番とは呪いだと思いませんか―聖女だからと言ってツガイが五人も必要なのでしょうか―

白雲八鈴

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3章 魔人の存在

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 ただ一人異質な人物がいた。銀髪に紫紺の瞳の女性だ。顔が真っ青になり心なしか震えているようだ。

「あなたは何かご存じですか?」

 シェリーは銀髪の女性にたずねる。

「第二夫人のメルローズ様です。元々はグローリア国の魔導師で第5王女でもごさいました。30年程前、勇者殿が聖女であるビアンカ様を訪ねにいらしたときに、勇者殿に同行していたメルローズ様を大公は見初められましたが、番とはお聞きしておりませんでした。」

 その言葉を聞いた周りの者達が顔色を変える。

「いつ亡くなられましたか?」

「22年前の魔王討伐に参加されそのままかえらぬ人になられました。」

「そうですか。22年は長いですね。大公閣下はその間は普通に過ごされておられましたか。」

「わたくしの目からは普通に過ごされておられましたが、この離宮で過ごされる時間が徐々に長くなりました。ここは夏の暑さが苦手でありましたメルローズ様のために造られた離宮でございますので夏の避暑地として来られていたのかと思っていたのですが、違いましたのね。」

「はっきり言えば魔人化が始まっています。このまま死を賜ることをおすすめします。」

「聖女が治せないというのですか。わかりました。あなた偽物なんですね。偽聖女。出ていきなさい。」

 金狼の女性が使用人に支えられこちらにやって来る。

「わたしが本物だろうと偽物だろうとこの結果は変わりません。」

「母上を別室に連れて休ませてくれないか。」

 金狼の女性は「わたくしは疲れなどいません」と叫びながら部屋から連れ出されていく。
 シェリーはため息を吐き

「わたしが今できることは大公閣下を浄化することです。ここまで、放置されてしまいますと、閣下自身を浄化することとなり、何も残らない状態になってしまいます。ですから、このまま死を賜ることをおすすめします。」

「皆と話し合う時間をいただけますか。ミゲル様の番がメルローズ様で、ミゲル様が魔人化に・・・。直ぐには考えられないことです。」

「わかりました。ただいつ魔人となるか分かりませんので、魔導師をお側につけて置くことをおすすめします。わたしはこれで失礼させていただきます。」

 シェリーは返事を聞かず部屋を出た。

「シェリー。本当に母上がすまなかった。」

 グレイがシェリーの前に出て、頭を下げる。

「構いません。わたしができることは無いのですから。少し公都を見て回ります。ご家族で話し合う必要があるのでしょう?明日の朝、こちらに伺いますので宜しくお願いします。」


 シェリーとカイルは離宮を離れる。シェリーが離宮を出ると同時に聖域結界も解除された。大公閣下から出される黒い靄ですぐにでも離宮は真っ黒に満たされるであろう。

「シェリー、公都を見て回ると言っていたけど、どうするのなかな。」

「少し休みたいです。」

7刻半15時だからね。早めに宿を捜そうか。」

「そうですね。」

 二人は郊外を離れ、公都中心部に足を向ける。


 公都の大通り沿いに建ってある、貴族が泊まる宿に二人がいた。
 あのあと騎獣で離宮の兵士が追いかけて来て、離宮で部屋を用意すると言われたので断ったら、ここの宿を指定された。料金は向こうで持ってくれるらしい。

 シェリーは最近の定位置であるソファーに座るカイルの膝の上に座っている。そこで、パラパラと『騎士に人気のお洒落着ランキングベスト100』という雑誌を見ている。ルークの為に物色しているのだろう。
 カイルは膝の上のシェリーの黒髪を撫でている。シェリーを膝の上に座らせたときにシェリーのペンダントを取り上げたのだ。この3日間、グレイがいたため邪魔が入りシェリーを独占出来なかったのだ。しかし、今は独り占めしていることに喜びを感じている。

「カイルさん左手をもう少し緩めてほしいです。」

 カイルはシェリーを抱く力加減を間違っているようだ。

「カイルさん聞いています?お腹が苦しいです。」

「シェリー、口づけしていい?」

「拒否します。どこをどうしたらそこに行きつくのですか?」

「いつも感じられないシェリーの存在を感じる。不安なんだ。目を離すといなくなってしまうんじゃないのか、手を離せばわからなくなってしまうんじゃないのか。俺は大公のように番に先立たれたら、生きて行けない。」

「大公閣下とメルローズ様ですか。」

「シェリー、番の儀式をしないか?」

「確かに、番の儀式をすれば共に死を賜ることができるでしょうね。」

シェリーはそんなものになんの価値があるのかと言わんばかりに、笑殺しょうさつし言葉を放った。
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