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皇宮の騒動……?
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「きき、ききき、きさまぁぁああ!?」
流石にライン超えだ。今のゲイブリークの発言、黒狼会に対する宣戦布告と取るのに十分。
黒狼会は売られた喧嘩は必ず買う。相手は関係ない。それこそローガの血を引く皇族であろうとだ。
相手が巨大な組織、権力だから泣き寝入りする。黒狼会はそんな組織じゃない。
だが建前は必要だ。俺は今の暴力を「手と足が滑った」という事で押し通すつもりだった。もちろん通じるとは思っていない。要するに挑発だ。
「お、おい、ヴェルト殿……!」
ビルツァイスも焦っている。こんな事になって悪いとは思っているが、俺にも譲れないものの線引きくらいはある。それに他に狙いもあるしな。
「平民如きがあぁ……! ぼ、僕に暴力を……!? 貴様ぁ! 一族郎党全員縛り首だぞ!?」
「ですから緊張で足を滑らしたと言っているではありませんか。殿下には申し訳なく思っておりますよ」
「ええい! 誰か、誰かいないのか! 今すぐこいつの首を刎ねろ!」
ゲイブリークの発言に対し、ビルツァイスは毅然とした口調で話す。
「ゲイブリーク様。ヴェルトは平民な上に私が無理やり皇宮まで連れてきたのです。緊張して足を滑らせるのも分かるというもの。そんな事で一平民に過ぎないヴェルトの首を刎ねろと言うとは」
「うう、うるさい! 誰か! いないのか!」
「はは、ご勘弁くださいよ。しかしこの様な騒ぎになるなんて。ここには陛下にご報告のあるビルツァイス様の護衛で付いてきただけなのに」
そう言いながら俺は横目に文官に視線を向ける。文官は焦った表情ながらも首を縦に振った。
「こ、皇宮でこの様な騒ぎ、ぜ、前代未聞です……! 急ぎ陛下に報告せねば……!」
そう言うと文官はさっさと駆け足で去っていく。これ以上巻き込まれたくなかっただろうし、なにより先ほどゲイブリークから、ビルツァイスの件でウィックリンの元へ行く事を禁じられていた。
だが皇族と平民の騒ぎを報告する事までは禁じられていない。それに事は皇宮の中で起こったのだ。責任者たるウィックリンに報告しない訳にはいかないだろう。
(これで少なくとも、俺がビルツァイスを連れて皇宮で騒ぎを起こした事がウィックリンまで伝わるだろう)
これ以上ゲイブリークに付き合っていては、ウィックリンに会うまで時間がかかり過ぎる。今はこんなお遊びに時間を割いている余裕などないのだ。
俺の狙いを読めたビルツァイスも覚悟を決めたらしい。先ほどよりもやや強気な口調になっている。
「ゲイブリーク様。もう一度言いますが、私は陛下にお伝えしたい事があり、苦難の道を超えて帝都に帰ってきたのです。これ以上ゲイブリーク様とここで問答する時間はありません」
「皇族でもなくなった分際で、偉そうに……! この神聖なる場で私に手をあげたのは事実! そこの男には血族の全員に至るまで、不敬罪が適応されるだろう!」
「皇族は不敬罪に守られている……か。ですがゲイブリーク様。そう簡単な話ではありません。黒狼会は帝国政府より表彰を受けた、れっきとした商会です。それを潰す様な真似を皇族がしたとなれば、帝国民の心は皇族より離れるでしょう」
「お前は何を言っている!? 皇族でなくなって頭でもわいたのか!? 皇族たる私に手をあげ、不敬罪に問う! これはそれだけの話だ!」
「そう簡単な話にはなりませんよ……」
ビルツァイスとゲイブリークの口論は続く。さすがに騒ぎを聞きつけたのか、遠巻きに俺たちを見ている者が増えてきた。その中の2人が前へと出てくる。
「これは……何の騒ぎですか?」
現れたのはアデライアとディアノーラだった。見知った顔が来てくれた事で、俺も少し安堵する。
少なくとも話はちゃんと通じる相手だ。それに2人ともゲイブリークの味方をする事はないだろう。
「おお、ディアノーラ! 丁度いい、この平民の首を斬れ!」
「…………。理由をお伺いしても?」
「この男が私に手をあげたのだ! 平民がだぞ!? 決して許されるものではない……!」
ディアノーラが姿を見せた事で、ゲイブリークは勝ち誇った様な表情を見せる。皇族の剣たるアルフォース家の実力に、絶対の信頼を置いているのだろう。
そのディアノーラは俺に視線を向けてきた。俺は悪びれることなく堂々と答える。
「足が滑ってしまい、そこにたまたまおられた殿下に触れてしまったのです。何ぶんただの平民ですので。この様な場でしたから、どうしても緊張してしまいまして」
「……そうか。それは仕方がないな」
「!? おい、何を言っている!? こいつ、思いっきり僕を殴ったんだぞ!?」
まぁそうなるよな。だがここで口を開いたのはアデライアだった。
「その事を他に見た者は?」
「文官が1人見ている!」
「その者はどこに?」
「……!? あいつ、どこに行った……!?」
どうやらさっさとこの場を去った事は気づいていなかったらしい。アデライアは普段の態度からは考えられない口調でゲイブリークに意見を述べる。
「証拠がない以上、無理やり平民を処することなど皇族とはいえできません」
「アデライア! 貴様、この僕に指図するのかぁ!?」
ゲイブリークがアデライアに掴みかかろうと距離を詰める。だが間に入ったディアノーラはゲイブリークに強い視線を投げる。
「ゲイブリーク様。私は皇帝陛下よりアデライア様の護衛騎士を任じられております。アルフォース家の剣士に与えられている権限はご存じですね?」
「…………! く……!」
アルフォース家は皇族専属の護衛騎士の家系だったか。ディアノーラの言葉から推察するに、どうやら主たる皇族を傷つける者は、同じ皇族であれ容赦しないみたいだな。
「どいつもこいつも……! ええい、誰ぞ剣を持ってこい! こうなったら僕が直接斬ってやるぅ!」
「やめてください、殿下。そんな事をされては、また緊張で足を滑らせてしまいます」
「きさ……! きさまぁ! どこまでを僕をばかにしてえぇ!」
手加減し過ぎたな。まだまだ元気じゃないか。もう少し踏み込んだ正拳突きを叩き込めばよかったか。
「ゲイブリーク兄さま。せっかくビルツァイス兄さまも帰還されたのです。これ以上無用の騒ぎはおやめください」
「無用の騒ぎだと!? お前は自分が何を言っているのか分かっているのか!?」
「黒狼会は内乱の折、帝都の民たちを守った商会です。この帝都になくてはならない者たちでもあります。皇族として礼を尽くす事はあれど、この様な場で無用の騒ぎに巻き込んでいい方ではございません」
アデライアはよどみなくぴしゃりと言い切る。その声色からはゲイブリークに対し、怒っている事も理解できた。
どうやらあまり兄妹仲はよろしくないらしい。だがここでゲイブリークが何かに気付いた様に怪訝な顔を見せる。
「……待てアデライア。お前、何故この者が黒狼会の者だと知っている?」
「……え?」
「さてはお前……! この男と知り合いか……! そうか、それでこの男を庇っているんだな……! 皇族が平民如きに付け込まれおって……!」
いや、少し調べたら黒狼会がアデライアやヴィローラと知己の仲なのは分かるはずだが。
エルセマー領の騒ぎに然り、なんならエルセマー領から帝都まで送り届けてもいるのだ。アデライアも何と言ったら良いのか分からない顔をしていた。
「どうした、アデライア! 図星か!? お前、皇族としての矜持はどうした!?」
「……ゲイブリーク兄さま」
アデライアはどこか呆れた声を出す。そこに新たな声が響く。
「何事か!」
声のした方向を見ると、そこには少しやつれたウィックリンが文官と一緒に立っていた。
思っていた通り、俺がビルツァイスを伴って騒いでいると聞き、直接ここまで足を運んだのだろう。おおよそ狙い通りか。
「パパン! 聞いてよ、こいつが僕を殴ったんだよぉ!」
ゲイブリークは泣きつく様に……そして勝ち誇った顔でウィックリンに訴えかける。訴えを受け、ウィックリンは俺に顔を向けた。
「……とのことだが?」
「はい。実は緊張で足を滑らしてしまいまして。そこから不幸なすれ違いが起こっている状況なのです」
「そうか。ゲイブリーク、客人を余計な騒動に巻き込むでない」
ウィックリンは俺の言い分を受け、さっさと話をまとめはじめる。それを受け、ゲイブリークは驚愕の表情を見せた。
「ぱ、パパン!? 何を言って……!」
「今はこの様な騒ぎに時間を取られるのも惜しいのだ」
「で、でも! お、おい! お前! お前も見ただろう、その男が僕を思いっきり殴ったのを……!」
ゲイブリークに視線を向けられた文官は焦った様に汗をかきはじめる。だが何か話す前にウィックリンが先に口を開いた。
「黒狼会のヴェルトは緊張で足を滑らした。そうだな?」
普段の柔らかい物腰とは打って変わって、少し威圧気味に文官に問いかける。おそらく本当にこの騒ぎに時間を取られたくないのだろう。
皇帝陛下に睨まれた文官は黙って首を縦に振った。
「そ、そんな……!?」
「……ヴェルト殿。それにビルツァイス。私に話があるのだろう?」
「はい」
「話は部屋で聞こう。ゲイブリーク。この件でこれ以上騒ぎを大きくすることは許さぬ。……分かるな?」
「…………!」
ゲイブリークはウィックリンに対し、苛立ちを隠さない視線を向ける。だが何か言う事はなかった。
「こっちだ。ついてきてくれ」
「はっ」
そう言うと俺とビルツァイスはウィックリンの後に続く。途中、アデライアとディアノーラに軽く頭を下げてお礼の意思を見せた。
(余計な騒動にはなったが、結果的にウィックリンをこの場に連れ出す事ができた。この件を以て、ゲイブリークの態度は見逃してやるか)
本来なら掟に則り、倍返しにするところなんだが。さすがにゲイブリークと黒狼会では立っているステージが違うし、特別に見逃してやる。
なにより。今はこんな些事に気と時間を取られている場合ではないのだ。
流石にライン超えだ。今のゲイブリークの発言、黒狼会に対する宣戦布告と取るのに十分。
黒狼会は売られた喧嘩は必ず買う。相手は関係ない。それこそローガの血を引く皇族であろうとだ。
相手が巨大な組織、権力だから泣き寝入りする。黒狼会はそんな組織じゃない。
だが建前は必要だ。俺は今の暴力を「手と足が滑った」という事で押し通すつもりだった。もちろん通じるとは思っていない。要するに挑発だ。
「お、おい、ヴェルト殿……!」
ビルツァイスも焦っている。こんな事になって悪いとは思っているが、俺にも譲れないものの線引きくらいはある。それに他に狙いもあるしな。
「平民如きがあぁ……! ぼ、僕に暴力を……!? 貴様ぁ! 一族郎党全員縛り首だぞ!?」
「ですから緊張で足を滑らしたと言っているではありませんか。殿下には申し訳なく思っておりますよ」
「ええい! 誰か、誰かいないのか! 今すぐこいつの首を刎ねろ!」
ゲイブリークの発言に対し、ビルツァイスは毅然とした口調で話す。
「ゲイブリーク様。ヴェルトは平民な上に私が無理やり皇宮まで連れてきたのです。緊張して足を滑らせるのも分かるというもの。そんな事で一平民に過ぎないヴェルトの首を刎ねろと言うとは」
「うう、うるさい! 誰か! いないのか!」
「はは、ご勘弁くださいよ。しかしこの様な騒ぎになるなんて。ここには陛下にご報告のあるビルツァイス様の護衛で付いてきただけなのに」
そう言いながら俺は横目に文官に視線を向ける。文官は焦った表情ながらも首を縦に振った。
「こ、皇宮でこの様な騒ぎ、ぜ、前代未聞です……! 急ぎ陛下に報告せねば……!」
そう言うと文官はさっさと駆け足で去っていく。これ以上巻き込まれたくなかっただろうし、なにより先ほどゲイブリークから、ビルツァイスの件でウィックリンの元へ行く事を禁じられていた。
だが皇族と平民の騒ぎを報告する事までは禁じられていない。それに事は皇宮の中で起こったのだ。責任者たるウィックリンに報告しない訳にはいかないだろう。
(これで少なくとも、俺がビルツァイスを連れて皇宮で騒ぎを起こした事がウィックリンまで伝わるだろう)
これ以上ゲイブリークに付き合っていては、ウィックリンに会うまで時間がかかり過ぎる。今はこんなお遊びに時間を割いている余裕などないのだ。
俺の狙いを読めたビルツァイスも覚悟を決めたらしい。先ほどよりもやや強気な口調になっている。
「ゲイブリーク様。もう一度言いますが、私は陛下にお伝えしたい事があり、苦難の道を超えて帝都に帰ってきたのです。これ以上ゲイブリーク様とここで問答する時間はありません」
「皇族でもなくなった分際で、偉そうに……! この神聖なる場で私に手をあげたのは事実! そこの男には血族の全員に至るまで、不敬罪が適応されるだろう!」
「皇族は不敬罪に守られている……か。ですがゲイブリーク様。そう簡単な話ではありません。黒狼会は帝国政府より表彰を受けた、れっきとした商会です。それを潰す様な真似を皇族がしたとなれば、帝国民の心は皇族より離れるでしょう」
「お前は何を言っている!? 皇族でなくなって頭でもわいたのか!? 皇族たる私に手をあげ、不敬罪に問う! これはそれだけの話だ!」
「そう簡単な話にはなりませんよ……」
ビルツァイスとゲイブリークの口論は続く。さすがに騒ぎを聞きつけたのか、遠巻きに俺たちを見ている者が増えてきた。その中の2人が前へと出てくる。
「これは……何の騒ぎですか?」
現れたのはアデライアとディアノーラだった。見知った顔が来てくれた事で、俺も少し安堵する。
少なくとも話はちゃんと通じる相手だ。それに2人ともゲイブリークの味方をする事はないだろう。
「おお、ディアノーラ! 丁度いい、この平民の首を斬れ!」
「…………。理由をお伺いしても?」
「この男が私に手をあげたのだ! 平民がだぞ!? 決して許されるものではない……!」
ディアノーラが姿を見せた事で、ゲイブリークは勝ち誇った様な表情を見せる。皇族の剣たるアルフォース家の実力に、絶対の信頼を置いているのだろう。
そのディアノーラは俺に視線を向けてきた。俺は悪びれることなく堂々と答える。
「足が滑ってしまい、そこにたまたまおられた殿下に触れてしまったのです。何ぶんただの平民ですので。この様な場でしたから、どうしても緊張してしまいまして」
「……そうか。それは仕方がないな」
「!? おい、何を言っている!? こいつ、思いっきり僕を殴ったんだぞ!?」
まぁそうなるよな。だがここで口を開いたのはアデライアだった。
「その事を他に見た者は?」
「文官が1人見ている!」
「その者はどこに?」
「……!? あいつ、どこに行った……!?」
どうやらさっさとこの場を去った事は気づいていなかったらしい。アデライアは普段の態度からは考えられない口調でゲイブリークに意見を述べる。
「証拠がない以上、無理やり平民を処することなど皇族とはいえできません」
「アデライア! 貴様、この僕に指図するのかぁ!?」
ゲイブリークがアデライアに掴みかかろうと距離を詰める。だが間に入ったディアノーラはゲイブリークに強い視線を投げる。
「ゲイブリーク様。私は皇帝陛下よりアデライア様の護衛騎士を任じられております。アルフォース家の剣士に与えられている権限はご存じですね?」
「…………! く……!」
アルフォース家は皇族専属の護衛騎士の家系だったか。ディアノーラの言葉から推察するに、どうやら主たる皇族を傷つける者は、同じ皇族であれ容赦しないみたいだな。
「どいつもこいつも……! ええい、誰ぞ剣を持ってこい! こうなったら僕が直接斬ってやるぅ!」
「やめてください、殿下。そんな事をされては、また緊張で足を滑らせてしまいます」
「きさ……! きさまぁ! どこまでを僕をばかにしてえぇ!」
手加減し過ぎたな。まだまだ元気じゃないか。もう少し踏み込んだ正拳突きを叩き込めばよかったか。
「ゲイブリーク兄さま。せっかくビルツァイス兄さまも帰還されたのです。これ以上無用の騒ぎはおやめください」
「無用の騒ぎだと!? お前は自分が何を言っているのか分かっているのか!?」
「黒狼会は内乱の折、帝都の民たちを守った商会です。この帝都になくてはならない者たちでもあります。皇族として礼を尽くす事はあれど、この様な場で無用の騒ぎに巻き込んでいい方ではございません」
アデライアはよどみなくぴしゃりと言い切る。その声色からはゲイブリークに対し、怒っている事も理解できた。
どうやらあまり兄妹仲はよろしくないらしい。だがここでゲイブリークが何かに気付いた様に怪訝な顔を見せる。
「……待てアデライア。お前、何故この者が黒狼会の者だと知っている?」
「……え?」
「さてはお前……! この男と知り合いか……! そうか、それでこの男を庇っているんだな……! 皇族が平民如きに付け込まれおって……!」
いや、少し調べたら黒狼会がアデライアやヴィローラと知己の仲なのは分かるはずだが。
エルセマー領の騒ぎに然り、なんならエルセマー領から帝都まで送り届けてもいるのだ。アデライアも何と言ったら良いのか分からない顔をしていた。
「どうした、アデライア! 図星か!? お前、皇族としての矜持はどうした!?」
「……ゲイブリーク兄さま」
アデライアはどこか呆れた声を出す。そこに新たな声が響く。
「何事か!」
声のした方向を見ると、そこには少しやつれたウィックリンが文官と一緒に立っていた。
思っていた通り、俺がビルツァイスを伴って騒いでいると聞き、直接ここまで足を運んだのだろう。おおよそ狙い通りか。
「パパン! 聞いてよ、こいつが僕を殴ったんだよぉ!」
ゲイブリークは泣きつく様に……そして勝ち誇った顔でウィックリンに訴えかける。訴えを受け、ウィックリンは俺に顔を向けた。
「……とのことだが?」
「はい。実は緊張で足を滑らしてしまいまして。そこから不幸なすれ違いが起こっている状況なのです」
「そうか。ゲイブリーク、客人を余計な騒動に巻き込むでない」
ウィックリンは俺の言い分を受け、さっさと話をまとめはじめる。それを受け、ゲイブリークは驚愕の表情を見せた。
「ぱ、パパン!? 何を言って……!」
「今はこの様な騒ぎに時間を取られるのも惜しいのだ」
「で、でも! お、おい! お前! お前も見ただろう、その男が僕を思いっきり殴ったのを……!」
ゲイブリークに視線を向けられた文官は焦った様に汗をかきはじめる。だが何か話す前にウィックリンが先に口を開いた。
「黒狼会のヴェルトは緊張で足を滑らした。そうだな?」
普段の柔らかい物腰とは打って変わって、少し威圧気味に文官に問いかける。おそらく本当にこの騒ぎに時間を取られたくないのだろう。
皇帝陛下に睨まれた文官は黙って首を縦に振った。
「そ、そんな……!?」
「……ヴェルト殿。それにビルツァイス。私に話があるのだろう?」
「はい」
「話は部屋で聞こう。ゲイブリーク。この件でこれ以上騒ぎを大きくすることは許さぬ。……分かるな?」
「…………!」
ゲイブリークはウィックリンに対し、苛立ちを隠さない視線を向ける。だが何か言う事はなかった。
「こっちだ。ついてきてくれ」
「はっ」
そう言うと俺とビルツァイスはウィックリンの後に続く。途中、アデライアとディアノーラに軽く頭を下げてお礼の意思を見せた。
(余計な騒動にはなったが、結果的にウィックリンをこの場に連れ出す事ができた。この件を以て、ゲイブリークの態度は見逃してやるか)
本来なら掟に則り、倍返しにするところなんだが。さすがにゲイブリークと黒狼会では立っているステージが違うし、特別に見逃してやる。
なにより。今はこんな些事に気と時間を取られている場合ではないのだ。
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