は微量な魔力も嗅ぎ分けられて、〘盗聴〙スキルが使われているときはおっさんの魔力の匂いが微かにするので今は大丈夫なはずです。」
「彼らの情報を元に獣人の国でフェネック族に該当する人物がいないか調べてもらいました。そしてこちらでは騎士団や各地の自警団で⋯」
「ちょっと待ってくれ。」
話の途中で俺が声を上げると近くにいる団員の顔が歪む。騎士団長の言葉を遮って悪かったよ。それよりも確認しなければならない事がある。
「ワグナー、イオの今日の依頼予定は?」
「確か泊まりで綿帽子の収穫依頼だったような。そうか!スピカを確認に⋯あーいやダメだ今ちょうど人手が足りない。いや、そもそも連絡用魔道具を俺が持って来ちまった。」
「いやいい、自分で行く。ラインハルト、馬を貸してくれないか?」
ヒョウ獣人による落ち人誘拐。イヌ獣人の話からは不安要素が揃いすぎていてイオの安全をこの目で確認しなければ安心できない。
「貴様!冒険者の分際でその話し方はなんだ!」
「トーマス、獣人に身分はないから覚えておきなさい。そして身分を持ち出すなら私の方が下だよ。」
ラインハルトは声を荒げた団員を窘める。
「ジーク、馬なら騎士団から持っていけ。情報は魔導具で知らせるからいつでも取れるようにしておけよ?」
「恩に着る。」
「なに、お前の番を紹介してくれたらいいよ。」
子供のころ一緒にワグナーから剣を指導してもらっていたときからラインハルトは兄貴風を吹かせていた。
俺はロロとラーフと共に団長室から退室した。
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シャンスルージュ産のワイン
・紹介制でしか購入できない上に生産数も少ないので買える人が限られている幻のワイン。価格はその年により変動するがちょっと良い家1軒分ほど。
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