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「シャルルさま、居間にお茶の用意ができております。熱い紅茶を召し上がって、お心をおしずめください」
「ありがとうございます。あの⋯⋯、いつもほんとうにお気遣いいただいて感謝しています」
「なにをおっしゃるのですが、シャルルさま! シャルルさまは国宝でいらっしゃるのですから当然でございます。⋯⋯お着替えもご用意いたしますので、どうぞおくつろぎください」
レダとレナは声をそろえてにっこりと笑った。
双子の従者と一緒に私室に戻ると、用意されていた着替えはゆったりとした白いシャツだった。
袖がふわりと膨らんでいる。袖を通すととても着心地がよかった。オメガ襟は淡いレモン色だ。美しい小花の刺繍が入っていて可愛らしい。
シャルルのピンクがかったブロンドの髪に白いシャツがよく映えている。
緑色の美しい瞳でレダとレナを見て、
——ふたりが怪我をしていなくてほんとうによかった。
と、心からホッとした。
侍女たちがスコーンと紅茶を用意してくれた。真っ赤な苺ジャムとたっぷりのクロテッドクリームもついている。
熱い紅茶とスコーンを食べると、さっき起こった出来事を振り返る余裕がやっと出てきた。
——陛下がご無事でほんとうによかった。だけど、あの覆面の男たちの目的はなんだったんだろう? アルベルト陛下はなにかご存知のようだったけど⋯⋯。
「あの⋯⋯、覆面の男たちは何者なのでしょうか?」
双子たちに聞くと、双子も首をかしげた。
「さあ⋯⋯。わたくしたちにはわかりません。城近くの街は警備が厳しいので、あのような乱暴な者たちはめったにいないはずなのですが」
「そうですか⋯⋯」
考えながらソファにもたれた。
緊張が解けたからだろうか、ぐったりと力が抜けてしまう。
「シャルルさま、わたくしたちは隣室に控えております。どうぞゆっくりお休みください」
「ありがとうございます」
双子従者の気遣いがとても嬉しい。
ひとりになって遠慮なくソファに体をあずけて目を閉じた。
頭に浮かんできたのは、信じられないぐらいに強かったアルベルト王の姿だ——。
「どうしてあんなにかっこいいんだろう⋯⋯」
フーッと甘いため息をついてしまった。
崖から落ちたときはもうだめだと覚悟したのだ。
まさか白馬に乗ったアルベルト王が自分を受け止めてくれるとは⋯⋯。
「見目麗しくて、お強くて、お優しい——。すごいなあ⋯⋯」
甘いため息が止まらない⋯⋯。
「そんなアルベルト陛下の『国宝級の食材』にしていただけたってことは、ものすごく名誉なことなんだ。僕は陛下に感謝しなくてはいけないんだ」
もちろん食べられたくはない。だけどアルベルト陛下にならば食べられたい——という奇妙な気持ちが胸に湧いてきていた。
そうなると、どうしていつまでも食べていただけないのかということが気になってくる。
「もしかして、僕が怖がっているから、遠慮してくださっているのかな? それでいつまでも食べていただけないのかな?」
そう気がついてハッとした。
「僕はなんてもうしわけないことをしているんだろう! あの素晴らしい陛下にお気を使わせてしまうなんて!」
オドオドしていた自分を叱ってやりたいほどだった。
シャルルは、決心した。
「そうだ! 今夜の晩餐では必ず僕を食べていただこう!」
*****
「アルベルトさまはいつお戻りになるんだろう?」
シャルルはアルベルトに『僕を食べてください』と言おうと思っていた。
——立派なアルベルト王さまに食べていただけるのはとても光栄なことなんだ。
と思いつつも、まだどうしても怖い気持ちもある。
だから決心が変わらないうちに、さっさと食べてもらおうと焦っているのだ。
「あの⋯⋯、陛下はどちらに⋯⋯」
部屋を出て侍女に聞こうとしたとき、廊下の奥に背の高い美丈夫の姿が見えた。
だれよりも背が高く逞しく、艶やかな黒髪に野生的な青い目の黒豹のようにしなやかな美貌の男⋯⋯。
アルベルト・カサド王だ——!
「陛下!」
シャルルは思わず走った。
「シャルル?」
アルベルトは少し驚いている。けれどすぐにパッと笑顔になって、大きく両手を広げた。
——えっ? 陛下のそのお胸に飛び込めと⋯⋯?
そんなずうずうしいことができるはずがないではないか。
両足にぐいっと力をかけて、アルベルトの直前でピタッと止まった。
「ん?」
両手を広げたままのアルベルトの顔に大きな落胆が浮かぶ⋯⋯。
「あの⋯⋯、陛下⋯⋯。少しお話があります⋯⋯。お忙しいところほんとうにもうしわけないのですが、聞いていただけますでしょうか?」
「もちろんだ。どんな話だ?」
「えっと、その⋯⋯」
「では中庭に行こうか?」
「はい⋯⋯」
城の中は侍女たちや従者たちがいたるところにいるが、中庭は静かだ。
ふたりきりになれる⋯⋯。
みずみずしい実をつけたレモンの木が並んでいる。レモンの木の下には赤い花が揺れながら咲いている。
人口の小川もあって、小さな滝まである。滝からは豊かな水が流れ落ちている。ザーッと水が流れる音がとても気持ちがいい。
そんな美しい中庭をゆっくりとした足取りでふたりで歩いた。
——さあ、僕を食べてくださいってお願いするぞ!
両手をギュッと握ってアルベルトを見上げた。
大きな目ですくい上げるような視線を向けると、アルベルトは心から嬉しそうな笑みを浮かべる。
「なにか願い事かな? そなたの望みならば、たとえ月でも取ってくるぞ——」
「え? 月でございますか? と⋯⋯、とんでもございません、そんな大それた⋯⋯。あの⋯⋯、あの⋯⋯、どうか僕を、はやく、お⋯⋯、お食べください!」
お食べください——という大きな声が、静かな中庭に響き渡る。
——言えた! 最後にこんなに幸せな時間をいただけたんだ、僕には後悔はない。
するとアルベルトはものすごく驚いた顔をした。
呆気に取られているような表情だ。
しばらく黙り込み、それから軽い咳払いをひとつした。
「シャルル⋯⋯」
「はい?」
「そなたが積極的なのはとても嬉しい。俺だって、本心は今すぐにでもそなたを俺だけのものにしたい。許されるのなら、今ここで——」
「今、ここででございますか⋯⋯?」
——それってもしかして、生で食べるってことかな?
戸惑っていると、アルベルトはまた咳払いをしてから、少し照れたような口調で続ける。
「——父上と母上への紹介ですらまだなのだ。今ここでというわけにはいかない——。全方位から俺が叱られる。教会での儀式を待たねばならぬ。だが、そなたの気持ちをむげにするつもりはない。できるだけはやく式を執り行うよう準備を進めよう」
「教会⋯⋯でございますか?」
——ああ、そうだったのか! 国宝級の食材ともなれば、調理する前になにかの儀式が、きっと必要なんだ⋯⋯。
『食べてください』などと言って、事を急いだ自分が急に恥ずかしくなってきた。
「すいませんでした、なにも知らないで身勝手なお願いをしてしまって」
「あやまる必要はない、そなたの気持ちはとても嬉しい——」
「あっ!」
驚いたことにアルベルトが手を握ってきたではないか!
二度と離さない——とでもいうかのように、しっかりと強く、握ってくる。
「あ⋯⋯、あの⋯⋯。アルベルトさま?」
「シャルル⋯⋯」
アルベルトがぐいっと手を自分の方に引き寄せた。
そのまま広くてたくましい胸の中に抱き寄せられてしまう。
「アルベルトさま⋯⋯?」
——いったい、どうなさったのだろう?
不思議に思ってアルベルトの顔を見上げると、
——えっ!!
そっと触れるような優しさで、唇を唇で塞がれではないか!
——もしかして⋯⋯、もしかして⋯⋯。
シャルルは大きな目を見開いて思った。
——僕は味見されたんだ!
続く
三万字ぐらいの中編です、サクッと完結予定です!
追記)この中編を元に書いた長編バージョンをAmazonで出版していただきました。
オメガの発情初夜短編などついていますので、もしよかったら覗いてみてください。
Amazonのサイトで、『モブ側妃と敵国の溺愛王』のタイトルで検索できます。
m(_ _)m
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「なにをおっしゃるのですが、シャルルさま! シャルルさまは国宝でいらっしゃるのですから当然でございます。⋯⋯お着替えもご用意いたしますので、どうぞおくつろぎください」
レダとレナは声をそろえてにっこりと笑った。
双子の従者と一緒に私室に戻ると、用意されていた着替えはゆったりとした白いシャツだった。
袖がふわりと膨らんでいる。袖を通すととても着心地がよかった。オメガ襟は淡いレモン色だ。美しい小花の刺繍が入っていて可愛らしい。
シャルルのピンクがかったブロンドの髪に白いシャツがよく映えている。
緑色の美しい瞳でレダとレナを見て、
——ふたりが怪我をしていなくてほんとうによかった。
と、心からホッとした。
侍女たちがスコーンと紅茶を用意してくれた。真っ赤な苺ジャムとたっぷりのクロテッドクリームもついている。
熱い紅茶とスコーンを食べると、さっき起こった出来事を振り返る余裕がやっと出てきた。
——陛下がご無事でほんとうによかった。だけど、あの覆面の男たちの目的はなんだったんだろう? アルベルト陛下はなにかご存知のようだったけど⋯⋯。
「あの⋯⋯、覆面の男たちは何者なのでしょうか?」
双子たちに聞くと、双子も首をかしげた。
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「そうですか⋯⋯」
考えながらソファにもたれた。
緊張が解けたからだろうか、ぐったりと力が抜けてしまう。
「シャルルさま、わたくしたちは隣室に控えております。どうぞゆっくりお休みください」
「ありがとうございます」
双子従者の気遣いがとても嬉しい。
ひとりになって遠慮なくソファに体をあずけて目を閉じた。
頭に浮かんできたのは、信じられないぐらいに強かったアルベルト王の姿だ——。
「どうしてあんなにかっこいいんだろう⋯⋯」
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崖から落ちたときはもうだめだと覚悟したのだ。
まさか白馬に乗ったアルベルト王が自分を受け止めてくれるとは⋯⋯。
「見目麗しくて、お強くて、お優しい——。すごいなあ⋯⋯」
甘いため息が止まらない⋯⋯。
「そんなアルベルト陛下の『国宝級の食材』にしていただけたってことは、ものすごく名誉なことなんだ。僕は陛下に感謝しなくてはいけないんだ」
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「アルベルトさまはいつお戻りになるんだろう?」
シャルルはアルベルトに『僕を食べてください』と言おうと思っていた。
——立派なアルベルト王さまに食べていただけるのはとても光栄なことなんだ。
と思いつつも、まだどうしても怖い気持ちもある。
だから決心が変わらないうちに、さっさと食べてもらおうと焦っているのだ。
「あの⋯⋯、陛下はどちらに⋯⋯」
部屋を出て侍女に聞こうとしたとき、廊下の奥に背の高い美丈夫の姿が見えた。
だれよりも背が高く逞しく、艶やかな黒髪に野生的な青い目の黒豹のようにしなやかな美貌の男⋯⋯。
アルベルト・カサド王だ——!
「陛下!」
シャルルは思わず走った。
「シャルル?」
アルベルトは少し驚いている。けれどすぐにパッと笑顔になって、大きく両手を広げた。
——えっ? 陛下のそのお胸に飛び込めと⋯⋯?
そんなずうずうしいことができるはずがないではないか。
両足にぐいっと力をかけて、アルベルトの直前でピタッと止まった。
「ん?」
両手を広げたままのアルベルトの顔に大きな落胆が浮かぶ⋯⋯。
「あの⋯⋯、陛下⋯⋯。少しお話があります⋯⋯。お忙しいところほんとうにもうしわけないのですが、聞いていただけますでしょうか?」
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「えっと、その⋯⋯」
「では中庭に行こうか?」
「はい⋯⋯」
城の中は侍女たちや従者たちがいたるところにいるが、中庭は静かだ。
ふたりきりになれる⋯⋯。
みずみずしい実をつけたレモンの木が並んでいる。レモンの木の下には赤い花が揺れながら咲いている。
人口の小川もあって、小さな滝まである。滝からは豊かな水が流れ落ちている。ザーッと水が流れる音がとても気持ちがいい。
そんな美しい中庭をゆっくりとした足取りでふたりで歩いた。
——さあ、僕を食べてくださいってお願いするぞ!
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お食べください——という大きな声が、静かな中庭に響き渡る。
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するとアルベルトはものすごく驚いた顔をした。
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「今、ここででございますか⋯⋯?」
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「教会⋯⋯でございますか?」
——ああ、そうだったのか! 国宝級の食材ともなれば、調理する前になにかの儀式が、きっと必要なんだ⋯⋯。
『食べてください』などと言って、事を急いだ自分が急に恥ずかしくなってきた。
「すいませんでした、なにも知らないで身勝手なお願いをしてしまって」
「あやまる必要はない、そなたの気持ちはとても嬉しい——」
「あっ!」
驚いたことにアルベルトが手を握ってきたではないか!
二度と離さない——とでもいうかのように、しっかりと強く、握ってくる。
「あ⋯⋯、あの⋯⋯。アルベルトさま?」
「シャルル⋯⋯」
アルベルトがぐいっと手を自分の方に引き寄せた。
そのまま広くてたくましい胸の中に抱き寄せられてしまう。
「アルベルトさま⋯⋯?」
——いったい、どうなさったのだろう?
不思議に思ってアルベルトの顔を見上げると、
——えっ!!
そっと触れるような優しさで、唇を唇で塞がれではないか!
——もしかして⋯⋯、もしかして⋯⋯。
シャルルは大きな目を見開いて思った。
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