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12(最終話)
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数刻後——。
日が沈むと、王城のいたるところに小さな松明が、数えきれないほどたくさん灯された。
オリーブやレモンの木々のあいだに、まるで夜空の星のような灯りがきらめく。
晩餐の前に、シャルルはひとりでこの星々が降ってきたような幻想的な夜の中庭を散歩していた。
「シャルルさま、この先には小さな滝がございます」
双子の少年従者たちも一緒だ。あれこれと嬉しそうに説明してくれる。
「水音が気持ちいいですね」
ここは昼間、アルベルトと来た場所だった。
そして、『味見』をされてしまった場所だった⋯⋯。
——恥ずかしかったなあ⋯⋯。
思い出すだけで首がカーッと熱くなってくる。
——味見されて恥ずかしいと思うなんて、僕は変なのかも?
そんなことを考えていると、小道の向こうから銀色の長い髪をした細身のオメガの青年が歩いてきた。
「あ! イリヤさまだ!」
双子が手を振る。
「これはこれはシャルルさまではありませんか⋯⋯。お散歩をなさっているのですか?」
占星術師のイリヤだ。丁寧に膝を曲げて挨拶をしてくれた。
——僕なんかにこんなに丁寧にしてくださるなんて。
シャルルも丁寧な礼をする。
「少し運動をしています」
「それはすばらしい。体型を保つことは健康によいですからね」
「はい」
とうなずいて、
「あの⋯⋯、そこにいるのは?」
イリヤの白い古風な服の胸元になにかがゴソゴソと動いていることに気がついた。
うさぎだ!
「ああ、これはミートという名前のわたくしのペットです。元々は食用だったのですが、今はこうしてペットになりました」
「食用からペットに?」
——それって、食べられるはずだったのに、ペットになったってこと?
思わず前のめりになって、さらに質問した。
「あ、⋯⋯あの、⋯⋯どうしてそのミートくんはペットになれたんですか?」
「役にたつからですよ。この子はとても賢くて、わたくしが占いで疲れていると、そばに寄り添って安らぎをくれるのです。⋯⋯動物がお好きなのですか? 抱かれますか?」
イリヤがうさぎを抱かせてくれる。
「ありがとうございます⋯⋯」
真っ白なうさぎはとても小さくて、胸元に抱くとじんわりと温かい。
「可愛いでしょう、シャルルさま」
「はい、とても⋯⋯」
と答えながら、頭の中ではものすごい速さで色々なことを考えていた。
——もしかしたら、僕もなにか役に立てる人間だと思われたら、食材ではなくなることができるのかな? 僕になにができるだろう? 従者のみなさんはとてもキビキビとしていらっしゃるから、僕のような不器用な人間にはむりかもしれない⋯⋯。馬車を操る御者はどうかな? だめだ、馬が僕のいうことをきいてくれるはずがない⋯⋯。なにかほかに⋯⋯。あっ! そうだ!
思いついたのは、厨房の仕事だ。
厨房で料理を手伝う下働きだったら、自分にもできるかもしれないと思った。
——ああ、なんてすばらしいんだろう! もしも厨房で働けたら! ずっとここで暮らしていけたら! アルベルトさまのおそばにずっと、ずーっと暮らせたら!!
シャルルの胸に眩しいほど明るく輝く『希望』が現れた。
こんな気持ちになるのは生まれて初めてだった。
——僕にできることを精一杯頑張ってみよう!
胸にウサギを抱きしめながら、シャルルはにっこりと微笑んだ⋯⋯。
終わり
最後までお読みただきありがとうございました! 虐げられオメガのシャルルは、こうして人生の希望の切符を手にすることができました^ ^ この中編はこれで終わりです!
追記)この中編を元にした長編をAmazonで出版していただきました。
シャルルの人生の第二章です(この後は、王様とシャルルの肌色混浴シーン、仮面舞踏会、プロポーズ、ざまぁ⋯⋯)エッチな初夜編の短編と、ほのぼの子育て短編も収録して盛りだくさんなので、もしよかったらぜひ覗いてみてください。
Amazonのサイトで、『モブ側妃と敵国の溺愛王』のタイトルで検索できます
m(_ _)m
再度になりますが、最後までシャルルとアルベルト王のお話を最後までお読みいただき、ほんとうにありがとうございました!!
楽しんでいただけていたら、また『勘違いオメガと溺愛スパダリ』の異世界恋愛を書いてみたいなあ、と思います!!
日が沈むと、王城のいたるところに小さな松明が、数えきれないほどたくさん灯された。
オリーブやレモンの木々のあいだに、まるで夜空の星のような灯りがきらめく。
晩餐の前に、シャルルはひとりでこの星々が降ってきたような幻想的な夜の中庭を散歩していた。
「シャルルさま、この先には小さな滝がございます」
双子の少年従者たちも一緒だ。あれこれと嬉しそうに説明してくれる。
「水音が気持ちいいですね」
ここは昼間、アルベルトと来た場所だった。
そして、『味見』をされてしまった場所だった⋯⋯。
——恥ずかしかったなあ⋯⋯。
思い出すだけで首がカーッと熱くなってくる。
——味見されて恥ずかしいと思うなんて、僕は変なのかも?
そんなことを考えていると、小道の向こうから銀色の長い髪をした細身のオメガの青年が歩いてきた。
「あ! イリヤさまだ!」
双子が手を振る。
「これはこれはシャルルさまではありませんか⋯⋯。お散歩をなさっているのですか?」
占星術師のイリヤだ。丁寧に膝を曲げて挨拶をしてくれた。
——僕なんかにこんなに丁寧にしてくださるなんて。
シャルルも丁寧な礼をする。
「少し運動をしています」
「それはすばらしい。体型を保つことは健康によいですからね」
「はい」
とうなずいて、
「あの⋯⋯、そこにいるのは?」
イリヤの白い古風な服の胸元になにかがゴソゴソと動いていることに気がついた。
うさぎだ!
「ああ、これはミートという名前のわたくしのペットです。元々は食用だったのですが、今はこうしてペットになりました」
「食用からペットに?」
——それって、食べられるはずだったのに、ペットになったってこと?
思わず前のめりになって、さらに質問した。
「あ、⋯⋯あの、⋯⋯どうしてそのミートくんはペットになれたんですか?」
「役にたつからですよ。この子はとても賢くて、わたくしが占いで疲れていると、そばに寄り添って安らぎをくれるのです。⋯⋯動物がお好きなのですか? 抱かれますか?」
イリヤがうさぎを抱かせてくれる。
「ありがとうございます⋯⋯」
真っ白なうさぎはとても小さくて、胸元に抱くとじんわりと温かい。
「可愛いでしょう、シャルルさま」
「はい、とても⋯⋯」
と答えながら、頭の中ではものすごい速さで色々なことを考えていた。
——もしかしたら、僕もなにか役に立てる人間だと思われたら、食材ではなくなることができるのかな? 僕になにができるだろう? 従者のみなさんはとてもキビキビとしていらっしゃるから、僕のような不器用な人間にはむりかもしれない⋯⋯。馬車を操る御者はどうかな? だめだ、馬が僕のいうことをきいてくれるはずがない⋯⋯。なにかほかに⋯⋯。あっ! そうだ!
思いついたのは、厨房の仕事だ。
厨房で料理を手伝う下働きだったら、自分にもできるかもしれないと思った。
——ああ、なんてすばらしいんだろう! もしも厨房で働けたら! ずっとここで暮らしていけたら! アルベルトさまのおそばにずっと、ずーっと暮らせたら!!
シャルルの胸に眩しいほど明るく輝く『希望』が現れた。
こんな気持ちになるのは生まれて初めてだった。
——僕にできることを精一杯頑張ってみよう!
胸にウサギを抱きしめながら、シャルルはにっこりと微笑んだ⋯⋯。
終わり
最後までお読みただきありがとうございました! 虐げられオメガのシャルルは、こうして人生の希望の切符を手にすることができました^ ^ この中編はこれで終わりです!
追記)この中編を元にした長編をAmazonで出版していただきました。
シャルルの人生の第二章です(この後は、王様とシャルルの肌色混浴シーン、仮面舞踏会、プロポーズ、ざまぁ⋯⋯)エッチな初夜編の短編と、ほのぼの子育て短編も収録して盛りだくさんなので、もしよかったらぜひ覗いてみてください。
Amazonのサイトで、『モブ側妃と敵国の溺愛王』のタイトルで検索できます
m(_ _)m
再度になりますが、最後までシャルルとアルベルト王のお話を最後までお読みいただき、ほんとうにありがとうございました!!
楽しんでいただけていたら、また『勘違いオメガと溺愛スパダリ』の異世界恋愛を書いてみたいなあ、と思います!!
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