【完結】口遊むのはいつもブルージー 〜双子の兄に惚れている後輩から、弟の俺が迫られています〜

星寝むぎ

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 桜輔と話しているところを見られて、気まずい思いはある。だがそれはもう今更だろう。それよりも、瀬名とどこまで話したんだっけ。俯いたまま考えていたら、ポケットから顔を出す猫のぬいぐるみがふと目に入った。そうだ、昇降口まで走り下りてくる前、インスタへ投稿しようとしていたのだった。

 すっかり忘れていた。瀬名に告白するかどうかは置いておいても、作った曲は瀬名への想いだ。今日を迎えることを目標に、完成させることができた。きちんと話をする前に、やはり投稿しておきたい。

「瀬名、やんなきゃいけないことあるから、ちょっと待ってもらっていいか? 3秒、いや1秒で済むから」
「もちろん。何秒でも待ちますよ」

 たくさん時間をかけたら、またいつまでも進めない気がする。ここは勢いが大事だ。

“初めてオリジナル曲を作ってみました。誰か聴いてくれたら嬉しいです”

 下書きに保存してあったキャプションのまま、動画を添付してすかさず投稿のボタンをタップする。数秒経った後、“投稿が完了しました”との表示が出た。

「ふう……」

 ひとまずの安堵と、瀬名と話す緊張感と。入り混じった息を深くつくと、なにかの通知音が聞こえた。どうやら、瀬名のスマートフォンから鳴ったようだ。瀬名がポケットから取り出す。そこには今も、おそろいの猫のぬいぐるみがぶら下がっていた。外さないでいてくれたのだ、離れていた間も。じんわりと胸を温かくしていると、瀬名が大きな声を上げた。

「えっ」

 その視線はなぜか、画面から勢いよく桃輔へと移ってきた。どうしたのだろう。気になってつい、瀬名のスマートフォンを覗いてしまった。ロック画面に表示されている通知欄に、今度は桃輔が驚く番だった。 

“momoが動画を投稿しました”

「……は?」

 目を疑ったが、間違いなくそう書いてある。頭がぐわんと揺れる。

 どうして瀬名がこのアカウントを知っている? 教えた覚えはない。森本や尾方にだって伝えていない、知り合いには完全に秘密で作ったものなのに。

 凝視している間に、瀬名はその通知をタップした。まだ誰にも閲覧されていない投稿が開かれる。間違いなく、momoのアカウントだ。

「へ……オリジナル? えっ、モモ先輩オリジナル曲作ったんすか!?」
「……う、うん」

 恥ずかしいだとか、いやそうじゃなくてなんで知ってるんだよとか。思っていることはたくさんあるのに、思考がこんがらがって頷くことしかできない。瀬名の手はわずかに震えているように見える。その指先が、再生ボタンの上にかざされた。慌ててその手を掴む。

「待った! え、聴くの?」
「当たり前じゃないすか」
「いやいや、無理だって……」

 この歌はたしかに瀬名を想って作った。だが、本人に聴いてもらおうなんてつもりはちっともなかった。だって、聴かれたら困る。瀬名のことが好きだと、焦がれるほどに想っていると知られてしまう。そんなの好きだと言葉にするより、きっと裸を見られるより恥ずかしい。

「そんな……オレだって無理です。モモ先輩が作る曲、ずっと聴いてみたいって思ってた」
「…………? 意味分かんねぇよ」

 さっきからずっと、瀬名がなにを言っているのか分からないままだ。それが悔しくて、どんどん悲しくもなってきて、くしゃりと髪を握りこむ。するとそこに、瀬名の手がそっと重ねられた。強張った指先をほどくように絡んできて、やわらかな声で「モモ先輩」と呼ばれる。

「……なに」
「オレのほうこそ、先輩に謝らなきゃいけないことがたくさんあります。聞いてくれる?」
「瀬名が謝ることなんてないと思うけど……お前が俺に話してくれることは全部……全部受け取りたいって思ってるよ」
「よかった。じゃあ、オレんちに行ってもいい?」
「今から?」
「うん」
「ん、分かった」
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