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第十四章 王が住まう場所

異世界の車窓からー② (7/6一部修正)

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根拠不明の期待を寄せた二人の視線がチクチク刺さる。
ライオネルは純粋に感心を瞳に宿らせ。義兄は深遠な含蓄の眼差しで。

・・・え、何この違い。

ライオネルは情報もないのに気付いた俺の聡さに感心しきりだ。
義兄は、目が腐っとる。悪意を見抜いた成長を喜んで?なのか、妙な称嘆を帯びた瞳で見つめてくる。

・・・この違い、性格からだよね。


俺は漫然とした思いで、もう一度、車外の本殿に視線を向けた。だが、肝心の本殿は既に後方の彼方。相変わらず安全第一の馬車は揺れなく快適に進む。

もう少し観察しておきたかったなと、物足りない気持ちで車内に視線を戻す。
パチリ、パチリ。妙な得心顔の二人と目が合った。

・・・ほぇ? 今度は何?

「ふふ、レティ。回復薬の備蓄数を定められた神殿が品薄状態に陥る異常事態を、どうみるかな?」

含みのある表情でなんか言い出したよ、この人。
でも、いつもなら問答無用で話題チェンジしてたよね? 
手にしてた書類は、もう目を通したっぽいね。その上で俺を試してる? 

・・・。

ふ、ふ、ふ、甘いな、甘いよ、お兄ちゃん。
義兄をコソ見してきた俺に死角はない。ふはは、義兄の思考も嗜好も指向もよく知ってるからね!
義兄の大好物な陰謀説、筋書きぐらい・・・。
うん、取敢えず神殿を嫌ってる義兄に合わせとこ。


「そうねえ、思いつくのは在庫を理由に、仕入れた素材をいくつか転売し、支払金の一部を着服。ふふ、備蓄数は使用期限が切れた薬で誤魔化せば済むもの。書類上の数さえ合えば露見しないと、浅慮な判断をなさったのでは? でも、これですと他の神殿から融通していただければ解決致しますわ。多少、お待たせしても半日程度でしょ? ですが今もって不適切な対応・・・これは作為的ね。不当に値を上げる理由に、数の不足を、そうねえ、素材が足りず生産が追い付かないと謀れば、購買者の心理としては、入荷未定なら今ある分を買い占めようと欲が勝るものですわ。ふふ、まるで悪徳商人みたいね。・・・だけれど、この予想もいまいちかしら?」

どう? こういうの、好きでしょ? 

語尾を疑問形にし、余裕を見せる。

ふはは、思惑通り俺の話術に嵌ったな? 二人うむうむ首肯してる。よしよし。
にしても一気に喋ると、喉が渇いちゃうね。

「穿った視野であれば良いのですが、見当違いとお笑いにならないでね。そもそも回復薬を求めた方は、どういった方々ですの? 神殿の回復薬って不人気なのよ。それも今は割高でしょう? 酔狂だわ。なのに、急を要する事態に陥ったのよ。・・・まさかお義兄様みたいに回復薬の乱飲? ほほ、冗談ですわ」
「お嬢様、普通は自然回復を待つものです。回復薬は何本も飲むものではありません・・・」

乱飲は、自然治癒力を衰えさせる恐れがある。そう顔に書いてるね?

健康に害を成そうが意に返さず、回復薬を栄養ドリンクなみに煽る人がここにいるし
疑いなくライオネルの物言いは『がぶ飲み止めて』だな。


調合薬全般にいえることだけど、個人で爆買いは出来ないらしい。市井のシステムは知らないけど、転売防止策とでも受け止めればいいか。それを踏まえると今回、個人や家門での買い占めの線は薄い。例外は重篤患者か。医師の診断があれば優先されたよね。

レティエルってめちゃ健康。笑えるぐらい医師知らず薬知らずなの。食べてる物がいいからかな。勿論、健康優良児は義兄にも当て嵌まる。・・・回復薬? あれはスポドリ枠。


「自然回復が追い付かない魔力消費を行なった方が少なくとも数人、この王都にいるのね。わたくしが思いつくのは、魔石に魔力の供給ぐらいだわ。・・・そうねえ、タッカーソン様のように騙された方が、どこかで酷使され、回復薬を求めていらっしゃる? これもしっくりこないわ。後は・・・うぅん、災害かしら? 救援活動で一気にお薬の需要が増えたのが原因? その括りだと病も考えられるわ。でも、どれも見当違いね。王宮に報告がなされていないもの。神殿が義務を放棄するとは思えませんわ。後はそうねえ、神殿の品位を貶める? 狙った人物が企んだ、とか?」

・・・対立、あったよね? 魔力持ってる人VS持ってない人の。

うーん、まさかね。

間違いなく緊急事態に関した報告は王宮に届いていない。
だって、そんな状態の中、各地の領主夫妻を王宮に。また、公爵当主達を伴って使節団の歓待にライムフォードが城を空けるはずがないもの。うん、人災天災の類は除外。

「異常事態があれば即時報告が義務ですが、今回は違いますね。・・・私も先程知り状況を把握できておりません。すみません。ですが、市井に流れた噂とお嬢様の見解が符合したのではと思います」
「噂?」
「報告に上がっていないね。それはどういう噂かな?」

義兄は手にした・・・結構な束だと思うけど・・・書類をぱらぱら捲りその中から数枚を抜き出した。

ライオネルの、情報を小出しにするこなれた感じ。見習わねば!

「恐らく情報元は下級貴族の使用人か、調ky・・・教育が行き届いていない邸の使用人でしょう。不調を訴える貴族が薬を飲んでも効かないのを使用人に当たり散らした、でしたか。普段から反感を買っていたのかわかりませんが、医師に罹っても回復しないのを、やれ罰が当たった。やれ呪われた。と息巻き無責任な発言を繰り返していたと聞きます。ですが、それだけなら一介の使用人の愚痴。処罰はその者の主が行えば終わったでしょう。問題はここからです。それを逆手に取った者が現れました。『人ならざる力を持つ魔力保持者者は、神の裁きを受け淘汰される』と。真っ向から保持者の存在を否定する噂を流し、回復薬を求めた者が、売り渋りされたのは、神殿が忌避したからだと。ご丁寧に煽ったようです。尚、噂の出元は現在調査中です。追々、報告が上がるでしょう」

うわ! 風評被害!!
これは、偏見が齎した風評じゃないね。悪意からだわ。

地方で、魔力持ちと持たない人の対立が浮上してるのに、このタイミングで、この噂? めっちゃ作為的じゃん。横で黙って報告を聞いていた義兄は、特に言及することなく視線をライオネルに向けた。

あ、ライオネル、顔、真っ青。
気のせいかな? 目、泳いでる? 目を合わすの避けてる?

「そうですか。では、急ぎこのリストに記載された者達を調べなさい」

冷淡な声音で、早急に取り計らえと指示を出す。

手にあった書類はリストで、気を利かせた報告者が名簿を添付したようだ。うーむ、できる部下って感じ。この部下さん、公爵家に仕える人で普段は市井を中心に情報収集を担ってるそうだ。
わお、マジ有能。こういう人、秘書に欲しいな。

「お義兄様? そのリストの方がどうかなさったの?」
「これは、第一側妃主催のお茶会に主席した貴族達だよ。皇族と親睦を深めるとでも言ったのか招待客は派閥の垣根を超えた若い男女らしいね。数回催されたけれど、下位の貴族まで招待とは念の要り様が謀略の一端でないと思いたいね」

タイミングよく流れた噂も作為的に感じ、神殿の関与も考慮すべきと疑念は変わら・・・一層深まった気がした。徹底的に調べなさいと、圧が、圧がマシマシで肝を冷やした、ね、ライオネル。

貴族社会に於いて必需品な猜疑心を、いつでもどこでもどんなことにでも、遺憾なく発揮できるって、もうそれ才能だよ。







一番考えたくなかったのが、数十年前王国を襲った疫病、の二の舞。
母さんも罹患したあの病気ね。

当時、魔力持ちが多数死亡した恐ろしい病。罹患者の魔力を奪い極度の魔力欠乏となって命を落としたって言われてる。義兄が調べてたけど、死亡者は魔力持ちがダントツだって。未だに原因不明っていうから恐ろしいよね。特効薬も作れないし。俺も教えてもらえたの最近だし。気にも留めてなかった。


義兄が我が家の養子になった原因でもある母親の死も、この病に罹患したからだって聞いた。
思わず義兄に視線を向ける。多分、トラウマ案件だと思うの。大丈夫かな? 義兄が拘りの高品質回復薬を自作するのも母親の死が原因じゃない?
無機質な表情を取り繕わない義兄のメンタルが、ちょっぴり気になる。


「風評被害よね」
「・・・策士が命と金を盾に困窮者を取り込もうと講じたのか。その病も人為的とみてよいね」

うええ?!

しかし、息を吸う如く思考が策略に直結してら。まったくブレないよ、この人。
街の揉め事が思わぬ陰謀説へと発展したよ。すげえな義兄の妄想。
ライオネルの『え?!』って驚愕顔が対照的で笑えた。それでも命令に従順なのが彼らしい。
噂にしろ、暴利を貪る神殿の鬼畜な行いにしろ、ここだけの話で終わって欲しい。うっかり地方に飛び火して、魔力持ちと持たない両者間の溝がこれ以上深まらないことを祈る。

陰謀説、義兄が語るとスケールがおっきくなるよね? どーして? おっかしーな。
はぁぁ、暗澹たる気分だわ。
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