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猛撃の黒曜腕駆 アデライアの予感
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構えも何も必要ない。俺は剣を片手に一気にリアデイン目掛けて駆けだす。
その踏み込みの速さは、これまでリアデインが見せてきたものとほぼ同等だった。
「!!」
リアデインは驚愕の表情を浮かべながら、俺の剣撃を紙一重で避ける。そして剣を振り切って隙の生まれた俺に向けて、手刀を突き出した。
「い……!」
だが手刀は俺の甲冑をまったく貫く事ができない。
これは甲冑というか、魔法で生まれた外骨格みたいなものだからな。関節部分でも関係なく、その防御力は高い。
「ふん!」
剣を振り、拳を突き出す。リアデインはいくら体術で応戦しようにも、俺の甲冑を破る事はできない。
だが俺の一撃を受ければ致命は必至。リアデインもそれは理解できているのか、みるみる顔色が悪くなっていく。
「くぅ!」
一端大きく俺から距離を取る。そんなリアデインに向けて俺は左腕を伸ばし、その指先に力を集中させる。
「!!」
次の瞬間、極小の魔力球がリアデインに向けて撃ちだされた。
リアデインは上体を逸らしてそれを何とか躱すが、後ろから悲鳴が聞こえる。どうやら冥狼のボス、キヤトの隣にいた男に命中した様だ。頭が完全に爆ぜている。
「ひいぃぃぃ!」
「な、なんだ、なんなんだ!」
「あ、あいつ、いつ甲冑なんて着たんだ!?」
リアデインも俺の放った攻撃がいかに危険なものだったかを理解できた様だ。また同じ攻撃が飛んでこないか、両目を大きく見開いて俺の動きを注視している。
「おいおいリアデイン。駄目じゃないか、攻撃を躱したら。おかげで冥狼の幹部を一人やっちまったじゃねぇか」
「あ、あなた……! ま、まさか、本当に結社の……!?」
「あぁん? 結社といや、てめぇも関係しているエル=グナーデとやらの事だろう。何言ってんだ」
俺はゆっくりとリアデインへと向かって歩き始める。
「そういや結社についても話を聞いておいた方がいいか。おいリアデイン。大人しくしゃべる気があるなら、少しの間生かしておいてもいいぞ。もしくは思いっきり手加減してやる」
「…………!」
リアデインは覚悟を決めた目で身構える。
ま、そりゃそうか。どうやら相当上の立場の様だし、闇組織にどっぷり浸かってそうな気配もある。拷問しても時間の無駄になる可能性が高い。
何よりあの目。ここが死地だと決意を固めたな。
「最後に聞いてもいいかしら?」
「言うだけ言ってみな」
「あなた……なにもの……?」
「ふん、それが最後に聞きたかった事か。黒狼会のボス、ヴェルト。以上だ」
■
ディアノーラはアデライアと共に、ヴェルトとリアデインの戦いを見守っていた。リアデインはこれまで戦ってきた人間の中では、ほぼ最上位の実力を持っている。
ディアノーラの中で最上位は父であるディザイアだが、リアデインからはそれに近しい実力を感じ取った。そんなリアデインが相手では、いくらヴェルトでも苦戦するだろうと考えていた。
確かに怪物を制するだけの力はあるが、戦いは力の大小だけでは決まらない。しかしヴェルトは最初、見事にリアデインと拳による接近戦を演じてみせた。互いに先の先を読み合った完璧な攻防。その様を見て美しいと感じたくらいだ。
そして今。どういう訳か、ヴェルトは急に黒の甲冑を纏いだした。黒狼会のボスといえば、戦闘時には甲冑を着こんでいるというのは少し知られた話だ。ディアノーラ自身、一度その姿を直接見ている。
だが先ほどまでそんなもの、どこにも持ってきていなかった。アデライアも赤い眼でじっとヴェルトの戦いを見守っている。
「……ディアノーラ。あの方は何者なのです……?」
「帝都で黒狼会という商会の代表を務めている者です。下手な貴族よりは信用できる相手ですが……」
しかし疑問は尽きない。ヴェルトが甲冑を纏ってからというもの、明らかに動きが大きく変わった。
急に剣を使い始め、さらに指先から謎の遠距離攻撃まで行った。もはやリアデインなど相手になっていない。そして何より。
「……でも。さっき、ディグマイヤーって……」
そう。初対面の者の名を看破するリアデインが、ヴェルトを見てこう言ったのだ。ヴェルトハルト・ディグマイヤーと。
ディグマイヤーと言えば、帝都の貴族では知らない者はいない。剣で身を立てた閃光の剣騎士クインシュバインが、皇帝陛下より復興を許可された家だ。
クインシュバインは、若い騎士志望の貴族たちから特に人気も高い。武門の家の生まれだけあり、ディアノーラも当然その名を知っている。
「分かりません……」
だがヴェルトは甲冑を纏う前、はっきりと魔法という単語を口に出した。
魔法。かつて大幻霊石が存在した時代、貴族が独占していた力。そして今もアルフォース家に継承されている力だ。
(まさか……ディグマイヤー家にも、幻魔歴時代からの魔法が継承され続けていたのか……?)
理屈は分からない。だが踏み込んで良いのかは微妙なところだった。そして。
「ぐぅ……!」
目の前ではとうとうリアデインが追い詰められていた。宙に舞うリアデインの右腕が、放物線を描いて地に落ちる。
■
「はぁ、はぁ……! ヴェルトちゃん、あなた化け物ね……!」
「かつてはこんな化け物がごろごろしていた時代もあった訳だ。だがお前も中々強かったぜ。時代が違えば、英雄として名を馳せていただろう」
俺は片腕だけになったリアデインに称賛を送る。実際俺に魔法の力がなければ、武器を持っていなかった事もあり、かなり分が悪かった。
「一応殺す前に聞いておくが。お前は魔法を使うのか?」
「……いいえ。大幻霊石の無い今、魔法を使える者なんて誰もいないわ」
「だがお前は俺の名を看破し、細見に似合わぬ身体能力を見せた。それは何故だ?」
「…………。ふふ、私からは何も言えないわね。でも。かつて存在していた魔法を、昔とは違う形で今の世に復活させようという研究は続いているのよ」
「それがお前たち、結社エル=グナーデか?」
俺の質問に対し、リアデインはゆっくりと首を横に振る。
「私は暗殺組織、閃刺鉄鷲の一員に過ぎないわ。結社の事は何も言えない」
「……そうか」
「まったく。帝都になんか来るんじゃなかったわ」
そう言うとリアデインは、どこかからか取り出した鉄針で自分の喉を突いた。
「グ……ガフッ……」
そしてその場に崩れ落ちる。周囲を見渡すが、冥狼の奴らは誰も残っていなかった。
どうやらリアデインの旗色が悪いと見るや、さっさと逃げ出した様だ。俺は黒曜腕駆を解除すると改めてディアノーラに視線を向ける。
「終わったぞ。姫様も無事か?」
「うむ。ヴェルト殿、改めて最大級の感謝を。あなたの助けがなくては、こうしてアデライア様をお救いできなかった」
「いや、俺だけだと姫様を傷一つなく救い出せていたかは分からない。エルヴァール様とは姫様を必ずお救いすると約束していたからな。何とかそれが果たせそうで良かった」
それにローガの血筋でもある。こうして救い出せたのは、俺としても喜ばしいことだ。
しかしこの皇女。眼が赤いんだな。かつてのシャノーラ殿下と同じ眼だ。俺は今さらながら、アデライアに対して膝をつく。
「初めてお目にかかります。私は帝都で黒狼会という商会の代表を務めております、ヴェルトと申す者です。この度はエルヴァール様の従者として音楽祭に参加させていただいておりましたが、そのエルヴァール様より御身をお救いして欲しいと頼まれ、こうして馳せ参じました」
「……私を……助けに来てくれたのですか……?」
「はい。とはいえ、騎士の領分を侵す気はございません。今回の事はディアノーラ様がお救いした事にしていただけたらと思います」
平民が貴族の舞台にでしゃばると、碌な事がないからな。特に皇女を助け出したのが裏組織まがいのボスだと知られたら、騎士たちからすればメンツが丸つぶれだ。
騎士とはこれからも良好な関係を築いていきたい。ここで変なやっかみは買いたくないのだ。
「しかし流石に、全て私の手柄とする訳には……」
俺は立ち上がると言葉使いも元に戻す。最低限の礼儀は尽くしたし、臣下でもない以上、変にへりくだるのは黒狼会の名を下げる。
「気にするな。黒狼会としてもその方が都合が良いってだけだ」
とはいえ、ディアノーラも真面目そうな気質を感じるからな。流石に頷きづらいか。
「……ではこうしよう。黒狼会はいろいろな物を取り扱う商会なんだが。アルフォース家にも何か買って欲しい。うちはこう見えて、帝都では真っ当に商売をしている組織だからな」
「ふふ……。分かった、父上に話を通しておこう」
来た道を戻ろう。そう言いかけた時だった。赤い眼の皇女が俺に声をかける。
「あの。ヴェルト様は……ディグマイヤー家の方なのですか?」
……やっぱり聞こえていたか。ディアノーラも聞くかどうか迷っていたのだろう。なんと話したものか……。
俺たちは来た道を歩きながら会話を続ける。ディアノーラはゆっくりと口を開いた。
「ヴェルト殿。正直、事の顛末について父上には全て話す事になると思う。その上でヴェルト殿の希望を聞き、何とか黒狼会に影響は出ない様に取り計らってくれと頼むつもりだ」
「上層部の一部はさすがに事情を把握しておきたいだろうしな。上手く処理してくれるのなら構わない」
「だがヴェルト殿の個人的な事情までは話す気はない。ここで聞いた事も忘れるつもりだ」
要するに、ディグマイヤー家について他言はしないから、何か教えてくれると嬉しいってか。
まぁ俺も派手に黒曜腕駆を見せたからなぁ。さすがに誤魔化せない。それにディアノーラは信用できそうだし、アデライアも命の恩人に対して義理くらいは果たしてくれるだろ。
「流石に言っても信じないと思うんだが……」
「ヴェルト様は過去の世界からシャノーラ様によって遣わされた、魔法使いなのではありませんか?」
「!!」
アデライアの不意打ちにより、俺は思わず分かりやすい反応を示してしまう。まさかこうも具体的に言いあてられるとは思っていなかったのだ。
「……驚いたな。どこで気づいたんだ?」
「…………! 本当に……! ではあの伝説の群狼武風……!?」
「ああ。アデライア姫の言う通りだ。俺は……というか、黒狼会の幹部たち全員だが。俺たちは幻魔歴の時代からシャノーラ殿下のお力によって、この時代へとやってきた群狼武風だ」
シャノーラ殿下が存命だったと分かった時、俺はもしかしたら皇族には、群狼武風の事が伝わっているのではないかと考えていた。どうやらその予想は当たっていたらしい。
その踏み込みの速さは、これまでリアデインが見せてきたものとほぼ同等だった。
「!!」
リアデインは驚愕の表情を浮かべながら、俺の剣撃を紙一重で避ける。そして剣を振り切って隙の生まれた俺に向けて、手刀を突き出した。
「い……!」
だが手刀は俺の甲冑をまったく貫く事ができない。
これは甲冑というか、魔法で生まれた外骨格みたいなものだからな。関節部分でも関係なく、その防御力は高い。
「ふん!」
剣を振り、拳を突き出す。リアデインはいくら体術で応戦しようにも、俺の甲冑を破る事はできない。
だが俺の一撃を受ければ致命は必至。リアデインもそれは理解できているのか、みるみる顔色が悪くなっていく。
「くぅ!」
一端大きく俺から距離を取る。そんなリアデインに向けて俺は左腕を伸ばし、その指先に力を集中させる。
「!!」
次の瞬間、極小の魔力球がリアデインに向けて撃ちだされた。
リアデインは上体を逸らしてそれを何とか躱すが、後ろから悲鳴が聞こえる。どうやら冥狼のボス、キヤトの隣にいた男に命中した様だ。頭が完全に爆ぜている。
「ひいぃぃぃ!」
「な、なんだ、なんなんだ!」
「あ、あいつ、いつ甲冑なんて着たんだ!?」
リアデインも俺の放った攻撃がいかに危険なものだったかを理解できた様だ。また同じ攻撃が飛んでこないか、両目を大きく見開いて俺の動きを注視している。
「おいおいリアデイン。駄目じゃないか、攻撃を躱したら。おかげで冥狼の幹部を一人やっちまったじゃねぇか」
「あ、あなた……! ま、まさか、本当に結社の……!?」
「あぁん? 結社といや、てめぇも関係しているエル=グナーデとやらの事だろう。何言ってんだ」
俺はゆっくりとリアデインへと向かって歩き始める。
「そういや結社についても話を聞いておいた方がいいか。おいリアデイン。大人しくしゃべる気があるなら、少しの間生かしておいてもいいぞ。もしくは思いっきり手加減してやる」
「…………!」
リアデインは覚悟を決めた目で身構える。
ま、そりゃそうか。どうやら相当上の立場の様だし、闇組織にどっぷり浸かってそうな気配もある。拷問しても時間の無駄になる可能性が高い。
何よりあの目。ここが死地だと決意を固めたな。
「最後に聞いてもいいかしら?」
「言うだけ言ってみな」
「あなた……なにもの……?」
「ふん、それが最後に聞きたかった事か。黒狼会のボス、ヴェルト。以上だ」
■
ディアノーラはアデライアと共に、ヴェルトとリアデインの戦いを見守っていた。リアデインはこれまで戦ってきた人間の中では、ほぼ最上位の実力を持っている。
ディアノーラの中で最上位は父であるディザイアだが、リアデインからはそれに近しい実力を感じ取った。そんなリアデインが相手では、いくらヴェルトでも苦戦するだろうと考えていた。
確かに怪物を制するだけの力はあるが、戦いは力の大小だけでは決まらない。しかしヴェルトは最初、見事にリアデインと拳による接近戦を演じてみせた。互いに先の先を読み合った完璧な攻防。その様を見て美しいと感じたくらいだ。
そして今。どういう訳か、ヴェルトは急に黒の甲冑を纏いだした。黒狼会のボスといえば、戦闘時には甲冑を着こんでいるというのは少し知られた話だ。ディアノーラ自身、一度その姿を直接見ている。
だが先ほどまでそんなもの、どこにも持ってきていなかった。アデライアも赤い眼でじっとヴェルトの戦いを見守っている。
「……ディアノーラ。あの方は何者なのです……?」
「帝都で黒狼会という商会の代表を務めている者です。下手な貴族よりは信用できる相手ですが……」
しかし疑問は尽きない。ヴェルトが甲冑を纏ってからというもの、明らかに動きが大きく変わった。
急に剣を使い始め、さらに指先から謎の遠距離攻撃まで行った。もはやリアデインなど相手になっていない。そして何より。
「……でも。さっき、ディグマイヤーって……」
そう。初対面の者の名を看破するリアデインが、ヴェルトを見てこう言ったのだ。ヴェルトハルト・ディグマイヤーと。
ディグマイヤーと言えば、帝都の貴族では知らない者はいない。剣で身を立てた閃光の剣騎士クインシュバインが、皇帝陛下より復興を許可された家だ。
クインシュバインは、若い騎士志望の貴族たちから特に人気も高い。武門の家の生まれだけあり、ディアノーラも当然その名を知っている。
「分かりません……」
だがヴェルトは甲冑を纏う前、はっきりと魔法という単語を口に出した。
魔法。かつて大幻霊石が存在した時代、貴族が独占していた力。そして今もアルフォース家に継承されている力だ。
(まさか……ディグマイヤー家にも、幻魔歴時代からの魔法が継承され続けていたのか……?)
理屈は分からない。だが踏み込んで良いのかは微妙なところだった。そして。
「ぐぅ……!」
目の前ではとうとうリアデインが追い詰められていた。宙に舞うリアデインの右腕が、放物線を描いて地に落ちる。
■
「はぁ、はぁ……! ヴェルトちゃん、あなた化け物ね……!」
「かつてはこんな化け物がごろごろしていた時代もあった訳だ。だがお前も中々強かったぜ。時代が違えば、英雄として名を馳せていただろう」
俺は片腕だけになったリアデインに称賛を送る。実際俺に魔法の力がなければ、武器を持っていなかった事もあり、かなり分が悪かった。
「一応殺す前に聞いておくが。お前は魔法を使うのか?」
「……いいえ。大幻霊石の無い今、魔法を使える者なんて誰もいないわ」
「だがお前は俺の名を看破し、細見に似合わぬ身体能力を見せた。それは何故だ?」
「…………。ふふ、私からは何も言えないわね。でも。かつて存在していた魔法を、昔とは違う形で今の世に復活させようという研究は続いているのよ」
「それがお前たち、結社エル=グナーデか?」
俺の質問に対し、リアデインはゆっくりと首を横に振る。
「私は暗殺組織、閃刺鉄鷲の一員に過ぎないわ。結社の事は何も言えない」
「……そうか」
「まったく。帝都になんか来るんじゃなかったわ」
そう言うとリアデインは、どこかからか取り出した鉄針で自分の喉を突いた。
「グ……ガフッ……」
そしてその場に崩れ落ちる。周囲を見渡すが、冥狼の奴らは誰も残っていなかった。
どうやらリアデインの旗色が悪いと見るや、さっさと逃げ出した様だ。俺は黒曜腕駆を解除すると改めてディアノーラに視線を向ける。
「終わったぞ。姫様も無事か?」
「うむ。ヴェルト殿、改めて最大級の感謝を。あなたの助けがなくては、こうしてアデライア様をお救いできなかった」
「いや、俺だけだと姫様を傷一つなく救い出せていたかは分からない。エルヴァール様とは姫様を必ずお救いすると約束していたからな。何とかそれが果たせそうで良かった」
それにローガの血筋でもある。こうして救い出せたのは、俺としても喜ばしいことだ。
しかしこの皇女。眼が赤いんだな。かつてのシャノーラ殿下と同じ眼だ。俺は今さらながら、アデライアに対して膝をつく。
「初めてお目にかかります。私は帝都で黒狼会という商会の代表を務めております、ヴェルトと申す者です。この度はエルヴァール様の従者として音楽祭に参加させていただいておりましたが、そのエルヴァール様より御身をお救いして欲しいと頼まれ、こうして馳せ参じました」
「……私を……助けに来てくれたのですか……?」
「はい。とはいえ、騎士の領分を侵す気はございません。今回の事はディアノーラ様がお救いした事にしていただけたらと思います」
平民が貴族の舞台にでしゃばると、碌な事がないからな。特に皇女を助け出したのが裏組織まがいのボスだと知られたら、騎士たちからすればメンツが丸つぶれだ。
騎士とはこれからも良好な関係を築いていきたい。ここで変なやっかみは買いたくないのだ。
「しかし流石に、全て私の手柄とする訳には……」
俺は立ち上がると言葉使いも元に戻す。最低限の礼儀は尽くしたし、臣下でもない以上、変にへりくだるのは黒狼会の名を下げる。
「気にするな。黒狼会としてもその方が都合が良いってだけだ」
とはいえ、ディアノーラも真面目そうな気質を感じるからな。流石に頷きづらいか。
「……ではこうしよう。黒狼会はいろいろな物を取り扱う商会なんだが。アルフォース家にも何か買って欲しい。うちはこう見えて、帝都では真っ当に商売をしている組織だからな」
「ふふ……。分かった、父上に話を通しておこう」
来た道を戻ろう。そう言いかけた時だった。赤い眼の皇女が俺に声をかける。
「あの。ヴェルト様は……ディグマイヤー家の方なのですか?」
……やっぱり聞こえていたか。ディアノーラも聞くかどうか迷っていたのだろう。なんと話したものか……。
俺たちは来た道を歩きながら会話を続ける。ディアノーラはゆっくりと口を開いた。
「ヴェルト殿。正直、事の顛末について父上には全て話す事になると思う。その上でヴェルト殿の希望を聞き、何とか黒狼会に影響は出ない様に取り計らってくれと頼むつもりだ」
「上層部の一部はさすがに事情を把握しておきたいだろうしな。上手く処理してくれるのなら構わない」
「だがヴェルト殿の個人的な事情までは話す気はない。ここで聞いた事も忘れるつもりだ」
要するに、ディグマイヤー家について他言はしないから、何か教えてくれると嬉しいってか。
まぁ俺も派手に黒曜腕駆を見せたからなぁ。さすがに誤魔化せない。それにディアノーラは信用できそうだし、アデライアも命の恩人に対して義理くらいは果たしてくれるだろ。
「流石に言っても信じないと思うんだが……」
「ヴェルト様は過去の世界からシャノーラ様によって遣わされた、魔法使いなのではありませんか?」
「!!」
アデライアの不意打ちにより、俺は思わず分かりやすい反応を示してしまう。まさかこうも具体的に言いあてられるとは思っていなかったのだ。
「……驚いたな。どこで気づいたんだ?」
「…………! 本当に……! ではあの伝説の群狼武風……!?」
「ああ。アデライア姫の言う通りだ。俺は……というか、黒狼会の幹部たち全員だが。俺たちは幻魔歴の時代からシャノーラ殿下のお力によって、この時代へとやってきた群狼武風だ」
シャノーラ殿下が存命だったと分かった時、俺はもしかしたら皇族には、群狼武風の事が伝わっているのではないかと考えていた。どうやらその予想は当たっていたらしい。
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