44 / 58
投稿が完了しました
4
しおりを挟む
桜輔と話しているところを見られて、気まずい思いはある。だがそれはもう今更だろう。それよりも、瀬名とどこまで話したんだっけ。俯いたまま考えていたら、ポケットから顔を出す猫のぬいぐるみがふと目に入った。そうだ、昇降口まで走り下りてくる前、インスタへ投稿しようとしていたのだった。
すっかり忘れていた。瀬名に告白するかどうかは置いておいても、作った曲は瀬名への想いだ。今日を迎えることを目標に、完成させることができた。きちんと話をする前に、やはり投稿しておきたい。
「瀬名、やんなきゃいけないことあるから、ちょっと待ってもらっていいか? 3秒、いや1秒で済むから」
「もちろん。何秒でも待ちますよ」
たくさん時間をかけたら、またいつまでも進めない気がする。ここは勢いが大事だ。
“初めてオリジナル曲を作ってみました。誰か聴いてくれたら嬉しいです”
下書きに保存してあったキャプションのまま、動画を添付してすかさず投稿のボタンをタップする。数秒経った後、“投稿が完了しました”との表示が出た。
「ふう……」
ひとまずの安堵と、瀬名と話す緊張感と。入り混じった息を深くつくと、なにかの通知音が聞こえた。どうやら、瀬名のスマートフォンから鳴ったようだ。瀬名がポケットから取り出す。そこには今も、おそろいの猫のぬいぐるみがぶら下がっていた。外さないでいてくれたのだ、離れていた間も。じんわりと胸を温かくしていると、瀬名が大きな声を上げた。
「えっ」
その視線はなぜか、画面から勢いよく桃輔へと移ってきた。どうしたのだろう。気になってつい、瀬名のスマートフォンを覗いてしまった。ロック画面に表示されている通知欄に、今度は桃輔が驚く番だった。
“momoが動画を投稿しました”
「……は?」
目を疑ったが、間違いなくそう書いてある。頭がぐわんと揺れる。
どうして瀬名がこのアカウントを知っている? 教えた覚えはない。森本や尾方にだって伝えていない、知り合いには完全に秘密で作ったものなのに。
凝視している間に、瀬名はその通知をタップした。まだ誰にも閲覧されていない投稿が開かれる。間違いなく、momoのアカウントだ。
「へ……オリジナル? えっ、モモ先輩オリジナル曲作ったんすか!?」
「……う、うん」
恥ずかしいだとか、いやそうじゃなくてなんで知ってるんだよとか。思っていることはたくさんあるのに、思考がこんがらがって頷くことしかできない。瀬名の手はわずかに震えているように見える。その指先が、再生ボタンの上にかざされた。慌ててその手を掴む。
「待った! え、聴くの?」
「当たり前じゃないすか」
「いやいや、無理だって……」
この歌はたしかに瀬名を想って作った。だが、本人に聴いてもらおうなんてつもりはちっともなかった。だって、聴かれたら困る。瀬名のことが好きだと、焦がれるほどに想っていると知られてしまう。そんなの好きだと言葉にするより、きっと裸を見られるより恥ずかしい。
「そんな……オレだって無理です。モモ先輩が作る曲、ずっと聴いてみたいって思ってた」
「…………? 意味分かんねぇよ」
さっきからずっと、瀬名がなにを言っているのか分からないままだ。それが悔しくて、どんどん悲しくもなってきて、くしゃりと髪を握りこむ。するとそこに、瀬名の手がそっと重ねられた。強張った指先をほどくように絡んできて、やわらかな声で「モモ先輩」と呼ばれる。
「……なに」
「オレのほうこそ、先輩に謝らなきゃいけないことがたくさんあります。聞いてくれる?」
「瀬名が謝ることなんてないと思うけど……お前が俺に話してくれることは全部……全部受け取りたいって思ってるよ」
「よかった。じゃあ、オレんちに行ってもいい?」
「今から?」
「うん」
「ん、分かった」
すっかり忘れていた。瀬名に告白するかどうかは置いておいても、作った曲は瀬名への想いだ。今日を迎えることを目標に、完成させることができた。きちんと話をする前に、やはり投稿しておきたい。
「瀬名、やんなきゃいけないことあるから、ちょっと待ってもらっていいか? 3秒、いや1秒で済むから」
「もちろん。何秒でも待ちますよ」
たくさん時間をかけたら、またいつまでも進めない気がする。ここは勢いが大事だ。
“初めてオリジナル曲を作ってみました。誰か聴いてくれたら嬉しいです”
下書きに保存してあったキャプションのまま、動画を添付してすかさず投稿のボタンをタップする。数秒経った後、“投稿が完了しました”との表示が出た。
「ふう……」
ひとまずの安堵と、瀬名と話す緊張感と。入り混じった息を深くつくと、なにかの通知音が聞こえた。どうやら、瀬名のスマートフォンから鳴ったようだ。瀬名がポケットから取り出す。そこには今も、おそろいの猫のぬいぐるみがぶら下がっていた。外さないでいてくれたのだ、離れていた間も。じんわりと胸を温かくしていると、瀬名が大きな声を上げた。
「えっ」
その視線はなぜか、画面から勢いよく桃輔へと移ってきた。どうしたのだろう。気になってつい、瀬名のスマートフォンを覗いてしまった。ロック画面に表示されている通知欄に、今度は桃輔が驚く番だった。
“momoが動画を投稿しました”
「……は?」
目を疑ったが、間違いなくそう書いてある。頭がぐわんと揺れる。
どうして瀬名がこのアカウントを知っている? 教えた覚えはない。森本や尾方にだって伝えていない、知り合いには完全に秘密で作ったものなのに。
凝視している間に、瀬名はその通知をタップした。まだ誰にも閲覧されていない投稿が開かれる。間違いなく、momoのアカウントだ。
「へ……オリジナル? えっ、モモ先輩オリジナル曲作ったんすか!?」
「……う、うん」
恥ずかしいだとか、いやそうじゃなくてなんで知ってるんだよとか。思っていることはたくさんあるのに、思考がこんがらがって頷くことしかできない。瀬名の手はわずかに震えているように見える。その指先が、再生ボタンの上にかざされた。慌ててその手を掴む。
「待った! え、聴くの?」
「当たり前じゃないすか」
「いやいや、無理だって……」
この歌はたしかに瀬名を想って作った。だが、本人に聴いてもらおうなんてつもりはちっともなかった。だって、聴かれたら困る。瀬名のことが好きだと、焦がれるほどに想っていると知られてしまう。そんなの好きだと言葉にするより、きっと裸を見られるより恥ずかしい。
「そんな……オレだって無理です。モモ先輩が作る曲、ずっと聴いてみたいって思ってた」
「…………? 意味分かんねぇよ」
さっきからずっと、瀬名がなにを言っているのか分からないままだ。それが悔しくて、どんどん悲しくもなってきて、くしゃりと髪を握りこむ。するとそこに、瀬名の手がそっと重ねられた。強張った指先をほどくように絡んできて、やわらかな声で「モモ先輩」と呼ばれる。
「……なに」
「オレのほうこそ、先輩に謝らなきゃいけないことがたくさんあります。聞いてくれる?」
「瀬名が謝ることなんてないと思うけど……お前が俺に話してくれることは全部……全部受け取りたいって思ってるよ」
「よかった。じゃあ、オレんちに行ってもいい?」
「今から?」
「うん」
「ん、分かった」
32
あなたにおすすめの小説
ハッピーライフのために地味で根暗な僕がチャラ男会計になるために
ミカン
BL
地味で根暗な北斗が上手く生きていくために王道学園でチャラ男会計になる話
※主人公へのいじめ描写ありのため苦手な方は閲覧ご注意下さい。
イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした
天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです!
元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。
持ち主は、顔面国宝の一年生。
なんで俺の写真? なんでロック画?
問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。
頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ!
☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。
泣き虫で小柄だった幼馴染が、メンタルつよめの大型犬になっていた話。
雪 いつき
BL
凰太朗と理央は、家が隣同士の幼馴染だった。
二つ年下で小柄で泣き虫だった理央を、凰太朗は、本当の弟のように可愛がっていた。だが凰太朗が中学に上がった頃、理央は親の都合で引っ越してしまう。
それから五年が経った頃、理央から同じ高校に入学するという連絡を受ける。変わらず可愛い姿を想像していたものの、再会した理央は、モデルのように背の高いイケメンに成長していた。
「凰ちゃんのこと大好きな俺も、他の奴らはどうでもいい俺も、どっちも本当の俺だから」
人前でそんな発言をして爽やかに笑う。
発言はともかく、今も変わらず懐いてくれて嬉しい。そのはずなのに、昔とは違う成長した理央に、だんだんとドキドキし始めて……。
【完結】かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい
日向汐
BL
続編・番外編はTwitter(べったー)に載せていきますので、よかったらぜひ🤲
⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆
過保護なかわいい系美形の後輩。
たまに見せる甘い言動が受けの心を揺する♡
そんなお話。
⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆
【攻め】
雨宮千冬(あめみや・ちふゆ)
大学1年。法学部。
淡いピンク髪、甘い顔立ちの砂糖系イケメン。
甘く切ないラブソングが人気の、歌い手「フユ」として匿名活動中。
【受け】
睦月伊織(むつき・いおり)
大学2年。工学部。
黒髪黒目の平凡大学生。ぶっきらぼうな口調と態度で、ちょっとずぼら。恋愛は初心。
【完結】大学で再会した幼馴染(初恋相手)に恋人のふりをしてほしいと頼まれた件について
kouta
BL
大学で再会した幼馴染から『ストーカーに悩まされている。半年間だけ恋人のふりをしてほしい』と頼まれた夏樹。『焼き肉奢ってくれるなら』と承諾したものの次第に意識してしまうようになって……
※ムーンライトノベルズでも投稿しています
地味メガネだと思ってた同僚が、眼鏡を外したら国宝級でした~無愛想な美人と、チャラ営業のすれ違い恋愛
中岡 始
BL
誰にも気づかれたくない。
誰の心にも触れたくない。
無表情と無関心を盾に、オフィスの隅で静かに生きる天王寺悠(てんのうじ・ゆう)。
その存在に、誰も興味を持たなかった――彼を除いて。
明るく人懐こい営業マン・梅田隼人(うめだ・はやと)は、
偶然見た「眼鏡を外した天王寺」の姿に、衝撃を受ける。
無機質な顔の奥に隠れていたのは、
誰よりも美しく、誰よりも脆い、ひとりの青年だった。
気づいてしまったから、もう目を逸らせない。
知りたくなったから、もう引き返せない。
すれ違いと無関心、
優しさと孤独、
微かな笑顔と、隠された心。
これは、
触れれば壊れそうな彼に、
それでも手を伸ばしてしまった、
不器用な男たちの恋のはなし。
本気になった幼なじみがメロすぎます!
文月あお
BL
同じマンションに住む年下の幼なじみ・玲央は、イケメンで、生意気だけど根はいいやつだし、とてもモテる。
俺は失恋するたびに「玲央みたいな男に生まれたかったなぁ」なんて思う。
いいなぁ玲央は。きっと俺より経験豊富なんだろうな――と、つい出来心で聞いてしまったんだ。
「やっぱ唇ってさ、やわらけーの?」
その軽率な質問が、俺と玲央の幼なじみライフを、まるっと変えてしまった。
「忘れないでよ、今日のこと」
「唯くんは俺の隣しかだめだから」
「なんで邪魔してたか、わかんねーの?」
俺と玲央は幼なじみで。男同士で。生まれたときからずっと一緒で。
俺の恋の相手は女の子のはずだし、玲央の恋の相手は、もっと素敵な人であるはずなのに。
「素数でも数えてなきゃ、俺はふつーにこうなんだよ、唯くんといたら」
そんな必死な顔で迫ってくんなよ……メロすぎんだろーが……!
【攻め】倉田玲央(高一)×【受け】五十嵐唯(高三)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる