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34 悪夢
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「借金が返せないのは、果物の収益が少ないから?」
ルリに盗ってきてもらったブルーデン家の書類を、マリリンに調べてもらった。うちの侍女は愚かだけど、数字には強い。幸せの夢の果物の売れ行きは良いのに、帝国からの借金が減らない理由を知りたかったから。
かなり儲かったはずだ。それなのに、国に収める税金がほとんど入って来ない。
「その果物は、栽培がとっても難しいみたいなんです。高価で貴重な肥料がたくさん必要なんだって。果物を育てるためには、専門の知識を持った人を大勢雇わなくてちゃいけなくて、賃金がかさんで……」
「待って。そんなはずないわ」
「でも、この書類では、そんな費用が計上されてて、ほとんど収益がないって」
「嘘よ。それは、間違ってるわ」
だって、あの種は精霊の力がこもっているから、果物は放っておいてもすぐに実る。肥料はもちろん、水さえも与えなくていいのよ。収穫とジャム作りに人手は必要だけど、誰にでもできる単純作業よ。
「だったら、収益をごまかしてるんですね。そういえば、ブルーデン家って最近金遣いが粗くなったみたいです。当主は、帝国人の経営する賭場に入り浸っているみたいだし、嫡男には、愛人が何人もいて、高価な宝石を買い与えているって噂です」
「ブルーデン家の当主が賭事? 病気で寝込んでるんじゃないの?」
この国の始まりからあるブルーデン家が、そこまで堕落しているなんて。
あの一家で、おかしいのはアーサーだけで、当主はまともな人だと思っていたのに。
裏切られたわ。
マリリンが退室した後、私はルリといっしょに果樹園に転移した。現状を知りたかった。
「ひどい……」
農作業員たちは、昼間から仕事もせずに、木陰で眠っていた。
地面に落ちて、売り物にならなくなった果物を貪り食って、幸せな夢を見ているのだ。
飴を作る作業所の洗い場では、ジャムを煮た後の鍋の中に手を突っ込んでいる者がいた。
「俺にもよこせ! 俺も夢を見るんだ」
「おい! 全部舐めるなよ」
彼らは大鍋を奪い合って、鍋底に残ったジャムを指ですくって舐める。
働かない彼らの代わりに、火の前で鍋をかき混ぜているのは、やせ細った子どもたちだ。
「ちゃんと今日の分を作っとけよ」
「休むなよ。俺たちのために働けよ」
大人達に殴られながら、幼い子供が大きな鍋を汗だくになってかき混ぜる。
その周囲では、欠けて商品にならなかった飴をガリガリとかじっている大人達。
醜い。
この国の民は、なぜこんなにも醜悪なの……。
汚い。
気持ち悪い。
吐き気がする。
私の愛すべき国民達。
建国女王の信念を継いで、国民を愛することを強要されてきた。
でも、彼らには、そんな価値はない。本当に、うんざりするほど醜い。
100年以上前も、今も、私はこんな者たちのために……。
「もういい」
私は自分自身に言い聞かせた。
「もういいわ。全部、消して」
青い鳥は私の言葉に首をかしげる。
まんまるな青い目に、私は告げる。
「この国に、この国の民には、幸せな夢を見せてあげる必要ないわ。幸せな夢の果物を、全部消してちょうだい。彼らに必要なのは、醜い現実よ」
この国の民への憎しみが湧き上がる。
なぜこんなにも醜いの?
私は、彼らのために力を尽くしてきたのに。
私の願いを叶えて、ルリは果物にかかった加護を全て消し去った。
もう、この果物は育たなくなるだろう。
どれだけ貴重な肥料を与えても、農業の専門家を雇っても、幸せな夢を見ることのできる果物は実らない。今残っている樹木もすぐに枯れ葉てる。
果物がなくなったブルーデン家は、悪夢に襲われたかのように大惨事になることだろう。
ルリに盗ってきてもらったブルーデン家の書類を、マリリンに調べてもらった。うちの侍女は愚かだけど、数字には強い。幸せの夢の果物の売れ行きは良いのに、帝国からの借金が減らない理由を知りたかったから。
かなり儲かったはずだ。それなのに、国に収める税金がほとんど入って来ない。
「その果物は、栽培がとっても難しいみたいなんです。高価で貴重な肥料がたくさん必要なんだって。果物を育てるためには、専門の知識を持った人を大勢雇わなくてちゃいけなくて、賃金がかさんで……」
「待って。そんなはずないわ」
「でも、この書類では、そんな費用が計上されてて、ほとんど収益がないって」
「嘘よ。それは、間違ってるわ」
だって、あの種は精霊の力がこもっているから、果物は放っておいてもすぐに実る。肥料はもちろん、水さえも与えなくていいのよ。収穫とジャム作りに人手は必要だけど、誰にでもできる単純作業よ。
「だったら、収益をごまかしてるんですね。そういえば、ブルーデン家って最近金遣いが粗くなったみたいです。当主は、帝国人の経営する賭場に入り浸っているみたいだし、嫡男には、愛人が何人もいて、高価な宝石を買い与えているって噂です」
「ブルーデン家の当主が賭事? 病気で寝込んでるんじゃないの?」
この国の始まりからあるブルーデン家が、そこまで堕落しているなんて。
あの一家で、おかしいのはアーサーだけで、当主はまともな人だと思っていたのに。
裏切られたわ。
マリリンが退室した後、私はルリといっしょに果樹園に転移した。現状を知りたかった。
「ひどい……」
農作業員たちは、昼間から仕事もせずに、木陰で眠っていた。
地面に落ちて、売り物にならなくなった果物を貪り食って、幸せな夢を見ているのだ。
飴を作る作業所の洗い場では、ジャムを煮た後の鍋の中に手を突っ込んでいる者がいた。
「俺にもよこせ! 俺も夢を見るんだ」
「おい! 全部舐めるなよ」
彼らは大鍋を奪い合って、鍋底に残ったジャムを指ですくって舐める。
働かない彼らの代わりに、火の前で鍋をかき混ぜているのは、やせ細った子どもたちだ。
「ちゃんと今日の分を作っとけよ」
「休むなよ。俺たちのために働けよ」
大人達に殴られながら、幼い子供が大きな鍋を汗だくになってかき混ぜる。
その周囲では、欠けて商品にならなかった飴をガリガリとかじっている大人達。
醜い。
この国の民は、なぜこんなにも醜悪なの……。
汚い。
気持ち悪い。
吐き気がする。
私の愛すべき国民達。
建国女王の信念を継いで、国民を愛することを強要されてきた。
でも、彼らには、そんな価値はない。本当に、うんざりするほど醜い。
100年以上前も、今も、私はこんな者たちのために……。
「もういい」
私は自分自身に言い聞かせた。
「もういいわ。全部、消して」
青い鳥は私の言葉に首をかしげる。
まんまるな青い目に、私は告げる。
「この国に、この国の民には、幸せな夢を見せてあげる必要ないわ。幸せな夢の果物を、全部消してちょうだい。彼らに必要なのは、醜い現実よ」
この国の民への憎しみが湧き上がる。
なぜこんなにも醜いの?
私は、彼らのために力を尽くしてきたのに。
私の願いを叶えて、ルリは果物にかかった加護を全て消し去った。
もう、この果物は育たなくなるだろう。
どれだけ貴重な肥料を与えても、農業の専門家を雇っても、幸せな夢を見ることのできる果物は実らない。今残っている樹木もすぐに枯れ葉てる。
果物がなくなったブルーデン家は、悪夢に襲われたかのように大惨事になることだろう。
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