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「クソッ!!!」
立ち入り禁止の無人部屋。
僕は苛立ちまぎれに壁を蹴飛ばした。
「どういうつもりなんだ、アリサ…!!!」
いま思い出しても腹が立つ。
彼女からは言い出しにくいだろうからと、せっかく僕からダンスに誘ってあげたのに、嬉しそうな顔ひとつせずに断られたこと。
遠慮しなくてもいいように手を取ろうとしたら逃げられたこと。
追いかけたが見失い、開幕のダンスの音楽が流れるなかひとり立ち尽くすしかない屈辱を味わわされたこと。
(…いや、落ち着け。アリサは僕のメンツを心配しただけなんだ。公爵令息が男爵令嬢と開幕早々ダンスをするなんて、貴族たちが見たら驚くだろう。彼女は『自分と相手の立場を考えろ』という僕の忠告を覚えていて、それを実行に移しただけなんだ。)
行動に理由を当てはめて溜飲を下げている最中、扉が開かれる。
「こんなところにいらっしゃったのですか、レオン様!」
現れたのはシェリーラン。
僕と同じ二大公爵家の生まれで、貴族たちは僕の婚約者にと言ってるが、僕はコイツを認めたことなど一度もない。
「こんなところで何をなさっていたのですか?」
「どこにいようと僕の勝手だろう。」
大袈裟に吐かれるため息に、苛立ちがつのる。
「レオン様とご一緒してた他のご令嬢がたが落ち込んでましたわよ?せっかく貴方様と踊りたくておそばにいらしていたのに、ロイヒン男爵令嬢を追って何処かへ行ってしまわれたと。」
即座に鼻で笑った。
何が僕と踊りたくて、だ。
あの腰巾着どもは所詮、僕の公爵令息としての財産と名誉が目当てなんだ。
常日頃アイツらがカゲで僕をどれだけボロクソにこき下ろしているか、僕は知っている。
だが…アリサは違う。
アリサは富を求めない、偉ぶらない。
身分の高い男に擦り寄って物をねだったなどの話は聞いたことがないし、男爵令嬢という低い身分にいながらいつも慎ましやかで清貧にしている。
友人も賤しい平民か、貴族とも呼べないような貴族ばかりだ。
アリサは権力者でもなく富豪でもない、本当の僕を見ている。
本当の僕を愛している。
「ねえ、どうしてそのようなことをなさったのですか?いやがるロイヒン男爵令嬢にダンスを強要して追いかけ回すなんて。」
「僕の勝手だろう、何度も言わせるな。」
「まったく……もうっ!」
不意打ちで腕を引っ掴まれて、バランスを崩す。
なんというはしたない振る舞い。
コイツは本当に公爵家の人間か?
「いつまでもぶすくれてないで、さあ!皆様がお待ちですわよ!」
そうして引きずられるようにホールへと連行され、衆目のなかダンスする。
踊りたくて踊っているわけではない。
ただ踊らなければ足を踏まれるわ後でネチネチ言われるわで、散々な目に遭うことはわかっていたから、仕方なく踊ってやっているだけだ。
「きゃあ!見て見て!レオナルド様とシェリーラン様がダンスをしているわ!」
「素敵!洗練されているだけでなく息もぴったりで、まるで長年連れ添ったカップルみたい!」
「当然よ!あの御二方はまだ結婚してないってだけで、もう夫婦も同然なんだから!」
「そうそう!間違ってもどこぞの男爵令嬢が割って入れる間なんか無いわよ!」
「あら、うふふ。まあ確かに。あの御二方以上のパートナーなんて、世界にいるかいないかよね。」
ギャラリーの呟きに、内心で唾棄する。
僕がこの女とカップル?夫婦?パートナー?冗談じゃない!
僕はアリサと結婚するんだ!
僕に叱られた悔しさをバネに一回り二回りと成長し、公爵夫人に相応しい立派な淑女になったアリサが、再び僕に愛を告げる!
僕がそれをOKすれば、ふたりは結ばれるんだ!
うんざりするようなパーティーは、それからもしばらく続いた。
立ち入り禁止の無人部屋。
僕は苛立ちまぎれに壁を蹴飛ばした。
「どういうつもりなんだ、アリサ…!!!」
いま思い出しても腹が立つ。
彼女からは言い出しにくいだろうからと、せっかく僕からダンスに誘ってあげたのに、嬉しそうな顔ひとつせずに断られたこと。
遠慮しなくてもいいように手を取ろうとしたら逃げられたこと。
追いかけたが見失い、開幕のダンスの音楽が流れるなかひとり立ち尽くすしかない屈辱を味わわされたこと。
(…いや、落ち着け。アリサは僕のメンツを心配しただけなんだ。公爵令息が男爵令嬢と開幕早々ダンスをするなんて、貴族たちが見たら驚くだろう。彼女は『自分と相手の立場を考えろ』という僕の忠告を覚えていて、それを実行に移しただけなんだ。)
行動に理由を当てはめて溜飲を下げている最中、扉が開かれる。
「こんなところにいらっしゃったのですか、レオン様!」
現れたのはシェリーラン。
僕と同じ二大公爵家の生まれで、貴族たちは僕の婚約者にと言ってるが、僕はコイツを認めたことなど一度もない。
「こんなところで何をなさっていたのですか?」
「どこにいようと僕の勝手だろう。」
大袈裟に吐かれるため息に、苛立ちがつのる。
「レオン様とご一緒してた他のご令嬢がたが落ち込んでましたわよ?せっかく貴方様と踊りたくておそばにいらしていたのに、ロイヒン男爵令嬢を追って何処かへ行ってしまわれたと。」
即座に鼻で笑った。
何が僕と踊りたくて、だ。
あの腰巾着どもは所詮、僕の公爵令息としての財産と名誉が目当てなんだ。
常日頃アイツらがカゲで僕をどれだけボロクソにこき下ろしているか、僕は知っている。
だが…アリサは違う。
アリサは富を求めない、偉ぶらない。
身分の高い男に擦り寄って物をねだったなどの話は聞いたことがないし、男爵令嬢という低い身分にいながらいつも慎ましやかで清貧にしている。
友人も賤しい平民か、貴族とも呼べないような貴族ばかりだ。
アリサは権力者でもなく富豪でもない、本当の僕を見ている。
本当の僕を愛している。
「ねえ、どうしてそのようなことをなさったのですか?いやがるロイヒン男爵令嬢にダンスを強要して追いかけ回すなんて。」
「僕の勝手だろう、何度も言わせるな。」
「まったく……もうっ!」
不意打ちで腕を引っ掴まれて、バランスを崩す。
なんというはしたない振る舞い。
コイツは本当に公爵家の人間か?
「いつまでもぶすくれてないで、さあ!皆様がお待ちですわよ!」
そうして引きずられるようにホールへと連行され、衆目のなかダンスする。
踊りたくて踊っているわけではない。
ただ踊らなければ足を踏まれるわ後でネチネチ言われるわで、散々な目に遭うことはわかっていたから、仕方なく踊ってやっているだけだ。
「きゃあ!見て見て!レオナルド様とシェリーラン様がダンスをしているわ!」
「素敵!洗練されているだけでなく息もぴったりで、まるで長年連れ添ったカップルみたい!」
「当然よ!あの御二方はまだ結婚してないってだけで、もう夫婦も同然なんだから!」
「そうそう!間違ってもどこぞの男爵令嬢が割って入れる間なんか無いわよ!」
「あら、うふふ。まあ確かに。あの御二方以上のパートナーなんて、世界にいるかいないかよね。」
ギャラリーの呟きに、内心で唾棄する。
僕がこの女とカップル?夫婦?パートナー?冗談じゃない!
僕はアリサと結婚するんだ!
僕に叱られた悔しさをバネに一回り二回りと成長し、公爵夫人に相応しい立派な淑女になったアリサが、再び僕に愛を告げる!
僕がそれをOKすれば、ふたりは結ばれるんだ!
うんざりするようなパーティーは、それからもしばらく続いた。
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