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3章 魔人の存在

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 聖人であるシェリーは人族と比べ寿命は長い。この世界でシェリー以外の聖女は5人存在していたが、ビアンカと初代以外は長命として記録が残っている。しかし、竜人族と比べると雲泥の差である。

「わたしは番の感覚が分からないので、番の儀式の必要性を感じません。」

 カイルは両手で抱き締め、シェリーの黒髪に顔を埋める。

「シェリーは家族を残していくのか?」

 シェリーは寿命を共有する感覚が分からない。前の世界にはないものだからだ。しかし、家族を残して逝くのかと問われれば、また、後悔して死んでいくのかと言われているみたいだ。

 シェリーはその問いには答えることができない。死は皆訪れるものだ。それを引き伸ばすことに意義を感じない。しかし、残して逝くもの、残されていくものの思いは強く深いものだ。

「それは家族を残して死んだ私への当て付けですか。」

 カイルはシェリーを横抱きにし、ピンクの目を見つめ

「だから、口づけしていい?」

 いや。だからどうしてそこに行きつくのかシェリーにはさっぱり分からない。

 
  怪訝けげんな顔をしているシェリーにカイルは顔を近づけ、くちびるをついばむ。
 距離を取ろうと手を突っ張るがびくともしない。
 くちびるをしゃぶられ、すき間から舌が入ってきた。押しだそうと舌を出せば絡め取られる。

「くっふ」

 口の中を蹂躙され、舌を吸われ、シェリーが生きも絶え絶えになってきた頃、入り口の扉が吹っ飛んだ。

「おい、てめえ。俺がいないのをいいことに、いちゃついてんじゃねぇ!」 

 目に見えるぐらいの怒気を纏った、グレイが入り口にいた。

 カイルの胸にもたれ生きも絶え絶えのシェリーは怒りマックスで近づくグレイを見上げる。

「ぐふっ。」

 いきなりグレイが崩れ落ちた。シェリーには何が起こったのか分からない。

「番の破壊力ってすごいよね。」

「わたしは何も攻撃していませんが?」

 シェリーが体を起こしながら言う。

「シェリーがちゅーしてあげたら元気になるよ。」

「え?」

「してくれるのか!」

 シェリーが眉を潜めているのに対し、グレイは赤金の尻尾をブンブン振っている。

「しなければならない理由がわかりません。」

 ガーンと効果音が付きそうな顔をして四つん這いになるグレイ。シェリーはヒドイね。と、たしなめるカイル。

━何、このわたしが悪いという雰囲気━

「わたし悪くないです。」

「俺たちにそれなりに仲良くするように言ったなら、シェリーも努力すべきだよね。」

「な、なにをです?」

「それなりに平等に対応しないとどちらかが嫉妬して暴走しちゃうよ。」

 そのように言われるとそうなんだが、正論ではある。しかし、無理があるのではないだろうか。

「わたしはそこまで器用ではありません。一番の優先順位の上位にはルーちゃんが輝いています。」

「そこは変わらないと思っているから大丈夫だよ。その下に俺たちを同等に接した方がわだかまりが少なくていいんじゃないかな。」

 シェリーはこの行き着きたくなかった現実に頭を抱える。これはまるで乙女ゲームでヒーロー達を攻略して逆ハーレムを目指すヒロインポジションではないのか。
 恋愛とか駆け引きとか全くもってそんなスキルは持っていない。
 前世の夫との結婚も価値観一緒で気を使わなくて楽だという理由で結婚したので、家族として愛してはいたが、恋はしてはいなかった。
 自分ではなく、このポジションに適した人物は他にいたのではないかと思ってしまう。
 ある意味これはシェリーにとって苦行であった。



カイルside

「わかったら、グレイにちゅーしてあげようか。」

 そう、シェリーに言えばぷるぷるしだいて、何かに耐えているようだった。そして、己の膝から降り、床に膝をついて、顔をあげたグレイの頬にシェリーのくちびるが落ちる。
 己で促しておきながら、ぶち殺したい程に嫉妬する。でも、そうしなければならない、あれを目にしてしまったら、グレイをこちらに取り込まなければならないと思いしらされた。
 あの白き高位なる御方の存在だ。一度しか目にしていないが、一度でも十分だ。あの御方はシェリーのことを存外に気に入っている。1人では絶対に敵わない、2人でも敵わないだろう。
 もし、シェリーが番の俺たちではなく、あの御方の元へ行ってしまったら、一生手の届かないところへ連れて行かれてしまうだろう。
 それだけは避けなければならない。

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