【完結】偽物の王女だけど私が本物です〜生贄の聖女はよみがえる〜

白崎りか

文字の大きさ
15 / 41

15 家庭教師

しおりを挟む
 来月、私の誕生パーティが開かれるそうだ。
 離宮の使用人は皆、その準備のために王宮に引き抜かれていった。
 人がいなくなった離宮に、ドレスの入った箱が運ばれてきた。これを着て来いとのことだ。

 何でいまさら誕生パーティ?

 この15年間、一度も祝われたことはない。
 確かに私は来月16歳になる。正確には、133歳。まあ、本当の誕生日はもっと後だけど。

 見捨てられた人形姫の誕生パーティに、国中の貴族を呼ぶらしい。
 レドリオン公爵と王妃は何を考えてるんだろう?

 私は箱の方をちらりと見た。真っ白なドレスが入っている。あまりいい生地じゃない。それに、白はパーティにふさわしくない。死んだ人に着せる服が白色だからだ。

「王女様! 見つかりましたよ。帝国人の家庭教師!」

 マリリンがスキップをしながら入って来た。嬉しそうに、ハタキを手でくるくる回す。

「すっごいかっこいい男の人です。25歳で、男盛りで、色気がすごいの。どうしよう。私、好きになっちゃうかも!」

「勝手に好きになれば。……信用できそうな人なの?」

 帝国人なんて全員信用できない。でも、帝国語を習うためには妥協するしかない。

「父さんは、信用できるって言ってました。聖女様の話に何時間も付き合ってくれたんだって。良い人で間違いないです!」

 聖女マニアのマリリンの父の話は、とても長いそうだ。それに付き合えるくらいなら、私に帝国語の発音を教えるくらいの根気はあるだろう。

「明日から連れて来てちょうだい。裏門は出入り自由よ」

 捨てれられた人形姫の離宮には、使用人はマリリンしかいなくなった。侵入し放題だ。


 ◇◇◇◇◇

「いやぁ、お美しい。その紫の瞳! 聖女フェリシティ様と全く同じ。金の髪も神々しい!」

 マリリンによく似たピンクの髪の中年男は、入ってくるなり大声で私を褒め讃えた。
 無礼で大声なところがよく似てる。私は、これでも王女なのよ。

「父さん! だめだって。王女様にちゃんと挨拶して」

 さすがにマリリンがたしなめた。
 私は、中年男の後ろに立っている、黒いフードをかぶった男が気になった。彼が、帝国語の教師?

「ああ、申し訳ありません。本日は、お日柄もよろしく……ご注文の家庭教師を連れてまいりました!」

 マリリン父が紹介する男が、フードを取った。

 真っ黒の髪。背が高くて、騎士のような体格。

 え?

「初めてお目にかかります。フェリシティ王女様。ジンと申します」

 あの時の男だ! 教会にいた魔物のような黒い髪と目!

「王女様の家庭教師を務められること、大変光栄に思います」

 男は、慇懃に私に挨拶をする。精悍な顔には、作り笑顔を浮かべている。

 思わず後ずさった私に、空気の読めないマリリン父は話を続ける。

「やあ、めちゃくちゃかっこいい商人さんでしょう? 帝国人特有の黒髪をしているけど、彼はね、母親が我がエヴァン王国の出身なんですよ」

 私の国の民?

「ええ、私の母は、帝国に売られたエヴァン王国出身の元奴隷なのです」

 えっ?! 私の民が奴隷に?

 衝撃的な言葉に、恐れが吹き飛ぶ。

「我が国の民を奴隷にするなど、許されていません」

 絶対に、私が許さない!

「いやぁ、それがですね、王女様。結構よくあるんですよ。親が子を帝国に売ったり、盗賊に攫われて奴隷として売られたり。もちろん違法ですがね、ほんと良くある話なんですよ」

「そんな……じゃあ、本当に……」

 無理矢理攫われたり売られて、奴隷にされるなんて。
 違法奴隷が大勢いるなんて。
 そんなこと考えもしなかった。

「幸い、母は私を産んだ後、奴隷の身分から解放されました。母のお陰でエヴァン王国語が話せるので、私は商人になり、こうして王国にやってきた次第です」

 作り笑顔を浮かべた男は、私の前に来て頭を下げた。

「どうか、私に王女様の家庭教師を務めさせてください。母が申しておりました。高貴な紫をもつ王族は、国民の希望だと。半分王国人の血を持つ私には、とても光栄なことなのです」

 そう言って、頭を上げた男の口元は笑みの形を作っているけれど、黒い瞳は笑っていない。

 教会で私に会ったことを、この男は気が付いていないのだろうか?
 薄暗かったし、私はフードをかぶっていた。
 顔は見られてなかったよね。

「できるだけ早く帝国語の発音を覚えたいの。毎日来られる?」

「毎日ですか?」

 さすがに、彼にも予定はあるだろう。でも、こんな恐ろしい男の授業は、集中してさっさと終わらせたいのだ。

 男は少し考えてから、うなずいた。

「大丈夫です。そのかわり、報酬の方は」

 ああ、お金ね。
 私は、マリリン父の方をちらっと見た。私の収入は全て彼に管理してもらっている。治癒石や果樹園を売ったお金がかなりあるだろう。

「分かってますよ。治癒石の優先販売ですね」

 親指を立てて、マリリン父は簡単に請け負った。

「ありがとうございます。本当にありがたい。治癒石のような貴重品が手に入るなら、私はなんでもいたしましょう。これがあれば、母の体も癒えるでしょう」

「お母様は病気なの?」

 私の愛する国民は奴隷として売られて、いったいどんな扱いを受けたのだろうか? 

「足が悪いのです。ですが、治癒石があれば、きっと良くなります。オークションでは、手に入れることができませんでしたが、伝手を使ってマリソル商会長にお会いできて本当に良かった。なるほど、王女様が見つけたのですね。聖女フェリシティ様が残した治癒石を」

 私がこっそり作って売っている治癒石のことが、聖女の遺産として噂になっているようだ。気をつけよう。私が作っていると知られたくない。

 私はあいまいに微笑んだ。

「おお! 聖女フェリシティ様の偉大な遺産! すばらしいでしょう! いや、私も一つ王女様にいただく約束をしてましてね。家宝にしますよ。もったいなくて死んでも使えません! 王女様は離宮に残っていた治癒石を見つけられたそうなんです。それは、紫の目を持つ王族にしか見つけられないと言われた通り! なんとすばらしい!」

 マリリン父が興奮したように話し続けた。

 ちょっと、この人、口が軽すぎない? ああ、もううるさい。誰か止めないの?

 大声で聖女談義をするマリソル商会長にうんざりして、娘のマリリンを見ると、彼女はうっとりと、帝国人の男を見ていた。

「うふ……かっこいい」

 よだれが出そうなぐらい口を開けている。

 どうして、私にはこんな手下しかいないのかしら。

 マリソル商会長の話に相づちを打っていた黒髪の男は、流し目で私を見た。
 その瞳は、獲物を狙うかのようにギラギラと光っていた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

はずれの聖女

おこめ
恋愛
この国に二人いる聖女。 一人は見目麗しく誰にでも優しいとされるリーア、もう一人は地味な容姿のせいで影で『はずれ』と呼ばれているシルク。 シルクは一部の人達から蔑まれており、軽く扱われている。 『はずれ』のシルクにも優しく接してくれる騎士団長のアーノルドにシルクは心を奪われており、日常で共に過ごせる時間を満喫していた。 だがある日、アーノルドに想い人がいると知り…… しかもその相手がもう一人の聖女であるリーアだと知りショックを受ける最中、更に心を傷付ける事態に見舞われる。 なんやかんやでさらっとハッピーエンドです。

【完結】お飾り妃〜寵愛は聖女様のモノ〜

恋愛
今日、私はお飾りの妃となります。 ※実際の慣習等とは異なる場合があり、あくまでこの世界観での要素もございますので御了承ください。

【完結】聖女の私を処刑できると思いました?ふふ、残念でした♪

鈴菜
恋愛
あらゆる傷と病を癒やし、呪いを祓う能力を持つリュミエラは聖女として崇められ、来年の春には第一王子と結婚する筈だった。 「偽聖女リュミエラ、お前を処刑する!」 だが、そんな未来は突然崩壊する。王子が真実の愛に目覚め、リュミエラは聖女の力を失い、代わりに妹が真の聖女として現れたのだ。 濡れ衣を着せられ、あれよあれよと処刑台に立たされたリュミエラは絶対絶命かに思われたが… 「残念でした♪処刑なんてされてあげません。」

二周目聖女は恋愛小説家! ~探されてますが、前世で断罪されたのでもう名乗り出ません~

今川幸乃
恋愛
下級貴族令嬢のイリスは聖女として国のために祈りを捧げていたが、陰謀により婚約者でもあった王子アレクセイに偽聖女であると断罪されて死んだ。 こんなことなら聖女に名乗り出なければ良かった、と思ったイリスは突如、聖女に名乗り出る直前に巻き戻ってしまう。 「絶対に名乗り出ない」と思うイリスは部屋に籠り、怪しまれないよう恋愛小説を書いているという嘘をついてしまう。 が、嘘をごまかすために仕方なく書き始めた恋愛小説はなぜかどんどん人気になっていく。 「恥ずかしいからむしろ誰にも読まれないで欲しいんだけど……」 一方そのころ、本物の聖女が現れないため王子アレクセイらは必死で聖女を探していた。 ※序盤の断罪以外はギャグ寄り。だいぶ前に書いたもののリメイク版です

【長編版】この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ

・めぐめぐ・
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。 アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。 『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。神聖魔法を使うことしか取り柄のない役立たずのくせに』 そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。 傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。 アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。 捨てられた主人公がパーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー長編版。 --注意-- こちらは、以前アップした同タイトル短編作品の長編版です。 一部設定が変更になっていますが、短編版の文章を流用してる部分が多分にあります。 二人の関わりを短編版よりも増しましたので(当社比)、ご興味あれば是非♪ ※色々とガバガバです。頭空っぽにしてお読みください。 ※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。

【完結】王太子とその婚約者が相思相愛ならこうなる。~聖女には帰っていただきたい~

かのん
恋愛
 貴重な光の魔力を身に宿した公爵家令嬢エミリアは、王太子の婚約者となる。  幸せになると思われていた時、異世界から来た聖女少女レナによってエミリアは邪悪な存在と牢へと入れられてしまう。  これは、王太子と婚約者が相思相愛ならば、こうなるであろう物語。  7月18日のみ18時公開。7月19日から毎朝7時更新していきます。完結済ですので、安心してお読みください。長々とならないお話しとなっております。感想などお返事が中々できませんが、頂いた感想は全て読ませてもらっています。励みになります。いつも読んで下さる皆様ありがとうございます。

報われなくても平気ですので、私のことは秘密にしていただけますか?

小桜
恋愛
レフィナード城の片隅で治癒師として働く男爵令嬢のペルラ・アマーブレは、騎士隊長のルイス・クラベルへ密かに思いを寄せていた。 しかし、ルイスは命の恩人である美しい女性に心惹かれ、恋人同士となってしまう。 突然の失恋に、落ち込むペルラ。 そんなある日、謎の騎士アルビレオ・ロメロがペルラの前に現れた。 「俺は、放っておけないから来たのです」 初対面であるはずのアルビレオだが、なぜか彼はペルラこそがルイスの恩人だと確信していて―― ペルラには報われてほしいと願う一途なアルビレオと、絶対に真実は隠し通したいペルラの物語です。

偽聖女と蔑まれた私、冷酷と噂の氷の公爵様に「見つけ出した、私の運命」と囚われました 〜荒れ果てた領地を力で満たしたら、とろけるほど溺愛されて

放浪人
恋愛
「君は偽物の聖女だ」——その一言で、私、リリアーナの人生は転落した。 持っていたのは「植物を少しだけ元気にする」という地味な力。華やかな治癒魔法を使う本物の聖女イザベラ様の登場で、私は偽物として王都から追放されることになった。 行き場もなく絶望する私の前に現れたのは、「氷の公爵」と人々から恐れられるアレクシス様。 冷たく美しい彼は、なぜか私を自身の領地へ連れて行くと言う。 たどり着いたのは、呪われていると噂されるほど荒れ果てた土地。 でも、私は諦めなかった。私にできる、たった一つの力で、この地を緑で満たしてみせる。 ひたむきに頑張るうち、氷のように冷たかったはずのアレクシス様が、少しずつ私にだけ優しさを見せてくれるように。 「リリアーナ、君は私のものだ」 ——彼の瞳に宿る熱い独占欲に気づいた時、私たちの運命は大きく動き出す。

処理中です...